元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
「本当にっ! 申し訳ございませんでしたぁ!!」
私は地面に頭を擦りつけていた。SRT仕込みの最終手段──DOGEZAである。正座を丁寧に行い、申し訳ない事を頭で一杯にいつつ、地面に頭を同化させる。この間約一秒以内。SRTで下から数えた方が早い位置に居た時の常套手段である。
「なんて無駄に無駄がなくて綺麗な動きなの……!」
「アキ先輩の声色に嘘や誤魔化はなし。嘘の態度で無くて良かったですね、ユウカちゃん」
ドン引きするユウカさん、私には何も構わずに淡々と報告するノアさんの声が頭から降ってくる。そんな事を構わずに頭を下げ続けていると後ろからも声がする。
「あらあら隊長ったら」
「シキ!! 貴女も頭下げる役!!!」
はぁい、と言いながらニコニコとして同じ格好をする。真っ先にやっておいて何だけど、何故そんなに嬉しそうなのか分からないんだけど、真面目にやってくれないかなぁ!! と心で叫びつつ、セミナーの二人に視線をちらっと向けると「頭を下げた時間、57.4秒」とノアさんが呟いていたのが耳に入り背筋が凍った。
「あの……ノアさん……」
「はい、何でしょうアキ先輩。もう謝罪はお終いですか?」
ひぃ、と短い声が漏れ、もう一度頭を地面にこすり付けた。笑顔の彼女の後ろに阿修羅が見える。今後彼女を怒らせることはなるべく控えようと誓った。
そんな事をしつづけていたら、しびれを切らしたユウカさんが叫ぶ。
「も、もういいですから! とりあえず悪いのはアキ先輩だけではないので!」
「ユウカちゃんが言うなら矛を収めましょうか。それはそれとして反省してくださいね? アキ先輩?」
はい……、と短く答え、立ち上がって二人を見る。
「でも、緊急時に居てくれなかったのはちょっとショックでした……」
他校の人に頼り切りなのもおかしな話ですけど、とユウカさんが口を尖らせていた。胸が痛いし、耳が痛い。そしてノアさんが本当に怖い。私も顔を逸らしたい。
「ということで……可愛い可愛いユウカちゃんを悲しませた反省、ちゃんとしてくださいね?」
その迫力に耳と尻尾を項垂れさせて、はい、と答えるしかなかった。そもそもユウカさんを泣かせる気もあんまりないのだけど。うん、これ以上は流石にない。そんな事をしつつ責任を取る為に私は行動を始めることにした。
ちなみにノアさんは、「まぁ、顔をまだ見せない会長よりはマシですけどね。本当にどうしてくれましょうか」と呟いていた。リオ会長、南無。
DOGGY小隊は機能していないが、それはそれとして人様に迷惑を掛けたのだからシキには一週間はミレニアムにいて貰う事になった。マメちゃんも居たらしいが体調が優れないとのことで帰した。そして、もう一人は……と、繋がらなかった事を示す通話履歴を見て小さく息を吐いた。お礼くらいは言わせて欲しいなぁ。
そんな顛末があり、あれから三日三晩、寝食を限りなく削りながら外壁の補修、機械の撤去、瓦礫の除去を行い続けた。
エンジニア部から一度に百人は掬えてしまいそうなショベルカーを操りつつ、山の様に積み重なったスクラップ達を片付けていく。こういう時素直に陣地構築やらの土木系スキルを学んでおいてよかったな。と思いながらもミレニアム驚異の技術力を心ゆくまで堪能していた。
日が暮れた後は、シキをミレニアム内に闊歩させると何が起きるか分からない為、ミレニアムの外縁でテントを立てて二人で潜り込む。
携帯食料にランタン、そして寝袋と久しぶりに土と油の匂いにまみれながら野営をしていた。もちろん仮眠だけであり、その他の時間は壊れた壁の補修などに充てて昼夜問わずにせっせと働いた。
私としてはいつもの事ではあるのだけど、オペレーターのシキにとっては罰になると思い、キツイ仕事を振った筈なのだけど、何故か終始嬉しそうに重労働をしていた。なんでぇ……?
