元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第23話

 セミナー。ミレニアムサイエンススクールの行政、学校運営を司る組織であり、他の自治区における生徒会のような立ち位置だ。日々様々な研究結果を取りまとめてはその成果に対して予算を出すのだそうだ。

 つまるところ成果を出していないゲーム開発部は危なくなるのは、当然と言うべきではある。学校全体が研究施設であり『千年問題』解決を掲げている学園としては成果を上げられない部活に存続理由は無い。との事だろう。

 

 実際、そのセミナーのお仕事の内容は気になるところではあるのだけど私としてはもっと気がかりな事があった。

 ゲーム開発部に言ったのは半分建前である。もう半分は徹夜明けに朝焼けを眺めていた時間。セミナーの部屋の灯りがついていたからだ。流石に心配である。そんな事やると疲れるし……。

 そんな訳でお手伝いでも出来ないかとユウカさんの所に訪れたのだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 セミナーの執務室は整理整頓がある程度行き届いていて、アビドスの対策委員会とは違った仕事場のような雰囲気を漂わせていた。だからこそ山積みになった書類を見て親近感が湧く。いや、湧いている場合じゃなさそうだけれども。

 視線を彷徨わせていると書類の山と山の間に唸っているユウカさんを見つける。どうにも、何故か膨れ上がる予算に苦慮しているようだ。声を掛けると手を止めてこちらを見てきた。

 

 「あれ? アキさんどうしました? まさか……またあの子たちが」

 「おはようユウカさん。早いね。いつもこうなんです?」

 

 ゲーム開発部の皆と遊んでただけだよ。と告げ、彼女に随分早朝から電気ついてたね、と言うと、ユウカさんは目を見開いてこっちを見る。

 

 「もしかして夜通しあの子達と遊んでいたんですか?」

 「そうそう。初めてゲームやったんですけど面白くて」

 「……ちなみに、タイトルは?」

 

 最初にハマったのは『テイルズ・サガ・クロニクル』と答えると困惑した顔を浮かべていた。……面白いのに。まぁ、それは良しとして話題を転換する。

 

 「セミナーのお仕事ってやっぱり忙しいですか?」

 「まぁ……そうですね。朝早く来たのは私じゃないですけど」

 

 ユウカさんじゃないのか、と意外に思いながら頭を回す。

 

 「大変そうですし、私もミレニアムの理解を深めるためにお手伝いしようかなってここに来たんですけど、何か仕事、あります?」

 「えぇ……!! いや、流石に外部の人には仕事させられませんよ」

 

 手を振って断るユウカさん。

 さて、そこまでは当たり前の反応なので、じゃあ、と言う。

 

 「コーヒー奢るから、一緒にお話ししませんか?」

 「……まぁ、それくらいなら」

 

 彼女は時計を見て、そうして積まれている書類が自然に入ったようで、ため息を吐いた。

 ドアインザフェース。こういう時に役に立つよね。こういう懐に飛び込むのはマメちゃんの得意分野だったな、と思いながら休憩スペースへと向かう。

 採光された部屋の中に白い丸テーブルと取り囲む椅子に腰掛けると、湯気を立てる紙コップから香りが脳に飛び込んでくる。ここでのコーヒーはちょっと薄めだった。公安局の目が覚めるようなエスプレッソぎりぎりのコーヒーが懐かしい。

 

 「で、いきなりどうしたんですか? あの子たちのお手伝いをする筈……でしたよね?」

 「確かにそうなんですけどねー!」

 

 いやー、と頭を掻く。ユウカさんの心配もごもっともだ。昨日今日で他のお手伝いなど投げ出したかと思われても仕方ないのだろう。なのでここは正直に言う。

 

 「私、ここのルールも、やり方も色々知りたくて……ゲーム開発もしながら皆の助けになりたいかなって」

 「他校の人にそこまでさせるの、気が引けるんですが……」

 

 私は何も情報を持っていないので、学校紹介まで手掛けているセミナーにお邪魔して色々と教えて貰いたいと話す。ただ、忙しい中にお邪魔して時間を割いて貰うのも悪いので、代わりに労働力を提供しますよ。という提案だ。

 確かに今は人手が全然足りないけど、という呟きを見逃さずに畳みかける。

 

