元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第41話

 誰かを救おうとする度に「私にそんな資格が存在するのか?」という問いが頭に浮かぶ。

 親友(ユキノ)も、もっとも信頼していた副隊長(セッちゃん)も、かつて持っていた信頼も私の行動の結果、全て取りこぼした。思い返す度に暗い気持ちになる。

 その度にキヴォトスに来る前の過去が甘く、そして吐き気を伴う臭いように纏わりついている事を自覚するのだ。汚い自分だ、打算もある。そうすれば嫌われないという狙いだってある。

 けれど、それでいいと言ってくれる人がいた。過去は変わらないし、それでも私の芯はきっと変化しない。

 

 偽善を押し付けて私は走っていく。

 唯一信頼できそうな『大人』が近くで見守っていてくれるから。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 「あ、ワンちゃんだ~! 来てたんだ!」

 「アスナさん、どうも……ぐえっ!」

 「先生も来た! 次は先生もやってあげるから待っててね」

 

 柔らかいモノがすっ飛んできて押し倒される。驚異の胸囲が私を包んで、良い香りだけど窒息して死ぬぅ! とジタバタ引き剝がそうと藻掻いた。

 そんな事をやっていたら、ネルさんとユズちゃんが引き剥がしてくれた。だけど「あ、アキさん、そういうの良くないです」と、何故か怒られたし、ユズちゃんの目が怖い。なんでぇ。

 

 閑話休題。そんなひと幕があった後、コントロールタワーに先に到着していたC&C達と事の顛末を共有する事になった。

 向こうはリオの側についているメイドで、私の寝込みを襲った(?)コールサイン04(ゼロフォー) 飛鳥馬トキさんと戦闘になっていたのだけど、途中で離脱されたらしい。「次は絶対にケリをつけてやるよ」とネルさんは息巻いていた。

 

 こちらもアバンギャルド君の勇姿を伝えた後に一息。眼前に見えるコントロールタワーを見上げる。「エリドゥ」の中心に聳え立つ巨大な建造物は、空に浮かぶ月すらも突き刺してしまえそうな高さで私達を見下ろしている。

 

 ──チヒロ、このタワーにアリスがいるの?

 『その……会長が言っていたんだよね? アリスのヘイローを破壊するって』

 

 その言葉に顔をしかめる。事故とはいえ似たような事に関わって決別した親友(ユキノ)が頭に浮かんだ。同じ顔はもう見たくない。だからこそ、必ず止めなければ。

 チヒロさんがコンソールを叩きながら、「そのタワーにはエリドゥの全ての電力が集中する仕組みになっている」としながら、タワーのデータを盗み取ろう(ハッキング)とする。発される警告音に眉を潜めながら、ポツリと呟く。

 

 『ただ、残念だけど、あの会長がそんな重要拠点をもぬけの殻にするわけ、ないよね』

 「──お待ちしておりました。先輩方、先生、それにお客様も」

 

 その言葉に示唆されるようにコントロールタワーの入り口正面に人影が一人、そこに立っていた。

 見覚えのある金色のシニョンに、ビスクドールのような美しい顔立ちのメイドさん。飛鳥馬トキさんが立ちふさがるように現れた。

 満を持しての登場に「また会えたね、やっほー」「あぁん、何だよ、さっきは尻尾を巻いて逃げ出したくせに」とC&C達(トキさんの先輩方)から暖かい声が浴びせられる。

 続いてリオの顔が空中に浮かび、「作戦変更はあなた達の特権ではないわ」とこちらの野次に対して素敵な返答を頂いた。

 そんな様子を目を逸らさずに見つめていたが、映像が目を合わせてくれることはなかった。ケチ!

 

 『アバンギャルド君の制御権の略取、そしてC&Cのデータ以上の活躍。想定された防衛システムを突破してきた。想定以上、という他無いわ』

 

 私の計算を狂わせる想定外の変数の実現。それも『大人』である、貴方がさせたのかしら? と先生を見つめ、そして、こちらにも一瞬目を向けた。なので、手を振っておいた。きゃーリオちゃーん。あっ、すぐに逸らされた。ケチ!!