その間にも様々な人が顔を見せてくれた。ゲーム開発部のメンバー全員で(なんとユズちゃんも!)様子を見に来てくれたりとワイワイとした時間で小休止したり、ユズちゃんとシキが何か話していたりもした。その他にもエンジニア部が焼け焦げたり、アリスちゃんのレールガンの影響が少ない残骸を回収して合体ロボを作ると意気込んでいたり、ユウカさんとノアさんがこちらを心配しつつドーナツの差し入れを持って来てくれたりした為、テントにいた期間はちょっとなのに、随分とモノが増えてしまっていた。
シャワーと出来立てのご飯が恋しくもなってくる三日目の昼頃、ようやく突貫作業というなの後片付けデスマーチにも目途がついた為、熱々のシャワーを浴び、久しぶりに学食にありついた。
「流石にほぼ完徹での肉体労働は堪えますね……ふぁぁ」
SRTの想定訓練を思い出しますね。と、珍しくあくびをしながらシキはサラダを口に運ぶ。流石にほぼ休憩なしでの作業は堪えた様でうつらうつらとしている。
その姿を苦笑しながら、肉厚のパティにどっしりとしたチーズの両手に余るサイズのバーガーをどうやって齧ろうかとナイフとフォークを探していた。この身体になってから大きく口を開けて食べるスタイルに慣れていない為、食事の量とサイズだけはミレニアムに来てからもずっと戸惑っている。え、お口汚れちゃうよね? オフぐらいは丁寧に食べたい私は、飛び出るケチャップとの終わらない戦いを繰り広げていた。
そんな大きめのバーガーと格闘し終えて、午睡の悪魔が忍び寄ってきた頃に私は立ち上がった。
「じゃあお昼食べたら、次は謝罪行脚だね」
「……隊長? 仮眠とかなさいませんか?」
「シキ、これ実は懲罰なんだけど異論ある?」
「あらあら……強引な隊長も素敵ですねぇ。うふふ」
はぁい、と力なく返事をしシキはふらふらと立ち上がりながら、私についてきた。うんうん偉い偉い。
そんな事もあり私達は謝罪行脚を繰り返した。改めてセミナー、ヴェリタス、エンジニア部とシキをひっぱり回して様々なところを練り歩いた。セミナーではユウカさんに「もうこれ以上いいですから! 二人とも寝てください!!」と言われたり、ノアさんから直々にお許しを頂いたので胸をなで下ろしていた。ちなみに騒動の大元であるリオ会長はまだ戻っていないらしい。その事を聞いたらシキは頭を抑えため息を吐いていた「昔から変わりませんね……」と、愚痴っていた。色々とあるのだろう。
エンジニア部では対戦車戦のいいデータが取れたと笑顔で歓迎された。ぶんぶんと握手をされの裏でヒビキさんとシキがコソコソと話をしていた。
「どうしてシキ先輩はダメージファッションの注文ばかりしているの?」
「隊長の服がそうだったらいいなって思うんです」
「うん、先輩は服のセンスが素敵だね」
何を話しているのかは聞く気はないけれど、大抵こういう時のシキは笑顔が二割増しで輝いているので警戒が必要だ。と距離を取る。露出が多い服が苦手と言っても聞いてくれないので、いざとなったら逃げ回るしかない。ウタハさんはそんなシキの姿を見て、少し嬉しそうに機械弄りに戻っていった。
その次に辿り着いたのはヴェリタスの部室。ヒマリ部長は留守でチヒロさんが出迎えてくれた。「こっちも迷惑を掛けてるからね。そこまで気にすることもないんじゃないかな。シキ以外は」とそこそこ辛辣な態度を頂いただけど、シキはどこ吹く風で、相変わらずですね。と言うばかり。ただ険悪なだけという事も無くぽつりぽつりと話もしているし、当人たちにだけ通じるコミュニケーションなのだろうな。と思い、マキさんとハレさんとコタマさんがやるゲームを眺めていた。オンラインゲーム、というらしい。ハレさんに説明を聞きながらエナジードリンクあるよ、と勧めてくれたものを頂く。後で珈琲淹れて持って行ってあげようと心に決めた。