 「荷物持ちでも、掃除でも、私、タダでやってもらうのが苦手で……お願いしますユウカさん!」

 「う、うーん、確かにタダより高いものは無いって言うし」

 

 ぐらり、と彼女の意思が揺れるのが見て取れる。あともう一押し、といったところで一旦止める。こういうのは向こうから仕向けるようにしないと意味がない。らしい。教範にはそう書いてあった。

 とりあえず保留で! と、ユウカさんは答える。会長に確認を取ってもらえると回答をもらった時、密かにガッツポーズを決めた。

 

 「あら、ユウカちゃん。お友達ですか?」

 

 後ろから聞こえた声に振り向くと、銀髪ロングヘアの少女が優しそうな微笑みを浮かべていた。

 

 「あぁ、ノア。おはよう、とりあえず一昨日の案件は間に合わせたから後で記録お願い」

 「はい。了解です」

 

 そう笑いながら、じっ、とこちらを見つめてくる。吸い込まれそうな紫色の瞳が内面を見透かす様に眺めている。1秒ほどの視線の交錯だった筈なのに無駄に心臓の鼓動が高鳴った。

 

 「この学校の生徒ではないですね? という事は先生のお話されていたゲストさんですか?」

 「そうよ、近藤アキさんね。あぁ、そうだアキさん、こちらが生塩ノア。ウチの自慢の書記よ」

 

 その紹介を受けて互いに挨拶を交わす。ノアさんもユウカちゃんがそう言うならきっと優しいんでしょうね。と好印象だ。優しそうなセミナーの書記にも会えて、弾みもついた。このまま、会長も懐柔して内部から密偵するぞー。と意気込んで二人と雑談しながら執務室に足を向けた。

 

 「残念ながら、あなたに頼む仕事は無いわ」

 「はい……お邪魔して、申し訳ございませんでした……」

 

 セミナーの執務室の中央に座る艶やかな黒髪にパリッとしたスーツの会長こと『調月リオ』さんに、にべも無く断られた。外部の人に機密情報を含むものを見せる事は合理的ではない。と至極真っ当な理由で返答された為、私からは何も言う事は出来なかった。

 諦めて別プランかと思い直した所、予想外のところからお声が掛かる。

 

 「ですが、会長。一昨日のコユキちゃんの件で通常業務が普段の71%程度の進捗になっています」

 「その件に関しては私も確認したわ。私が補填する。外部の人を招き入れる程ではないわね」

 「それに、コユキちゃんの件での遡って処理しなければいけない物品がまだ倉庫に」

 「……何とかするわ」

 「会長……? 本日は何時からここに?」

 

 だんたんとノアさんの迫力が上がっている。その圧力に耐えられなかったのか会長が目を逸らした。

 早朝からセミナーの執務室にいたのは彼女かと合点がいった。冷たさを感じる応答ばかりだったので冷酷なタイプかと思っていたけれど、他の仕事を受け持っていたりと案外仕事に関しては仲間かもしれないと親近感を抱いた。

 そんな事を思いながら、力仕事でも何でもやりますよ。と答えると不承不承といった顔でリオ会長は言う。

 

 「……わかったわ。確かにこの状況で応援を呼ばないのは非合理的ね」

 

 ただ機密情報には触れさせず、必ずシャーレの先生の確認を取ってからにして頂戴。と言い残してリオ会長は仕事に戻ってしまった。

 すんなりと受け入れてくれたことも、さっき会ったばかりのノアさんが援護してくれたことも信じられずに彼女の方を見ると、同じような表情を浮かべていたユウカがいた。そんな私達を見てクスっと笑った。

 

 「そちらの方が面白そうだからです」

 

 やっぱり見た目通りに優しいなと思っていたら、ノアさんが近づいて来てこっそりと耳打ちされた。

 

 ──その代わりに山南シキさんについて教えてくださいね? 

