元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
「……部長? 先生達がもう来てるよ」
「うん。よし、今行くね。ヒビキ」
外からコトリが水を得た魚のように作戦を説明をしている声が聞こえていた。その輪にも加わらずに、依然として工房から出てこない部長の背にヒビキが声を掛けた。
室内に残る熱が扉の外まで漏れ出てくる中、流れる水の様な青色の長髪を一つに束ねた部長が汗を拭って立ち上がる。
技術者然としている立ち振る舞いと、満足気な表情を浮かべた彼女。それはアンビバレンツながらも完成された青春の姿であり、密かにミレニアムで人気である事が頷ける美しさであった。
その会話の最中、彼女のその先に鎮座しているモノがヒビキの目に留まり、少しだけ大きく目が開かれる。
「部長、それ……」
「ん? あぁ、そうだね」
同意するように、コツコツと軽く
「どうしてだろうね。彼女は外部の生徒で事の顛末を聞くに、来てくれるとも到底思える状況では無い」
工具箱を手に持ち、グリスとオイルで黒くなったグローブを放り投げた。ウタハの額にも同じ黒い跡がついているのだが、日常茶飯事である彼女らは、それを指摘する事は無い。
「これは予感であって、期待でもあるんだ」
きっと『彼女』は来る。不思議と誰もがそう信じている。勿論、私もその一人だ。おかしいと思わないかい? たった数週間の付き合いなのに、それを思わせる何かがある。そうウタハは言う。
「きっと、付き合いの長さではないんだろうね。彼女も、そしてアリス君も」
流れる様に喋りながら、「それに、いつでも使えるようにしておく、と約束したからね」と、一言添える。
そのままテキパキと愛銃のチャンバーチェックと、相棒である『
「もし……これが役に立つとしたら。そして彼女がソレを欲していたら。エンジニアとして最高に燃える。……そう思わないかい?」
「浪漫ですね!」
「わ、びっくりした」
いつの間にか説明を終えていたコトリが肌をツヤツヤにしながら大声でそれに応える。
それを耳元で聞いてしまったヒビキが肩を震わせ、犬耳をピンと立てた一歩飛び退いた。その様子を見て、ウタハが口元に手を当てながら笑い、そして、「じゃあ、行こうか」と声を掛けた。
三人が工房から出ていくと、高窓から差し込む光に照らされた
その後、先生に額のお絵描きを指摘され、顔が真っ赤になる部長の姿があった。
◇◇◇◇◇◇
「正直、アリスが『魔王』だろうが何だろうが、そんな事どうでもいいの! こんな終わり方、まともなエンディングですらない! 最悪だよ!」
だから、私達の話も聞かずに勝手に家出したアリスを取り戻しにいくよ! そう高らかに宣言したモモイを先頭に、アリスを救出するメンバーが集まり、目標に向けて行動を開始する。
コトリが説明をした『エリドゥ』の侵入経路によると、ミレニアムの会長とて資材は有限であり、その制約は無視はできない。その搬入路を使用して潜入を行う。とのこと。
実際、その作戦はエンジニア部の手引きとヴェリタスのサポートにより成功を収め、首尾よく先生達は『エリドゥ』に潜り込んだ。
外界と隔てる巨大な壁の中に潜り込んだ先生達の眼前に広がるのはメガロポリスもかくやと言わんばかりのビル群であった。
中心に要塞機能を司るひと際巨大なタワーが立ち並び、それを防衛するようにハリネズミように張り巡らされた火砲群。仮に終末が訪れたとしても、充分以上の生活が可能な居住区と、宙に浮かぶ光学モニターや、高架上のハイウェイなどの技術が惜しみなく使用されている。
正しくそこは、ミレニアムサイエンススクールの会長という最高の叡智を持つ一人が生み出した、人類種の揺りかごだった。
それを目の当たりにした生徒たちも平静では居られず、思わず声を漏らす。
「な、何これーっ!!」
「こんなの横領した金額だけで作れる範囲超えてない……?」
「こ、ここにアリスちゃんが……」
別動隊のC&Cが地上に出て陽動を行い、その間に
『ハッキングは成功してるんだけど……』
『うーん、何だろうね。別の事に気を取られてるというか』
『対策のプログラムに一定のクセがあります』
