元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
いつか私みたいな子が一人でも多く減りますように。と密かな願いがあった。だから初めて彼女の噂を聞いた時、迎えに行かないと、と思ったんだ。
周囲に馴染む気もなく、学校から勝手に離れるという奇行を繰り返す彼女は周囲から浮いていた。それがどうしても寂しくて彼女と話してみたいと思った事を覚えている。
廃墟で初めてちゃんと話した日、シキは悩みの片鱗を見せてくれた。だからそこへ向けて手を伸ばす。いつものように私にできることで正義を果たして。この子の支えになれるように。
壊さなければならないのなら、壊しても構わないものを。いつか彼女がその悩みにちゃんと向き合えるまで、彼女の周りにも人が集まれるまで、私が壊れ続けましょう。
『いいよ、それで。……ただ、その代わり、私が壊れるまでは私だけを見て』
そして、いつか私が壊れてしまった時に見限れるように。そう答えた。
◇◇◇◇◇◇
作戦開始10分後。それが花火の打ち上げ時間だった。ウタハさん、ヒマリ部長の三年生のコンビがそれまでには攪乱の有効時間含めてもC&Cの誰かと交戦開始するであろうと踏んだからだ。
実際、かなり遠い位置からのスタートであったのにも関わらず、こちらに到達したのだからとんでもない。流石はミレニアムの最高戦力『コールサイン
そんな彼女だからこそ花火が上がった音で注意が逸れた瞬間、迷いなく周辺の炸薬を一斉に起爆した。閃光と共に轟音が鳴り響き、周辺の機械や廃材が一斉に倒れ煙が舞い上がった。
マメちゃん程の精度はないものの食らえば私でもかなり痛い……はず。仕込みがかなりギリギリでヒヤヒヤしたものだ。と油断せずに二丁の愛銃を握り直す。
「なるほどなぁ……照明が壊れてるとこまで、てめぇの罠か」
煙の中から大したダメージも無さそうな様子で、もうもうと立ち込める硝煙の中からゆっくりと歩くスカジャンにメイド服のチビお化けが現れる。「足元を見えづらくして罠を仕掛ける、そんで注意が逸れた馬鹿に向かって一斉にドカン。てめえがどうにもよく喋る訳だ」と意図を含めて看破され思わず舌を巻いた。この相手、搦め手もこなすタイプと見て間違いがない様だ。流石はリオ会長の私兵。如才ない。
そしてチビ茶髪ボロボロメイド服お化けの歩みが止まった。そのまま燃えるスカジャンを宙へと放る。
「……ま、なんだ」
覚悟出来てんだろうな? と、額から血を流しながら彼女はこちらを睨みつけてきた。その威圧感に思わず息を呑む。
言葉遣いがチンピラなのに普段相手にしているヘルメット団やスケバンの集団の1000倍ぐらい怖い。ミレニアムは治安が良くて平和だなぁなんて思っていたのに……勘弁してほしい。
「じゃあ……死ね」
その言葉と共に両手に持つ銃が跳ね上げられ、怒涛の勢いで9mmパラの雨が襲い掛かってきた!! その猛攻に食いつかれる前にと足を動かし逃げ回る。ゴミ箱、ベンチ、街灯と足場にしたものが次々と粉塵になる様が視界に入るたびに肝を冷やした。
「おらおらぁ!!!」
駆け回る銃弾が蛇のようにコンクリートを這い、私を喰い破らんと飛び掛かる。咄嗟にコンテナの裏へと転がり込む。さて、どうしたものかと考えていたら
「逃げ回ってんじゃねぇ!!!」
「無理をおっしゃる!!!」
派手な爆発音と共に背中がチリチリと焼かれているのを感じながら愛銃をネルさんに向けて放った。軽快なレートで発射される弾丸が彼女が足を休める事を許さなかった。そうして彼女もまた撃ち返してくる。場所を点々としながらも疾駆する二人の影が止まる事はない。
そうして二丁持ち同士の激しい撃ち合いがついに車両基地へと到達し、整備中のモノレールの車両を挟んで繰り広げられた。互いの足元に薬莢が音を立てて散らばる度に窓ガラスが吹き飛び、車体に風穴が増えていく。そんな破壊が繰り広げられる中でネルさんは笑いながら、私は苦々しい顔を浮かべながら撃ち合いが加速する。
「ははっ、面白くなってきたなぁオイ!!!」
「モノレールの車両一両につき、約3億……。あぁもう、ユウカさんごめんなさい!!!」
