元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第24話

 しばらく晴れ間が覗いていたから、大丈夫だと思っていた。先生がいて、そして新しく出来た仲間がいて、どんどんとパーティーは膨れていって毎日が楽しくなると思っていたから。

 騒がしい毎日を送る日々。午前中だけと約束していたセミナーの業務はだんだんと濃密になっていき、主に力仕事担当として駆り出されていた。ちなみに午後になるとアリスちゃんかモモイさんが回収しにくる。目が回る程に忙しく寝る間もないくらいに、あちこちを駆けまわっていた。

 ちなみに寝ていないことが先生にバレて、強制的に深夜と早朝の遊びと仕事は取り上げられた。先生も徹夜で仕事してるのに……。

 

 そして今日もせわしない日常が始まろうとしていた。

 少し早く来て、リオ会長とコーヒーブレイクと洒落こんで優雅な朝を実感していると、いきなりユウカさんが執務室へ飛び込んできた。

 

 「ごめん、エンジニア部でロボットが暴走。アキさんついてきて!!」

 「えっ、またエンジニア部がやらかしたんですかっ! 昨日処理したばかりなんですけど!!」

 

 ジャケットを翻して廊下を疾走する背中を追いかける。掃除ロボ、自走する自販機、そしてまだ一週間ほどしか滞在していないのにもう見慣れた表情を見せてくるすれ違う生徒たち。そして何故か並走してくるトレーニング部の二人。いつもの光景なのだけど、アビドスとはまた違った意味で刺激的だ。

 辿り着くた先ではウタハさんと、犬耳の仲間のヒビキさん、説明大好きコトリさんが、ワクワクしながら部室等でロボット同士の喧嘩を見物していた。説教される三人組を横目に見ながらロボと相撲を取る事でどうにか収拾をつける。

 やっとこさ戻ってきたと思えば、次はノアさんがクスクス笑いながらスピーカーを指さしていた。

 

 「おそらくヴェリタスのヒマリ部長が校内に演歌を流してます。これは……新曲ですね」

 「またぁ!? ちょっと行ってきます」

 

 ヴェリタスへ向かうと眼鏡が素敵な副部長のチヒロさんがいた。部長は何処かと尋ねると、迷惑掛けてごめんねー、と言って放送を直してくれた。その後、抗議の電話をぶつ切りしていた。やっぱり副部長の立場にいる人物ってこうなのだろうか、強い。

 「そうそう、シキの隊長さんやってるんだって?」

 「……一体誰に聞いたんです?」

 「ん? 本人からだよ。一年の時にメインサーバーをお釈迦にしたの本当にぶっ飛んでたよね。彼女、元気にしてる?」

 

 なんの気なしに言われて、時々シーちゃん関連でビクッとしながら仕事は進む。

 セミナー執務室に戻ると、皆が出払ったのかリオ会長が一人で残っていた。そんな彼女に声を掛けてコーヒーを二杯入れる。すると、短くリオ会長が私の名前を呼ぶ。その声に、はいはい、砂糖は三本ですね。と答えて振り向く。と、彼女と目が合った。

 

 「そうね……なんでもないわ」

 

 じっと背中を見つめられて、目が合うと逸らされる。

 その時の違和感に気づいてもう少し踏み込んでいれば、或いはもう少し滞在の期間が長かったら、もしかすると気づけたかもしれない。リオ会長から感じる違和感と、それの意味する未来を。

 けれど、そんな事を私は知る由もなく、ただお気楽に鼻歌交じりにコーヒーを淹れていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 そして事件は起こる。

 それは唐突に、そして明らかな意図を持ってそこにあった。その日は晴れのち曇りの予報が出ていて、風がしばらくは強くなると言った予報が出ていた。

 

 『ミレニアムプライズの日程変更及び規模拡大のお知らせ』

 

 唐突に、そしてそれは明確に黒雲を伴ってやってきた。

 

 「えぇぇぇっ!!!!! なにこれっ!!!」

  

 声を上げたのはモモイちゃんだった。実質な〆切の切り上げ。クオリティの向上要求と明確に不利な条件で更新された条項を読んで、皆が不満の声を上げた。

 

 「〆切ギリギリまでやってクオリティ上げようって話をしてたから。もう間に合わないかも……」

 「アリスは、どうしたらいいですか……?」

 「ま、間に合わせるしか、ない、かも……」

 ──アキは、何か知ってるかい?

