元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第26話

 ミレニアムタワー内にてゲーム開発部達と先生は岐路に立たされていた。突然の乱入者である目の前のマオを突破し差し押さえ品室への道を開くか、また作戦を練り直し一旦引くべきか。取るべき選択は二つに一つだった。

 

 マオが放った三連射の激しい衝撃によって吹っ飛ぶアリスを心配し振り返るモモイ、ミドリ、二人が思わず駆け寄ろうとした時、何がに気づいたようにユズが叫んだ。

 

 「ま、待って二人ともっ!」

 「敵から目を離しちゃダメだよねー。好き放題されちゃうよ?」

 

 瞬間移動もかくやというスピードでマオが動く。音を超える様な速度で詰め寄り、モモイに掌底を撃ち込み、ミドリに銃弾を放つ、そして重ねて放たれた一発がユズの身体を弾き飛ばした。息を呑む間に三人が宙に浮く。電光石火。彼女の制圧のスピードは反応できる速さを超えていた。

 そして残る先生にリボルバーを向けながら、ふさふさの尻尾を嬉しそうに振っていた。

 

 ──みんなっ!!

 「ったく、シーちゃん先輩も酷いよね~、ボクに爆弾使うなって言うんだよ? こうするしかないじゃん」

 

 身体弱いのにさ、とやれやれと弾倉を取り出した所で身体を逸らす。そしてすぐさま弾倉に残る最後の弾を明後日の方向に放った。その直後、鋭い光線がその場所を通り過ぎていった。エンジニア部から与えられた武器、『光の剣 スーパーノヴァ』を構えたアリスが叫ぶ。

 

 「──アリスの仲間から離れてください!! いたっ!?」

 「すごいすごい。アレを咄嗟に武器で防いだんだ! アリスちゃんも武器も頑丈だね!!」

 

 褒めたたえながら即座にリロードし応戦し始める。二つの小さい影がぶつかり合った。

 壁に、天井に連続した光線が素早く動くマオを追いかけて振り回され痕が残り、その隙を突いたマグナム弾が容赦なくアリスのボディに撃ち込まれる。

 

 「ぜ、全然当たりません……!! 倒したらきっと経験値沢山貰えるはずです!!」

 「聞いてたけど面白い喋り方するなぁ……おっとぉ!!」

 ──みんな、ここを乗り越えればゲームクリアだよ!!

 

 先生に励まされ起き上がってきた他三人が戦線に加わってくる。それを見たマオが口角を上げて更に速度を上げてくる。当たらない弾幕ながらも互いにカバーしあう四人と、避け続けながらも反撃する一人、四対一でようやく互角な戦いが繰り広げられていた。

 

 「何アレ! 早すぎ!! チートじゃんあんなの!!」

 「あんなに早く動かれたら狙いも……」

 「せ、先生……私……」

 「アリスが、ちゃんと当てられれば……!」

 

 指揮する先生も苦い顔を浮かべ始める。レベルが違うことを肌に感じながらも必死に采配を振るう。タイムリミットが近い、誰かがマオの応援に来たらこの戦闘の均衡は大きく防衛側に傾くだろう。そうなってしまえば撤退しかない。作戦は失敗となる。その焦りを見抜いたのかマオは呆れ交じりに呟いた。

 

 「あー、まぁ、ボクの言われている事って、アリスちゃんと遊んで来いってだけだから先に行ってもいいよ?」

 

 ひらりひらりと銃弾を躱しながらマオは言う。この先に大事なものがあるんでしょ? と道を開けた。その態度に顔を見合わせたゲーム開発部は頷き合い、走ろうとする。しかし残念ながら、それは叶わなかった。

 

 「残念ながら、そこは通せません。マオさんそれは契約違反ですよ?」

 「ありゃ、来ちゃったかアカネっち。階段上りお疲れ様」

 

 タイムリミットが形になる。階段に配置されていたC&Cコールサイン03(ゼロスリー)のアカネが、優雅なブロンドの髪を揺らし先生たちの背中に立ったのだ。誰もが理解しただろう。形成は逆転した、と。

 

 「これでおしまいです。諦めて捕まって下さいね」

 「ま、残念だったね。時間切れって事で」

 

 誰もが諦めずに抵抗しようとした。先生が采配を振るい生徒達も必死にそれに応える。けれどその技術の差、レベルの差は勢いで埋まるようなものではなく、数秒後、全員が膝を屈していた。

