元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第25話

 突如として事は起こる。連鎖の様に、そして倒されたドミノの様に勢いは止まることは無い。

 夜のミレニアムサイエンススクールにて宣戦布告がなされた。アキからセミナーに向けての宣言を皮切りに作戦開始の合図が知らされると、各陣営が一気に動き出したのだ。

 

 「さて、では行こうか。教えなければならない。クライアントの依頼も重いが……こちらに確認を取らずに〆切早められます。と答えるのは有罪だということを」

 「こちらも準備OKだよ、チヒロ先輩が戻ってくる前に始めちゃおう」

 

 ウタハとヴェリタスの小鈎ハレが、モニターに向き合いコンソールを叩く。するとカメラに映し出されるアキがまた一人増える。

 

 「立体映像と監視カメラの細工。間に合ってよかった」

 「相撲用歩行ドローンくん達も問題なく稼働中だ。……一昨日の超巨大3Dプリンターくんの暴走にアキを巻き込んでなければ不可能だったな」

 

 ははは、と暴走したのを止めにかかろうとして、吞み込まれたアキの姿を思い出して笑う。その後、本人とユウカにこっぴどく怒られたものだ。とも付け加える。そして、つい最近のロボット暴走騒ぎを巻き起こしたロボット大一番大会用の機体をダミーにして、この騒ぎを巻き起こしているのだ。

 

 「私も、濃いコーヒー作って貰ったなぁ……あれ、カフェイン濃いからまた飲みたい、かも」

 「そうか、今度私も……、おっと、お出ましだな」

 

 画面のドローンの反応が一つ消え、二つ消え、あっという間にドローンが破壊されていく。反応を表示する点がまるで早送りのように消えていく。カメラには捉えきれないぐらい素早く動く人影がブレた姿で映されていた。

 

 「想定よりも早い……これは、大物だな」

 「ウタハ先輩、どうする?」

 「当然、反撃だ。そして、アキに連絡を。……コールサインダブルオー(00)が出たと伝えてくれ」

 

 ◇◇◇◇◇◇

 セミナーはいまだに混乱の最中にあった。エンジニア部、ヴェリタスの協働により監視カメラの映像は混乱し、捕らえるための警備ロボの配置も満足にいかない。

 その中で何かに気づいたようにノアが叫び声を上げた。

 

 「エレベーター起動。乗り込んだのはアリスちゃんと先生です!!」

 「えぇ!? 先生も一緒なの!? もう!!! 次の確定申告手伝ってあげないんだから!!」

 「先生が、セキュリティ解除を行っているようです」

 

 その報告を聞き、顎に手を当てユウカは逡巡する。

 このままエレベーター内の二人を閉じ込めれば直通する通路は階段以外にはない。階段には各階ごとに配備された警備ロボがいて、そこに反応がないとすれば……おそらく、本命は先生とアリスちゃんで間違いはないはず。と。

 そうしている間にも先生が何らかの方法でセキュリティを解放したらしい。ヴェリタス辺りにツールでも借りたかと考えていると、ノアから声が掛かった。

 

 「緊急停止、させますか?」

 エレベーターを停止し、隔壁を下ろしてもいいがそうとなると先生がエレベーター内に閉じ込められることになる。その際の復旧時間にせよ、今の混乱中のミレニアムにとっては惜しい。かといって人間の先生を長時間閉じ込めておくわけにもいかなかった。

 少し悩んだ後、ユウカは答えた。

 

 「いや、私が直接向かうわ! アリスちゃんだけなら警備ロボと私で制圧出来るはず!!」

 「そうしましたら私が行きます!! ユウカちゃんはここに」

 

 ノア!? とユウカが叫ぶも、重要な書類は任せます! と、彼女は警備ロボを引き連れて、エレベーターホールへと走っていった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 道行く生徒達が何事かと見物する中をその人物は走る。目標を発見しては叩き潰し、そしてまた次へ。ふと、いきなり立ち止まる。目の前の標的である二足歩行のロボットが、突然振り返ったかと思うと、分離し、腰だった部分から短機関銃が飛び出し、更には上半身は飛行ドローンとなり敵対者に銃口を向けたからだ。