 

 唖然とした顔を向けると欠落した記録を埋めておきたいんです。とノアさんにウインクされる。見透かされたのが確定したような背筋が凍る笑みだった。

 

 「えー、と……近藤アキです。よろしくお願いします!」

 

 紆余曲折あれど、その日からゲーム開発部とセミナーの二足の草鞋生活が始まった。午前中はユズちゃんやら、モモイさんが眠そうにしているのでセミナーの支援に入り、午後はゲーム開発部で最新のゲームの研究、という名目でゲームをしたり、真面目に次のゲームコンセプトはどうするかを考える。そんな毎日が始まった。

 目的はただ一つ。『鏡』をこっそりと入手するか、『鏡』無しでもゲームを完成させて、ゲーム開発部とセミナーの衝突を防ぐためだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。またしても一晩中ユズちゃんとゲームをしていた。今日のゲームは『パズルゲーム』。

 格ゲーも上手いがユズちゃんは他のゲームも充分以上に上手い。体術を極めた人は剣術や、銃剣術でも達者であるとはよく言われるが、これもまた同じなのだろう。ユーザー名の『UZQueen』の王冠が嘘じゃない事を実感した。ぐうの音も出ない完敗である。それはそれとして手加減も上手いので、いつまでも楽しく遊んでしまっていた。

 うつらうつらと船を漕ぎ始めるユズちゃんにタオルケットを掛けて、アリスちゃんの横に並べて寝せる。

 

 「……あれ? アキさん、何処かに……行くの?」

 「うん、ちょっとね。じゃあ、おやすみなさいユズちゃん」

 

 朝焼けを見て、セミナーの部屋を見ると照明が灯っている。シャワーを浴びてからセミナーの執務室へ向かうと予想通り鍵が開いていた。そこにはリオ会長がパソコンを一心不乱に打ち続けていたが、私に気づき顔を上げた。

 

 「早いのね。まだ、お願いした時間ではないと思っていたのだけど」

 「リオ会長こそお早いですね。午前中ならいつでもいいと言われたので」

 「……そうね。嘘は言っていないわ」

 

 彼女は再び目をパソコンに落とし何かをし始める。これ以上に挨拶も無いようだし、静かに昨日頼まれた仕事と床掃除を行っていた。

 機密書類にはまだ触れないので山と積まれた広報雑誌の仕分けと、勝手に張られた非公認部活のポスターとリストの照合だった。よく分からない部活があるなぁと思っていたけれど似非科学部という部活が大多数であったことに気付いたのは仕分け始めた後だった。

 水素水にゲルマニウムブレスレットのビラが何枚あったのか数えるのを飽きてきた頃、三人目の生徒がやってきた。ユウカさんが規則正しく30分前に到着。そして、私達のというより私が積み上げた書類の束に驚いていた。

 

 「んなっ! アキさん、会長!? もしかして一晩中やってたんですか!!」

 「え? いや、流石に……朝からで」

 「待ってちょうだい」

 

 時間を言いかけたらリオ会長からの制止が掛かった。その言葉でユウカさんは何か察したようで、プルプルと震えていた。

 

 「ユウカ、まずは話を──」

 「二人とも寝てください!!!!!!」

 「私も!? なんでぇ!!!??」

 

 それの様子を見てやってきたノアさんが笑う。それが毎朝の光景になった。リオ会長と早朝にこっそりと仕事をし、ユウカさんが来るタイミングで一緒に隠れて、ノアさんに捕まる。そんな毎朝。

 だんだんと信頼され始めて、彼女たちから機密情報は漏らさずとも各部署の愚痴等は聞けるようになっていって、と親睦を深めていった。

 午後にゲーム開発部に帰れば、皆がおかえりーと言ってくれて、見知らぬゲームの世界に没頭し日が暮れていく。

 

 夢中にやりたいことを追い続けて、遊びたいだけ遊ぶ、帰ったらお帰りと言ってくれる。そんな陽だまりのような日々。

 その時間が愛おしくて、その時間にお返し出来ないことが胸をかきむしりたくなる程に堪らなくもどかしい。

 

 ──そんな優しい日々が続くと思っていた。

 

 けれど、物語は上手くは進まない。

 両面を知っている私だからこそセミナーの苦労が見えていて、ゲーム開発部がゆっくりとでありながらゲーム作りを進めていることを。だけど、それは互いには伝わらない。

 時計の針は進み続ける。正確に一分一秒を刻み続ける。止まることはない。ミレニアムプライズというタイムリミットに向けて、それぞれの思惑が交錯し始めた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「そう……彼女はそういう人物なのね」

