元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
他人の理解なんて、ただの分かったフリだ。
反応を見て経験を積んで、関係は良好にいくと決め付けて実行する。何処かに説明が書かれている訳ではない。正確な言葉などだれも掛けられない。そう自分自身でさえも。
自分自身すらも分からない、コントロール出来ないものを『心』と呼ぶのなら。誰かを理解しようとする過程はきっと目を閉じたまま外を歩くように大変なものだ。それは途方も無い努力でそれでも暗闇の中を歩く為に私達は声を掛け合っている。
そんな真っ暗闇の旅の果てに何が待っているのかなんて、誰も知らない。ただ面倒な重さだけが増えていく。中身が本当にあっているのかどうかも分からないままに私達は荷物を増やしていく。割れ物注意、天地無用、速達限定。そんな注意書きを必死に読み解いて、その荷物を渡しあう。
誰もその中身なんて分からない。取り扱い方があっているかも教えてくれない。それをきっと人々は『心』と言って、そしてお互いに大切にしあう事を『絆』と呼ぶのかもしれない。
お互いに大切にしたいと思いながら、探り合った荷物の重みだけが真っ暗な中で寄り添い合える確かな証になる。
そう願って、私達は互いに言葉を渡しあうのだろう。
◇◇◇◇◇◇
左腕を少し動かすと骨の内側からズキズキとはっきりとした痛みを訴えてくる。おそらく何処かヒビか折れているのだろう。動くたびに胸が軋む。頭が割れたみたいにガンガンと鳴っている。着ている服ももうボロボロで汗と血でドロドロ。今すぐにシャワーを浴びてベットに倒れ込んでしまいたい。
そんな状況を経て、ここ最近感じていなかった私の中の汚水。それが久々にせり上がってきている。けれど、そんな自分の事よりも大事な事が目の前で起きている。廃墟で戦闘した四脚戦車の群れがこちらに向かってきている。事情は聞かないとわからないけど、シキがこの光景を作り出してミレニアムを狙っているらしい。
「あぁ、もう!! シキったら!!!」
ズキズキと内側からバットで殴られているんじゃないかと思える左腕。それを落ちていたで棒をグルグルと巻いて固定する。これでまだ戦える。五体満足だ。まだ自分の力でどうにでもなる。
「ネルさん、アスナさん!! こいつらの装甲、並みの銃弾じゃ抜けない!! グレネード系ある?」
「んー? 何とかなるって!!」
「ねぇ! 気合いだ」
目の前に立つ二人は楽観的にそう答え、走りだしてしまった。C&Cのメンバーってひょっとして脳筋なのかも、と思いつつ頭を回す。あまりにも多勢に無勢だ。
私が囮になる? そういう戦術で対抗出来るものでもない。戦略レベルが必要なのは手に取る様に分かっていた。それでも諦める気はない。だから、ここに立っているのだ。
固定された銃の具合を確かめて、そして目の前の標的を見る。息を吸って、吐いて。先頭二人を追いかけるように戦場に飛び出した。
予想通りその戦場は過酷だった。私たちは身の丈の二倍ほどの高さから撃ちおろされる弾を避けながら先頭の車列達を必死に止める。機銃、ミサイルに火炎放射器。ありとあらゆる兵器がこちらに向かって飛んできては派手な爆発音を立てて耳が麻痺させる。
「だっー!!! 本当に弾くじゃねぇか!!!」
「だから言ったでしょっ!! うわぁ!!」
「リーダー、アッキー、あははっ、真っ黒こげ!!」
笑い事じゃねぇ! と怒号が飛び交いながらも、三人は装甲の薄い部分を狙って弾を叩き込む。時折それが貫通して煙を上げて倒れる個体もある。けれど圧倒的物量の前には雀の涙だった。
ついにはミレニアムの敷地に侵入した戦車が外壁などを攻撃し始める。それに気を取られて自身の注意が疎かになっていた事に気づいたのはネルさんの叫びを聞いてからだった。
「おいっ!! アキっ!!!」
「っ!?」
叫び声に意識を引き戻される。戦車主砲から放たれた120mm砲が目の前に迫っている光景だった。身体を捩りなんとか直撃を避けるも、砲弾に巻き込まれるように身体がキリモミ回転し跳ね飛ばされる。視界がミキサーにかけられた様にグチャグチャになりどちらが空か地面か分からなくなる。そして受け身を取る暇もなく顔面から地面に激しいキスをかまし、私は意識が飛んだ。
『隊長は……私を連れていってくれますか?』
『……シキは、私と一緒に来てくれるの?』
ヴァルキューレに転校すると決めた時のシキの顔は笑っていた。でも、彼女はいつも笑顔に色んな事を隠しているのだ。部隊に誘ったときも、大きな任務を達成した時も、そしてアビドスが終わった時にお見舞いに来た時も。
いつも笑顔で頼りになって優しくて、暖かい。それが私の中の彼女だった。でも、彼女から見て私はどうなのだろう。それを聞いた事……あったっけ?
