元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

37 / 46
第37話

 初めてこの世界を認識した頃、絶対に馴染むことは無いと思えたし、色々な事が怖かったことを覚えている。

 銃を持った人が当たり前のように撃ち合い、犬や猫が喋り、ロボットと会話している。そんな世界が目の前に広がっている。ここが天国にしてはあまりにも物騒過ぎたし、地獄に落とされたにしては辿り着いた家の環境は優し過ぎた。

 キヴォトスは、前世とはあまりにも違いがある事が多すぎたのだ。

 一人で眠る広くてふかふかの布団に心が耐えられなくなった時、よく隅っこにうずくまって毛布を被っていた。暗くて狭くて息苦しい、その空間が過去の私の証のようで、それがここにいて良いと保証してくれているような錯覚だけが救いだった。

 

 けれど、それは錯覚に過ぎず、私はここで生きている。

 その事を教えてくれたのは、私を見てくれている『大人』だった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「いや~おじさんも引退の時かなぁ。アキちゃん抱えたら、謎のメイドさん逃がしちゃってさぁ」

 「ホシノ先輩が居なかったら、アキちゃん先輩が拉致されて、あんな事やこんな姿に……なってたかもですね☆!」

 「ノノミ先輩、それ笑えないから……」

 

 かしましい声を響かせながら、朝の陽光が差しこむ廊下を六人の人影が通り過ぎていく。

 昨晩のトキの襲撃から一夜明けた朝、アビドスの生徒達と赤髪を揺らしてながら歩くシキの姿があった。

 

 「実際、そうなっていた可能性が高かった。というのは事実ですね。うふふ」

 「ん、だから襲撃を予測して、即日で私達に入院の知らせを出した。違う?」

 「ホントにシキちゃんは食えないよねぇ。うへ~こわいこわい」

 

 眠そうな表情を浮かべながら、最後尾をふらふらと歩くホシノが欠伸交じりにおどける。たまたまですよ、とシキは片目を閉じて隣に並ぶアヤネを見た。視線の先のアヤネは困った顔を浮かべている。

 

 「迅速な連絡でしたからね。おかげさまで助けだせたのは……良かったのですが」

 

 困惑した声と共に、全員の足がとある教室の前で止まる。

 アビドス高等学校の教室の一角。そこには睡眠を取らない誰かの為に作られた仮眠室がある。教室のど真ん中に不釣り合いな程に大きいキングサイズベット。それを飾る様に人数分の枕や人形、手榴弾やロケットランチャーが置かれていた。

 その部屋の隅に奇妙な物体が置かれていた。体育座りにした人一人分の大きさに毛布を巻きつけている物体。その生き物だか、ナマモノだか分からないものからはぴょこっと茶色の犬耳が飛び出ている。傍らには手書きの看板が一つ。そこには「そっとしておいてください」と、書かれていた。

 色々とアビドスの生徒達も手を打ったそうなのだが、毛布を引き剝がそうにもかなりの力で固定されていて動く気配も無く、声を掛けても無視されてしまう。

 

 「という感じで困ってるんです。シキ先輩」

 「ん、あんまり頼る気もなかったんだけど、お手上げ。連れてきた夜から、ずっとこんな感じ」

 

 襲撃を受けた夜。警護のしやすさを鑑みて、アビドス高校に連れて帰った後、気が付くと派出所の隅っこでタオルケットに包まっていたという。

 再び担いで連れて帰るも一言、二言発するだけで会話にならず、ご飯もまともに食べていない。今に至るまでずっとこの様子だという。

 シキがアヤネに説明されながら教室に入ると、件の物体を見てニコニコと笑みを浮かべた。

 

 「あらあら……久しぶりに出ましたね。隊長のこの世の終わりモード」

 「何よそれ。いや、ホントに何!?」

 

 セリカの叫び声が響く。シキはセリカにしーっ、と人差し指を立てるジェスチャーをする。

 そして心配そうに後ろから顔を出すアビドスガールズに振り返ると、シキはとりあえず暖かい紅茶と、何かお菓子でも用意しましょうか、とスタスタと給湯室に向かっていく。 疑問符を浮かべているアビドスの生徒達に、「あの状態は何を言っても無駄ですのでとりあえずモノでつってみましょうか」と言って歩いて行った。

 給湯室に着くなり、ニコニコしながらお湯を沸かしながら勝手知ったるという仕草で戸棚から茶器を取り出していく。アヤネのそんなに回数来ないのに何で知っているのか、という視線を無視のまま口を開いた。