 咳ばらいをした彼女は「貴方達が規格外の力を見せるのであれば、こちらも相応の切り札を出すだけ」と冷たく言い放つと、静かに佇むトキさんに視線を下ろす。

 

 『トキ。現時刻を持って【アビ・エシュフ(Abi-Eshuh)】の使用を許可するわ』

 「……リオ様、それは」

 『えぇ、本来は「名も無き神々の王女」との戦闘用だけど仕方ないわ。ここで阻止できなければ、全てが無に帰すのだから』

 「……イエス、マム」

 

 彼女は短く頷くと「パワードスーツシステム、「アビ・エシュフ」へ移行します」と短く告げた。

 その瞬間、上空より()()が飛来し、激しい衝撃音と、地面が砕け弾けた衝撃で礫となったタイルが飛んでくる。

 

 「い、一体何!?」

 

 思わず庇ってしまった瞳を開けると、目の前には()()が立っていた。人体を一回り大きくしたような外部装甲に包まれるように、レオタードのようなスーツを纏ったトキさんが機械的なバイザーを装着し鎮座している。

 巨大な武器を支える為に肥大化した両腕、死角をカバーする為に備えつけられた肩の大型装甲。そして、背中には二門の砲塔を背負い、それを支える為に人の三倍はあろうかと思われる太さのマシンレッグがコンクリートを砕く。物々しい出で立ちに全身が冷や汗を流す中、両腕に三門づつ備えたミニガンが今にも7.62mmの雨を降らせんと、こちらを向いていた。

 

 「アビ・エシュフ展開完了。戦闘──開始します」

 

 彼女がポツリと呟くと、パワードスーツが一歩踏み出し、飛び散ったコンクリート片を粉々にした。巨体に見合う大した迫力だ。しかし、こちらだって変身シーンを黙って見ていたわけではない。

 彼女の動きに全員が反応し、アサルトライフル、スナイパーライフル、サブマシンガン、グレネード、ハンドガン、様々な種別の銃器が装甲を纏った一人に向けられる。その中心にいる彼女が動き出す前に全員のトリガーが引かれ、数多の銃弾が躍った。

 鈍重そうな見た目に寄らず、素早く動き回る彼女の足元にカリンさんの狙撃が突き刺さる。そして動きを止めたところを見逃さずにすかさず放ったユズちゃんのグレネードと、アカネさんが投げた爆弾が炸裂し、轟音と共に爆炎が上がった。

 熱風が顔に当たり、硝煙の臭いが鼻につく。目を逸らしたくなるのを我慢しながら煙の中を注視した。

 

 「や、やった……?」

 「お姉ちゃん、今それを言ったら……」

 

 一瞬の緊張感の後、それは瞬時に起こった。

 硝煙の晴れた先、無傷のトキさんがそこに立っていた。「嘘……」と、誰かが零した声がやたらと鮮明に聞こえた。一部を除く全員が虚を突かれた形になった中、注視し続けた私と「関係ねぇ、何度でもぶっ飛ばすだけだ」と声を上げたネルさんが機先を制して動く。

 地を蹴り、二人でトキさんに肉薄する。交互に攻撃をくり返し、速度で狙いを絞らせないように動き回り翻弄するも、それでも決定打は与えられず万事休した。

 攻めあぐねている中、リオの声が突如として戦場に響き渡る。

 

 『この「武装」は元々全ての事態を想定し、「エリドゥ」と連動して創られたモノ。それ故にこの都市の演算機能を全てつぎ込む事が出来る』

 

 効率的にあなた達の攻撃を無効化し反撃を可能としているの、と、聞こえた言葉に全員が戦慄する。その説明を裏付ける様にチヒロさんが「あり得ないエネルギー数値が集約されている。これじゃあ、未来予知に近い事だって不可能じゃないっ!」と珍しく切羽詰まった声が更に全員の動きを氷漬けにした。

 実際その予想は正しいのか、圧倒的な人数有利であるにもかかわらず、誰もが彼女の大柄な動きを捉えられずに決定打を逃している。コンクリートを削り、ビルの側面が抉られて鉄筋が見える程の火力が集中しようとも、トキさんの駆ける『武装』は分厚い装甲と人智を超えた演算能力で全てを無意味にする。

 まるでゲームで言う無敵状態のように圧倒的な火力と、機動力、そして防御力を押し付けてくる。モモイちゃんが良く言っている『無理ゲーじゃんこんなの!』状態だ。

 

 『その指揮能力を奪取して、そちらの思惑を終わらせるわ。先生を確保しなさい、トキ』

 「イエス、マム」

 