 ボクに勝てる人なんて、たいちょーぐらいだからさ、勝ちたかったらたいちょーより強い人連れてきてよ。そうマオは言い放つ。そして、その言葉を否定することなく誰もが俯いた。戦闘のプロ二人に成すすべも無い。そう実感したからだ。

 

 「まだ……っ、終わってません!!」

 「もうそろそろ諦めた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

 再び立ち上がったアリスが必死に抵抗するも、反撃は容易に躱され、銃弾を撃ち込まれる。一人耐えていたアリスはそろそろ限界が見え始めていた。マオに撃ち抜かれ、アカネに動きを制限される。それでもアリスは立ち上がる事を止めなかった。

 

 「まだ……です、まだっ!!」

 「アリスっ!! もういいよ……やめようよっ……!」

 「お姉ちゃん……」

 

 誰もが諦めの声を発し始める。それでもアリスは膝を屈しない。それを見てマオは眉を潜めた。

 

 「悪いんだけどさ、部は作り直してゲーム作りはたいちょー抜きでやってよ。それで……いいじゃん」

 

 それなら出来るんでしょ? と、マオが少しだけ苛立たしげに吐き捨てた。

 

 「それでも……私はパーティーの『勇者』なんです!! アキも一緒にずっと冒険がしたいんです!!」

 「じゃあ、ボクって言う『ボス』が倒してあげる。たいちょーはボクのものだ」

 

 三連続で放たれた筈の銃声が一回に聞こえたと錯覚するほどの早打ちが、アリスの小さな身体を宙へと浮かせ吹き飛ばす。撃ち切った薬莢が同時に散らばって、床へと転がった。

 

 「これで……ゲームオーバーだよ」

  

 ──もし、この奇襲に失敗、または別種の戦力が現れた場合。先生とゲーム開発部の全員で事態を解決するしか他ない。作戦の要は───。

 

 目の前の光景を見て、ユズはアキの事を思い出していた。

 

 『人に色々言われるのって辛いよね』

 

 あの夜、初めて話をした日。アキさんは『裏切り者』と呼ばれていたと教えてくれた。皆の事を考えて、色々とやったんだけど、結局失敗しちゃってね。と寂しそうに笑っていた。あんな顔をする人が私達の為に嫌われ者になる事を考えていた。と、ヒマリ部長が教えてくれた時に頭が真っ白になったんだ。私が同じ立場だったらアキさんと同じように考えられるのかと。

 ──無理だ。私がゲームを公表した時、初めて悪評を浴びた時に身体が氷になったのを覚えている。本当はちょっと期待してた。もしかすると私は天才でゲームを出したらあっという間に有名になっていって、と。

 でも、現実は悪評、周囲の冷たい目、ひそひそと噂される声という悪意達が私に向けられた。それらが見えて、聞こえてきた時に身体の芯は冷え切っているのに表面はドロドロと溶けていって、私が私でなくなっちゃうんじゃないかって思ったんだ。

 だから私は部室のロッカーに逃げ込んだ。誰も探さないで欲しいと願いながら。

 そんな思いをアキさんだってした筈だ。私みたいな趣味じゃなくて、誰かの為にと願った事を踏みにじられて、蔑まれて、どれだけの思いだったのだろう。どれだけ痛かったのか、私には分からない。だけど、これだけは言える。とっても苦しかった筈だと。

 

 「だ、だめ……」

 

 足の力を込めて、ユズはふらふらと立ち上がる。最初は一人だった。一人で作って、一人で傷ついた。

 

 「皆が、来てくれたから……」

 

 それでも私のゲームを好きと言ってくれる人達が集まってくれた。私ともう一度ゲームを作りたいと言ってくれた。 

 

 「アキさんが、ちゃんと帰って来れる場所だって……言ってくれたんだから……」

 

 おかえり、と声を掛けた時の嬉しそうな顔を覚えている。優しくて可愛くて、少しだけ胸がドキッとしたんだ。

 

 「わ、私は……っ、この部の、部長なの……!!!」

 

 この部活じゃなければダメなんだ。この場所を守りたいからっ!!