 

 皆の視線がこちらへと向く。しかし、私にとっても突然の事で面食らっている。こんなことセミナーでも聞いてなかった。わちゃわちゃと言われるが首を振る。

 すぐさま確認を取る為に、ユウカさんに連絡を取った。

 

 「リオ会長が独断で決定したみたいで、こっちも大混乱なんです!!」

 

 下準備はされていたので、スケジュール管理は問題ないとらしい所が実に彼女の手腕らしいと言えるが、褒められたところではない。そして当の本人は連絡も取れずに行方を眩ませている。してやられた。というのが素直な理由だ。理由は分からないが突飛な彼女の行動に舌を巻いた。

 そんなことよりも、今は目の前の課題を処理しなければならない。ミレニアムプライズに向けた課題を。

 少なくとも、消えた数日分を逆転できる程の奇跡の一手を打つしかない。なるべく迅速にそして実現可能な手を。しかし、皆の顔は曇っている。

 当然だ。技術は一朝一夕では成し得ないし、その結晶である成果物もまたすぐに出来上がるものではないのだから。そして門外漢である私にとっても先生にとっても、掛ける言葉はすぐに用意出来なかった。

 

 「アキさんは真面目にやった方がいいって言ってたけどさ。やっぱり……「鏡」を手に入れないと。ムリ、かも……」

 

 ダメかもしれない。と、モモイちゃんは呟いた。その言葉に部員たちは静かに頷いて、そして急いで支度を始めた。

 その光景を目の当たりにして先生と私は顔を見合わせて、ゆっくりと頷いた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「あぁ、先生と、ゲーム開発部の皆さん。そして、ドブ川に咲く一凛の花の隊員がいる隊の隊長さんですね」

 「相変わらず……噂のシキさんの事になると微妙な反応になるね、部長」

 

 急いで『ヴェリタス』の部室に赴くと、そこには車椅子のヒマリ部長と物凄い恰好の人ことエイミさんが二人で待っていた。この病弱系天才美少女ハッカーに何かご用事が? とわざとらしく出迎えてくれた。そして、問題にしている件についてかいつまんで話すと、やれやれと言った様子でヒマリ部長は肩を竦める。

 

 「あの下水道に流れる汚水が仕掛けたことですから、だいたいの予想はつきますが……」

 

 そう言うと、私に視線を向ける。

 

 「さて、近藤アキさん。『鏡』の場所。実はもう掴んでいるのでしょう? いつまで黙っているつもりですか?」

 「……もしかしてバレてました?」

 「えぇ、一人で回収しようと画策しているのも、です」

 

 大方、私は外様だから最終的に恨まれても問題無いし、ちょっとでも恩返し出来ればいい。とでも思っておりませんか? と鋭い質問が飛んできて、思わず口を噤んだ。

 アキ? と、先生の冷たい目線が刺さり、何処かの汚水女と本当によく似ている事で、と、病弱系天才美少女ハッカーさんに言われ、思わず首を竦める。……バレてるぅ。皆の視線が向けられるが。ふい、と目を逸らす。だって、皆真面目にやってて偉いから、私がやれば丸く収まるかなって……。先生の目が怖い。周りの目も怖い。

 

 「アキさん……、本気で言ってたなら、私だって、お、怒るんですからねっ……!!」

 「あわわわ、ユズちゃんの目が本気だよ、どうしようお姉ちゃん……!」

 「ユズクイーンモードの時より迫力がありますっ! 最終形態ユズクイーンですね!」 

 

