元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第22話

 何かに夢中になって朝を迎える事を久しぶりだった事に気づく。いつの間にか部室の外は白んでいて時計の針が日付を越えてから、5時間と32分経った事を知らせていた。

 

 ふと部屋を抜け出してみると朝焼けに染まる空が真っ赤に燃えていて目が痛い。背筋を伸ばし、腕を上げて、肺の中の朝の空気と夜の空気の交換を行う。

 

 ここは、失敗の果てに辿り着いた場所でも、私が選んでここにいるわけでもない。

 『大人』が選んで、ここにいる。その事がしゃっきりとした頭の中に染み込んできて笑みが零れた。

 

 仕事に埋もれて追われる日々でもなく、過去に囚われてただぼんやりとしたわけでもない。やりたい事を選んで、教えて貰って、それに没頭した朝。

 

 真っ赤な朝焼けに切り裂かれた、紫色の空を見上げる。

 寝れなかっただけの『夜』が、随分と遠くに感じていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、ユズちゃんと楽しい夜を過ごした次の日のこと。

 シャワーを浴びてさっぱりした所で、気が付くと皆が集まっていた。眠そうにしているユズちゃんの頬っぺたをぷにぷにとつつきながら、モモイさん、ミドリさん、アリスちゃん、先生と話す。これからどうしようか、と皆が頭をひねる中でモモイさんが手を大きく上げた。

 

 「今日は廃墟に行こうと思います!!」

 

 モモイさんの大声が部室に響く。ユズちゃんが体を震わせ漕いでいた船が止まった。ちなみに廃墟は連邦生徒会から直々に立ち入り禁止になっている。実際、無秩序と化した機械たちが闊歩していたりと危険な場所である。そんな場所に行くというのだから最上級生としては止めざるを得ない。

 

 「その心は?」

 「やっぱり、神ゲー作るなら『G.Bible』欲しいよねってことで」

 「もしかして……初犯じゃないな?」  

 

 じぃ、と、先生を睨む。彼は目を逸らしながら、今は禁止はされてない筈だけど……と苦しい言い訳を吐く。私が向かうならまだしも、可愛い可愛い一年生達を連れていくのは些か気が引ける場所であった。

 

 「さて、先生。他に何を隠してます?」

 

 ズイ、と近づく。公安局の経験を生かして、取り調べ風に先生を追い詰める。宿れ狂犬の魂。先生はその態度に目を逸らした後、鼻をスンスン鳴らす。

 

 ──今日もいい香りだね。あと、湯上りでいつもより油断した恰好がいい……。

 「一年生の前で何言ってるんですか!!!」

 

 思わず先生を張り倒した。振り返らずとも背中に突き刺さる一年生の視線が痛い。何ならミドリさんは、むー、と声を上げている始末。大丈夫、ミドリさん。私、こんな『大人』に興味ないよ?

 もみじを頬に浮かせた先生が観念したように色々と教えてくれた。まず廃墟に立ち入ったのはモモイさんの言う『G.Bible』というものは最高のゲームを作る為のマニュアルのようなもので、その探索の最中でアリスちゃんを見つけたとのこと。

 廃墟の中で眠っていた少女であったことを驚きつつも納得しアリスちゃんに視線を向ける。首を傾げていて可愛い。さて、と先生に向き直る。

 

 「それで、モモイさんがこんな事を言ってますが、先生としてはどうですか?」

 ──生徒がやりたい事をさせるのが、私の仕事だよ。

 

 いつもの事を言われて思わずため息を吐いた。禁止はとっくに忘れ去られていて命令を出した生徒会長も行方不明。警備達も居ない。となれば、立ち入っても問題ないのだろう。そもそもキヴォトスでの立ち入り禁止ってここから先は自己責任ね。と同義である。先生が引率するし、私もいるからいいか……。と、盛り上がりを止めるような言葉を噤んだ。

 やっぱりこの休暇長くなりそうだな、と、ちら、とメッセージ、着信履歴を見る。遊んでいる間に何件シーちゃんを始めとして連絡が来たのかは伏せておくことにする。後でちゃんと返しておこう。

 ◇◇◇◇◇◇

 