 

 ──もし、この奇襲に失敗、または別種の戦力が現れた場合。先生とゲーム開発部の全員で事態を解決するしか他ない。作戦の要は───。

 『作戦の要はユズさん。あなたである可能性が高いです』

 『ええっ!! む、無理ですそんなの!!』

 

 あの時、咄嗟に否定したヒマリ先輩の言葉がもし本当であるのなら、本当に私がこの状況を打破できるのであれば、私はそれを掴みたい。大事な場所を守りたいから。大切な人を守りたいから。

 誰か私に勇気を下さい。少しだけ、ほんの少しだけでも誰よりも強い『最強のプレイヤー』でいられる勇気を。そう思って目を見開くと、先生が背中を押すように頷いてくれた。

 

 ──頑張れ、ユズ。

 

 すぅ、と息を吸って、吐き出す。

 

 「来て、ペロロRX78。『ver.UZQueen』」

 ユズはそう呟くと背負っていた板を手前に持ち出した。それはボタンを限りなく増やしたアーケードゲーム式のコントローラー。それをすかさず起動した。

 ──その瞬間、アカネの背後より『ソレ』は来た。夜間迷彩に彩られて様々な改造を施された『女王の杖』。ジェットエンジンを吹かし急制動、急加速を繰り返しユズの隣に降り立つ物体。それは単独ではアキにしか操れなかったパワードスーツ。

 

 「アキさんが言ってくれたんだ、ゲームの世界なら無敵だって」

  

 ユズは呟く。そうしてジェットエンジンを吹かした機体が大地に立つ。

 

 「皆が言ってくれるんだ、私のゲームは面白い、って」

 

 並び立つ機械が命を灯したように目を光らせる。熱と同時に排出された蒸気が足元に充満した。そうして、ユズが素早くコントローラーを叩くと、『ペロロRX78』は命を宿し彼女の手足となって動き出す。格闘ゲームにて最恐を誇る女王が杖を携え、華々しく戦場に躍り出た。

 チェスボードの最強の駒、『クイーン』が動き出したのだった。

 

 「もう一度だって、何度だって、私は皆と遊びたいっ!!! その為なら、最強にだってっ!!!」

 

 ──Continue? 

 ──Yes!

 

 「わ、私が皆を助ける番っ!!」

 

 ユズが操作盤を素早く入力すると、それに応える様にロボットの背面のノズルが火を噴きマオに突進する。すかさずマオも反応しリボルバーが放たれた。正確に正面を捉えた弾丸は機体を破壊、制止させるはずだった。──瞬間、マオが驚愕の声を漏らした。機体の側面についたブースターが起動し横にスライドしたのだ。人外の動きを見せる機体に対し、マオの目が細められる。

 

 「へぇ……ちゃんと強いの居るんだ」

 「み、みんなっ! 行って!!」

 

 ユズの叫びに弾かれたかのようにモモイ、ミドリが差し押さえ品室に向かって駆け出した。それを反応したアカネが銃を向ける。しかし、そこに飛び込んできたアリスが光の剣を振り回し、彼女の拳銃を弾いた。弾痕が天井に刻まれる!!

 

 「そうは……させません!!!」

 「こうまで近いと、お掃除も難しいですね……っ!!」

 ──モモイ、ミドリ! ここは任せて!! 

 

 先生は必死に戦う二人に目を配りながら、双子たちの背中を押すように声を張り上げる。双子は『鏡』のある部屋に滑り込んだ。後は「鏡」を起動し、『G.Bible』のパスワードを解析するのみだ。遠隔操作でヒマリが指示を出すのでそこは問題ないだろう、と戦う二人に目を向けた。 

 変幻自在の機動を描きながら両手にもつ機銃で応射する機体とそのプレイヤー。そして生身ながらも機械と同じかそれ以上の速さで跳ね回るマオが激突していた。目が回るような機動戦が繰り広げられる。影がぶつかり合う度に火花が散った。

 

 「へぇ、たいちょーと夜通し遊んだんだ……いいなぁ、ズルいなぁ」

 「あ、アキさんは楽しいって言ってくれた、から!!」

 「……ずるいよね、キミたちさぁ。なーんにも知らずに遊んでるんだもん」

 「し、知ってる。アキさんは、教えてくれたもん!!」

 ふーん、とマオは興味なさげに呟くと、ペロロRX78をマグナム弾で押し退け、あっという間にユズに肉薄する。

 

 「じゃあさ、教えてよ。たいちょーの言ってたこと。ボクより知ってる事多いのかな」

 「っく……!!!」

 

 コントローラーを叩こうとする腕を握られ、ユズは万歳をするような格好で固定される。こうなってしまえば、機敏に動いていた機体もただの鉄の塊でしかない。万事休すかと思われた。しかし、事態は予想外の方向に動く。

