元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
陽だまりのような暖かい日常と、心のままに遊び続ける日々。それが久しぶりに楽しくて時間を忘れて楽しんでしまっていた。『裏切り者』と呼ばれた日は遠のいて、かつてしのぎを削り合った友達と殺しあった傷も薄れていった。
少しずつ自分を取り戻していく感覚があった。氷のように冷たくなっていた心が元に戻っていって、いつの間にか自然と笑っていた。
けれど、そんな日常は長く続かない。
いつか無くなると分かっていた。いつまでも同じ様に続けられるわけではないのも知っていた。
それでも、そんな日はまだ先だと思っていた。
けれど嵐は唐突に無感情にやって来て、安らかな揺りかごを壊す。暖かい場所に留まることを許さない。
そしてまた知らない場所に放り出されて、たった独りで歩き出す事を強制するのだ。
◇◇◇◇◇
激しい威力の光線が機材を発火させ、爆発に変わる。部室の一部が熱風によって吹き飛ばされ、壁が激しく剥がれた。粉塵が火の粉を纏って舞い上がり、何かが焦げる臭気と衝撃が駆け抜けた。
元々部室だった一部が崩壊し、灰色の空が覗く。その下には瓦礫の上に人形のように佇む少女がただ無感情に周囲を眺めていた。そこから然程離れていない場所が動く。
「げっほげっほ、な、何?」
「びっくりしたぁ……」
「み、耳が……」
ハレが目を白黒させて、それに続くようにマキ、コタマがよろよろと瓦礫から這い出てくる。
突如として起きた異常事態に全員が目を白黒とさせていた。続けて男の声が響く。
──みんな、大丈夫!?
「は、はい……! 大丈夫です」
「こっちもなんとか……」
先生、そして倒れてきた棚をどかしながら、ミドリ、ユズが現れた。そしてすぐにミドリが「お姉ちゃんとアキさんはっ……!?」と、爆発の瞬間にその中心地に居た二人を探し視線が彷徨う。
そしてすぐにそれは見つかった。しかし、眼前の光景に彼女は口を覆う事になる。そこには爆発の余波であちらこちらから血を流すモモイ、そして彼女に揺すられながらもよろよろと立ち上がろうとするアキの姿があった。
「アキさん……!! ねぇ!! アキさんっ!!!」
「……大丈夫、大丈夫だよ。ちょっと……火傷してるだけ。モモイちゃんこそ怪我、ない?」
「い、今は自分の心配しなよっ!! 大ケガじゃん!!」
庇われたであろうモモイですら無傷ではない。その事を意味するのは庇った側の被害はそれ以上だという事。直前まで着ていたジャケットには大穴が空き、ヴァルキューレの制服が焼け焦げている。そこから覗く背中が赤く染まっていた。爆発の余波で髪も乱れ、赤い液体が綺麗な茶髪を汚しており、丸まった尻尾の先は黒く焦げている。ボロボロの彼女が立てずにうずくまっていた。
心配して駆け寄ろうとする全員を制止するように、冷たい声と視線がアリスの姿をした誰かから発される。
『……有機生命体の生存反応を確認。失敗を確認しました』
動けないでいるアキ達に銃口が向けられ、無機質な機械音と共にレールガンに光が収束する。
「お姉ちゃん、アキさん逃げてっ!!」
「待って、アリスちゃん!!」
──早く止めないと!
