元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
結局、全員で部室で眠る事になった。床と二つあるソファー組に分かれて、ひと時の休憩を挟む予定だったのだけど……。
一つのソファーはベットに変形する為、一番寝ないといけない才羽姉妹を配置した。そして、他は……と決める前に「こちらです、隊長」とシキが勝手に決めていた。しかし、すかさずユズちゃんも飛び込んでくる。そしてアリスちゃんも乱入してしまい大混乱へ、何処で眠るか戦争は終わりの無い交戦状態へと突入した。あの、そんな事をやっている場合じゃ……
結局位置が決まらずに話しあっているうちにモモイちゃんの「じゃあ、アキさんがソファーで寝ればいいじゃん」の鶴の一声により、私が余っていたソファーで寝る事に。いいのかなソファー貰っちゃって。何処でも寝れるから床でいいんだけど。でも流石に定員オーバーだし、床で寝たい人がそんなにいるなら譲るべきだよね。と、そそくさと移動すると、三人からの視線が刺さる。
「隊長、そういうところも危険を顧みずに素敵だと思います。ええ、本当に……うふふ」
「わ、私も、アキさんと一緒に、うぅ……」
「うわーん、アリスはアキと一緒に寝たかったです。アキが寝る姿は激レアなので!」
数分後、せ、狭い……と、思いつつも私は床の感触を感じていた。結局、ソファーは空席になり、モモイちゃん、ミドリちゃんは広々と眠る事が出来たとさ。私は腕に尻尾にとからめとられた状態で寝ることとなった。
アリスちゃん、尻尾はもっと優しく触って……!
◇◇◇◇◇◇
さて、そんな一幕もあった仮眠を終え、各々があくびやら、寝ぐせやらと格闘しながら小さなテーブルを囲み顔を突き合わせていた。私もまた変な風にクセがついた尻尾をひたすら梳かしていた。
「──ということで、役割の確認と各々の進行度を教えて欲しいな?」
買ってきた珈琲缶、ジュース、エナドリをそれぞれ口にしながら、各々が語りだす。
シナリオはモモイちゃん、イラスト部門はミドリちゃん、プログラミング部分はユズちゃん、そしてデバッカーがアリスちゃんという担当らしい。現状、シナリオは脳内にあるものの、それを打ち出すのが追いついていない。イラストはラフとイメージは出来たけど、背景含めてまだ手つかず。プログラミング部分に関しては基本設計は同じものを流用し、アルファ版の目途はついているらしい。そこからベータ版を経て完成に持って行くのでデバック次第とのこと。
「つまり……進行度的にだいぶやばいね!!」
「そ、そんなにはっきり言わなくても……!」
ミドリちゃんが露骨に落ち込むが、現状の確認は絶対だ。ここで妥協やら甘めに見積もると痛い目を見る。
現在地点の確認はどの作戦行動においても重要なこと。つまり出来ていないなら出来ていないと言い切った方がいい。その方が今どれくらい危険なのか、作戦の遂行は可能か、という現在の認識は大事だ。
皆が暗く沈む中で、一人が声を挙げた。
「それでもアリスは、諦めたくありません!」
アリスちゃんが私に詰め寄ってきて、ミドリちゃんの間に立ちふさがる。
「ここにいる毎日が楽しかったです。ユズが居て、モモイが居て、ミドリが居ました。皆と一緒にTSC2(テイルズ・サガ・クロニクル2)を作り上げて、またこれからもゲームをしていきたいです」
「そうだねアリスちゃん。私もそう思うよ」
「アキ……どうにかならないのですか?」
すがりつくように私を見る彼女。泣きそうになりながらも、必死に自分の居場所を守ろうとしている彼女に、少しだけ誰かを思い出した。今は連絡が取れない、大切な親友でライバルだった子。
アリスちゃんの頭を撫でる。