すんなり行き過ぎているような。と、支援組は疑問符を浮かべながらハッキングを続ける。そうして『エリドゥ』の監視の目を潜りながら、迷路のように入り組んだ地下道に複数の足音が響く。
どこまでも伸びる資材搬入用のレール。その隅には地下の隅々まで整備用のロボットが停止している。その光景は、まるで本当に巨大な『ダンジョン』に入ってしまったかの様な感覚を誰もが感じていた。
目標地点はアリスが囚われている中央のコントロールタワー。そこの真下に向かって、右へ左へと曲がりくねった道を生徒たちは口数が少ないままに走っていった。
『こちら
しばらくするとネルから『飛鳥馬トキ』が現れた。と通信が入る。その通話の後ろからは
C&Cの支援を背に更に足を早める一行。そして、最善ではないが監視を潜り抜けられる中の最良の出口にたどり着く。急いた様にメンテナンスハッチに手を掛けたモモイが大声を上げた。
「先生、ここだって!! 行こっ!!」
「お姉ちゃん、もう少し静かに……!!」
──よし、行こう!!
ヴェリタスの助力により自動でその扉は開閉される。地上に出る為の坂を全員で駆け上がると、そこはコントロールタワーの目前であり、周囲に並ぶビル群が先生達を見下ろしている。
その時、激しくノイズが混じった通信が耳を打つ。
『──生、……が』
『……てっ!!』
『ジャ……が、激し……』
焦燥した気配は伝わってくるものの、それが何を指すのか聞き取れない。
そして、多くの者が内容を理解する前に、異変は起きた。
突然、四方八方から突き刺さる気配と、脳裏を過ぎる危険信号が全員の身体を硬直させる。
微かな起動音と共に、周囲からメンバーの数を遥かに超える機械の目が一斉に先生達に向けられた。
アスファルトを擦る車輪の音、地面を揺るがす異形の四脚機械、そして、1つ目のモンスターにも似たモノアイが一人一人を捕捉して武器を構え始める。その姿はビルの影から、上空から、或いは高架の上からと現れ、逃げ場など無い。
「罠だっ!」と誰かが叫んだ瞬間。全員の硬直が解け、弾かれた様に動き出す。各々が持つ火器が一斉に火を吹き、交戦が始まった。
多勢に無勢なのは誰もが気づいていた。だが、通ってきた地下道は既に封鎖され、退却は出来ない。
襲いかかる敵集団の中には、シキが使った四脚戦車に『変な顔』を載せたリユース品も存在し、その巨軀は圧倒的存在感を放っていた。
乱射した弾が正面装甲に全て弾かれたモモイが「アキさん達、こんな強いのを無双ゲーみたいに倒してたの!? そんなの嘘だよー!!!!」と泣き叫ぶ声が戦場に木霊する。他の皆も口には出さないが、似たような反応を示していた。
──くっ、繋がらない。
戦闘部隊であるC&Cも戦闘中なのか、先生が呼びかけても応答は無い。
戦闘に不慣れであるゲーム開発部とエンジニア部では対処が追いつかないほどの波状攻撃が繰り出され、活路を見いだせないままにジリジリと、包囲網に弾薬も気力も削られていく。
『これで理解したかしら? 既に貴方達がここから打開する可能性は0に等しいということを』
突如として声が降り注ぎ、空中にリオの顔が映し出される。
『そちらの通信網は遮断し、別働隊であるC&Cもまたエリドゥの地形操作により分断され各個撃破に移っている』
残念ながら、ここからの打開は無いわ。諦めてくれれば事が終わるまで怪我無く拘束されるだけで済むのだけど。と、淡々と告げる声に全員の戦意が萎んでいく。──と、思われた。
「ま、まだ……諦めたく、ないっ! です」
包囲の一角で爆炎が上がる。AMASが水色のナニかによって吹き飛ばされ、周囲を巻き込んで炎上した。その衝撃と驚愕が視線を釘付けにする。
全員の注目が集まった先、
「ふっ、ようやくお披露目だな」
「夜なべして仕上げた、『ロイヤルビッグブラザー』の出番」
「満を持して説明しましょう!!」
先日の襲撃の夜に使用したペロロ様は、ユズにより直々に「
だが! しかし、それがエンジニア部の魂に火を付けたっ!アキもかくやという徹夜と突貫工事により、急遽、
より速く、より強くした新モデル
「アキさんも、アリスちゃんも……わ、私はっ!! 諦めたくないっ、です!!」
彼女の手繰る
「ユズちゃん凄い!!」
「皆、こっち!! こっちから逃げられるよ!!」
──ユズ、流石、頼りになる!!