『妨害要素を排除します』
「もらったぁっ!! ──ぐえっ!!」
こっそりと近寄っていたマキが光るレールガンに飛びつき、チャージされていたエネルギーが霧散する。しかし、すぐさまその長物はマキの小さい体ごと振り回されて、壁に叩きつけられた。
「……妨害多数。プラン変更」
その言葉を発したと同時に、周囲に転がっていたガラクタ達が再び動き出す。奇妙な操り人形のように根源的恐怖を持ってしまう人外の動きをした物体が先生たちを見据え、そして放たれた矢のように襲い掛かってきた。
◇◇◇◇◇◇
背中が熱い。せっかく最後の日だからって整えた髪もぐしゃぐしゃだし、アリスちゃんに漉いてもらった尻尾の毛並みは滅茶苦茶だろう。焦げてるのがチラっと視界の端に映って泣きたくなった。しかも飛んできた瓦礫に跳ね飛ばされた頭が、半分割れたんじゃないかってぐらいズキンズキンと痛む。泣きわめけるなら泣いて布団の中に籠もっていたい。そんな最悪な気分だ。
「アキさん……? 一旦先生に診てもらおうよ? ね?」
「ごめんね、モモイちゃん。アリスちゃんが心配なんだ」
「そんな怪我で無理だよぉ……私のせいなのにっ!」
騒ぐモモイちゃんを宥めながらも顔を上げる。大ケガがなさそうで良かった。これだけ騒げるなら大丈夫だろう。出来れば傷なんてつけさせたくなかったけど……やっぱりまだまだだなぁ、私。と、チカチカと明滅して視界に飛び散る星と揺れる視界に耐えながら相手を見据える。
視界に入るのは朝まで一緒にゲームをやって、同じストレッチをして、ドライヤーで髪を整えていたアリスちゃんの姿。彼女の足元には焼け焦げて原型すら怪しい『贈り物だったもの』が目に入ってしまって、銃を掴む手が緩む。
「アリスちゃん……何で」
『妨害要素を排除します』
そんな事をお構いなしに彼女は銃口をを私に向けた。その姿がアビドスで敵対しあった『彼女』のように見えてしまって、凍ってしまったかのように心の熱が引いていく。せっかく出来始めた心のかさぶたが目の前の現実に乱暴に剝がされていく。
視界が真っ暗になる。身体全体が冷たくなって、息が荒くて苦しい。視野が急激に狭まって、目の前で起きていることが把握出来なくなっている。脳は正確に動けと言っているのに、身体はバラバラにしか動かなくて立ち止まってしまう。
目を開いているのに誰かがアリスちゃんに飛びついて跳ね飛ばされているのを、私はただ黙って見ていた。聴覚も遠い。誰かが私の名前を呼んでいる。分かっているのに動けない。ついに目の前で何かが動き始めて、私達を狙ってる。それなのに私はただ立ち尽くすだけだった。
絶望の最中、心象風景はただ水の中へと落ちていく。溺れるような感覚が体全体を包んで、いつの間にか目の前には古びた扉が目の前にあった。それに触れる様に手を伸ばそうとした。
──キ……アキっ!!
誰かの声が聞こえる。……『大人』の声だ。いつか私を呼び戻してくれた声。
『先生』の声が次第に大きくなって、私は現実へと浮上する。
「……先生?」
振り向くと、そこには泣きそうな顔を浮かべたミドリちゃんとユズちゃん、そして、心配そうに私を覗き込む先生の姿があった。「よかった」と先生が安心したように笑い、それに続いて皆が私の身を案じてくれる。
「ミドリ、ユズ! 私を庇ってアキさんがっ!!」
「頭から血が……それに背中もっ」
「あ、アキさん! 医務室にっ!!」
実際、背中は火がついたみたいに痛いし、頭からは絶えず生温い感覚がある。 でも、それは目の前の仕事が終わってからだ。目の前には様子がおかしくなったアリスちゃんがいて、そしてそれを取り囲むようにしてロボットが複数が家来のように取り囲んでいる。
心は痛むけど、それらの問題をクリアしてアリスちゃんを無力化しなければならない。その為にも心の悲鳴を押し殺して立ち上がる。皆だって辛いし痛い。私だけが立ち止る訳にもいかない。
「先生、皆を避難させてください。ここは危険です」
──アキっ!! 待って!! そんな状態で行かせられない。
正直、自身の状態を鑑みても勝算は薄い。だとしたら出来る事は非戦闘員な皆を非難する時間を稼いで、異変を察知したミレニアムの戦闘部隊に引き継ぐことだ。
ユズちゃんも、ミドリちゃんも無事だ。一緒に居たヴェリタスの皆も、マキさんが痛い、と喚いているのを介抱しているから元気だろう。なら、動ける内に全員避難して貰うのが最善だ。
「先生、お願いしますっ!」
皆のの返事を聞く前に私は注目を引くように飛び出した。数人が私の名前を呼ぶがそれを無視して敵に集中する。視界に入るのは新たに立ち上がってきたのを含めて10体以上。任務達成にはこれらを迎撃して、目標を無力化をしなければならない。
手の延長のように馴染んだサブマシンガンを両手に構え、瓦礫に足を掛けて3メートル程跳躍する。手前にいる自律機動兵器に弾丸を叩き込み、触手のような腕を消し飛ばした。攻撃は通る。後は私がどのくらい持ち堪えられるかどうか。