 

 「──……ゴホッ、ゲホッ!!!」

 

 いきなりマオが血を吐かんばかりの勢いで身体を折り曲げて咳きこみ始める。それにより両手の拘束は外れユズは解放された。

 突然の彼女の異変に反射的にユズは手を伸ばすが、マオはその手を思い切り弾く。そして、燃え盛る目でユズを睨んだ。

 

 「──触るなっ!! 時間限定のヒーローなのは分かってる……それでも、たいちょーは欲しいって言ってくれたんだ」

 「あ、え……あ、アキさんが」

 「恵まれただけの子に……負けたくない……っ!!」

 「わ、私だって……っ!!」

 

 駄作、バグまみれの欠陥品、希代稀に見る超ゴミゲー。そう言われてきた。自信なんて粉々に打ち砕かれたんだ。それを恵まれただけとは言われたくない。例え相手が何であろうと、どんな思いでここに立っていようと、私だってやりたい事はある……っ!!

 

 「アキさんと一緒に、げ、ゲームを作りたい……っ!!」

 

 私のゲームを楽しいと言ってくれた大切な人に、一緒に静かな夜を過ごしてくれた人に、傷を見せてくれた人に私が知ってる面白い事を共有したいから。私は……この子と戦う。そう決心し再び己の武器をつかみ取った。

 両者が再びぶつかり合い、激しい火花を散らしていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ミレニアムタワー屋上にてシキはマオの戦闘音を聞いていた。風が吹いて赤髪が揺れる。

 

 「あらあら、マオちゃん少々張り切りすぎですね」

 

 インカムに手を当て、別回線を開くと別のぶっきらぼうな声が返ってくる。

 

 「DOGGY2配置についた。以降、援護は可能だ」

 「あらあら、まさか、乗ってくるとは思いませんでした」

 「てめぇが下らない事をしようとしてるのは知ってる。この給料泥棒が」

 「うふふ、それに乗った給料泥棒は誰ですか?」

 「……うるせぇ!」

 

 うふふ、と軽口を叩きながら、戦力予想図に修正を加えていく。ヒマリがマオちゃんと戦えるだけの戦力を用意していた事が驚きだったが、おそらくは賭けも入っていたのだと予測する。相変わらず『全知』を名乗っておきながら、オカルトやら、そういった可能性の低い事がお好きだ事。と呟く。

 しかし見知らぬクイーンが入って暴れ回った所で盤面は大きくは変化しない。結局は詰みである。ただ、それは隊長にとっても私にとっても好ましくない。私の目的はこの先にあるのだから。

 だからこそ私は元副隊長に指示を飛ばす。

 

 「目標は……コールサイン02(ゼロツー)。研究棟屋上のスナイパーです」

 「おい、正気か……?」

 「はい、正気……いえ、狂気です☆ 発砲は不要です。ただ、狙って下さい」

 「聞くんじゃなかった。くだらねぇ。気配で感じるってことか? 随分とあちらを買ってる」

 「……復唱は? うふふ」

 

 舌打ち交じりに了解が聞こえ通話が切られる。相変わらず分かりやすい人と微笑んだ。

 

 「えぇ、強いですよ。だって、リオが集めた兵隊ですもの」

 

 ◇◇◇◇◇◇

 褐色のお尻の大きいメイドが大型の狙撃ライフルを抱え、狙いを定めていた。スコープの先には先程より繰り広げられているミレニアムタワーの戦闘。その中の縦横無尽に動き回る謎の鳥のような生き物を視界に収めていた。

 コールサイン02(ゼロツー)であるカリンは、戦闘中であるはずのアカネに通信を入れる。

 

 「こちらゼロツー。狙撃準備完了。今よりミレニアムタワーの援護を行う」

 

 長大な狙撃銃がバイポットに支えられ、ビルの壁面に横たえられ今か今かとその時を待っていた。カリンは呼吸を整え、トリガーに指を掛けた。

 

 「狙撃をかい──気配……何処だ!?」

 

 引き金を指に掛けた瞬間に何かに気づき、咄嗟に銃を持ち上げカリンは身を隠す。長年の狙撃手の勘が危険だと叫ぶ。遮蔽に隠れながら気配を探るも、場所までは把握できなかった。