 その敵対者こと、C&Cのリーダー『美甘ネル』はニヤリと口角を上げた。

 

 「なんだ、ちゃんとやり返せる奴もいるんじゃねぇか!!」

 

 面白れぇ……と、ぐっ、と足を踏み込んでアスファルトを蹴り上げる。

 瞬間、爆発したように身体が加速し風を押しのけドローンに肉薄した。両腕のSMGが次々と標的を爆散させていく。粗暴な口ぶりとは裏腹にその射撃は正確かつ無駄のない冷酷なものだった。瞬く間にスクラップにすると、舌打ちをして耳元の通信端末に触れた。

 

 「おい、ここじゃねぇ。次の地点は……やっぱいいや。見つけた。切るぞ」

 

 端末の向こうで何かを言っている通話を一方的に切り、そのまま電源を落とす。そして、モノレールの高架下へと視線を向ける。一部電灯が破損し火花が散っている場所に、雲が切れて月光が差し込んでくる。そこに一人の人影を浮かび上がらせた。

 ネルは躊躇いなく、よぉ、と声を掛けた。 

 

 「お前……強いんだってな。名前は……なんだっけ。あぁ、そうそう。アキだ」

 

 茶色の犬耳、カールした尻尾、ヴァルキューレの制服の上にミレニアムのジャケットを羽織る人物がこちらをゆっくりと振り向いた。そしてネルの格好を見て目を見開く。

 

 「本当にメイド服だ……っ!」

 「同じ様な使い手同士、仲良くしようじゃねぇか。ってなんだその反応は!! 仕事着だよ! 文句あっか!!」

 「うわ、ガラ悪っ!! じゃなかった。えーと、目的の近藤アキです。破壊王ネルさんの噂は、かねがねユウカさんから……」

 

 あまりにもこちらを舐めた態度に、上等……と、ネルはこめかみに血管を浮かべ、両腕の『ツイン・ドラゴン』を構える。向こうもまた同じ様に二丁のSMGを持ち出していた。

 

 「美甘ネル。いや、コールサイン00だ。ちゃんとした仕事だが……まぁ、楽しんでいこうじゃねぇか、元SRTさんよ!!」

 「……そうですか、その経歴を知ってますか。では、遠慮なしでやりましょうか」 

 

 SRTの名を持ち出した途端、彼女の雰囲気が一変した。目を細めてこちらを睨む姿は肉食獣のそれであった。冷たい空気を湛える瞳に思わず身体が震えた。彼女から目を逸らさずに両手のグリップの握りを確かめる。強敵だ。とネルの直感が告げていた。

 

 「カマトトぶってるよかぁ、マシになったじゃねぇの」

 「休暇中なものでしてね。それに今はシャーレ預かりですよ」

 「どーでもいい」

 

 それよか、早く始めようぜ。と促す。引き金は向こうから引いていいと暗に伝えているのだ。それを理解しているのかいないのか、アキ側は動かない。30秒、1分と経ち、焦れたネルが声を発そうと口を開きかけたとき、それは起こった。

 突如として空に大輪が咲く。ネルの背後ではミレニアムの夜空に花火が舞い上がっていた。その爆発音、光、と注意を逸らしたネルは、はっと我に返り瞬時に振り返る。しかし、そこに彼女の姿は無い。

 ──その刹那、獣が牙を剥いた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「音響装置よし、バージョン花火大会です」

 「うん、試作したミニ花火も綺麗に行ったね。まぁ、殆ど照明弾みたいなものだけど」

 

 音瀬コタマと、猫塚ヒビキは小さくハイタッチをした。ヒビキの持つ迫撃砲から放たれる小さな弾頭が夜空で炸裂し光り輝く。とはいえ本物の尺玉では無いため音が無い。それを補強する音波装置ドローンが近くに飛んでいた。

 

 「特急で間に合わせたから、あんまり写真映えしないかも」

 