 

 「あれは隊長のメンタルリセット中の姿です。自身の心身のキャパシティを超えてしまった事に直面すると、あんな感じで落ち込むだけ落ち込むんです」

 

 自分のミスで周辺を巻き込んでFOXの子達諸共に営倉ギリギリまで追い詰められたり、射撃テストで最下位を連続で取り続けていた一年次だったり、キヴォトス人なら誰しもが知っている銃の手入れの仕方がわからないと言ってしまって、もうこの世の終わりな程怒られてしまった時等々。と、シキはニコニコしながら語っていく。

 そんな事まで言っていいのか、というセリカのツッコミやら、アヤネの困惑した反応を微笑みつつも手慣れた様子で多機能な腕時計を確認してティーバッグを取り出した。

 

 「今もそうですが、限界隊長はマスコットキャラみたいで可愛いですよね。うふふ」

 「うへ~。そうなんだ。でも、あんな初めて見たんだけどさ、言ってる事ホント?」

 「あらあら、そうですね。私もここ最近は見ていなかったですので、少々懐かしい気分ですね」 

 

 カチャカチャと茶器を鳴らしながら用意を手早く済ませ、蛇口から流れる水をしばし眺める。

 (ここ最近は……『限界』すら振り切っていた、ということなのでしょうね)

 

 少しは心の傷は癒えてきているのでしょうか。と、そんな思いを胸に秘めながら教室に戻る。ソワソワと浮足だつ面々に、ここはお任せください、と手で制し、犬耳タオルケットの近くにゆっくりと歩み寄っていく。

 

 「隊長……? お茶が入りましたよ?」

 「……」

 「クッキーもありますよ? ノノミさんがトリニティの洋菓子店のを出してくださいました」

 

 お好きでしたよね? トリニティのスイーツ。と、言いながら、無言のアキに対して寄り添うようにプレートを傍に置く。紅茶が優し気な湯気を立て、柑橘のような匂いが広がった。

 ピクリ、と茶色の犬耳が動く。

 

 「……紅茶の種類」

 「アールグレイ。落ち込んでいると思って、隊長お気に入りの『マリア・ジュール』です」

 「……それだけ置いて、あっち、行って」

 

 それだけ聞くと、はぁい、とシキは立ち上がり、遠巻きに眺めるアビドスのメンバー達にウインクをした。

 教室を出ると、心配そうにホシノはシキの顔を覗き込んだ。

 

 「ねぇ、あれだけで良かったの? もっとさ、声掛けるとか」

 「あらあら、隊長が一人になりたいと仰っているんですから。それ以上は何も」

 「そうじゃなくてさ~、いや、何したらいいか分からないけど」

 

 口を尖らせる彼女を見て、シキは気持ちは分かりますよ。と、微笑む。

 

 「うふふ、でも大丈夫ですよ、ホシノさん。これが終わった後の隊長は強いので」

 

 それだけ言うと、「あとはお任せしますね。私、仕事を抜け出してきてしまったので」と、シキは去っていった。

 ここに居た事は隊長には秘密にしておいてください。隊長、仕事を放ってしまうと怒ってしまうので、と。悪戯っぽく微笑む姿がそこに居た少女達に印象に残っていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 まどろみと、傷による気絶が繰り返しやってくる中で、誰かの声が聞こえていたのは分かっていた。でも、立ち上がる気力も、やる気すらも私の中で尽きていた。溺れた感覚のままに、遠い声を水底から聞いている。

 そんな状態のままに動けずにいる。少し前までは何もかも無くなっていても歩き続けられたのに、また弱い自分が戻ってきてしまった。

 

 様子のおかしいアリスちゃん、リオから差し向けられたメイドの人。向けられた二つの銃口がフラッシュバックする。膝を抱き寄せると、ヒビが入った肋骨が軋んで痛かった。

 結局、他人のために走り続けても意味なんてないんだろうか、あそこで過ごしてきた短い期間の中で、私は何も残せなかった。部外者が今更何かをしても無駄なのは分かっている。ネルもヒマリさんもいる。そして『大人』である先生も関わっている筈だ。

 きっと私が居なくてと事態は良い方向に向かうだろう。それでいい。問題はない。そもそも『子供』の私が、何かしようとする方が間違いなのだ。アビドスの皆の心配する声に甘えて暖かい布団でただ眠っていればいい。それだけだ。