 廃墟にたどり着くと、ビルの残骸、熱線か何かで焼き切れたような建物の痕、無数に散らばる瓦礫が足元を不安定にしている。目を凝らせば警備ロボの慣れの果てや、製作者不肖な暴走したマートマタ。どう見ても戦略兵器な自律兵器がウロウロしていた。

 

 「……久しぶりだな、ここ」

 「あれ? アキさん来たことあるの?」

 「昔ね~ここが好きな部下がいてね」

 「へー、もしかして……その人もゲーム好き!?」

 

 違うよ、と、手を振って応える。

 

 「何か探し物をしてたみたいだったね」

 「見つかったの? それ」

 「さぁ……、ただ、私が先にその子を見つけたんだ」

 

 何それ、と答えるモモイさんに笑いかけると、先に行こうか、と促す。

 

 『あらあら、私の力が欲しいと』

 『そう、あなたの力を借りたいの』

 『新三大校のやり玉に上がっている学校を混乱に貶めた、こんな問題児を?』

 『あなたがミレニアムサイエンススクールを脅かしたのは、もしかして──為なんじゃないかって』

 

 息を殺して瓦礫の中を進む。警備ロボの感知範囲にも戦略兵器のサーモグラフィーにも引っ掛からないように、かなりの迂回を強いられつつも『G.Bible』があるとされる工場に辿り着く。そのボロボロになった居住まいと、何処かで見たような感覚に囚われて頭を振る。おそらく彼女を探すときに見たのだろう。

 ゆっくりと内部に侵入をしようとしたその時。生き残っていたセンサーに触れてしまったのか警報がけたたましく響いた。赤いランプがグルグルと回り、周囲に異変を知らせていく。

 それに追い立てられるように、悲鳴を上げたゲーム開発部のメンバーは急いで工場へと駆け込んでいった。それに先生も続き、そして私にも声を掛けた。

 

 ──アキ!! こっちへ!

 「まぁ、ここは私に任せてくださいよ。先生」

 

 工場の入り口の前で仁王立ちすると集まってくる敵を睨みつける。

 仮に工場内に目的のものがあったとしても退路は必要だろう。それにこうなる事が予測出来ていたのだから準備はちゃんとしてきている。それに後輩ちゃん達に頼りになる姿、見せとかないとね。少し迷った先生がよろしくね。と足早に去っていく姿を嬉しく思いながら、安全装置を解除した。

 さぁて、お仕事の時間だ。と、瓦礫を踏み砕き跳躍する。集まってきたのは小銃付きの円筒型の警備ロボモドキと、整備も満足にされていなさそうな機械兵。四脚戦車に色々ゴテゴテな装備がついたもの。それらが合計20機程。

 「いやぁ、あの子たちも人気者だねぇ。お出迎えが沢山だ」

 

 言葉になっていない警告をロボ達がノイズ交じりの自動音声を発している。しかも、丁寧に足を止めているのだ。おそらく連邦生徒会の頃の警備の名残だろう。止まってくれるならありがたい、と一番近い相手と、その奥に居た標的をハチの巣にする。ドラム缶のようなボディーに穴が無数に空き、煙を上げながら二台沈黙。

 その瞬間、相手方も弾かれるように散開した。円筒に取りつけられていた小銃達が火を噴き、機械兵が同じように集中砲火をしてくる。無機質に放たれた銃弾が殺到する。だが──

 

 「遅いっ……!!」

 

 身体を翻して銃弾を躱す。外れて着弾した瓦礫から飛び散った破片が宙に舞い、粉塵が吹き上がった。

 この程度ならと悟った私は駆け抜けるように距離を詰めて、次々と目標を撃破していった。旧式交じりの機械兵も整備されていない警備ロボも、統率された指揮とコンバットパターンを持つカイザーPMC以下だった。というより、あれより上が大勢いても困ってしまうので、これくらいでいい。そうそう何度も死に掛けたくはない。

 このまま楽に終われると思いながら向かってくる敵を撃ち抜いていく。すると先程視界の端に見えた四脚戦車が立ちふさがる。特徴的な中央の長い砲身以外にレールガンのようなものや、ミニガン、火炎放射器が側面についているゴテゴテが過ぎる機体。それが突如として変化する。