 空で輝く光源を見てヒビキは言う。マイスター、エンジニア部の天才達の呼称であるが、その視点から見るといささか不満であり、やはり〆切を切り上げるのはナンセンスと呟いた。まぁ、いいや、と彼女は言う。

 

 「その代わり、アキさんに私の衣装着てもらうから」

 「私は、先生のリンゴの咀嚼音を……」

 

 物静かな二人は己の欲望を想像し、ぐふふふと笑っていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ノアは、エレベーターホールにて花火の音を確認していた。エレベーターの扉の裏手側、つまり現在地からは確認出来ない位置で花開いていた。

 

 「この音は……花火、ですね。おそらく、一昨年の晄輪大祭の花火。しかし……近くで聞くと本当に音が大きいです」

 

 壁越しでも分かるような強烈な閃光。そして、それに合わさるように耳をつんざくような大音響が響いていた。

 このタイミング、誰かの陽動ですね。と類まれなる記憶能力を持つノアはすぐさま看破した。音という情報に対し彼女の持つ情報処理能力が上回り花火の陽動は無駄に終わる。警備ロボを周辺に待機させ、ただ時を待った。

 エレベーターの階数を知らせるランプが半分を切った。

 

 (しかし、これで本当に終わりなのでしょうか?)

 

 生塩ノアは考える。確かにここに繋がる通路は無い。そして新たに人員を配置した階段にも異変は発生していない。つまり、乗っている二人の身柄を抑え、エレベーターを停止させてしまえばゲーム開発部とその関係者は目的のモノを回収出来なくなる。これで終わりだ。

 

 「呆気ない、と言えばそうなのですが」

 

 発表されてから半日でプランを立てて実行したとなると、これが限界だと言われても納得できる範疇ではある。ただ、何故アリスちゃんだけなのでしょうか? と、思考を深める。

 そして、その答えはすぐに理解することになる。

 

 突如として、横薙ぎの弾幕がノアと警備ロボに襲い掛かった!! まともに避ける事すらも出来ずにノアは床に倒れ込む。薄れゆく意識の中で彼女は呟いた。

 

 「敵襲……? でも、何処から……?」

 

 その時、彼女は吹き込む風を感じていた。そして、視界の先に映るのは窓の外に浮かぶ謎の生命体のようなモノから、半身を乗り出した才羽姉妹だった。

 

 (なるほど……外からの侵入を考慮すべきでした……花火も、エレベーターも……陽動、だったのですね)

 

 エレベーターへの注視、そして花火の音にかき消され、ノアは背後からやってくる異音を察知することが出来なかったのだ。

 

 (それにしても、あの生き物ようなアレは一体……)

 

 その思考を最後にして、ノアは意識を手放した。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「説明しましょう! ペロロRX87-2とは! 単座式においてコントロール不可と言われたものを複座式に変更する事でサイズをそのままに操縦性を確保した改良型になります。Bluetoothも、遠隔操作も可能で、対爆性、耐弾性、防火性もそのままになっておりますが、冷暖房に関してはオミットされました!! しかし、その代わり宇宙戦艦用に開発を進めていたジェットエンジンを組み込むことにより──」

 「そこに夜間迷彩でアタシが仕上げたってわけ!」

  

 ミレニアムタワーの最上階に射出されたペロロ様を地上から眺めながら、コトリとマキはハイタッチをした。

 最終的にヒマリが出した答えは、戦力ではもやしっ子を多く抱えるミレニアム生が肉体派のC&Cや、警備ロボに勝てるはずも無いので、アキを始めとした全ての陽動を用いて奇襲を仕掛ける。とのことだった。

 セミナー側が注目する唯一と言っていい出入口のエレベーターであり、そこに最高戦力の先生とアリスを乗せ、包囲させる。その包囲の虚を突く要がペロロ保安官こと、ペロロRX87-2であった。このパワードスーツの中に可能な限り戦力を積み込み、背後から奇襲を仕掛ける。それが即実行可能であるプランである。と彼女らは言った。