 それだけの筈なのに何故か、膝の上に座り笑い声を上げるアリスちゃんの笑顔が、一緒に隠れて息を殺した時のリオの顔が思い浮かぶ。消そうと瞳を閉じても、より強くそれは思い浮かんでしまうのだ。消そうとしても、諦めようとしても二人の事が頭から離れない。

 

 『凄い! アキちゃんは正義の味方みたいだね!!』 

 

 かつて、まだ私がキヴォトスに戸惑っていた時に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。その言葉に支えられてここまで来たのは事実だ。でも、これから先も同じ様に走り続けてもいいのだろうか? アリスちゃんにもリオにも伸ばした手は届かなかった。

 私はゲーム開発部の一因でも、セミナーのお手伝いでもない部外者だ。ミレニアムという学校にも一時期だけ在籍しただけの一人が、関わってどうしようというのだろう。

 諦める為にSNSを開いて、それからくるんでいるタオルケットの殻から出て、ここまで運んできてくれた皆にお礼を言って、そして好きなだけ眠ろう。と、そう決めて、光を放つ液晶画面に目を落として、手が止まる。

 

 『アキ、好きなことをしていいんだよ。全ての責任は私が取るから』 

 

 その通知にタップして、モモトークの画面を開く。先生のメッセージが一番上に来ていて、その後には怪我を心配する声や、助けに来てほしいという内容がずらりと並んでいる。

 震える指でタップしていくと、確かに私がそこに居た証がモモトークに届いていた。あ、と口が開く。溺れていた心に酸素が取り込まれて息が出来る。

 

 先生の前で何て誓ったんだっけ。……そうだ。迷ってる子に手を伸ばしたいって。

 

 モモイちゃんを傷つけたアリスちゃんも、学園を守るためにリオもきっと何処に向かえばいいか分からなくなっている。その筈だ。それなのに私はここで座ってめそめそと泣いているだけ? 

 

 「……何やってるんだろ、私」

 

 ぐるぐると身体に巻き込んだ殻を外すと、光が差し込んでくる。

 新鮮な空気を取り込むと、ふんわりとほろ苦くて、けれど、スッキリとした紅茶の香りが肺を満たした。

 

 「よしっ……!」

 

 ほんのりとぬくもりの残る紅茶を一口含む。冷めてしまう前に飲めて良かった。やっぱり、冷めるまで待っていても良い事なんてないのだから。

 ぐいっと手足を伸ばして、深呼吸をする。そして、立ち上がった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 「心配をお掛けしましたっ!」 

 

 午後の陽光が教室に入り込む。長くなりはじめた影が私達を囲っていた。

 アビドスのメンバーと、ひとしきりお礼を言った後は、入院で食べていなかったお肉多めのご飯を一緒に食べた。何日ぼんやりとしていたかは分からないけれど、痛くて立てない程だった身体も動かせるぐらいには回復している。

 そして今、ミレニアムにもう一度行きたい事を皆に話した。なにしろ襲撃があった後、匿う場所として仮眠室を提供してくれて寝ずの番をしてくれた。その恩に対して無言で立ち去るのは出来ない。

 それに対して様々な反応があった。もちろん反対が全てであり、身体の傷の事も、心の傷だって心配された。けれど、私は意見を頑として変えずに、セリカちゃん、ノノミさん、アヤネちゃんと次第に折れていく。そんな中で、声が上がった。

 

 「でも、アキちゃん。助けに行きたいって子に傷つけられて、裏切られたんだよね? 更に刺客も送られてさぁ~……ホントにそんなところに行くの?」

 「それでも私は手を伸ばすことを諦めたくない。……ごめんね、ホシノちゃん」

 

 ホシノちゃんの眠そうながらも、しっかりとこちらを見てくる瞳を見つめ返す。

 間違ってしまった人を間違えたままにしておかない為にも、そして。もう戻れないほどに間違ってしまった人を助けたい。道を見失ったままに歩き続けなければならない迷子の子に、手を伸ばして元の道に戻してあげる。

 それが警察の仕事であり、私のなりたい姿。犬のおまわりさんだ。

 

 「二人とも、ミレニアムに居た時に仲良くしてくれた。そんな子が今道を見失いかけてる。だからね、私は行きたいんだ」

 