──うん、その為に私はここにいるんだよ。
そう、アリスちゃんに告げて、みんなを見る。
「大丈夫、私とそして皆で何とかなるよ」
状況を整理しよう。このままでは時間の制約上かなり厳しい。だからこそ外部の力を借りなければならないのだけど、外部の力を入れすぎてもそれはゲーム開発部の力としては見られない。つまり、提出する作品に関しては彼女達の力で作り上げなければ意味がないのだ。だからこそ、彼女達の力を十全に発揮できる環境づくりと、それをバックアップを行える人員の確保が急務になる。
その中でシキに動いて貰うのはプログラミング部分であるのだけど、作業自体は問題ないとシキが言っていた。隊長の頼みであれば普通の作業もこなしましょう、との事。
問題は何故かユズちゃんとシキはバチバチやっているというか、反りがあまり合わない気配がある。隊を率いていた経験上、競争心が作用する事自体は良くも悪くもあるんだけど……悪い方向にいかないかが心配だ。
そうして私を挟んでチラチラとシキに視線を向けるユズちゃんと、意図的に笑顔を浮かべているシキに問いかける。
「ユズちゃんのバックアップにシキを回そうと思うんだけどどうかな?」
「えぇ!?、私は……一人でも。知らない人ですし。アキさん怪我させたの、この人、なんですよね……?」
「はぁい、隊長。私はどこの馬の骨でも隊長のご命令なら」
わぁ、バチバチしてるぅ。ユズちゃんの優しさと、シキの信頼が骨身に染みてヒリヒリしてきそうだ。
どっちもこっちを案じてくれるのは嬉しいんだけど、私なんかよりゲームの進行度を気にして欲しいな。と思いつつ、シキを小突いた。
「シキはやらかしたのは事実なんだから煽らない!!」
そしてユズちゃんに近づいて膝を折る。彼女の赤らんだ顔が目に入ってきた。
意思決定はあくまで向こうにあるのは分かっている。それでも彼女にはもっと人と出会って、人と話して欲しい、というのは勝手なエゴだろうか。悪意に潰された彼女が特別心配なのはやっぱり同じ境遇を味わったからなのだろう。
「ユズちゃん、確かにこの赤い髪のたれ目で問題児なお姉さんは、頭が痛くなるところも沢山あるんだけど、悪い人じゃなくてね」
「ち、近い……! あ、ひゃい……」
「色々と勝手な子ではあるんだけど、腕は確かなの……! 製作期間中だけでも使ってやってくれないかな?」
ユズちゃんなら、きっと出来ると思う、と両手を取る。彼女の暖かい手に思いを乗せるようにぎゅっと握った。私を信じてみて、と瞳を見据える。
一歩だけ、半歩だけでも自分の意志で踏み出してみて欲しい。それだけで世界は大きく変わるのだから。
「知らない人が怖いのも、喋るのがイヤなのも分かる。私もそうだったから」
「あ、あの……アキさん」
「少しだけ、私と一緒に頑張ってみない?」
「は、はい……!! 私、が、頑張りますっ……!!」
突如として立ち上がってパソコンに向かうユズちゃん。どうやら無事に説得は出来たみたいだ。すぐさまシキに視線を向けると、いつの間にか他の皆と話していた。
「あれさ、アキさんはいつもそうなの?」
「最近は鳴りを潜めていたみたいですけど、隊長は悩んだり困っている人をそのままにしておけないので。それにアレはアレで潜入にも……うふふ」
「いいなぁ、私も先生に同じ事……」
「アリス知ってます! ルートに入ったって奴ですね!!」
何をこそこそと話してるのかは分からないけど、くれぐれも迷惑を掛けないようにシキに言い含めて送り出す。
二人が話し込むのを見て一息ついた。なんとかこれでプログラミング関係は大丈夫だろう。チラチラとこっちを見ているのが気になるけど。