その隙を見逃すことなくミドリとモモイが駆け出し、エンジニア部、先生が続く。
ユズは先生に褒められて、「え、えへへ……」と照れ顔を浮かべながらも手早くフクロウを操り、
走り去る背中をリオの声が追いかける。
『そう、残念ね。……無駄だと思うのだけど』
その声は無感情なようでいて、彼女の本音が滲んでいた。
◇◇◇◇◇◇
すんでの所で危機を脱した全員はハイウェイの高架の上で荒れた息を整えていた。
「な、なんとかなったぁ……!!」とモモイがぜぇぜぇと肩を上げ下げしながら座り込む。ミドリもへなへなと横に沈んでいく。ユズもまた青い顔を浮かべていた。
その姿を上気した顔が更に赤くなったミドリを除き、体力を少しでも戻す時間を。と思っていた。
しかし、束の間の休息すら、リオは許してはくれない。
『残念ながら、このエリドゥに居る限り逃げ場はないの』
声が聞こえた途端。低く唸る音と共にゴゴゴゴゴ、と地響きが鳴り響いた。
地形が動き出し、ハイウェイの形が変わっていく。そして、せり上がる様にして、地面から人の三倍はあろうかという巨大なロボットが現れた。
特徴的な顔文字とも人ともつかない何とも言い難い表情のようなものが備わった頭部に、二本の両腕の他に肩からも二対の腕が生えており、それぞれに盾とライフルを備えている。そして終いにはキャタピラで自走する何とも前衛的なデザインのロボットが目の前に現れた。
『アバンギャルド君、私の最高傑作の一つよ』
「うわっ、会長のセンス、どうなってるの!?」
「デザインは……もう少し何とかなりませんか?」
「「「個性的だな(ですね/だね)」」」
『……可愛いと思うのだけど』
一瞬拗ねた表情を浮かべたものの、すぐに仏頂面に戻る。
『その機体はエリドゥの演算能力を使用し、機能を最大限に高めているわ』
それに、と、もう一方の退路にはAMASが出現する。逃げ道は完全に塞がれた。
後ろに残るエンジニア部が先生の指揮の下で応戦を開始するが如何せん数が多い。状況は絶望的であり、どちらかを突破するのは不可能に思われた。
その絶望を振り切るように、ユズの操り人形が一歩前に出る。
「で、でも、まだっ……終わりじゃない!!」
『無駄よ、花岡ユズ』
ユズの操るフクロウと、
しかし、超反応を見せるアバンギャルド君に対し、『ロイヤルビックブラザー』の反応がついて行けずに徐々に差がついていく。ついに決定的な隙を晒したフクロウの左羽が細かい部品と共に削れ飛び、ビルの側面の窓を叩き割る。
「………っ!!! ま、まだ、ズレがっ!」
「それは本当かい!? おかしいな……5フレーム程の遅延誤差以内した筈だが……」
「ウタハ先輩、呑気な事を言ってないで前! 前!!」
現実基準にして6フレームまでが反射の限界と言われている事もあり、時間がない中でのウタハ達の改造の判断は一般的に正しかった。しかし、UzQueenの反応速度は常人とはかけ離れている。フレーム単位で反応可能な彼女にとって、5フレーム遅延は
「ユズのフクロウがっ!!」
「そんなっ……!!」
「う、うそ……!!」
結果、叡智を結集させた
『ロイヤルビックブラザー』は水色のボディに風穴が空き、爆風で半身が吹き飛んだ。フクロウのガワが所々剥がれ、内部がむき出しになったソレは爆炎の中に沈んだ。
「……打つ手なし、かな」
ポツリ、とウタハが呟く。じわじわと包囲を縮めるAMAS達と、立ちはだかるアバンギャルド君。状況はウタハが言う通り、最悪だった。
『突破する可能性のあるクイーンも取った。チェックメイトね』
「ま、まだ……負けてませんっ……!!」
──ユズっ、ダメだ!!