 

 「なにこれ、ふざけてるの……?」

 

 なんと、中央の砲身以外が分離し自律兵器として宙に舞い上がったのだ。レールガンとかプロペラで持ち上がりそうな重さしてないと思うんだけど、物理法則どうなってんの?? そんな事を思いながら、瞬時にその場から飛び退く。すると元居た場所に火炎とレーザーが襲い掛かった。直撃したコンクリートが溶けイヤな臭いが立ち込める。直接焼かれた場所が液状になっているのを見て、思わず唾を呑んだ。 

 そんなものに当たってケロッとしていられるのはキヴォトスでは一部しか居ないので、当たるのは絶対にイヤ、と全力で駆け回り飛び回った。動き回る最中にも雑魚を散らし、まるでポルターガイストの様に浮かぶ兵器の攻撃を避け、四脚のバケモノにも9mmを撃ち込む。しかし分厚い装甲版に阻まれ全く効いていない。セッちゃんの突破力が恋しいよ本当に。

 中身入りであれば接近して中をぶち抜くのだが無人だとそれすらも出来ない。と、接近しようにも周辺の自律兵器の攻撃力が厄介と攻めあぐねていた。そんな事を考えて瓦礫を疾駆する視界に何かが映った。その先には、先生達が入っていった工場に狙いを変えたもう一台の四脚戦車。向こうも同じ様にびっくりどっきりな武装を沢山お持ちであった。

 

 「あんなの後輩ちゃん達に向けさせる訳には行かないでしょうが!!」

 

 踵を返し、もう一台の戦車に向けて突進した。あの中に行かせる訳には行かない!! と、コンクリート片を蹴飛ばし、ひび割れたアスファルトを踏みしめ加速する。

 『じゃあ、私の能力はハッキング……?』ふと、ウタハさんの言った事を思い出す。けど、そんなの実感した事なんてない。そうであるなら私の生活、もっと便利なはずだもの!! 派出所の壊れたエアコンを思い出す。壊れている者に意味は無い? じゃあ、ペロロ保安官と同じ条件って……? いや、もう一つあった。じゃあ、これって──。

 

 「ええい、南無三っ!!!!」

 

 工場へ向かった四脚戦車の上に飛び乗り、メンテナンス作業用なのか明確に人が乗れる為に作られたハッチに、ありったけの弾を撃ち込んだ。見たこともないような装甲が歪み、鋲が緩む。反撃が来る前にひしゃげた鉄版を蹴り上げて内部に身体を滑り込ませると、手動操作用のコンソールと操縦桿らしきものがあった。それを思いっきり握り込む。

 「これで……動いてねっ!!」

 

 操縦桿を握り込んだ途端に、知らない筈の動かし方が頭に浮かんでくる。機械が一旦止まったかと思うと私の意のままに動きはじめた。アヤネちゃんの雨雲号を借りた時もそうだったけど、操れて乗れるというのが重要なようだ。そう浸るのも束の間、放置したもう一台の四脚戦車も向かってくる。敵と認識されたのか全砲門がこちらへ狙いを定めている。なら、同じ事をすればよし。とこちらも負けじと全門発射の指示を入れ、コックピットから飛び出した! 

 数秒後、向き合いながら穴だらけになった四脚のバケモノ達は沈黙し爆炎を上げた。耳をつんざく轟音と吹きつける熱風が押し寄せてくる。

 

 「ふぅ……とりあえずクリアかな」

 

 警報に感づいた敵はおおよそ沈黙した。とはいえ、周辺にはまだまだ機影があり、いつやってくるかも分からない。工場の入り口を確保しつつ待機した方がいいかも、と思っていたら、工場の中から声が聞こえてくる。

 「「「「アキさん!!」」」」

 ──アキ!! 大丈夫?