そんな事を考えていると、腕にモモイちゃんがぶら下がる。「私も甘やかしてよー」と、愛嬌たっぷりの視線を向けてきた。その可愛さに思わずくらっと来てしまう。しかも、モモイちゃんだけではなく、ミドリちゃんもアリスちゃんもやってきては腕と尻尾を握られる。だからアリスちゃん、尻尾はだめぇ……。
「わ、私達も……」
「はい、アリスも一言欲しいです!」
尻尾を追いかけるアリスちゃんをあしらいつつ、腕にしがみつく二人を離して、優しく順番に撫でていく。
「〆切がいきなり切り詰められても理不尽に耐えて頑張ったね。めげないなんて凄い!!」
もう少しだから、一緒にがんばろ? と、三人を見る。
私の言葉が何処まで彼女達に影響があるかはわからない。けれど、頑張りを見てくれるのは誰だって嬉しい筈だ。諦めたくなっても投げ出さずに、こちらに頼ってくれたのだから先輩として頼れる姿を見せなきゃ。
三人の表情が明るくなり、えいえいおーと手を挙げて完成を誓った。うんうん、皆可愛いなぁ。一年生達はこういう姿が癒しだよね。とニコニコしつつ、モモイちゃんの持つゲーム機をさっ、と取り上げた。
さて、ここからはお仕事の時間だね。
「でも、それはそれとして。モモイちゃん。遊ぶ時間は制限するね。モモイちゃんは気が散るタイプだから」
「……あれ? アキさん?」
きょとんとした顔を浮かべ、首を傾げるモモイちゃんを作業用パソコンに座らせる。スナック菓子とお手拭きも完備だ。彼女は集中し始めれば凄いのだけど、サボる理由があるとおそらくそっちに流れるタイプだと思う。
つまり、そこを私がコントロールすればシナリオに関してもある程度は進むはずだ。休みの期間遊んできたから分かる。この子、ちゃんとやれば出来る子。
そして、ミドリちゃんに向き直ると彼女は警戒したように一歩下がる。
「ミドリちゃんは、終わったら今度先生に遊びに連れてってもらうように連絡入れておくね?」
「え? ほんとに……やった。頑張ります!」
ミドリちゃんが小さくガッツポーズを決めて、ペンタブを持ち直す。
この子は逆に自分の世界を持っている子なので、目的と作業の理由付けを行い、作業の向かう先に目標を立ててあげればきっとモチベーションも上がる筈だ。それにミドリちゃんは明らかに先生を意識している言動が多い。こういう可愛い恋は応援したいのが先輩心というものだ。それはそれとしてセクハラされないか心配だけど。
そういう訳で、先生に「ミドリちゃんとデートするように」とメッセージを送っておく。これくらいはきっとやってくれる筈だ。というかやってもらわないと怒る。
この前の尻尾を握ったの、まだ許してませんからね。あと、犬耳を触りたいってキヴォトス基準だとセクハラだと思います!
メッセージを送り終えて、アリスちゃんを見る。
「アリスはまだ仕事がないから、ちょっと私についてきて欲しいんだよね」
「はい!! 冒険の旅ですね!!」
アリスちゃんはまだ役割がないので、私と一緒に手伝ってくれる人員を探す。この子の愛嬌の良さは既にセミナーの手伝いをしている頃から噂になっていた。実際、素直だし人を惹きつける要素があると思う。
出来ればα版が上がる前にデバック要因を二、三人増やしておきたいのだ。ミレニアムプライズに関わりなくそして可能であれば、ゲーム開発部と関わりがある人。そんな人材を求め、ミレニアム中を歩き回った。
「よぅ、アキ、遊びにきたぞ。あとそこのチビ助もだ。あと、ロボット使いもいるか?」
「あっ!! 怪獣みたいなちびメイド先輩!!」
「んだとぉ……? 誰がチビだ!!」
さっそく見つけたぁ!! と部室前にやってきたネルさんの手を取った。条件だけ、本当に条件だけ見ればベストマッチと言っていいくらいに合致していた人だった。優秀かつ、荒事専門はミレニアムプライズには関係がない。そして、その気になれば家事をこなす丁寧さもある。まさに待ち人来るといった感じだった。