ユズが自身の銃を手に取り、眼前の巨大ロボに向ける。それは誰から見ても無謀であり、口々に止めようとする。しかし、それを聞き入れずに彼女は猛然と立ち向かう。まるで誰かのやり方を真似たかのように──駆け出した。
無情にも見える突撃、そして一瞬だけ遅れて反応するアバンギャルド君。彼女の振り絞った勇気と、それに怯んだように見えた誰か。気迫が勝機を引き寄せる。
そして、
『あきら……て、こ……し……い』
リオの映像が乱れ始め、アバンギャルド君の動きにも乱れが生じる。それだけに留まらず、エリドゥ全体の灯りが一瞬点滅し、一部の信号が機能を停止した。
その異変の中。真っ先にソレに気が付いたのは、空中を飛ぶAMASを撃ち落とそうと銃を乱射するモモイ。そしてその姉を援護するミドリだった。
「あ、アレ。な、何……!? 燃えてる!!」
「あっ、あれは……ヘリコプター!?」
一瞬だけ暗闇が訪れたエリドゥの空に突っ込んできた燃える物体。それは辛うじてまだヘリコプターの形を保っていたが『エリドゥ』の防衛機構に捕えられ、食い荒らされるように回転しながら燃え尽きていく。
「ぶ、ブラックホークダウン! ブラックホークダウンじゃん!!」
「えっ、誰か乗ってるの……?」
燃え尽き爆散する機体の中から『何か』が飛び出した。
ソレは推進剤を噴かし弧を描くように飛んでいる。飛行機雲を背負い、撃ち落とさんとする砲撃を躱しつつ、こちらへと近づいてきた。
だんだんと姿が大きくなるソレに、ようやく気付いた彼女達は慌てて退避を試みる。
「こっち来る!?」
「ユズちゃん!! 避けてっ!!」
──あ、あれはっ……!!
そして息を呑む間もなく、
空から
その鳥は見慣れた二丁のMP5 CQCを装備していて、薬莢をばら撒きながら弾を高速で吐き出していた。
直後、物凄い衝撃音が鼓膜を叩く。空から降ってきたソレがアバンギャルド君を踏み潰し、高架ごと下に沈めたのだ!
直後、ズン、と腹に響く音と、激しい振動が足元に広がった。そして、飛び散るコンクリートの欠片と
それを目の前で見ていたユズは激しい衝撃に、たまらず尻もちをついた。そして涙で潤んだ瞳で、煙の中にいる『彼女』の姿を見た。
「DOGGY1、現着。──作戦行動、開始」
ひしゃげたアバンギャルド君の顔の上には、ここに居る誰もが心の何処かで待ち望んでいた人物が立っていた。
ぴょこんと特徴的な犬耳を揺らしながらペロロ様から脱出した後、一番近くにいたユズを助け起こす。上手く言葉が出てこない彼女を優しくお姫様抱っこして歩いていく。
そして『大人』と目が合ってバツが悪そうな笑みで答える「結局、戻ってきちゃいました」と口パクで話す。
それを見て、先生は同じように笑みを浮かべた。
──待ってたよ、アキ。
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