 視線と言葉で散々締め上げられた後、両手と白旗を上げました。ごめんなさい。特にユズちゃんの目が何故か本気過ぎて怖かった……。と思わず垂れてしまった耳と尻尾を触る。まぁ、アキさんも皆を思って考えてくれたことだよね? と、モモイちゃんが言ってくれなければ、おそらく会議終わりまで正座は伸びていたことだろう。本当に感謝する他ない。

 こほん、と咳払いをするヒマリ部長。そして横にいたエイミさんが車椅子を押してプロジェクションの前まで移動した。まぁ、犠牲や頭を下げてまでして、私達のものをあの下水道の水から取り返すのも非常に癪ですし。と彼女は念頭に置いて発言した。

 

 「と言う訳で、真意を確かめる為にも干からびて割れた泥だんご。調月リオの捜査と、「鏡」の入手を行い、ロストテクノロジーを解析しましょうか」

 

 その為にはエンジニア部と協力して、色々とやらないといけない。とヒマリ部長は力説する。

 そこで近藤アキさん。あなたはエサです。と、ビシッと指さされた。はい……何でもやります……。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、ブリーフィングのお時間だ。

 「鏡」奪還作戦概要としては第一、第二段階として分かれている。

 現在の予想される敵戦力においてだが、前提としてセミナーは突然のトップの失踪の件で混乱の最中にある。

 その混乱に乗じて「鏡」を回収可能であれば問題は無いが、それは数多の監視カメラと警備ロボが阻んでいる。リオ会長この日の為に強化した暴動の鎮圧部隊及び外部からの警備強化。そして最大の懸念点リオ会長の私兵特殊部隊C&C(Cleaning&Clearing)がいる。この部隊の詳細はメイド服を着た4人のエージェントであり、ミレニアムの荒事担当。この混乱の最中に彼女たちが出てこない事は無いと予想される。

 そして目標地点は、差し押さえ品の保管庫はセミナーの執務室の奥の部屋。つまるところミレニアムタワーの最上階である。現在、備え付けられている指紋認証によってセミナーまでセキュリティに引っ掛からずに直通できるのは、特例ゲストの私の指紋のみ。

 つまり、一番簡単なのは私がスルッと行って、回収してしまえばいいのだけど……。そのワイルドカードは封じられた。返してと言っても手続き上、即返還とはいかないだろう。

 その上で私たちがしなければならない事は、まず最上階に到達しなければならないという事。そしてそこに向かう部隊を支援し何らかの方法でポイントに到達しなければならない。これが第一段階。

 そして、その中で警備やその他の困難を突破し鏡を見つけなければいけないのが、第二段階。となる。

 

 その中での私は間違いなく監視対象だ。というより、この状態で何かをするだけで間違いなく目を付けられる。というよりはこの時点で拘束されていない時点で、すでに怪しいとヒマリ部長は疑ってみせた。

 う、疑り深い。どれだけリオ会長の事キライのだろう……。いい人だと思うんだけど。まぁ、今回みたいに突拍子がないのが困るけど。

 そんな訳で、第一陣として単独で出歩かないと行けない私にヒマリ部長が声を掛けてきた。

 

 「では、泥濘に浮かぶ一凛の花を従える隊長さん」

 「あ、もしかして花って、シーちゃんの事言ってる? 嬉しいな」

 「違いますが! 褒めてませんが!! ふん、早く行ってしまえばいいのです」

 「なんでぇ????」

 

 何故か怒られながら、送り出された。ちなみに先生やゲーム開発部の皆からも私を取り囲み心配そうにしていた。

 

 「……これ、ほんとに大丈夫かな?」

 「お姉ちゃんが言わないでよ……!」

 「ここまで来たら、やるしかない……と思う!」

 「はい……ということで、アキ」

 

 ぎゅ、とアリスちゃんに抱きしめられた。

 それは、初めて会った時からは信じられないくらいに優しく暖かい抱擁だった。

 