逃げ込んだ車両の中で蜂の巣になった座席を眺めながらマガジンを投げ捨てる。上がってきた息を少しでも息を整えやすくするように第二ボタンを外した。
車両には飛び散ったガラス片と空薬莢で埋め尽くされた床と風通しの良くなり過ぎたフレームが残されていて、何とも後始末を考えると頭が痛くなりそうな光景が広がっていた。それだけでもう既にユウカさんが見たら青い顔を浮かべそうなものだ。と苦笑いをする。
しかし、作戦自体は上手く働いている。モノレールの車両基地はミレニアムの外縁付近であり、ミレニアムタワーからは果てしなく遠い。仮に戻ったとしてもその頃には先生たちもミッションを完了している事だろう。
問題は残るメイド部の方々が何処に散ったか、なのだけど……。と考えても仕方ないと頭を振って思考を払った。目の前の強敵に集中しないと一瞬で喰われてしまうのは間違いない。
仕切り直しとお互いのリロードが終わったことを感じ、膝に力を込める。凹凸の激しいモノレールの軌道の上に飛び出そうとした時。空から絶望の声が聞こえてきた。
「リーダー、遊びにきたよ!! 私もワンちゃんとの追いかけっこ混ぜてよ!!」
対岸の車両の上にその子はいた。人影はあろうことか、大声で迷子の子供に対して呼びかけのように声を張り上げているのだ。アッシュグレーの長髪に、今にもメイド服から零れそうな何カップあるのかも分からない程の豊満な胸を揺らすC&Cのナンバー2。ブリーフィングにおいて、ネルさんでなければこちらが来ると予想されていた程の戦力を持つ生徒。隠れようともしないその姿を見て思わず呟いた。
「コールサイン
「ん、あ! いた!!! お尋ねもののワンちゃん、みーっけ!!」
相当な距離があり隠れてもいたのに、容赦なくアスナさんは車両の外壁に銃弾を浴びせてくる。勘が鋭いとは聞いていたけれど、ここまでとはっ!! と、苦い思いで車両から飛び出して彼女たちとは逆方向に走りだす。身をもってC&Cの規格外の強さを知らされている今、一人でも食らいつくのがやっとなのに増援は素直にマズい。と、シャツに滲んだ汗に冷や汗が混じり始めた。セミナーから借りたジャケットに垂れてきた血が滲む。クリーニングで落ちるかなコレ。
そんな事をしている間にも向こうの二人は合流し、追跡しながら話始めた。
「アレが噂のワンちゃん? 可愛くて強そう!!」
「アスナ、お前が来たらセミナーの護衛はどうしたんだよ」
「任せられそうな子が来たから、来ちゃった。それにこっちに来た方がいいかなって」
「あっそ、じゃあ……とっとと潰して戻るか」
来る、と直感し、スモークを振り向き様にぶん投げる。円筒のグレネードが地面を転がり視界一面に煙幕を立ち込めさせる。持ってきていた炸薬のほとんどはここまで来るのに使ってしまった。すっからかんだ。先程から上がった息が戻らない。汗で下着が張り付いて気持ち悪い。体力が限界なのは分かっている。時間稼ぎしようにもタネが無い。ならば、と足を止め、再び逆方向に身体を急転回した。
完全に狩る側になっていたであろうネルさんに接近戦を挑む。両手の二つの牙が火を噴き、彼女の片方の得物を宙に跳ね上げた。驚愕の顔を浮かべた彼女に肉薄しタックルをブチかます!!
「なっ、てめぇ!!」
煙幕を切り裂いて私よりも体躯の小さい彼女はそのまま吹き飛び、受け身の姿勢で片膝をついた。すかさず私は追撃を狙い接近していく。狙いは一つ、接近戦にもつれ込んでアスナさんの銃による援護を無効化する事だ。片方の銃を無くし姿勢を崩した彼女。そこに残った弾薬を全て叩き込むっ!!
私もそうであるように、彼女だってここまで来るのに消耗はしている筈だ。一人ぐらいは無力化をして足掻いてやる。と、アスナさんからの援護を無視し、最後の力を振り絞って突進した。
唯一見えたかのように思えたかすかな勝利の道筋。私の放つ銃弾が彼女の身体をかすめ、血が飛び散る。そしてついには頭につけていたホワイトブリムが飛んだ。
しかし私もまた限界だった。アスナさんの5.56mmが体に突き刺さり、身体のあちこちから血が滲んでいる。白いシャツが赤で染まっていくのが分かる。足が重い。けれど、まだ終わってない!!!