 カリンは思案する。ここを狙撃出来る高台は限られている為にカウンタースナイプを行うにもポイントは絞れる。その中での候補地をいくつか割り出して何処から見られているかを探らなければならない。

 

 「移動……いや、このまま……」

 

 逡巡の後に、カリンはため息をつく。

 

 「こちらゼロツー……援護は期待できないと思っていてくれ。カウンタースナイプの気配有り、だ」

 

 ◇◇◇◇◇◇

 刻一刻と変化する状況に、シキは思わず感嘆してしまう。

 

 「ヒマリ、リオ、それにチヒロに、ウタハ」

 

 在籍時に目をつけていた人物たちがミレニアムに根を張り成長し、種を撒いている。それが感動的だったのだ。

 かつてミレニアムを捨てた過去。それは新興の学校であった当時の発達しきれていないネットワークにおいて、私はあまりにも異端すぎた。当時の天才達が対抗し組織を作り上げる頃には連邦生徒会から声が掛かっていた。私は自身の能力を知り、使いこなすのが誰よりも早すぎたのだ。今ならば、と三大校になった母校を見て思う事はある。今であるのなら互角、或いはそれ以上に対抗してくる人がいるのでしょうね。

 今であれば、と少し想像の羽を広げる。けれど、既に私は出会ってしまった。壊したくても壊せない。そして、壊したくない存在に。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 『キミが山南シキさん? こんな廃墟に単独で出向くなんて何かあったの?』

 『……命令は出ていない筈ですが』

 

 警報も解除し、脱走者の名簿からも消し去った。問題行動ではあるが問題として取られようがない。記録上居たことになるのだから。しかし、目の前にいるこの三人は違う。SRTの厳重な生徒名簿のシステムクラックなど可能なのは私を置いて他にいない。帰隊すれば厳罰になる。

 後ろの副隊長が苦い顔を浮かべている。もう一人は楽しみとワクワクしていた。そして、隊長は私に手を伸ばしていた。

 

 『転校してきてずっと一人で居るって聞いたから、スカウトしに来ちゃいました』

 『……あらあら、随分と低能さんですね~』

 『うっ、傷つくなぁ。事実だけど』

 

 初めてその言葉を聞いたときは耳を疑った。転入したのは一年生次の後半戦。もう周りは隊として固まっていて、残るのは単独行動か夏休み時に隊員が脱落した組のみ。噂に尾ひれがつき、誰も近寄らなかった私に入る場所など残ってはいなかった。だからこそ、この奇妙な人物に問いかけた。

 

 『憐みですか? それともSRTお得意の正義感ですか? どちらも私には持ち合わせてなど──』

 『いや、違う。かな? ただ、一人って寂しいからさ……まずは友達から』

  

 話し相手にどうかなって、スカウトしにきたよ。と彼女は言った。そんな恥ずかしくて、バカみたいな事を真面目に言うのがとてもおかしくて、つい笑みが零れた。

 

 『あらあら、わざわざ友達づくりの為だけにこんな場所へ? 厳罰が怖くはないんですか?』

 『いや、怖いよ? 私の部隊ドベから数えた方が早いしね』

 

 大丈夫かな、と震えながら後ろを振り返る隊長と、苦笑いで答える二人。規則をものともせずにやりたい事を突き進む。こんな面白い隊長のいる部隊に入ったら、どんなに楽しい学校生活を送れるのだろうか、と想像の羽が広がってゆく。

 ふと、感じていた穴のようなものが、代わりに埋まっている。そんな気がして。つい、本音が零れてしまう。

 

 『でも、私は壊すことでしか愛情を示せません。ミレニアムでもそうでした』

 

 自分から退学と言う選択で壊さずにいられたら、リオやヒマリと学園生活を送っていたのかもしれない。そんな想いすらも彼女は巻き取って絡めていく。

 この性質はまともではない、人とは化け物を相容れない。

 そう受け入れていた私に、世界を諦めて俯瞰していた私に、壊していつの間にか捨てられるだけと諦めていた私に、隊長は手を伸ばした。

 

 『いいよ、それで。……ただ、その代わり、私が壊れるまでは私だけを見て』

 『……本当に、面白い人』

 

 帰隊すぐに倒れるまでスクワットをやらされたのは良い思い出だ。

 そこから私は隊長の虜になった。いえ、その他全てが無意味になりました。それほどまでに隊長の言葉は衝撃的だったのです。

 

 今までの私が、壊れてしまうほどに。

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