元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
人と話すことは夜道を歩くことに似てるな、とよく思う。
全く知らない人と話すとき、暗闇の中で何処に道があるかを探しながら歩いていく。すると、ふと街灯に突き当たったりする。その街灯は共通の話題だったり、目の前の映画だったりと色も形も様々。街灯が設置されれば、そこからまた次の照明を探すことになる。そうなればちょっと簡単だ。だって、足元は設置された街灯があるのだから。
だけど夜道だって一本道じゃない。険しい坂だったり、工事中だったり、突然、亀裂が入って通れなくなる事だってある。対話の道は不安定なのだ。
けれど、それを含めて私は難しくて時折迷ったりもするし、崖から落ちて大ケガだってする。そんな対話という夜道が好きだ。逆に、舗装して、自動で進む床を設置してくる。話を聞かない『大人』への道。
私はこれが大嫌いなのだ。
もし、私が大人にいつかなってしまったのなら、道なき道へ行こうとする若者に、いってらっしゃい。危ないから気をつけてね。と声を掛けられるような。大人モドキで良い。
この先、怪我をしたっていいのだから、私は知ってみたい。
この夜の先の道が、どんな朝に繋がっているのかを。
『前回』はそんなことも出来なかったのだから。
◇◇◇◇◇◇
アビドス砂漠の片隅の更に端の端。
おんぼろな派出所の中で、近藤アキは掛かってきた内容に大きなため息をついていた。
「えぇ……それはほんとに言ってる? 小鳥遊ホシノさんがカイザーコーポレーションに単独で?」
「間違いありません、30秒ほど前に網に引っ掛かりました。別ルートから得た入室記録にもばっちり残ってました」
「……流石、ドギーの耳と鼻だね。シーちゃん調べてくれてありがとね」
「あらあら、隊長の命令ならいくらでも聞きますよ? 隊長の命令なら。ところで今回は……」
「うぅ、分かった分かったよぉ……今回は個人的なお願いだもんね」
「ふふ、じゃあ、今度一緒にトリニティのスイーツでも」
「はぁい……奢らさせて頂きます……」
「あぁ、それとカイザーと関係のありそうな人物が──」
画面に浮かぶ名前は山南シキ。ドギー小隊のオペレーター兼お姉さん役。綺麗なロングの黒髪に赤色ラインが混ざった眼鏡が素敵なドギーのブレインだった。私も伸ばそうとして、アレにはならない事を何度悟ったことだろうか。
彼女の話を聞きながら、安月給の今でトリニティのスイーツは金額的にマズい……。と更に薄くなる財布を想像しつつも、礼を言って電話を切った。今月どう生きていこうか……いや、心配の焦点はそこではない。
小鳥遊ホシノ。やっぱり人の話なんて、これっぽちも聞いていなかったわけだ。うん。まぁ、そうだよね。
それはそれとして彼女が心配だ。そこそこに親交を深めたと思っていたのに……。なんてしょんぼりしながらも、私はロッカーを開き、グレネードや武器の点検を始めた。
小鳥遊ホシノ、という生徒の話をしよう。
アビドス高等学校唯一の三年生であり、ピンク髪の鬼強いおチビちゃんだ。
──結局、あの後、警告したのにも関わらずに単身でカイザーコーポレーションに乗り込んで、あまつさえメンタルがガタついてそうな事を怒っているわけではない。決して。
だが、一つ言わせて欲しい。彼女は話を聞かない。人の話などこれっぽちも聞いていないのだ。そもそもが私との出会いですら、話を聞いていないことから始まっているのだから。
◇◇◇◇◇◇
ヴァルキューレ転校後、数々のごたごたに巻き込まれた私は、配属予定地のアビドスに来ていた。