そして、そんなほんわかインドア部活を眺めている時間も終わりを告げ、次へととある一室にて私達は最強のメイドさん達に囲まれていた。四人のメイドさん達が私達二人を見て、目を合わせていた。
「あっ、ワンちゃんだ。やっほー!」
「おうアキ! また撃ち合いしようぜ。次はサシでな!!」
アスナさんから熱烈な抱擁を受け、それを引き剝がしていると、お次とばかりにネルさんからバシバシと肩を叩かれた。相変わらずパワフルで豪放な人だ。
しかし彼女は、そんな態度とは裏腹に、するすると手に持った箒を置いて自然な動きのままティーセットを用意し始めていた。装飾が数本の線のみのシンプルなポットに湯を淹れ、ティーポットカバーを掛ける。そのまま懐中時計を取り出して雑談に興じながらも目は離さない。驚く程、洗練された動作だった。無駄がない。
茶葉を蒸らし終え、静かに注がれる紅茶からは蘭のような花の香りが立ち上る。
「キームン……山海経の専門店、ですか?」
「へぇ、分かんのか。アカネのおすすめだよ」
アタシはわかんねーけどな。と、香り高い紅茶が静かな湖畔のようにな水面を保ちながら、静かに目の前に置かれた時は心底驚いた。もしかして私よりも家事スペック高いのでは? いや、でもヘビの美味しい食べ方とかはたぶん私が勝ってる。うん。それはそれとしてこんないい茶葉なのに角砂糖をダース単位で置かれたのにも思わず言葉を失った。勿体無い。ストレートこそ至高なのに……。そんな紅茶につられるように周りに居たメイドさん達も集まってきてお茶会が始まった。カリンさん、アカネさんとも自己紹介をされ、シキを紹介した。
「ふーん、リオのAMASの操縦権を奪ってからかってたって噂は本当か?」
「えぇ、本当ですよ。今はたぶん出来ませんね」
リオの恥ずかしい話でも聞かせてくれよ、と、せがむネルさんと、あらあらと言いながらも教えるシキを横目に熱い紅茶を傾けていた。隣でやっている大量のグラニュー糖と砂糖漬けのレモンでアイスティーを作っている皆さんの姿は私の目には入らない。いや、美味しいんだろうけども。紅茶はちょっとした縁でうるさいのだ。ただし任務に啜った泥水に比べれば何でも許せるので経験とは大事だね、と思う。
その後もカリンさんにベテランのスナイパーはいるのか、と聞かれたり、アスナさんから餌付けされたり、アカネさんにもマメちゃんが褒められた。強力なお掃除道具を頂いたとのこと。淑女然としているアカネさんなのに何故だかイヤな予感がする。後で何を渡したか聞かねばならなくなってしまった。
結局、小一時間程、羽を伸ばしてしまい慌ててお開きとなった。何だかんだと気が合う子達だったので、いつか何処かでまた会えると嬉しいな、と笑顔を浮かべる。でも、ネルさんとタイマンはしない。
◇◇◇◇◇◇
全ての予定を終え、精魂尽き果てたシキをズルズルと引きずってゲーム開発部へと向かう。三日徹夜で肉体労働
は流石に効いたみたいだけど容赦はしない。彼女の起こした事であるし自業自得だもの。一週間とはいかずとも彼女はミレニアムプライズの警備期間が終わるまで、セキュリティシステムの構築をして貰うと話がついている。
そんな事を思いながらも、先程シキが歩きながら寝ていたので抱えて部室棟付近を歩いていた。お姫様だっこというやつだ。ついでに冷えないようにジャケットを掛けておいた。肉付きの良さはいいのだけど、私と一緒で粗食気味のシキは軽かった。……SRTから転校して、トレーニングサボってたな? 筋肉つけよう。
「シキぃ、体力落ちたんじゃない? 私達とやってたときよりだいぶ徹夜適性無くなってるよ?」
