元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第21話

 人と人の間には境界線が引かれている。

 それは許容範囲。と呼ばれたり堪忍袋の緒。と呼ばれたりするものだ。

 それは定規で引いたような決まりきったものではなく、一つの川のように広くなったり、狭くなったりする場所があるような複雑な生き物だと思う。

 水が地面を削っていくように広く、優しく広がっていくものもあれば、急流のように触れてしまったと途端に、たちまち激しい流れに呑み込まれてしまうような危険な場所だってある。

 対岸と対岸で会話する私たちは、その川の流れ、深さに気を付けて話さないといけないのだ。

 

 難しいように語ったが結局のところ、どこまで許すかも、関係として壊れないかも本人次第ではある。許す、許されないという境界線。それらは触れる事も出来ないし、見る事も出来ない。

 境界線は、『何か』が壊れてから気づくものだ。

 越えて、踏み荒らして、壊れてしまった。そんな風に戻れなくなった時、お互いが納得する為に『罪と罰』という概念はやっぱり必要だし、私としても取り締まる立場にあるわけだ。

 

 それでも人は間違える。何度も何度も。

 

 だからこそ、溺れそうになりながら対岸に手を伸ばすこと。

 壊してしまった事を認めて、もう一度一からやり直すこと。

 

 そうやって間違いながら、溺れながら、壊しながら、人と人の間にあるものを理解しようとして、手段を尽くす。

 きっと、それらを繰り返して私たちは『人間』になっていく。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ここはゲーム開発部部室。散らばった遊び道具たちの中で子供たちが騒いでいた。

 歓迎ムードに自己紹介にと、やんややんやとしている内に、騒ぎを聞きつけた誰がやってきた。

 扉が開いた音に、騒ぎが一瞬止まる。そこから顔を覗かせたのは青髪のツインテールの生徒。

 

 「先生、少し騒ぎがあったみたいですけど、倒れた誰かをこちらに運んでいたと」

 

 その言葉にモモイさんが反応し、それに遅れてミドリさんが何かを思い出したかのように背筋を正した。

 

 「あ、ユウカ聞いて、新しい助っ人が来たよ! 部員5人目だよ!!」

 「お姉ちゃん! 待って……そう言えば、アキさんってどうやってここに来たんだっけ……?」

 「……あっ!」

 

 一瞬の静寂が訪れ、そしてそれをアリスが容赦なく引き裂いていく。

 

 「はい! アリスが『勇者の剣』で倒して運んできました!! 今は悪い事だって知ったので、もうしません!」

 

 ぴきっ、とユウカと呼ばれた少女が固まる。頭が痛そうな素振りで、指をおでこに持って行く。

 

 「……で、ちなみに、ごめんなさいはしたの?」

 「はい、まだです! 謝った方がいいんですか!?」 

 

 アリスが事の顛末を洗いざらい話すと、ユウカさんは青い顔になり部屋へと踏み込んでくる。

 数秒後、たんこぶを作り涙目のモモイさん、ミドリさん、そしてアリスちゃんが正座していた。ついでに先生も一緒に正座している。

 

 「他校の生徒に暴力振るって、謝罪も何も無しってあり得ないでしょうが!!!!」

 「「「大変っ! 申し訳ありませんでした!!!」」」

 

 しっかりと綺麗な土下座をしている。アリスちゃんも右に倣えと同じ格好、同じセリフを言う。

 

 「先生もです!! 何でこの子達と一緒に喜んでいるんですか!! ちゃんと叱ってください!!」

 ──アキのびっくりした顔が可愛くて、つい……。はい、申し訳ございませんでした!!