自身の中の抑圧された感情が汚水となって喉元に迫っていた。自身の中にある衝動と激情。気が遠くなっていく中でシキの行動が思ったよりもショックだった事を自覚する。
けれど、元はと言えば私の責任だ。SRTを離れることになって、裏切り者としてヴァルキューレで謗られる事になって。それで異動が起きて、もう自分の中で全部がいっぱいいっぱいになって溺れていた。先生に助けてもらうまで周囲の事なんて考えずにただ一人で悲嘆に暮れていた。
「あぁ、バカだなぁ。私……」
本当に、私は救えない。何度、友人を無くせば気が済むのだろう。何度、同じことをやるつもりだったのか。ユキノも、セッちゃんも。私から離れていってしまったのに。まだ、目を逸らすつもりでいたのか。こんなにも大事だと思っていたのに、私はいつまで自分ばかりに構って放っておくつもりなのだろう。もう、散々傷ついた筈なのに。いつの間にか人の気持ちすら考えられない程に荷物を抱えすぎていて、ごく普通の大事な事を忘れていた。先生に相手に叫んで、みっともなく泣いたはずなのに、それでもまだ思い出せていなかった。
「話さなきゃ……シキと!!」
ふっ、と意識が舞い戻る。水の中から音を聞いたみたいにぼやけて聞こえてくる叫び声を遠くで聞きながら、目を開く。
「アッキー、ヤバいよっ!!」
「──避けろっ!! 死ぬぞっ!!」
目の前に映るのは、私を踏みつぶさんとしている四脚戦車の足。スパイクのようになっている凹凸で潰されたらキヴォトス人と言えど、ただでは済まないだろう。
「ぐぅぅぅっ!!!!!!」
歯が砕ける程にぐらい食いしばって、踏みつぶさんとしてきた足を両手で受け止めた。とんでもない重量が全身にのしかかって折れた腕から放たれるシグナルが脳をつんざいて焼き焦がす。骨は軋み、筋肉が悲鳴を上げ続ける。口をついて出そうになる悲鳴を噛み砕いて必死に飲み込んだ。
内面からせり上がってくる感情を必死で繋ぎ止める。激情に溺れそうで苦しくてたまらない。怒って全部終わりにしてしまいたい。私は弱い。いつだって諦めて折れてしまいたくなる。自分の正義なんてやめてしまえば楽になれる。自分が分からなくなるくらいに泣いて後悔をしたのだから、もう充分な筈だ。
ふっ、と力が抜けそうになる身体を、もう一度奮い立たせる。たとえ払いのけようと先生は手を伸ばし続けてくれた。私もそれを目指したい。
シキに嫌われているのは怖い。いつの間にそんな事になっていたかなんて『子供』な私は分からない。
──それでも、私は誰かに手を伸ばすことを決めたんだ。
だから、こんな所で負けていられない。まだ、私は宿題が残っている。その為には──目の前のコイツラを、倒す!!! 荒れ狂う激情にも失意にも構うことなく、目の前の敵に爪と牙を突き立てた!!