その事情を話すと「いいぜ、今は暇だしな」と乗ってくれた。対してアリスちゃんはあんぐりと口を開けている。
ただ、とネルさんは言葉を続ける。
「そこのチビ助。アタシと勝負だ。それを呑んでくれんなら手伝ってやる」
「こんなヤバい人を誘うなんて、アキが最初故障したのかと思いましたが……つまりイベント戦闘ですね!! アリス、こういう仲間が増えるイベント大好きです!」
何故か知らないけどアリスちゃんをロックオンするネルさん。代わりに私がやると申し出ても気分じゃねぇ、と突っ撥ねられてしまった。ただ、人材獲得のチャンスをみすみす逃すわけにもいかないと悩んでいると、アリスちゃんが『光の剣』を取り出している。
そして止める間もなく戦闘が始まってしまった。終始ネルさんが押しっぱなしの展開ではあったけれど、アリスちゃんも持ち前の怪力とレールガンの威力でイーブンに持ち込もうと奮闘した。
結局、激しい撃ち合いの末、建物の床が耐えきれずに壊れてしまい引き分けとなった。建物の修繕費おおよそ1000万程度……ユウカさん……本当にごめん。
「なるほどな……やるじゃねぇかチビ助」
「いたたた、本当に怪獣でした……でもこれで!」
「まぁ、知りたい事は分かった。いいぜ、何すりゃいいんだ?」
「あ、まだ出番はありません! チビ怪獣メイド先輩は遊んでてください」
なんなんだよ!! と叫ぶネルさん。何はともかくアリスちゃんのおかげで仲間が一人増えた。仲間にした後に少し背筋が震えたけど、きっと大丈夫だろう。たぶん……。
その後も声を掛け続けて、戦闘の報告がてらセミナーの執務室へ。本命はこちらなのだけど、後処理等で忙しそうに電話を掛けている彼女がいた。
それを見て引き下がろうとした私を尻目に、アリスちゃんが声をあげた。
「ユウカ、助けてください!」
「突然、何!?」
困惑したユウカさんに事情を説明すると、ため息を吐いて書類と私の顔を交互に見る。
「私も忙しいんですよ。アリスちゃんとアキ先輩のお願いでもなければ断ってます。……ですから!! 本当に暇なときだけですからね!!」
そう言って、隙間時間に付き合ってもらう事を約束した。本当に優しい冷酷な算術使いさんだ。
そんなヘッドハンティングも終え、部室に戻り、皆に成果を話す。ネルさんにユウカさんと優秀さにおいては右に出るものがいない人たちを協力者に出来た事は戦力的に大きい。大漁だった。
「び、敏腕プロデューサーだ……!」
「そんな大層なものじゃないよ」
モモイちゃんがびっくりしたように目を見開く。実際私がしたのはただお願いしただけだ。周りがただ優しい、それだけの事で他の人が動いてもきっと同じことが起きたはずだ。
ただ、それだけの事。それなのに少し前まで関わりすら無かった自分を頼って貰えて、そして私の声に快く応えてくれる人達が新しく出来た事。
失敗と後悔にまみれていた私をミレニアムという場所で、ただの一個人と見てくれた事。
それが花のつぼみが膨らむような季節の変わり目を見つけたみたいで、胸を掻き毟りたくなる程に嬉しかった。
その後はひたすらに各作業の進捗を確認しながら、個々にケアを行っていく。ゴミをまとめたり、掃除したり、気が散ったモモイちゃんとゲームしたり、ミドリちゃんのお話相手になったり、ユズちゃんとシキが両隣で作業したり、アリスちゃんとデバックのやり方をまとめたりした。