 二人が、もう一度笑って歩けるように、その為に私はもう一度立ち上がる。

 そう思っていると、見つめ合ったホシノちゃんの瞳が閉じて、そして、うへ~と笑った。

 

 「こうなったら、ダメそうだね~」

 「ん、アキ先輩は頑固。それだけ怪我もしてるのに、全くもって懲りない変人」

 「えぇ……っ!? 何か、変だった?」 

 

 次々とため息を吐く姿に困惑していると、不意に暖かいものが私に飛び掛かってくる。気づけばホシノちゃんがいつかの様に私の腰に腕を回している。可愛いベルトがお腹に顔を埋めながら言葉を話す。

 

 「……ちゃんと、帰ってくるんだよ?」

 「うん、助けてくれて……ありがとう。ホシノちゃん」

 

 ぐりぐりと押し付けられる頭に手を乗せて優しく撫でていく。すると、本当にしょうがないなぁ、という声と共に、ギュッと力を一際強く抱きしめた後、ホシノちゃんは落ち着いた。

 ピンクの髪を撫でていると、次は私、と灰色の犬耳が差し出され、そのノリに合わせて次々と私の周りに人達が集まっていた。その光景を見て自然と笑みが零れていく。いつの間にか帰る場所の一つになっていた事が嬉しいと思ってしまう。だからこそ、アリスちゃんにも、そしてリオにも居場所を守ってあげたいと強く願えるのだ。

 

 元々あった居場所がなくなるのは寂しいのは、私もよく知っているのだから。

  

 

 ◇◇◇◇◇◇ 

 放課後の空を教室の窓から見上げていた。部活動が盛んになる時間だ。

 アビドスの教室はバタバタとした空気は感じるものの、ミレニアムの遠くからでも聞こえてくる重低音や爆発音、揉め事の発砲音が少し懐かしく感じる。

 対策委員会の皆は準備があるからと少しでも休んでて、と私を仮眠室に押し込んで活動をしている。きっと、ミレニアムの皆もそれぞれ自分のやりたい事をやっているのだろう。

 

 端末を取り出して頼れる味方に連絡を入れる。それは1コールも待たずに繋がり、いつもの優しい声が耳に聞こえてきた。

 

 『はぁい、待ってましたよ。隊長。傷はもうよろしいのですか?』

 『シキ。紅茶ありがとね』

 『……あらあら、バレてしまいましたか』

 

 一部の人を除いてお気に入りの紅茶なんて基本教えていないし、すぐに手に入るものでもない。あの時はぼんやりとしていたし、自分の世界に引きこもっていた。それでも受けた恩くらいはちゃんと覚えている。

 

 『ちゃんと声、届いてたよ』

 『ふふ、なんの事やら……』

 

 それから少しだけ言葉を交わして、通話を切る。

 方針は決まった。カンナ局長には悪いけど、診断された分の傷病有給がまだ残っている。治りの早いキヴォトス人の身体に感謝だ。

 そして、やるべき事はもう分かっている。そして、向かうべき先も今聞いた。後は自分に出来る事を最大限にやるだけだ。DOGGYの鉄の掟の一条を貫く。それだけ。

 

 「ちゃんとあの二人に笑っていて欲しい」

 

 思いを口にして、屋上の扉を開く。強烈に吹き込む風が尻尾を揺らした。その風の中心には用意して貰ったモノが強烈な存在感を放っていた。

 

 いつの間にか浮かんでいた半透明の月を眺める。風に吹き飛ばされたかのように、雲が掛かっていた空がいつの間にか晴れていた。

 ありがとう。と、送ってくれたアビドスのメンバーに礼を言って、私はアヤネちゃんから借りたUH-60『ブラックホーク』(雨雲号)に乗り込む。

 

 「さて、おせっかいながら迷子の子達を助けに行こう!!」

 

 ふわり、と身体が浮き上がり、黄昏の空へ登っていく。

 ミレニアムで見つけた力を駆使して、レバーを握ると身体に直接翼が生えたようにすら感じる。これなら何処へだって行けるはず。

 そうして茜色の空を飛ぶ機体は、ミレニアムに向かって加速していく。去ってしまった部活動に顔を出しに行くために。




ブルーアーカイブ 5周年おめでとうございます〜(こっそり)
ふぇすにも参加しましたが色々と見るべきところがあって、回るのが楽しかったです。今から新規情報との解釈違いに震えております。
ペロロレースはペロロ様に賭けたら当たりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。