 ロックオンされた先生がたじろぎ、生身のままにトキさんを見つめる。状況は芳しくない。この状態で彼が奪われてしまえばゲームオーバーだ。

 それを防ぐために咄嗟に私が飛び出すと、一瞬、彼女の動きが揺らぐ。その行動に違和感が過る(よぎる)も、すかさず彼女の両脚を狙ってトリガーを引く。アスファルトに銃痕を描いて弾丸が迫る。しかし、重そうな装備が嘘のように身軽に飛び跳ねて躱されてしまった。

 

 「この装備だと、抜けないかも……」

 

 ポツリ、と泣きごとを零す。完全に弾が当たらないわけではない。ただ十万人以上は軽く収容できそうな都市のリソースを全てつぎ込まれた演算能力。それが致命傷を全て避け、問題にならない部位だけがかすり傷となって残る。つまり全くもって有効打が打てない。それが更に絶望感を煽ってくる。

 接近し、剥き出しの生身を狙えばチャンスはあるかもしれないが、両門の三連ミニガンに細切れにされる前に辿りつくのは非現実的だ。

 

 前衛を一緒に担当していたC&Cの皆が力尽き始め、先生を含めた全員の顔が影が差し始める。私もまた勝てるかどうかではなく、傷をつけられるかどうかに思考が切り替わり始めているのを自覚して即座にその考えを振り払った。 

 その時、先生が咄嗟に上を向く。天を衝く摩天楼達が聳え立つ空を見て、「ネル、アキ、上だ!」と声を上げる。耳がピクリと動き、先生を振り向く瞬間、私の横をネルさんが駆け抜けていった。先生に「策があんだな?」と、ネルさんが問いかけると、先生は頷く。それにニヤリと笑顔で応えて、先生が担ぎ上げられ凄いスピードで動き出す。それを慌てて追いかけると、トキさんも後ろから追撃してくる。

 視界のビルが次々と流れていく。電柱を蹴り、信号機を踏み台に高く跳ねる。側面に見えるビルの壁を蹴ると、直後に7.62mmの集中豪雨が足跡ごと削り取った。思わずはっ、と息を吞んで、更に足に込める力を増した。

 シキから聞いた今回の事。廃墟群で見かけた「Divi:sion」の軍勢。それをコントロールし、世界を破滅させるとされている「名も無き神々の王女」。それに対抗するための「アビ・エシュフ」。

 

 「廃墟群の機械といい、他人事に思えないんだよね!」

 

 廃墟群の機械群のコントロールを可能だったり、アリスちゃんが暴走した時に聞こえた声だったり、無関係ではいられない事は感じている。きっと、キヴォトスに意識だけが飛んできてこうしてやり直している事にも意味があるのだろう。

 今の両親と言える人は自分の娘だと言ってくれた。けれど、当時、ここに来たばかりの時は、生前の記憶に囚われて、自身に獣の耳があって、機械が歩き回っている世界に馴染めずにひたすらに周囲を拒絶していた。だから、本当の事は聞けていない。 

 

 ボロボロの扉が一瞬視界に映って消えた。

 私の過去を映し出すもの。トラウマのスイッチみたいなものだと思っていたけど、それにもいつかちゃんと向き合う時が来るのだろうか。この出力がおかしい身体も、機械を操る能力も。そして、全てを受け止める事はできるのだろうか?

 

 雑念を振り払い、前を向く。今は自分の事は後回しだ。やりたいことも、やらなければならない事も山積みなのだから。前を行く先生を見ると走り回る事を止めて、別の行動に移っていた。

 

 「ビルの上に向かった……?」

 

 先程「上だ!」と先生は叫んでいた。頭の中で反芻しながら追いすがるトキさんにワンマガジンをプレゼントする。機敏な動きでそれを躱した姿を見て、随分と回避プログラムが優秀だ。という舌打ちしたくなるような思いが重なってピンと来た。

 「上から叩き落して、落下プログラム対策……!」と、小さく言葉を吐き出す。狙いは読めた。であれば、それを実現しやすい様に動くのみだ。

 

 「優しそうな顔をして、とんでもない事を思いつくなぁ」

 

 彼を好きな人、苦労しそうだよね。と、ぼやきつつ、ぐっ、と膝を曲げ、地面を大きく踏み込んだ。ふわり、と浮遊感を感じ、内臓がこそばゆくなる感覚が身体を駆け回る。そして、そのままビルの壁面に足を掛けて、一気に駆け上がった! 