砂漠に埋もれ過疎が進んだゴーストタウンを望む端の端に派出所の跡地があると教えてもらい、そこを律儀に目指していた。
アビドスといえば、アビドス高等学校がまだ学校の体裁を辛うじて保っていた頃から嫌が応でも耳に入る情報が一つあった。アビドスに残った存在の中で飛びぬけて強い存在が一人いる。と。
名を小鳥遊ホシノ。アビドス生徒会副会長であり、唯一アビドス高等学校の所属生だった。
そして、それ以前から私は知っていた。そもそも中学でも有名だったのだから。
それは当然、SRTに入園する前の話。親の勝手な都合で、このアビドスから引っ越しで離れる前の事だ。
まだ私がアビドスに住んでいた頃は、ギリギリ人がいた地域に足を運ぶ。
売家と紙がついた扉、それすらも無い戸、戸だったもの。砂に埋もれた屋根など、誰しもが忘れた、忘れようとした場所を歩いていく。
今や、人以外の生き物の活気すら無く、住民の代わりに幽霊が出そうなゴーストタウンぶりだった。
掲示板に今すぐにでも剝がれそうなポスターに目をやると、かつて行われていたアビドスの祭り『オアシス祭り』を復活させようとする署名を求める紙がぴらぴらと主張していた。
そのポスターに目を奪われていると、ひりつく気配が背中に突き刺さる。背筋を凍らせながら振り返ると、そこには小さな体躯と靡かせたピンクの髪。身の丈程のショットガン。それと身長に似合わないライオットシールドを装備した少女が居た。
「うへ~、こんなところにいる悪い子は誰かなぁ」
「あー、こんばんは?」
「その、ポスター、剝がそうとしてたよね? 何で?」
噂に聞く、小鳥遊ホシノの姿そのものに少し身が強張る。
動揺を見せてしまわないように、まずは対話を試みる。
「あの、私は先日アビドス派出所に着任した──」
「嘘、だってあの派出所、空調壊れてるんだもん。窓も壊れたままだったし、なんなら最近人が入った気配もなかった」
着任してるなら、そこら辺、流石に直すよね? と鋭い言葉が飛んでくる。
まぁ、本当に仰っている通りであり、普通なら直しますよね? クソ防衛室長!! と私も叫びたいところではあるんだけど、まぁ、嫌がらせする彼女の気持ちも分からないでもないというか、その胸くらい器小っちゃくて薄っぺらいですね。と思ってもいるんだけど、話すと長くなるので省略を試みる。
「残念ながら、規定上お話は難しくてぇ……」
省略のセンスがゼロなことが向こうに露呈し、一気に向こうの態度が硬化した。
幼くも可愛らしいお顔の上部の眉がみるみるうちに中央に寄り、トリガーに指が伸びる。
「うん、分かった。答える気がないなら、とりあえず……身体に聞いちゃおうかな」
「ま、待って、話を!!」
「そっちが断ったんでしょ!!」
「おっしゃる通りで!!!」
瞬間、向こうの銃口が火を噴き、散弾が飛来する。すんでのところでその弾をヴァルキューレ支給のラウンド
状のシールドで防ぎ、横に薙いで弾の軌道を変える。ガキン、とも、ゴキンとも言い難い音が盾から響き、衝撃が腕に伝導する。それが痛いったらありゃしない。重くて、鋭くて、そして無力化に的確な弾道。
想定以上の容赦の無さに、心の中で毒づく。
──情報以上に怖いよ、この子!!!
心のうちで叫びながらヴァルキューレ制式採用型のリボルバーで応戦する。
二発の弾が小鳥遊ホシノに直進するも、ライオットシールドが無惨にも弾き返す。以前の兵装が恋しくなりながらも、もう一発叩き込もうと狙いを定めようとして諦めた。
彼女が鉄の塊みたいな盾を物ともせずに、高速で距離を詰めようとしたからである。
──速いっ!?