 

 それだけ言うと、先生も一緒に土下座した。うわぁ……こんな場所で見たくなかったよ『大人』の土下座なんて。

 そして、それらをまとめるように青髪の彼女は深く頭を下げた。

 

 「ほんっとにごめんなさい。代わってお詫び申し上げます!」

 「いやぁ、私も油断していた訳で……」

 「えーと、ヴァルキューレの近藤アキさんですよね。先生から聞いてます。この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。セミナーの早瀬ユウカです」

 

 あの子たちも悪気はそんなに無いんです。どうか逮捕だけは……と、懇願される。

 逮捕する気はないですよ、と伝えると、ユウカさんはほっとした表情を浮かべる。

 

 「まぁ、殴られるだけなら、大丈夫です。うん」

 「もしかして……苦労されてます?」

 

 えぇ、アビドス着任直後に全力でホシノちゃんと追いかけっことかしましたし。あっちの方が恐怖度としては遥かに……。

 それはそれとして元気しているといいな皆。一日も離れていないのに、色々とあり過ぎて随分と懐かしい。

 土下座しているアリスちゃんに、しゃがみこんで話しかける。 

 

 「じゃあ、一つだけ約束して欲しいな、アリスちゃん」

 「はい、なんでしょう!」

 「見知らぬ人に暴力はいけません、向こうから銃を撃ってきた相手だけにしましょう」

 「はい!」

 「そして、もし、間違って人を傷つけたのなら、ちゃんとごめんなさいをしましょう!」

 

 ちゃんと謝ること、それが出来れば関係の修復は容易い。かもしれない。

 

 『今回の件はありがとね』

 『落ち着いたら連絡欲しいな』

 

 『ユキノ……?』

 

 まぁ、私が言ってもあんまり説得力は薄いのだけど。副隊長や、未読のままになっている友達へのメッセージを思い出す。

 

 ため息を一つ吐く。おまわりさんらしい事をしたと言えば格好もつくだろうけど、実際は私のエゴだ。

 アリスちゃんにはこうなって欲しくないから、戻れるうちに色々と知って欲しい。

 幼い言い方になってしまったけれど、彼女にはこういう事に疎そうというか浮世離れしている為に、色々と教えないといけないのかもしれない。

 

 「はい、これで解決!」

 

 ぱん、と手を叩く。これで終了との合図だ。すると、四人は姿勢を戻した。

 

 「あ、先生はダメです。もう少し土下座で」

 ──なんで!?

 「色々と当然でしょうが!!」

 

 勝手に人の休日決めるわ、心配なしで遊び出すわ……。いや、私が怒らない事を見越されてるのかもしれないけど。

 『大人』の土下座を横目で見ながら、ユウカさんとも話をする。

 

 「とりあえず、ここに滞在するのであれば、許可証を出しますので後でセミナーにお越しくださいね」

 「あっ、じゃあ、今から行きます」

 「そしたら、色々と案内しますね」

 

 ついて来てくださいと彼女は部屋を出ていく。そして私も追って扉に手を掛けた。

 

 「あ、先生は戻ってくるまで、正座でお願いしますね」

 ──酷くない!!?

 

 そんな抗議をしれっと聞かなかった事にして、部屋を出た。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 土下座祭りが一端の収拾を見せ、ユウカさんについていって許可証を取ってきた後。

 再び部室へ戻ってきた。すると、何をするわけでもなくソワソワしながら、三人が待ってた。

 

 「あ、帰ってきた。さっきは本当にごめんなさい。頭は痛くないですか?」

 「病院って感じでもないけど、アキさん、何かあったら言ってね」

 「うん、これくらいなら大丈夫。ミドリさん、モモイさんありがとね」

 「「ホントに、ごめんなさい……」」

 

 二人からの謝罪の連打が続きそうなので手を振って止める。

 そして、アリスちゃんの目の前に立つ。 

 

 「さっきの言うことは分かったかな? アリスちゃん」

 「はい! 大丈夫です。これから先制攻撃はしません!」

 「うーむ、まぁヨシ!!」

 

 これからしばらくはこの子達と一緒なので見守っていけばいいだろう。と思っていると、アリスちゃんは心配そうに私をチラチラ見ている。

 

 「アリスの力で人に危害を加えようとすると、とっても危険だと先生と、モモイ、ミドリから聞きました。……本当に、ごめんなさい」

 「うん、いいよ。もうしちゃ駄目だからね」

 「許してくれるんですか?」

 「間違った子を間違えた、だけで糾弾すると、直し方も分からないからね」

 

 私の目指す『大人』像は、きっとそんなものだ。止めるだけじゃなくて、歩いていく道をこっそりと教えなければならない。

 そして、いまここにいる『大人』に視線を向ける。

 