協力者が来てからは更に忙しさが増す。飲み物の確保、暴れ出すネルさんのストレス発散。セミナーのお手伝いをしてユウカさんの時間を捻出する。いつの間にかアリスちゃんとネルさんがゲームするような仲になっていて、ネルさんがユズちゃんの動かすペロロ様に感動したり、手伝いに来てくれたノアさんとシキが妖しくこっちを見ながら悪だくみしていたり、騒ぐモモイちゃんとミドリちゃんがユウカさんにシバかれていたり、見に来た先生に尻尾を踏まれたので今度高いケーキを奢って貰う約束したり、と日々が嬉しくて、眩しすぎて目を瞑ってしまいたくなる。
目が回るような忙しさと、寝る間も惜しいくらいに楽しい毎日だった。
日々雑用をこなし、皆が上手く動けるように話して、良く見て状況を確認する。もし進捗が想定より遅れていたら心を鬼にして、あらゆる手段を投じる。SRT学園に忘れてきた隊長業務を思い出すような事を走る様に行っていく毎日。
それが慌ただしくも楽しくて、終わって欲しくないなぁ。と思いながらも、お祭りのような日々は進む。
ミレニアムプライズが終われば、この騒がしい日々も、楽しい部活体験も終わり、私は元居た日常に戻っていく。アビドスの日々がイヤだったわけではない。ただ、この日々が濃密過ぎて、少し寂しいだけだ。
そんな心情などお構いなしに、そして押しているスケジュールも関係なく、カレンダーは予定日へと向かっていく。最終的にゲーム開発部と私、シキは部室に缶詰めになり、マスターアップを迎える事になった。
「こ、これで確認完了。だね……あとは投稿するだけ」
「あ、危なかった……本当に一昨日、ユウカさんが日程の確認してなかったら……アウトだったよね」
「はい、ちびメイド先輩も壁にぶつかる作業を頑張ってたと思います。アリスよりもゲームは弱かったですけど!」
「み、皆、大丈夫……?」
屍累々といった体で皆が眠気を耐えながら、まぶたをどうにか持ち上げていた。あくびやらが聞こえる中で期限ギリギリの体でミレニアムプライズの提出日にゲームが完成した。その際に色々と犠牲になったものは胸の内にしまっておこう……。主に乙女の事情的な意味で。
あとはミレニアムプライズへとアップするだけ、とドタバタしていると、ユズちゃんがアップデートのアイコンを前に少し固まっていた。そんな姿を見てモモイちゃんが叫ぶ。
「ユズ、そろそろ時間やばいよ!!」
「え、うそ!? ほ、ほんとだ……!!」
慌ててユズちゃんはカーソルを動かして、アップデートの画面へと移行する。完了までのバーが画面にポップし、私達を焦らす。提出期限まであと、1分、50秒、40秒、30秒。
──ミレニアムプライズへの参加受付が完了しました。
「ぎ、ギリギリ、セーフ!!!」
思わず声が出た。ミレニアムプライズへの提出を終えて、全員が一息吐く。
立て続けの作業の日々の蓄積された疲労と、一仕事終えた万能感が脳を満たして全身が弛緩する。全てが終わったことに徹夜の頭と体が気づいたみたいで、眠気がどっと押し寄せた。周りも同じ様でそれぞれが体を伸ばしたり、タブレットを意味も無くスクロールしていた。
そんな緩んだ時間がゆっくりと流れる中で、モモイちゃんがポツリと呟いた。
「まだ選考までに数日あるし、ネットにもアップしちゃう?」
「え、えぇ……!? ま、待って!!」
その言葉にユズちゃんが反応する。先程は勢いで投稿できたけれど、初代が手酷くこき下ろされた経験はそう簡単に克服は出来ない。画面を前にして固まっていたのもトラウマに寄るところが大きいのだろう。それを私もゲーム開発部の皆も分かっている筈だ。
だからこそ私が声を掛けようとしたら、アリスちゃんが先に口を開いていた。
「アリスはTSCを通じて冒険を知りました。そして、このゲームがあったからこそアキにも、そして他の人にも会えました。アリスにとって、TSCはいっぱいの大切が詰まっている宝物です」
そして、とアリスちゃんは言う。このゲームを作ると言った時、私は嬉しかったです。もう一度、宝物に会えるんだってワクワクしました。そして……その予感は当たりました。と彼女は笑う。