思わず漏れそうになった声をぐっと飲み込む。SRTは動じない。
彼女に合わせて、私も廃墟に足を掛け、パルクールの要領で空中に身を投じた。
月の下で、鷹と狼が追いかけあう。
鷹は最短距離を、狼は目を暗ますように。
どちらも同じくらいに素早く、なかなかに距離が詰まらない。
その姿を目で追えるものは、この砂漠の何処にも居なかった。
誰もいない街並みの中、二人の影が高速で飛び交う。
「うへ~、随分と元気がいい若者だねぇ。おじさんもそろそろ歳かなぁ、追いかけるのがしんどいよ~」
「同い年、だって!!」
フラッシュバン、スモーク、ワイヤー、とあらゆる技術を駆使して逃げ回る。なるべく廃屋に手を加えたくはないのだけど、窓を蹴破り、ドアに罠を仕掛け、即席ブービーを作成する。が、相対する化け物、小鳥遊ホシノは気づくか、踏み倒すか、を問答無用するので攻略の糸口が全く見えてこない。
その上で爆速で距離を詰め、容赦なく散弾の雨を降らせるので貸与された装備が悲鳴を上げ始めている。
すわ、どうするか、と考えを巡らせるも、この装備では厳しいと言わざるを得ない訳で、土地勘も間違いなく向こうにある為、撒くのも難しい。
そもそも何だあのデタラメな強さ、体感FOXの子たちを一人で足止めしたときと同じぐらいの圧じゃないか、何でこんなところで燻ぶっているのか、SRTに来ればさぞかしヒーローだったろうに、いや、もう無いんですけどね。
と、思考の迷路が袋小路に入りはじめ、そしてだんだんと腹が立ってきた。
まず、向こうがもう少し話を聞いてくれていれば丸く収まっただろうに、何故こんな地獄の追いかけっこになっているのか。小鳥遊ホシノ、絶対に人の話を聞かずに後輩に迷惑かけてるよね……まぁ、私もなんですけど!!
『アキ隊長、今のアンタには……オレはついていけない』
『……そっか、ごめんね。セッちゃん。今まで副隊長ありがとね』
異動先を粛々と受け入れている私を見て、彼女が言ったセリフ。
怒らせてしまったのも分かる。彼女の目に私はどんな風に映っていたのかも。SRTを売った裏切り者として、あるいは権力に屈した臆病者として、そう罵られるのは覚悟していた。
ただ、初めて見る泣きそうな彼女の顔を見て、足元から冷たい水が全身に上ってくるような感覚を味わった。
吐く息が寒い。溺れているかのように息が出来ない。
それでも、私は決めたことをやり通さなければいけない。何も選択しないことを受け入れてしまったのだから。
──私が何かしたところで、大人の思惑は変えられない。
──私が何をしても、世界は見てくれない。
と、悲劇のヒロインを気取っていたかったのだけど、そもそもこんな現状になっているのも不知火カヤとかいうペッタンピンクのせいなわけで。それとは別人なのだが目の前にもピンクの怪獣が迫っている。
やっぱりイライラしてきた。溢れ出る激情が止められそうにもない。ちょっとばかり言ってもいいよね?
「いいよね、アンタはさぁ!!! 一人でなんでも解決できそうなくらいにも強いもんね!!」
「うへ?」
「所詮私は、なーんも出来ない添え物ですよーだ!!」
「ちょ、ちょっと待って!! 何?」
まったくもって見当違いの不満をまくしたてる私に本気で困惑したのか、ふざけた態度が鳴りを潜め困惑する彼女。その動揺を見逃せるほどに、SRTの訓練は甘いものでは断じてない。
──瞬時、反射的に身体が動きだす。
左手に構えた盾を、フリスビーのように投げつけるっ!!
やっぱりこの身体、キヴォトス基準でもだいぶおかしくないだろうか?