「あらあら。そうですね。隊長と二人きりなのが久しぶりで、少しはしゃぎすぎてしまったせいかもしれませんね……隊長、そろそろ下ろして頂いても……私、恥ずかしくて……あっ」
「降りる? 別にいいけど、次の部室まで休んでてもいいよ?」
「ふふふ、このままだと私ダメになってしまいそうで……主に尊厳の部分で」
確かにお姫様抱っこはやりすぎだったかな。おんぶとかにしておけば良かったかも、と思いながらシキを下ろす。彼女は降りた後、ジャケットに肩を寄せて匂いを嗅いでいる。もしかして汗臭かったかな……。ちょっとショックだ。
そんな一幕がありながらも、何だか懐かしく感じてしまう部室の目の前に辿りついた。
「ただいまー!! ……うわっ」
ゲーム開発部の部室に帰ると、いつもの騒ぎ声や断末魔が聞こえてくるのだがその気配が一切ない。わたしの声に反応するように死んだような目でこちらを向いた。モモイちゃんもミドリちゃんも表情が死んでいて、その奥には一心不乱に何かを打ち込み続けるユズちゃんと、それを応援するアリスちゃんの姿があった。
明らかに空気が死んでいる。何があったのかと呆けるモモイちゃんの肩を揺すると、じわっと涙が滲み出てきた。
「アキさぁん……、もうダメかも……」
「え? なんで? 『G.Bible』は?」
涙目で語るモモイちゃんが私に抱き着いてきた。よく見るとクマが浮かんでいて相当無理したことが見て取れた。
しかし、ゲーム制作が難航しているのは寝耳に水だった。作戦目標であるアレに最高のゲームの作り方が載っていた筈だ。私は専門外だからよく分からないけど、それである程度の筋道は立っていると思っていた。
事情を聞きだすと『G.Bible』の最高のゲームの作り方は自分の中にある経験や、ゲームでの楽しさを元に自身の最高のゲームを作りましょうとの事だった。素晴らしい言葉なんだけど、正論でお腹は膨れないの典型……。
そんな言葉に一度はみんなが奮起したものの、締め切りという最終防衛ラインは引き上げられたままにミレニアムプライズの日程は進む。つまるところゲーム開発部は火の車であり、万策尽きたー! ということらしい。
「ちなみにユズちゃんは?」
「まだ頑張ってるけど。たぶん1週間だとまたバクだらけに……」
ソファーの上でひたすらに目を剥きながら、作業するユズちゃん。この部の部長がまだ頑張っている。現実的でなくとも、やると決めた人は見捨ててはおけないよね。しかも私はこの部活が大好きだ。動く理由なんていくらでもある。
一心不乱にパソコンと向き合う彼女を見て、そして決めた。まだこの作戦は死んでない。増援を投入して制圧すれば何とかなる。その筈だ。
「シキ!! ……手伝ってくれるよね?」
「……はぁい、私は隊長に首輪をつけられてますから、命令であれば、なんなりと」
「ありがと、シキ。やっぱり居てくれると嬉しいよ」
自然と笑顔が溢れる。やっぱり長年一緒にやった子といると調子も出てくる。シキは一瞬固まった後、はぁい。と嬉しそうに笑ってくれた。それはそれとしていきなり挙動不審にならないで欲しい。怖いので。
「モモイちゃん! ミドリちゃん! それにシキ!」
途方に暮れている二人と、呆けている一人に声を掛ける。まずは目の前の事からだ。大目標の前に小目標を打ち立てて作戦は進んでいく。現実もまた目の前の問題から一つ一つフラグを立てて動いていけば、この問題も何とかなる……はずだ。
つまり、まずは目下の問題。それを解決しなければならない。
「とりあえず……ベッド行こう?」
まずは頭を回すために少し寝ないと、私も流石に疲れたので仮眠を取りたい。
そんな言葉が聞こえたのか、集中しきっていた筈のユズちゃんがなぜか驚いていた。