 「アキは……もうアリス達の仲間です。仲間はパーティーから勝手に外れてはいけません」

 「……うん、ごめんね。もう言わないから」

 「居なくなってしまったら、アリスは泣いてしまいます」

 

 そう言われて、そっと抱きしめ返す。小さくて可愛い身体は人間のように、いや、それ以上に暖かかった。

 

 「あーっ、アリスだけズルい!! 私もアキさんの好感度稼ぐ!!」

 「ちょ、お姉ちゃん、今いいところなんだから!!」

 「私も……アキさんは大事な仲間だから!!」

 

 ユズちゃんがほぼタックルの勢いで飛び込んできた。そこに双子の驚愕の声が響く。

 結局モモイちゃんがきて、ミドリちゃんも恥ずかしそうに輪に加わった。もう状態はおしくらまんじゅうである。困った顔を先生に向けるといつかと同じ様に嬉しそうにこちらを眺めているのであった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 日が完全に沈み、夜の帳が降りた。

 混乱冷めやらぬ中で辺りは巻きでスケジュールを押す生徒達がところどころに見受けられる。どこもかしこも時間がないのだ。それは私達も同じである。

 突然、風が吹いて前髪が揺れる。遠くには不夜城と化したミレニアムタワーが見えていた。時計を目を落とすと作戦時刻3分前。時計合わせは既に終わっている。

 

 息を吸って吐いて私の仕事の一つ目を今果たす。端末をタップし、そして最近一番電話している相手の通話画面を開く。

 

 「あー……もしもし、忙しいところごめんね。ユウカさん」

 「よかった! アキさん、悪いんだけど今、手が離せなくて!!」

 「あのさ、悪いんだけど……今からヴェリタスから差し押さえた『鏡』を、皆で奪いにいくね」

 「……はい???」

 

 燃えちゃマズいものとかあったら予め避難させておいてね。そう伝えて、心の中でひたすら謝り倒しながら彼女との通話を切った。

 第一段階完了。っと。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 通話を切られたユウカは頭を抱えていた。

 突然の会長の失踪とそれに伴う反対意見やらと、暴動。アキからの宣戦布告と抱えきれない仕事があり過ぎて、パンクしそうなままに悪ガキたち+αの蛮行を通すまいとノアに指示を飛ばす。

 

 「ノア!! アキさんの現在位置は!!」

 「それが……数分前までは捕捉できておりましたが……」

 「消えたの!? よく探して!! アキさん抑えちゃえばエレベーターはこっちが止められるんだからっ!!」

 「違うんです!! アキ先輩が沢山います!!」

 「はいぃぃぃぃ!!!!?」

 

 ノアが示す液晶を覗き込んだユウカは絶句する。そのモニターの中。いや、他の場所でもアキの見た目をした何かが様々な場所で動き回っていた。

  

 「何よこれぇ……」

 「セミナーのセキュリティシステムは正常。となると、監視カメラ自体か、そこに特殊な電波を放つ物体がある。とするのが正しいと思われます」

 「あぁ、もうアキさん悪いんだけど現場に……って、追いかけてるのがアキさんじゃない!!」

 

 すっかりユウカちゃんも彼女に頼るようになっちゃって。とノアは苦笑する。確かにこの事態にいてくれたら心強かったですけど。とそこまで考えて舌を出した。

 警備ロボからの報告も当てにならずに、どちらが現場に向かうかで顔を見合わせたとき、その人影は現れた。

 

 「なんだ……随分と楽しそうな事してんじゃん」

 

 そして、その人影はモニターに映し出されるアキの姿を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 様々な状況が動き出す。それを傍受していた人物はメガネの奥の瞳を細めて微笑んでいた。

 

 「さぁて、隊長。この状況ならどうしますか」

 

 煌めくミレニアムのビル群の上でシキは遥か階下にいる隊長に視線を向けていた。

 この先の波乱を示す様に、長くウェーブした赤髪が強風に煽られ強く靡いた。

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