少しだけ腕が軽くなった気がする。ふと気が付くと折れた方の腕から痛みが無くなっていて、力が漲る。重量で地面が体ごとめり込んでいくのを感じながらも、身体が悲鳴をあげているのも構うことなく鉄塊を受け止め続けた。
ここで終わってはいられないのだから。
「私はっ、まだっ!! やらないといけない事がっ……あるっ!!!!」
『──認証、完了』
ふっ、と、突然、巨大な脚部から力が抜ける。まるで時間が止まったかのように私を潰そうとした戦車が動きを止めていた。私の神秘は乗らなければならなかった筈だ。触れずに機械に異常なんて起こせる訳もない。けれど、そんな事、今はどうだっていい!!! 手を振り上げて、その戦車に指示を下す。
「周りの戦車を……倒して!!!」
弾かれたように命令された四脚戦車は周りを食い荒らし始める。横から装甲を喰い破り、主砲を撃ち込んで沈黙させる。その様子を見て驚いたネルさんとアスナさんがこちらを見る。
「ごめん、今は説明が難しくて!! とりあえず、その戦車は味方だから!!」
その声に頷き返され、戦闘を続行する。命令された戦車が隊列に乱れを作り、その穴から三人が入り込み荒らす。ネルさんが戦車の上を飛び回り天板の上から薄い装甲を貫通させ破壊し、アスナさんが直感的な動きで正確に動く足元を崩す。私は撃ち漏らしを食い荒らしていった。ミレニアムの外縁に取りついていた戦車もこちらを脅威と見なしたのか優先して攻撃を仕掛けてくるようになった。機銃の雨、火炎の壁、主砲の轟きを切り抜けて三人は確実に敵戦力を潰していった。
しかし、それでも数的有利は覆しがたく、半分ぐらいを片付けたところで全員の息が上がり始める。私がコントロールを奪った戦車が火を噴き行動不能に陥った時、ソレはやってきた。
高速で接近してくる謎の生物。その生き物はバーニアスラスターを吹かし奇天烈な軌道を描きながら、戦車に肉薄し攻撃を加えている。よく見るとそれは……。
「……ペロロ様?」
「あ、アキさん!!! 大丈夫!!?」
振り返るとそこにはユズを始めとしたゲーム開発部の皆、そして先生が走ってこちらへ向かって来ていた。ユズちゃんの操るペロロ様に面食いつつも、皆が来てくれたことに安心する。
「わ、アキさんボロボロじゃん! 大丈夫!?」
「アキさん遅くなっちゃってごめんなさい! とりあえず私達に任せて!」
「はい、お待たせしました。勇者アリス、ここに参上です!」
「あ、アキさんを、こんな風にしたのはどれ? そこから倒すから」
皆が心配してくれつつも戦闘に加わってくれる。ここが危険とはいえ頼もしい。……ユズちゃんの目がなんか怖いけど。
先生が指揮をしつつも私達達に休暇をする時間を作ってくれた。わずかに出来た隙でリロードをしていると、ネルさんから声が掛かった。
「おい、アキ、行けよ」
「え……?」
「てめぇの部下が原因ってなら、その部下ぶん殴って止めるだけだろ?」
ずっと、お前気が逸れてんだ。邪魔だから気になってんなら行けよ。と彼女は言う。そんな会話をしていたら、横からひょこっとアリスちゃんが顔を出してきた。
「アキ! 暴力は駄目です『説得』コマンドをつかいましょう!」
「あぁ!? 殴った方が早いだろ!!」
「アキが言った事なのに!! このチビメイドさん、暴力的です!」
目の前でわちゃわちゃとしている光景を見つつも、私は頭を殴られた気分で居た。あぁ、そうだ。確かにアリスちゃんに言っていた。まずは話しあわなければならない。人には言っていたんだから実践しなきゃ。間違って人を傷つけたのなら、ちゃんとごめんなさいをしないと。
そう思っていると、先生が語りかけてくる。
──アキ、やりたいことは見つかった?