あと数歩の距離だった。あと少しで、ネルさんは倒れるはずだった。
しかし、『勝利』の二文字の所有者は既に決まっていた。ボロボロになったメイド服を翻し、銃弾の雨の中で彼女は不敵に笑う。
「狙いも悪くねぇ、アタシだって限界だ──」
だが、と、彼女は右手に持つ銃を振り回す。その持ち手についた鎖が一直線になったと気づいた瞬間には、私の背中に衝撃が走っていた。
「──アタシは、負けねぇ!!」
まるでドラゴンの尻尾と言わんばかりに背中に打ち付けられた銃が彼女の手に戻っていく。それを見た瞬間に私は肚の底で負けを受け入れる。二つの銃口がゆっくりとこちら側に向く。
(負けたっ……!)
だけど、やれることはやった。何故かゲーム開発部の皆でゲームしている光景が目の前にふと浮かんで、意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇
「あ、起きたよリーダー!!」
意識が浮上した直後、視界が隠れていて目隠しをされているのかと思った。その目隠しの上からアッシュグレーの髪が覗いていて、耳とか尻尾とかをブラッシングされていた事に気づいた時、ココが何処だか理解した。慌てて飛び起きるとふにゅ、とした感触のお胸に飛び込んでしまって余計に慌てる。
「膝枕!? なんで!?」
「尻尾ふわふわだねー!! もっと触ってもいい? ねぇ!!」
さっと尻尾を隠しながら、アスナさんから距離を取る。目覚めた場所は先程と変わらずミレニアムの外縁付近の車両基地。そして、何故かアスナさんに膝枕されていて耳や尻尾などを弄り回されていたらしい。うぅ、もうお嫁にいけない。
そんな事を考えていると、ネルさんから、バシン、と背中を叩かれる。
「なんだよ、お前やるじゃねぇか!!」
受けたアザに追撃を食らって思わず涙を浮かべながら、何故かここにいる二人に首を傾げる。私なんて捨て置いてミレニアムタワーの援護をするべきではないのか? という疑問に彼女は端末を投げ渡してきた。落としそうになりながらもその端末に耳を当てると、慌てふためくユウカさんの声が聞こえてきた。
「もう!! ちゃんと聞いてくださいってば!! いいですか? もう一度言いますからね!!」
彼女はそう叫んだ後、ミレニアム近郊に無人の機械群を捕捉。向かってきます。と状況を報告した。
「色んな事が同時に起き過ぎよ!!! どうなってるの!!」
「何々? ユウカさん!? 何事!!?」
「え、アキ先輩!? ネル先輩じゃなくて! ……あぁ、もう!!とりあえず言いたい事は後でたっぷりありますけど今は緊急事態です!!」
そういって彼女は状況を詳しく教えてくれる。各地で戦闘が開始された後に反応があったらしい。廃墟で確認される四脚戦車たちがミレニアム近郊にて起動し、こちらに向かっていたとのこと。現場の指揮は混乱し、すぐ近くでは戦闘が起きている中では誰に伝える事も出来ずに困り果てていたそう。
「とりあえず、繋がってよかったです──数は……」
「あぁ? まぁ、アレ見りゃ分かんだろ」
そこまで聞いていると、いきなりネルさんの手によって端末が切られて投げ捨てられた。グレネード系以外のポイ捨ては軽犯罪ですよ。と文句を言いつつ、指を差す先を見ると拾った端末を手から滑り落とした。地面が動いている。と錯覚した。しかし、それは誤りだった。私が廃墟で戦闘した戦車、そして、それよりも一回り巨大な歩行戦車がこちらに向かってやってきていた。
「しっかし、アキ。やるなぁ。あばらが何本かいってるかもしれねぇ」
ネルはケラケラ笑いながらも、近づいてくる戦車に向かって歩いていく。そこにアスナさんも加わった。
「とりあえず、一台一台潰していこっか。そこからだよね!」
「しっかし、50いや、100か? 大した数だなオイ」
私もと続こうとするも、くらり、と意識が飛びそうになる。既に満身創痍だ。あと、どのくらい動けるのだろうと考えていると自身の端末に通話が掛かってきた。
「隊長、聞こえていますか?」
「シーちゃん!?」
ダブルオーとの戦闘お疲れさまでした。惜しかったですね。とまるで見てきたように彼女は言う。この時点で引っ掛かりを覚えていたが次の言葉でそれは決定的になった。
「少し、私からプレゼントを用意しておりまして。見えますでしょうか私が過去にミレニアムの脆弱性の最終課題としてずっと用意していた玩具です!」
「……DOGGY4、説明を。事と次第によっては」
「覚悟の上です★ では──」
よき破壊を。そう言って、通話が途切れてしまった。昔からとんでもないタイミングで私に悪戯を仕掛けてきていたが、これは最悪のタイミングだ。私はともかくとして、これではミレニアムに被害が及んでしまう。
「シィィィィィキィィィィ!! もう!!!」
DOGGY隊 鉄の掟 2条。──人様の迷惑になるような勝手な行動はしない事!!