 5階程度であればやったことはあれど、20階はありそうな高さを駆けた事は無い。重力に身体が逆らう感覚をひしひしと感じながら、身体が落ちる前にすぐさま片足を踏み出す。漏れ出そうになる悲鳴を噛み殺しながらも、地面とはほぼ直角にビルの壁面をひた走る。

 しかし、それも長くは続かなかった。10数階程度登ったところで「アビ・エシュフ」が追いついてくる。正確には彼女は走って追いついてきたわけではない。一息に跳躍したのだ。眼下にはいつの間にかパワードスーツに取り付けられた、背面の追加ブースターが地上に落下するのが見えた。いや、そんなのアリ!?

 

 『上空なら逃げられると思ったかしら? 残念ながらあらゆる事態を想定しているの』

 「ということです、アキ先輩。これ以上、怪我を増やすのはよろしく無いかと」

 「ほんっとにチートじみてるね!! そのオモチャっ!!」

 

 尚も上昇の余力が残っている彼女のパワードスーツに悪態を吐きながら、壁面を思いっきり踏み切った。身体が未来都市の上空に投げ出される。その直後に「アビ・エシュフ」の攻撃が叩き込まれ、ガラスが粉々になったのが視界の端に映る。

 当然、重力に逆らう足が無くなれば、私の身体は世の理に従って落ちるだけだ。空中で掴むものもなく次の彼女の攻撃は避ける事すらままならないだろう。

 

 「残念ながら、これで終わりです。アキ先輩。空中では私の攻撃を避ける事すら……まさかっ!?」

 「そのまさかだよ、トキさんっ!!」

 

 メガロポリスの眩い照明に映し出された銀色の月。その丸く美しい鏡像に()が映った。

 ホワイトブリムを乗せた赤に近い茶髪を風に靡かせ、金の龍をあしらったスカジャンがはためく姿が私達の遥か上空に躍り出るっ!!

 

 「大した度胸じゃねぇか、アキ!!!」

 「後は任せましたよ!! ──ネルさん!!」

 

 重力に従い落ちていく中で、先程の逆再生の様にビルを駆け下りるネルさんの姿が映る。トキさんも想定外だったようで驚きの声を上げていた。

 しかし、即座に体制を立て直し、片腕をビルに突っ込んでブレーキの役割を果たす。金属を引きずるような耳に響く音と、ガラス、コンクリートの破砕音が辺り一面に響くが、それすらも覆い隠す発砲音が上空に響き渡る。

 

 「てめえのご自慢の演算能力も、自由落下なら関係ねぇよなぁ!!」

 「くっ……!! キャリブレーションを取りつつ、ゼロ・モーメントポイントポイントの再設定。メタ運動野パラメータを更新完了。落下偏差、コリオリ偏差修正完了。落下地点予想から着地まで約10,9……!」

 「いってぇな!? こんな状態でも正確に狙えんのかよっ、どんなチートだっ!!」

 ──ネル!!?

 

 何処からか先生の声が響く。思わず私も、「嘘……」と声が漏れてしまった。眼前で起きた事が信じられない。多少の動揺はあったものの、トキさんは即座に立て直し、正確な射撃をネルさんに浴びせ、私達が作り上げたフィールドで互角以上に戦っているのだ。私達の想像の上を行ったリオの技術と、トキさんの戦闘能力に思わず舌を巻く。

 そのままに私達は地面へと激突した。キヴォトス人であれば即死は無いが、相当な高さから落ちればもちろん痛い。地面に転がる様に五点接地を成功させても、身体のあちこちが激痛で悲鳴を上げた。

 そして、それすらも叶わずに激突したネルさんは一度は立ち上がったものの、「……あいつは、どうなった?」という呟きと共に、地面に倒れた。

 

 「ネルさんっ!?」

 ──ネル! アキ!! 