着地の衝撃と同時に吐き気が胃を通してこみあげる。身体の脱力感もあいまって限界は近い。そんな体の内外から上がる悲鳴を嚙み殺しながら、大立ち回りを演じる。──予定だった。
「……邪魔だ、寝てろ!!」
横っ腹に蹴りが飛んできてあっけなく私はすっ飛ばされる。二、三回転ゴロゴロと転がって、すかさず蹴りを加えたメイド服のチビ犯人に大声を張り上げた。
「いったぁ!! 見て分かりませんか!? 怪我してるんですけど!?」
「うるせえなぁ……。今忙しいから後にしろよ」
「私だって今からアリスちゃんを!!」
「だぁから!! アタシ達に任せておけって事だよ!!」
その怪我、本当は動けないぐらい酷いだろ? と、ネルさんが私を見下ろす。気が付くと他にもC&Cのメンバーが駆けつけて来ていて、周辺の掃討が始まっていた。
「あれ……? いつの間に?」
「根性で動き過ぎだバカ!!」
キライじゃねぇけどな。と、ネルさんはカラカラと笑いながら顔を前に向ける。そして、アリスちゃんの方を見て顔をしかめ、唇をキュッと結んだ。
「……まぁ、アタシに任せておきな」
こちらに向けてニコっと笑って、彼女は駆け出していってしまった。そんな彼女を追おうとして頭から流れた血が手の甲に落ちてくるのが目に入る。緊張の糸が切れてしまったみたいで、ふっ、と意識が遠くなる。
ネルさんの小さくて大きい背中に手を伸ばして、かすれかすれの声をどうにか絞り出す。
「待って……これからアリスちゃ……んを、どうする、の」
その言葉を最後に私の意識は自身の意思などお構いなしに奈落へと落ちていく。
誰かの悲鳴と、泣き声が遠くに聞こえてくる。その中にアリスちゃんはいないのに何故か泣き声が聞こえてきた気がした。
◇◇◇◇◇◇
車窓からは夜の空が流れていく。いくつかの光が線になって消えていって、ついに見えなくなる。窓の外には数多の星辰を散りばめた満天の星空が浮かんでいた。まるで銀河の中を走るように、その終電は進んで行く。
懐かしいような悲しいようなそんな光景に目を奪われていると、目の前に誰かが座っている光景が目に入る。その先には青くて長い髪を持つ人が私達を見ていた。
その瞳は星空を湛えたように美しく、雰囲気は静かな湖畔の様に落ち着き払っていて、まるで『大人』のような女の人だった。
「これはあなたにとっての未来の話であり、そしてここは忘れてしまう断片の一つです」
これから先の話、そして過去の話。あなた達がどのくらいの影響を及ぼすのか私には不確定です。
ですが、私は目の前にいるあなたに話しかけなければならないのです。
──名も無き神々の王女の目覚め。それは世界の破滅を意味する事。
『プロトコル ATRAHASISの完遂を確認』
『これよりエンリルの意思に基づく行動を実行します』
王女として目覚めた『彼女』が数多の兵を伴って、瓦礫となったキヴォトスを凱旋していく。いつかくる未来の話であり破滅を意味していた。
その光景、その可能性を青い髪の人が語る。これは終点の一つ。とぽつりと呟いた。
「それはあなたの役割でもありました。私達を監視する古の民の
とある未来においての可能性を過去に再現を行い、名も無き神々の力を受ける器とし、その力を持って戴冠とす。故にその力は死の神に通ず。
しかし、と、彼女は首を振る。
「それは失敗に終わります。魂の無い器に神秘が宿ることは無かったのです」
机上の空論でしか語れない司祭達にも、古の組織であり人工の神の再現を求めた末に解散した『ゲマトリア』にもそれは為せることはありませんでした。肉の器は器でしかなかったのです。そして、そこで終わる筈でした。と青い髪の誰かは言う。
「しかし、それと相反するように彼が関わった世界では王女は勇者になる可能性を示し、逆説的にあなたの存在を担保しました」
何者であるかではなく、何者になりたいか。それは存在の再現性の話であり、本来は関係のない事象。
突如として別の世界からやってくる物語のように、我々のゆく旅路に深く絡むものではありませんでした。それはあなた達においても適用される筈でした。
しかし、あなたの存在と存在を許す事の出来る複雑に絡み合ったロジック。その一つである事に間違いはありません。だからこそあなたの神秘が灯され、また別の可能性となりました。
「本来であれば目覚める事の無かったモノが動き、この旅路の先を行こうとしている」
──悲有の真実は真実であるか。
不可逆であったものが蘇り、別の生を受ける事。
その事の意味する理由と、その象徴。
「それに含まれている警句。その意味を私、そしてあなた達はこれから知ることになります」
あなた個人の神秘と取り巻く環境。そしてあなたが抱えたもの。その真実。それらがいつか明かされ眼前に現れたときに、あなたは直感することになる。
「きっと、この会話は覚えていられません。まず、あなた達は『あなた』に成る事に目指さなければならないのだから」
それでも火を灯し、皆を照らし出す事を願った事を忘れていないのであれば。と、言葉を区切り、青い髪の誰かは微笑みを浮かべた。
「その時には、私に会いに来てください」
──お友達になりませんか?