 パワードスーツを使った案はアキからの提案であり、それで高層ビルを登ったことがあると発言した際に全員が引いていた。否、エンジニア部達は目を輝かせていた。

 そのプランが実現し、搭乗者は陽動として稼働出来ないゲーム開発部に白羽の矢が立ったという訳だ。

 

 「さて、あとはゲーム開発部と先生に掛かっているわけですが……どうなるでしょう!」

 「頑張れ、モモミド、あと、ユズちゃんにアリスちゃん!!」

 

 花火打ち上がる夜空に溶け込む一条のロケット雲を、二人は祈るように見つめていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「ほ、本当に上手く行くなんて……」

 「怖かった……本当に怖かったよ、お姉ちゃん」

 「わ、私も、おしっこちびるかと思った……」

 

 無事にミレニアムタワーに空から侵入を果たした三人は詰め込まれていたペロロ型パワードスーツから転がり出た。辺りには、意識を失ったノアと警備ロボの残骸が転がっており他に気配がない。そして、エレベーターも無事に到着し、ゲーム開発部は合流を果たす。

 「先生! 私達、空飛んじゃった!!」

 「モモイ達だけズルいです! アリスも空飛んでみたかったのに!!」

 「アリスちゃんも今度お願いしてみようか」

 

 わちゃわちゃとしている横で、先生とユズはノアを縛り付けていた。

 ──ノア、ごめんね。

 「えぇ、まぁ、色々と言いたいことはありますが、私が怒っているのは……アキ先輩とリオ会長ですので」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる彼女の表情を見たものは、恐怖のあまり身を寄せ合ったという。

 

 「じゃあ、後は保管庫に行くだけだね!!」

 

 モモイを先頭に先生達は走りだす。セミナー棟の端、差し押さえ品室。そこにある「鏡」を入手し『G.Bible』パスワードを解析する為に。

 仮にユウカが止める為に飛び出したとしても時間は充分に稼げている。そして、この混乱の最中だ。彼女も重要な書類や施設を破壊したくは無いと戦闘は避けるだろう。誰もがこれで大丈夫だと勝ちを確信していた。その人影が保管庫前に現れるまで。

 黄色と白の髪のロリが片手にリボルバーを構え、気さくに挨拶をしていた。

 

 「やっほ、来ちゃった。先生」

 

 ヒマリが予めの注意事項として言っていた事を全員が回想する。もし、この奇襲に失敗、または別種の戦力が現れた場合。先生とゲーム開発部の全員で事態を解決するしか他ない。作戦の要は───。

 

 「アリスっ!!!」

 

 瞬間、アリスの身体がくの字に曲がり、後ろへ吹っ飛ぶ。

 

 「秘儀、三連クイックドロー、……なんてね」

 

 神業の如き速さで三連射を放ったことを示す沖田マオ。そして彼女は事も無さげにこう言い放った。

 

 「という事で、ボクが相手だよ~。たいちょーを独占してた罪は重いんだから」

 

 ──あと、ここ数日たいちょー寝てないと思うけど、たいちょーはベットに縛り付けとかないと寝ないからね。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ミレニアムタワーの屋上にて、シキは俯瞰していた。

 

 「そう、最終盤面はAL-1Sを大駒にする他ない」

 

 ミレニアムプライズの規模拡大、日程変更による警備の申請による人員増加。その先遣隊の中に小隊メンバーを紛れ込ませるのは彼女にとって呼吸よりも容易い事であった。

 アリス達と戦闘を始めたマオの映像を見る。これにより、リオとの約束は果たされると、彼女は呟いた。

 そして隊長の姿をカメラ越しに映し出した。現在先着したネルと必死にやりあっている姿が目に入り、どんなボロボロな姿になってくれるのかと、思わず舌なめずりをした。

 

 「そして、後はC&Cが到着して、詰み(チェックメイト)

 

 うふふ、と一人で彼女は笑みを零す。

 

 「でも、それでは、面白くありませんよね? 隊長?」

 

 そして彼女はインカムに手を当てた。

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