 「それに、最終的に我々子供がやらかした事は、『大人』が責任を取ってくれるそうですからね」

 

 律儀に正座を続けていた足をツンツンとつついてやる。うおおお、と声が漏れるが、なんだかんだやり通したので、まぁ……いいか。と思って先生に声を掛ける。

 

 「ということです。頼みましたよ先生も」

   

 よろよろと立ち上がる姿にクスクス笑いながら、トドメにツンツンつついておく。

 これぐらいは許されるはずと思っていたら、棚に寄りかかってプルプルしだしたので皆で笑ってしまった。

 痺れに喘ぐ先生を助けて、そして小声で囁く。

 

 「先生。後でアリスちゃんが何なのか教えてくださいね?」

 

 色々と聞いてみて確信した。アリスちゃんは間違いなく普通の子ではない。

 少なくとも普通に生きてきた子ではないのだろう。しかも、不意打ちとは言え私を気絶させ、軽々と100kgを超える『光の剣』を振り回す。私も真似事は出来るがあそこまでの出力は無い。

 彼女は異端すぎる。けれど先生が認可しているし大丈夫なのだろう。とは思うものの、やはり心配だ。

 その声に先生は静かに頷いた。そして、先生は別の仕事があるからとヨロヨロしながら行ってしまった。戻るまでいるなんて、なんだかんだと律儀だ。いや、最初から律儀であって欲しいけど。

 

 そんな長かったアイスブレイクも済んで、私は一息吐く。

 

 「えーと、じゃあ、改めましてよろしくね?」

 

 そんな声に応えて皆が歓迎をしてくれた。

 何処から持ってきたのかお菓子やらジュースやらが置かれ、歓迎の印として色々と紹介される。ゲームに今まで触れてこなかった私は見るもの全てが新鮮だった。

 色々とゲームがある中で気になったパッケージを手に取る。他の市販品のようなパッケージに比べると、いささかチープにも映るパッケージ。タイトルは『テイルズ・サガ・クロニクル』と書いてある。

 

 「おー、アキさん。お目が高いね、最初にそれを手に取るとは」

 「私もそこからゲームにのめり込んでいったなぁ……」

 「はい、TSCは最高のゲームです!」

 

 そうなんだ、と思っていると、あれよあれよの間にゲーム機のセッティングが終わっていて画面の前に座らされる。

 

 「とりあえず、まずはやってみてよ」

 「私、ゲームやったことないけど……? いいの?」

 「何も知らない方が楽しめるよ!! たぶん」

 

 スタート画面を見る。へー、と眺めながらカーソルを動かしていると、何故か画面が血まみれになってGAME OVERが表示された。

 理解が追いつかない。

 

 「まだやってないけど!?」

 「いやー、アキさん、3通りあるタイトル画面でのゲームオーバーを引き出すなんてやるねー!」

 「待って、ゲームオーバー何種類あるのこれ!!」

 

 スタートして、装備を選んでいたら主人公が爆散する。道を歩いていたら、突然盗賊に襲われキーアイテムを盗まれて進行不能になる。街に入って油断していると、落とし穴に落ちてゲームオーバーに。

 繰り返されるゲームオーバー画面を見る度に、頭に疑問符が浮かび何をやっているのだろうと脳が煙を上げ始める。

 

 「あーっ!! 惜しいっ!! そこはね、そうじゃなくて──もがもが」

 「お姉ちゃん! いいところだから静かに!」

 「アリスもそこでプログラムがパーンってなりました! アキもそうですか?」

 

 けれど、小さな画面にかじりつくように、私の拙い操作をハラハラしながら見守ってくれる三人がいて、時折ムキになり過ぎたりする自分が居ることに気づく。理不尽過ぎる難易度の場所を切り抜けた時。全員が盛り上がったりと、いつの間にか小さな画面の中に勇者の私がいて、皆でそれを応援してくれている。

 

 ──初めてやるゲームは、楽しかった。

 