 「えぇ、アキ隊長は放し飼いだとすぐに何処かに行ってしまって、良くも悪くも状況をひっくり返しますから」

 「そう……情報提供に感謝をするわ。相変わらずね、シキ」

 「あらあら1年生の時を思い出しましたか? うふふ、それは結構な事です。私もよく覚えていますよ」

 「私はあなたの対策にC&Cを作った。そして表に出さないけれど彼女はヴェリタスを」

 

 誰もが寝静まる時間に、パソコンの光彩がリオの顔を浮かび上がらせている。通話の相手はUnknownと表示されていた。通話相手こと山南シキは語る。

 

 「実際、事態は動きました。四足歩行の戦車に自律するオートマタ。うふふ、きっと楽しい破壊が見れますよ』

 「そして、名もなき神々の王女」

 

 リオは追従し、そして監視カメラに映し出されるゲーム開発部の部室を見る。そこには寝ているアリス。そして、ユズと静かにゲームをしているアキが映っていた。

 リオはアビドスで撮影された一枚の写真に目を落とす。

 

 「良く撮れていますよね、隊長のお召替え」

 「これは……」

 

 そうですね、とシキは答える。そして告げた。

 

 「詳細は不明です」

 「分からない? あなたが?」

 「そもそも隊長の経歴には不備が多かったです。まず幼少期については不明。そして中学生の頃に名士の下で育ちました。予定であればトリニティへと編入する予定だったそうです。それ以上に過去は追えていません」

 「あなたの力を持ってしても、という訳ね」

 

 えぇ、とシキは言う。そして先日の変身騒ぎになります。と続けた。

 彼女は何らかが原因で変貌し、全く別種の力を操ってみせた。その際に発揮された力は、普段の彼女をもってしても考えられないような神秘を持っていた。

 まるで別の世界からの力を操ってみせたような。もし仮に名称をあえてつけるのであれば、彼らに則り『ウプウワウェト』に倣って、『セト』の力とでも名付けるべきでしょうか。と、あくまで仮称ですけどね、と彼女は笑う。

 

 「私が推測するに……隊長は」

 「名もなき神々の王女と同種だと言いたいの?」

 「正確には違います。意図もおそらく産まれる過程ですらも……例えるのであれば『器』が正しいのしょうか」

 「杯だとでも言いたいのかしら?」

 「何でも受け入れてくれる器、素敵じゃありませんか?」

 

 薄々気づいてはいましたが隊長は普通では無いのでしょうね。と一人ごちて、嬉しそうに笑った。

 

 「何故笑っているのかしら? 不確定要素が増えただけなのだけど」

 「謎の多い女性は魅力的だと思いませんか?、リオ」

 

 それが私の敬愛している隊長であるのなら尚更、ね。とシキは言う。

 

 「……助かったわ。シキ」 

 「あらあら、心にもない事を。お互いに利害が合致したから連絡を取り合った。違いますか?」

 「心配症過ぎるとは、昔から言われているわ」

 

 リオは取り合わずに通話を落とそうとする。

 

 「あぁ、そうでした。好きでも嫌いでもない貴女に一つ忠告を」

 「何かしら」

 『隊長は首輪はつけられません。うふふ………その意味を理解出来る頃には隊長の可愛さを知ることになるでしょうけど』

 「そうね、そうなのかもしれない」

 「あらあら、意外ですね。もう隊長と関係を?」

 「一緒に怖い部下から隠れたわ、数回ね」

 「それはそれは……うふふ」

 

 あげませんよ? と言われて通話が切れる。リオは小さく息を吐いて、もう一度監視カメラの映像を見る。平和そうにしている三人が映る。数秒後、画面を消しリオは立ち上がった。

 

 「試してみましょうか。前々から話していた計画を──」

 

 数多の可能性を考慮し、汎ゆる対策を持ってしてそれを封じる。ミレニアムサイエンススクールの生徒会長会長は動く。

 

 「たとえ、理解されなくても……構わないわ」

 

 リオは横で一緒に隠れていた彼女の体温は、私よりも高かったな。と、ふと思い出していた。

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