その言葉に対して返そうとして彼女に視線を向ける。けれど、そこに残るのは夜空を広げたような黒いビロードが残るだけだった。
◇◇◇◇◇◇
夢を見ていた気がする。泡沫が弾けて消えてしまったような何かを見ていたという感覚だけが残る、そんな夢。
目が覚めるとそこはシャーレの医務室だった。窓の外は夜の帳が下りていて、部屋も最低限の照明しかない。電子盤に表記されている時刻を見ると丸一日眠っていたみたいだ。
身体のあちこちに包帯が巻かれ、いつの間にか病院着に着替えさせられている。怪我しているところがそれぞれ主張をしてきて痛みがアンサンブルした。小さな悲鳴を呑み込む。
周辺を見渡すとメモがそれぞれ置かれている。「もし何かあったら連絡くださいね」とシキだったり、「傷病休暇申請とその書き方」が書かれたカンナ局長がよく使っていた付箋であったり、「起きたらすぐ連絡してね」と、ホシノちゃんのくじらのメモだったり、と知り合った人たちからのメモがあった。その隅っこに控えめに「ごめんなさい」と書かれたメモがあった。モモイちゃんがよく使っていたものだ。
そのメモをギュッと握りしめる。すぐに連絡をしなければ、と携帯端末を探ろうとして、人の気配を感じた。ッ即座に扉の先に視線を向けると、ロックが解除された。
入室してきたのはスーツに長い黒髪の姿、切れ長の瞳がベッドの上の私を見下ろしている。
「目覚めて良かったわ。アキ」
「リオ……?」
入室してきた彼女は付箋や花瓶に目もくれずに、つかつかと私に歩み寄ってくる。そして、ミレニアムのトップ機関であるセミナーの長が私を見て、唐突に告げる。
「単刀直入に話すわ、私と手を組みなさい」
いえ、とリオは言葉を訂正する。無機質に、そして無感情に話す彼女の姿がアリスちゃんと重なって背筋が寒くなる。
「これから起こす事に対して干渉をしないで欲しい。その同盟の話をしにきたわ」
「同盟………?」
何故か彼女の態度も瞳にも焦りを感じてしまって、それが良くないことの前兆のように感じてしまう。
そしてそれは直近に私の身に起きた事に直結している。そんな推測がすぐに私の頭に浮かんでしまって、制止する言葉を脳内で探した。けれど、それよりも早く彼女は口を開く。
──やめて。それ以上、話さないで。
「AL-1S。天童アリスの破壊及び処刑。その件について」
時間が止まる。息が上手く吸えなくて苦しい。世界から色が消えて視界がモノクロに染まっていく。
言葉が継げずにいると、更にリオは話しだす。
「友誼を結んでいる貴方は天童アリスの処刑について、必ず行動を起こす」
それが例え非合理であっても、そう述べた彼女の瞳は冷淡だった。「だから先に行動を牽制しに来たわ」と彼女は言う。
言葉が、出てこない。世界がぐにゃぐにゃに歪んで、頭が痛い。それが怪我の後遺症なのか、それとも告げられた言葉なのかも分からない。ただひたすらに気持ちが悪い。少ないと言えど、同じ時間を過ごした目の前の彼女が別人に見えてしまって、首を振った。
何とか吐き気を抑えながら、言葉を絞り出す。
「なにを……言ってる、の?」
「その身体では大した行動は起こせない。そして、その危害を加えたのも彼女。これだけの条件を前提であれば貴女も理解すると推測したの」
「そうじゃないっ!!!! 分かってるのリオ!! あなたの口にした言葉の意味がっ!!」
腕を振りあげ飛び起きようとして痛みで呻く。それでも彼女を睨みつける。
そんな私の態度にリオは驚いたような顔を浮かべていた。
「……ある程度の反対は予想していたけれど、ここまでとは予想外だわ」
配慮した、つもりなのだけど。とリオは目を伏せ、そしてすぐに私を睨み返した。
「分かっているわ、そして反対される理由が私には理解出来ない」