「なっ、うぇ!?」
素っ頓狂な声を上げながらも叩き落す動作を挟む彼女に向け、すかさずスモークグレネードを投擲し、そのまま砂を蹴りあげる。
疾走というよりも、もはや跳躍と言った体で一気に距離を詰める。
噂になる程に強い相手だ。煙幕下でも、こちらを捉えているのは間違いない。こんな状況にもすぐさま対応しショットガンが飛んでくるのも予想済み。
付け入る隙などほぼ無い、と断じていい。だが、一つ。奇妙な事に、彼女は盾の練度だけが高水準過ぎる他と比べると幾分かつけ込みようがあった。
SRTの大口径のハンドガンならまだしも、今手元にあるヴァルキューレの制式採用の拳銃を撃ったところで、あの分厚い盾には全く効果などない。故に盾を持っている左腕方向からは普通は攻め込まない。それが常識であり模範的な攻め方だ。
──だからこそ、私は『逆』を突く。
幸い足場は砂だ。多少の怪我なら許容範囲。
一足飛びに盾に向かい、硬そうな盾に体当たりした。格闘に持ち込めば、流石にこちらに算段がある。組み伏せられても砂だし許して欲しい。と思った刹那だった。
『手ごたえが少な過ぎる』
もうすでに小鳥遊ホシノは、盾の向こうにいない!?
体当たりの勢いは殺せずに地面に突き刺さった盾ごと倒れ込む。その瞬間の0.1秒以下の速さで脳みそからはじき出された答え。地面についている足を突っ張り、勢いを更につけ、もっと前へと転がり込むことだった。
ゴロゴロゴロゴロ前転し、服、耳、口の中に砂が混ざり込む。だがそんなことすらも気にする余裕などなく、
──瞬時に、背後に立つ人影に拳銃を突きつけたっ!!
「うへ~、参ったなぁ。コレもだめかぁ」
立ち込めたスモークや、もうもうと舞い上がる砂煙が晴れ、月光の元に姿が晒される。
ショットガンの銃口がこちらを捉えて離さない。そして私も、立ち膝のままに彼女に銃口を突きつけていた。
一瞬の静寂。風が砂を攫って行く。
そうして、お互いに銃を下ろしあう。沈黙の一瞬を経て、先に口を開いたのは彼女の方からだった。
「気迫といい、ほんとに只者じゃないよね? 何者?」
「だから、ヴァルキューレって……あぁ、もう!!」
銃を下ろしたものの、未だに警戒色を見せたままの彼女の顔を見て、もう一度イラっときた。
「元SRT学園所属DOGGY小隊長近藤アキ!! 並びに、現ヴァルキューレ生活安全課アビドス派出所勤務!! これで満足!? 小鳥遊ホシノ!!!」
「うへ!? 何で私の名前を!!」
「DOGGY小隊は工兵隊及び、諜報のスペシャリスト。これくらいは当然」
「ちょ、ちょっと怖いんだけど」
その問答があった後に、一呼吸。というか深呼吸。
「あのさ……まずは話し合いからしませんか? 私もあんまり怒るの得意じゃなくて」
「うへ~、まぁ、そだよね~」
「話しあいで解決出来るなら、それが一番ですからね」
「……うん、そうだね」
という顛末があって、派出所に着任した後も眠れなくて始めた夜のパトロールで出会ったりして、そこそこの信頼関係を築いてきたわけではあるんだけど……。
やっぱり人って根っこは変わらないですよね!!
◇◇◇◇◇◇
ロッカーで装備を取り出していく。防弾チョッキに制式採用型リボルバー、そして、KSPと刻印されたラウンドシールド。手入れは欠かさずに行っているのでピカピカだ。それしか、やることがないとも言える。
「さて、そろそろ動きがあるはず……」
小鳥遊ホシノが事実上の降伏宣言を行ってしまえば、カイザーコーポレーションの動きは活発化するだろう。
契約の裏を見ればわかる。騙し討ちのような債権の取り立て、強引な土地開発に傭兵を使った嫌がらせ。おそらく彼女に持ち掛けた取引もとんでもない裏があるに違いない訳で……。
それを武力で止めるかどうかはともかく、頼まれてしまったからには、全力で保護に向かおう。
「『大人』が約束なんて、守るはずないのに……」
ぽつり、と呟いた言葉は誰にも届かずに虚空に消える。
そうして、時間だけが過ぎていく。そう思った矢先。
──電話が鳴り響いた。