やぶったら一週間の無料奉仕だ。シキに絶対後始末させるんだから!
この状況を知らされているであろう先生に電話を掛ける。ミレニアムタワー屋上も片がついたらしく、急いでそっちに向かうから!! と第一声からこちらの心配をされる。正直、その声に委ねて眠ってしまいたい程に身体は重い。痛くて、苦しくて、泣きそうだ。
けれど、部下の不始末は自身の不始末と自身の頬を張る。限界を感じている場合ではない。身体の痛みからくる熱も、滲む血も、骨折からくる激痛も感じている場合ではない。
ただ部下の為に、誰の為に前を向く。それが私の『正義』だ。
「先生、こちらDOGGY1。ダブル00と協働して機械群を叩く!!」
「しっかたねぇなぁ……行くぞアスナ、アキ」
「次はメカワンちゃん狩りだね! アスナ行っきまーす!」
私達はミレニアムを背負い、戦車の群れへと駆け出した。
◇◇◇◇◇◇
攻め立てる四脚戦車を眼下にして歓喜の震えが全身に迸るのを悟る。あぁ、この為に私はここに立っているのだと。
元々はこのプログラムはミレニアムサイエンススクールの為に使う予定でした。ここは構造上、攻撃には弱い箇所がいくつもありますから。そこを突けばいくつも壊れてしまうでしょう。実行しなかったのは、私が退学してしまったから。そして実行してしまえば本当に壊れてしまうから。
SRTに転校後に度々廃墟にやってきていたのは、De:vision(兵器工場跡)に打ち捨てられたこの戦車群に命を吹き込み操る為。なんの偶然か、奇跡か、私に過去の未練を捨て去り、そして新天地へ進む決心をもたらした方に使えるのですからこれほど嬉しい事はありません。
片手に持つ端末からリオの声が聞こえてくる。
「あなたもまたミレニアムを愛していたと思っていたのだけど」
「確かに、私はミレニアムの脆弱性を危惧し、そしてそこの経路をその都度公開しておりました」
「シキ、あなたの手腕でミレニアムの技術は飛躍的に向上し、対策を目指して様々なものが作られた」
「あらあら、存じておりますよ、リオ。そしてこれは、ミレニアムがここまで成熟してようやく発動出来るプランでした」
「……やめる気は無いようね。今の状態で実験するのは危険と言っているのだけど」
クスリ、と笑みを浮かべる。今更何を言っているのだろう。私は三年前から何も変わってなど居ない。変化というのなら感情の矛先がミレニアムという大きなものから、ただ一人の愛しい存在に変わっただけだ。
「えぇ、だって、私の身は身体も尊厳も何もかも隊長に捧げると決めておりますから」
恍惚とした笑みを浮かべながらシキは言う。
「その代わり、全部知りたいのです。隊長の全て、全てを」
臆病でも困難に直面した時に発揮する勇敢さも、凛々しくも可愛いあのお顔も、ズタボロになりながらも手を伸ばそうとするその姿も、私よりも慎ましいその胸も、均整の取れた美しい肉体も、触られると思わず反応してしまう耳と尻尾も、その全てを知りたいのです。
ですから、アビドスで見せたお召し替えの再現性を確かめる為にこの状況を作り上げました。パワードスーツの信号を生かし、カンナ局長に休みの話をし、リオと組んで、とチェスを行うように一手一手詰めていった結果、あのときのように肉体的にもボロボロで、そして私に対して強い怒りを覚えている事でしょう。もしあの刺激的な姿になるとしたら条件は整ったはず。
「うふふ……アキ、隊長」
そっと壊さないように、けれど最大限の激しさをもって彼女の名前を呼ぶ。
知らぬ内面があるのなら皮を剥いで確かめましょう。恐ろしくも狂おしい隊長の全てを
化け物は人を愛すことは無い。人は化け物を愛すことはない。賢すぎる頭が感情に制動を掛けようとしているのを『壊して』私は進む。
──この恋が叶わないとは、理解しています。それでも私は彼女の為に尽くしたいのです。
だからこそボロボロになりながら、壊れそうになりながらも、真っ直ぐに見つめる瞳が壊れないように、ただただお傍で見つめたいのです。燃え滾るドロドロのマグマのような重い感情を秘めながら、そっと掛けた羽毛の様にあなたの御身を暖めてあげたいのです。
「ですから……見せてくださいね。隊長」
その可愛らしくも鋭い牙で、震えながらも振るわれる荒々しい爪で、どうか、私の幻想、私の悪戯を
私にとってあなたがそうである様に、どうか私を壊れるまで見てくださいね。隊長。