 結局、どっぷりとハマってしまって、あっという間に日付が超えてしまった。モモイさんもミドリさんも帰った後もやり続けた。

 アリスちゃんが船を漕ぎ始める時間までやり込んで、ついに最後のボスを倒した時周りを起こさないように小さなガッツポーズをした。肩に体温を預けてくれるアリスちゃん達にタオルケットを掛けていると声が掛かる。

 

 「あ、あの……そのゲーム。楽しかったですか……?」

 「あなたがロッカーに居た子?」

 「ひぅ……どうして……?」

 

 ふふ、と私は微笑むと、背後の声に向き直る。

 ちょっとくせっ毛気味の茶髪に、編み込みでおでこが印象的な子が私を怯えた目で見ていた。

 

 「まぁ……これでも特殊部隊やってたから?」

 「気づいたのになんで……」

 「私の事、見張ってるのかなって」

 「見張るっ……!?」

 

 最初から部室内のロッカーに人の気配がある事は知っていた。そして、私含めて5人とモモイさんが言っていたのに、誰も部長と名乗らなかったのも含め、おそらくここの部の部長さんなんだろう。

 そんな彼女を見て、私は笑みを浮かべる。

 

 「テイルズ・サガ・クロニクル、私は楽しかったよ?」

 

 ゲームという行為が新鮮なことも、その時間を誰かと共有することも初体験だったという事も大いにある。

 だけど、それを差し引いても細かい所に差し込まれる作り込みや、丁寧に作られたドットなど、作り手がこういう事をしたかったのだろうな、という片鱗は理解できる。

 作戦に掛ける執念や駆け引きに関しての熱量は経験上感じ取れるのと一緒だ。何かに込めた情熱はどうしたって滲んでくるもので、そういう部分を感じる度に私は笑顔になっていった。

 まぁ……難しさという点において、これ本当に人にクリアをさせる気があるのか、という難易度ではあったのだけど、

 その良かった点をそのまま伝えると、彼女は笑った。

 

 「そ、そうですか……よかった」

 「あなたがこれを作ったの?」

 「はい……」

 

 質問形式で、だんだんと打ち解けていく。

 彼女の名前は『花岡ユズ』、ゲーム開発部の部長であり、最初は彼女一人でゲームを作っていたらしい。

 しかし『テイルズ・サガ・クロニクル』を発表した際に出来にクソゲー、未完成ゲームと酷評を受けてしまってそれを機に自信を喪失し、部室に籠もったそう。

 その後にモモイさん、ミドリさんがやってきたのだと。

 

 「そっか……うん、分かるよ」

 「えっ?」

 「周りにさ、色々と言われるの……辛いよね」

 

 クッションを抱きしめて座るユズさんに向きあって、私も体育座りでお喋りする。

 私も、と少しだけ自分の事を漏らす。過去に失敗して、寮の自室に戻れていない事。そして、しばらく連絡出来ていない友達が居る事。後悔はもちろんある。けれど、これから先も同じでいる訳にもいかない。

 それはきっと向こうも同じなのだろう。だから、きっと出てきてくれた。そう思いたい。 

 

 「あのさ、オススメのゲームあるかな? 『コレ』と同じようなやつ」

 「えっ、じゃ、じゃあ……」

 

 何本か選んでもらって、その中でも気になったものに手を付ける。隣に居るユズさんに色々と教えてもらいながら、色々な事をポツリポツリと話す。

 結局、朝日が昇るまでゲーム開発部の灯りが消える事は無く。ユズさんと二人で静かで楽しい夜を過ごした。

 

 「あーっ、ユズと仲良くなってる!!」

 「一晩で!? 私達だって時間掛かったのに!!」

 「パンパカパーン! ユズがアキの仲間になりました!」

 

 気づけば一つのタオルケットに包まって、二人であーでもないこうでもないとゲームで遊んでいたら、三人が起きたりやってきたりして騒ぎ出す。

 

 ユズちゃん、モモイさん、ミドリさん、アリスちゃんが騒々しいながらも、楽しい日々を送る。そんな輪の中に、私がそっと入れて貰う。そんな実感があって、思わず口角が上がる。

 

 そうして、ゲーム開発部との毎日が始まるのであった。

  

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