 

 そこには目的のものを手に入れたゲーム開発部の皆と先生が駆けつけていた。

 

 「いやぁ、爆発音が聞こえた時はほんとにビックリしたよー」

 「大丈夫ですか? 怪我とか……」

 「……アキさん、もしかして無傷?」

 「これがチートって奴ですね!! すごいですアキ!」

 

 わらわらと後輩ちゃん達に取り囲まれてぺたぺた触られている。尊敬の眼差しを含む真っ直ぐな視線から引き剝がす事も出来ない。困った顔を先生に向けるとこちらにカメラを向けていた。……後でその写真消す。

 とりあえず大丈夫な事を伝え、ちびっ子ハーレムから解放されると、まだまだ残っているロボットたちを警戒しながら部室へと帰還した。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「えぇ!!? 解析出来ない!!」

 

 早速、持って帰ってきた『G.Bible』こと、ゲームガールズアドバンスSPのメモリーカード(成り行きでそうなったらしい)をミレニアムサイエンススクールのハッカー集団である『ヴェリタス』に持っていった矢先、小塗マキは赤いお団子を揺らし頷く。

 

 「うん、パスワード解析には『鏡』っていうものが必要でね」

 「じゃあ、それ使えばいいじゃん!」

 「……今は持ってない。セミナーに押収されちゃったの、もう!」

 

 憤慨した様子を見せたマキさんと、他二人も困った顔を浮かべていた。前途多難だなぁ、と思いつつ、別に答えが書いてあるわけでもないのだから諦めて別の道を探せばいいのでは、と思ってしまうのだけど、そうもいかないらしい。じゃあ……鏡を取り返せばいいんだよね? とモモイさんが燃えていた。

 このままでは乱暴な手段に出そうだし、生徒会を敵に回すと経験上よろしくないのでなるべく思いとどまって欲しいのだけど。と頭を悩ませている。今の隊長は私ではなくユズちゃんだ。それに彼女たちには決める権限とこれからがある。私はただの応援でしかないわけで。と盛り上がるモモイさん達を尻目に悩んでいた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 明くる朝、またしてもゲームをユズちゃんとやっていて夜を明かした。ちなみに昨晩はユズちゃんの好きなゲームこと『格闘ゲーム』だった。最初は手加減して貰って勝ったり負けたりを繰り返していたのだけど、本気ってどれくらい強いの? って聞いた途端に私は修羅を見た。何あれ?

 そんな横でうつらうつらしているユズちゃんを眺めながら、私は案を話す。

 

 「セミナーに潜入!?」

 「うん、とりあえず、どうなってるのか調べようかなって」

 

 『G.Bible』を解析するための『鏡』の情報も知りたいし、何なら敵地に入った場合の情報も不足している。ここ敵地ではないのだけど。

 

 「だって、皆が行っても怪しまれるでしょ? まぁ、外部の人間に書類を触らせてもらえるかというと怪しいから一からのスタートにはなるけど、もしかしたら重要な情報とか貰えるかなって」

 「な、なるほどー……」

 

 でも、そんな事出来るのか、と言いたげな目でこちらを見るが、私は胸を張る。

 

 「とりあえず、やってみようかなって。私、元々はそういう裏方だしね」

 「カーボン・ギア・メソッドの主人公みたいな潜入ミッションですね! アリス知ってます!」

  

 アリスちゃんは大喜びだ。それはそれとして後で寝ぐせ直してあげないと。

 

 「でも、大丈夫……ですか? ユウカさんあれでいて厳しいので」

 「ユウカさん、厳しいかなぁ?」

 

 ミドリさんの言葉に、私は首をひねる。

 私が言うのもなんだとは思うのだが、廃部寸前の部活が問題起こした事の対処としては甘々ではないだろうか。  

 シャーレに所属する先生が連れてきた生徒に対して暴行を働いて、拉致って少なくともバレたら問題になる事がありそうなのだけど。

 

 「とりあえず今ゲームの事について勉強するのもそうなんだけど、ミレニアムの事も知っとかないとね」

 「ま、眩しい! 眩しいよ、アキさん!! よーし、私もシナリオと『鏡』奪還頑張るぞ!!」 

 

 何故かモモイさんが奮起する。そんな姿を見て微笑んだ。前向きの思考になってくれたのなら何より。

 これで上手く行けば、セミナーとゲーム開発部の衝突は避けられる。と、そう思っていた……。

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