 

 いつの間にか降りてきていた先生が駆け寄ってくる。気が付くと、他の皆も追いついてきたようで、周りの皆も駆け寄ってきているのが見えた。

 激痛を噛み殺しながら眼前のトキさんを見る。衝撃によるクレーターがぽっかりと地面に刻まれている。その中で、彼女はいとも容易く立ち上がった。

 

 「任務、続行………可能。くっ!」

 「まだ動ける……!」

 『でも、揺らいだ! モモイ、今!!』

 

 チヒロさんの声が響く。瞬時にモモイちゃんが閃光弾を投げつけ、視界が消えた。退却の合図だ。私もまた退くべきだ。瞬時に踵を返そうとした時、クレーターの中に一人で立ち尽くすトキさんの姿が目に入った。

 傷だらけの私を命令によって襲った彼女。本来であれば私は怒るべきなのかもしれない。憎んで、唾棄すべき存在と見るべきなのかもしれない。

 

 『おやすみなさい、リオ様の理解者になれたかも知れない人』

 

 けれど、あの時、彼女が浮かべていた表情は──。

 迷うような、悲しむような、そんな胸が苦しくなるような顔だった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 フラッシュバン、そして、アカネさんの放ったスモークが晴れた後、先ほどの戦闘が嘘のように静寂が戻る。

 クレーターから這い出たパワードスーツの巨体が、一息つくように武装を地面に向ける。そして、バイザーを上げた。

 

 「一部機能の損傷確認……追いますか?」

 「──それはさせられないかな」

 

 激痛に呻く身体を押してトキさんの前に立ちふさがる。即座に彼女が応戦モードに入るが、それを両手を挙げることで停戦の意を示した。その態度に怪訝そうな顔を浮かべた彼女。武器は互いに保持したままに、奇妙な睨み合いが発生した。

 

 「リオ様……彼女の目的は……?」

 『近藤アキ、投降でもしにきたのかしら?』

 「違うよ。でも、戦闘する気も無いかな」

 

 リオの問いに首を振る。今の私の装備では彼女に有効的な攻撃は不可能であり、戦闘したところでまず私が負ける。その時点で撤退しなかったのは判断ミスと言わざるを得ない。

 けれど、どうしてもやりたい事があってここに自分の意思で残ってしまった。最悪、怪我では済まないし、そうなったら後で先生に怒られる、と思う。

 

 「……ここに貴女達を釘付けにする為に残ったの」

 

 私の言葉に「何をする気かは分からないけれど、アビ・エシュフに勝てるとも思わないわ」とリオが言う。

 しかし、それに対して私は一つの確信を持っていた。「アビ・エシュフを扱うトキさん」には勝てない。けれど名も無き神々の王女と戦う為の技術と言えども、「アビ・エシュフ本体」はパワードスーツであり、それは機械だ。であるならば、私がコントロールを得る事だって不可能では無い。

 きっと、身体の何処かの部位を捨てる覚悟で挑めば、それは充分に叶う。と私はトキさんが「アビ・エシュフ」を纏った時からそう思っていた。

 

 「本気で……それを実行しようと……? アビ・エシュフの火力を真正面から……?」

 

 トキさんは真顔で冷や汗をかく。

 私だって進んでやりたい訳じゃない、けれど、そうしなければ私一人で勝つことは難しいのだ。実際、冷静に考えるのなら戦力的には悪くないトレードだと思う。

 

 『……そうね、名も無き神々の力を使っているのであれば、おそらくあなたは起動、コントロールが可能』

 「だから、私に攻撃を加える事は得策ではなく、かと言って、私を無視することも難しい」 

 

 一か八かが出来るということ。その一点が私にとっての武器であり、それが彼女達をここに縫い付ける理由に成り得る。時間を稼ぎ、先生たちに打開策を練って貰う。というのが建前だ。

 

 『あなたはアリスを助ける為にここに来たのでしょう? タイムリミットの考慮は? 全くもって非合理的に映るのだけど』

 「ううん、違うよ。リオ」

 

 再度、首を振って画面越しに彼女を見る。目を見開くリオに笑ってみせると、彼女は首を傾げて私を見返す。

 ようやく、リオと目が合った気がした。

 

 「私はね、アリスちゃんと、リオ、二人を助けに来たんだよ?」

 『アキ、あなたは……』 

 

 そして先程、もう一人増えた。

 目の前にいるトキさんに目を向け一歩近づく。揺れる碧眼の双眸が、私を見返した。

 

 ここに残った本当の理由。それは私が私であるための目的であり、身体に走る激痛を無視してでも、ここに立っていられるたった一つのシンプルな答え。

 

 「それに貴女にも手を伸ばしてみたいって思ったんだ。ねぇ、飛鳥馬トキさん。──私とお話しませんか?」

 

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