シキと話をしたいと伝えると、行っておいで、と先生は優しく笑う。でも、この状況をそのままにしていいのかと足踏みしてしまう。この休みの期間中、私は好き勝手してきた。いや、それ以前も私は私だけの事で手一杯だった。これ以上、私の勝手を貫いていいのかと迷って、彼に視線を向けた。
そんな私を先生は優しく笑う。
──生徒のやりたい事を応援するのが私だよ。
「……先生はどうして、こんなにも私に目を掛けてくれるんですか?」
それは、と、先生は笑って。アキが私にとって大事な人だからかな。と答えて、そして優しい目を向けてくれる。そんな言葉に不覚にも胸が高鳴った。『大人』なのに……。
そして先生は言葉を続けた。
──それに、アキの自分探しの手伝いをしただけだよ。
「……そっか、覚えていたんですね」
──だから、ここは私達に任せて。
あぁ、そうか、先生は覚えてたんだ。泣きじゃくりながらも答えた私のやりたい事をちゃんと見ててくれていた。
突然ゲームを作ろうと言ってきたり、セミナーの仕事を手伝い始めても何も言わなかったのは、私の視野を広げる為? そこまで考えてなくて、私を困らせたいだけだったかもしれないけど。相変わらず、何を考えているのか掴みづらい。
「本当にちっぽけな約束なのに……変な人」
くすり、と笑みが漏れていた。ズキズキと繰り返す痛みも不思議と収まっていて、今なら何でもできる気がする。そして気がつくと皆が視線や言葉で私の背中をおしてくれる。
「今回のボス戦はアキが鍵だと先生に聞きました!」
「アキさん行ってきなよ。ゲームとか一緒にやれば仲直り出来るって!」
「お姉ちゃん! そんな単純な人……まぁ、いるけど」
「わ、私達に任せて……! ここは、大丈夫……っ!」
いつの間にかゲーム開発部の皆にもエールを送られてちょっと気恥ずかしい。けれど、そんな皆に背中を押されるように駆け出していく。後はシキに会って話をするだけだ。
ただ、それには問題があった。シキの居場所を私はつかめていないのだ。けれど、この学園内にはいるはずと確信があった。彼女が何かをやらかすとき、だいたいは事件現場のすぐそばにいるのだ。そう信じて私は走る。この顛末を見渡せる場所。つまり高所に絞って探していく。
「シキ、どこに居るんだろう……」
トレーニングタワー、実験棟、それにモノレール駅。候補はいくらでもある。とりあえず、手近なところからと走りだそうとして、耳元に懐かしい声が響いた。
『バカ隊長、地点D-3……ミレニアムタワー屋上だ』
「え……!? セッちゃん……?」
不意に副隊長の声がして、同じ周波数に返事をするも応答は無い。聞き間違いかもしれない。けれど、それを信じてみたいと私は不思議と思っていた。その声に導かれるように、私はミレニアムの一番高い場所へと走っていく。
シキと話をするために。
自身の『正義』を果たすために。
◇◇◇◇◇◇◇
ミレニアムタワーの屋上。眼下の戦闘をシキは眺めていた。廃墟の技術で作られた四脚戦車の群れがミレニアムを押しつぶそうとしている。過去の遺産が私の過去を壊そうとしている。それが快楽となって背筋を駆け抜ける。それがどうしようもなく、気持ちよくて気持ち悪かった。風が吹いて前髪が揺れる。
『シキ、これは隊長に対する反逆か?』
『……どう思いますか? 副隊長』
その瞬間、私の頬を弾が掠めた。つぅ、と切れた頬から血を掬い取って舐めとると鉄の味がする。まだ私にも人の部分が残っているのだな。と笑いがこみ上げてきた。
『これで理解したか? DOGGY4』
『えぇ……DOGGY2、同じ様にきっと隊長もそうなさるのでしょうね』
指示なしでこれほどまで派手にやったのだ、少なくとも除隊は覚悟しないとならない。隊は既に無いのだから絶交だろうか。どちらにせよ、これで私の役割はお終いでしょう。その覚悟を決めてここに立っている。
セタ副隊長は押し黙った。そして短く言葉を放つ。
『てめぇがついて行くと決めた隊長は、その程度か?』
『……』
彼女の言葉が胸に突き刺さる。私は隊長に何をして欲しいのだろう、と胸中に問いかけてもすぐに答えが出なかった。