私はこれでも待っていたわ。とリオは言う。
「貴女がアリスを監視し続けている間、暴走は無いと予期していた。けれど実際に発生した事態は貴女が体験した通り。天童アリスは世界を破壊する力を持っていて、私達はソレを制御は不可能という結論に至るのは赤子でも分かる事でしょう?」
これ以上は俯瞰は無理と判断した。と彼女は告げる。
あなただって理解しているでしょう? と言われて、私は激しく首を振った。
「それに……行動の原理としては過去にあなたが起こした行動と似たようなものだと思うのだけど」
「何を……っ!」
SRT特殊学園の解体における行動において、合理的かつ貴女は正しいことをした。とリオは告げた。反論を吐き出そうとしていた私は、その言葉を吐き出せる事無く、金縛りにあった如く動きが止まってしまう。
『裏切りモノ』『学園を売った負け犬』『臆病者』
心に突き刺さる氷の刃が閉じ込めていた過去から溢れてきて、心が冷めていく。
そんな事も意にも介さず、リオは喋り続ける。
「あなたは合理的かつ冷静な判断をそのとき下した。私が保証するわ。あなたは多くのSRTの生徒たちを路頭に迷わすことなく生存を許した。それは本来称賛されるべき行動だった」
だからこそ私は貴女に多少の信を置くことにしたの。突然ミレニアムに現れた不確定要素とて、最後には私と同じ合理的な判断を下す冷静さがある。そう判断したから。
それだけを告げて、再び私を見下ろした。
「冷静に判断しなさい、近藤アキ。ここから先は、私とあなたの決別を意味するのだから」
「リオ、会長っ!! その行動は……っ、後悔する事になるっ!!」
古傷を抉り出し、血を絞り出す様に反論を述べる。あんな行動なんて、あんな思いなんてしない方がいい。
正しいと自身で思っていても、苦しくて、何度も何度も他に方法が無かったのかと自問自答を繰り返して、夜に目を閉じるのが怖くなった。『先生』に泣きついて、ようやく寛解し始めた過去の疵。
それを目の前の彼女が同じことをしようとしている。絶対にそれは止めなければならない。その想いで必死にリオに食い下がった。
「賛同は……得られそうにないわね。とても残念だわ」
「その決断は……痛い、ですよ。痛くて痛くて耐えられるものでは、ありません……!」
今でも夢に見る。信頼をしてくれていた子も、先輩と懐いてくれていた子が、まるで親の仇の様に視線を向けてくる光景。例え自分は正しいと思っていても、自分の心までは正論の鎧は着せられない。容赦なく浴びせられる陰口も、敵対した過去の友も全てが私の心を引き裂いていった。
ミレニアムに来て、ようやく忘れられると思っていたのに。
「痛覚の多寡で判別することではないわ、それが心因的ものであったとしても。世界の危機においてそれを棄却する理由にはなり得ない。そして、私は遂行可能な立場にいるわ」
「リオっ!! 私は……友達のあなたに、そんな思いをして欲しくないっ!!!」
必死に彼女に手を伸ばす。闇だと分かっていても進もうとする彼女を引き戻せる。そう信じたからだ。
──しかし、その手が声が届く事は無く、代わりに返ってきたのは酷く無機質で冷酷な言葉だった。
「そう……残念ね。本当に。残念だわ」
「待ってリオ会長……っ、リオ!!」
背を向けて彼女は去っていく。いくら声を掛けても断絶された壁があるみたいに、その声は届かない。
痛む身体を無視して起き上がり、よろめきながらも駆け出そうとした私を誰かが遮った。
「処理は任せたわ、トキ」
「はい、かしこまりました」
短い金髪のメイド服。C&Cと同じ衣装に、私は動揺し言葉が漏れる。
「5人目の……エージェント?」
「おやすみなさい。リオ様の理解者になれたかもしれない人」
意識が途切れる前に見たのは、その子が私に銃口を向ける姿だった。