「だって毎日は大変でしたけど。すごくアリスは楽しかったです!」
アキは意外にも厳しかったです。でも、尻尾がふわふわしてて触ってて気持ちよかったです。逆にユウカは優しかったです。厳しいだけだと思ってました。ちびメイド先輩は戦闘は強くてもゲームは雑魚でした。とアリスちゃんは言う。
「TSC2を作った毎日は、知らないものがドンドンとアリスの中に蓄積されて行ってレベルアップを繰り返すような楽しさでした。皆から貰えた経験値、その全てがキラキラと光ってます」
そして、アリスちゃんは私がやっていたみたいに、ユズちゃんの手を取る。
「ですから、大丈夫です。ユズ。そんなキラキラとした日々を注ぎ込んだゲームはきっと楽しい筈です」
そうですよね、とアリスちゃんは私達に目を配る。
いい方向にそして人に寄り添えるように。アリスちゃんは初めて会った時とはまるで別人のように成長した事に気づく。人と人を繋いで新しいものに変化させていく。そんな彼女を見て眩しくて思わず目を伏せた。在りし日のユキノのような真っ直ぐさを彷彿させるからだ。
終わってしまう日々を思いながら、そんな勇者の姿を見て、もうきっとここは大丈夫。と、頷いた。
私もまたここに来て変わっていったのだと思う。ずっと苛まれていたSRT学園への後悔と、転生前の過去の映像。それがここにいる間それを忘れていた。毎日が新しくて、日々成長していく学園で一歩ずつ踏み出していった。
そ、そうだよね。とユズちゃんも同意するように、頷いた。
「始めにモモイちゃんとミドリちゃんが来て、次にアリスちゃんが、そしてアキさんが来た」
それにシキさんも来て、沢山の人がこの部室に来てくれた。と、丁寧に来てくれた人を彼女は数えていく。
「わ、私が迷っちゃったのは、怖かったのもあるんだけど、そ、それよりも終わるのが寂しいなぁって思ってしまったの」
毎日がね、とっても楽しくて。いつの間にか怖いよりも、楽しいが勝ってた。と、彼女は花が咲いたように笑った。
「だから私もね、……少しだけ変われたんだって思うんだ」
そして、皆が見ている前で彼女はネットに『テイルズ・サガ・クロニクル2』の名のついた新作。彼女の全ての冒険の始まりであった伝説、その『続き』をまた踏み出そうとしている。
けれど、その指がピタリと、止まって私を見た。その目は踏み出す勇気を欲していた。
「あ、アキさん、て、手を……握って欲しいです」
「……もちろん!」
『困っている人に手を伸ばす』それが私の冒険の始まりだったな。と思いつつ、彼女に手を差し出す。
気が付けばモモイちゃんも、ミドリちゃんも、アリスちゃんも手を重ねていて、そして壁の花に徹していた彼女の方に振り向く。
「し、シキさんも!」
「あらあら、いいんですか? 私がその輪に入って」
「シキさんも……一緒に作った仲間ですから……っ!」
「……うふふ、ありがとうございます」
みんなで歩いた冒険。その思い出と楽しさが詰まった物語が広まっていく。
──そのスタートをメンバー全員で踏み出した。
アロプラの補講授業:山南シキ。コールサイン DOGGY4。
DOGGY小隊の参謀、オペレーター担当であり小隊の頭脳。使用武器はHGであり、『SIG SAUER P220』をカスタムしたもののようです。隊長とおそろいの肉球ストラップと、一部爪痕のような加工をつけてます射撃の腕はそこそこだそうです!
赤くウェーブしたロングヘアと、優しそうなタレ目が特徴のお姉さんですよ! 気分によって眼鏡を掛けたり掛けなかったりするそうです。
好きなものはコンクリートに出来た裂け目、あと隊長と隊長の好きなものだそうです!