元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

42 / 46
第42話

 戦場から落ち延びるように、トキから逃げ出した先生たちは息を切らして足を投げ出していた。

 ヘイローを持たない(キヴォトス人ではない)先生は一日中走り回り、既に全身に乳酸が溜まり悲鳴を上げている。他の生徒達も戦闘続きの疲弊で息を切らしていたいたり、柱に寄りかかったりとボロボロの有様あった。

 その中で一人、しきりに首を動かして周囲を見渡す人物がいた。桃色のヘッドセットがしきりに左右を見渡している。モモイの動きはだんだんとそれは早くなり、焦燥が募り、ついには声が漏れる。

 

 「あれ……? アキさんは?」

 「え? 嘘? まさか私達を逃がす為に……?」

 

 双子の呟きに全員が反応し、色を失い始めた。

 アキの不在が確定して動揺が波紋の様に広がっていく。特にゲーム開発部のメンバーはモモイを庇って大怪我を負い、意識が戻らずにベッドに伏せるアキの姿はゲーム開発部のメンバーには記憶に新しい。

 アビ・エシュフに一人で立ち向かう彼女の姿と、目の前で起きた惨状が重なり、一気に表情が暗くなりはじめる。

 

 「う、嘘……だって、あんなに強い相手なんだよ……? アキさんが死んじゃう……っ!」

 「アリスちゃんも、アキさんも居なくなっちゃうなんて、こんなバッドエンド、イヤだよ……」

 「ここでじっとしてられない!! 皆で助けに行こうよ!!」

 

 動揺が最高潮に達し、ミドリは震え、ユズは表情を曇らせる。それをモモイが抱き着くようにして励まして外へと駆け出そうとした。

 その時、「待て」と、彼女達の背中をネルの声が捕まえる。あばらの辺りを抑えながらよろよろと立ち上がり、三人の前に立ちはだかった。

 負傷の具合が一番ひどい彼女。流れる血とボロボロのメイド服でありながらも目は死んでいない。ネルは「ちっ、腱が切れてやがる」と顔をしかめながら、語りだした。

 

 「あいつは強ぇ。たぶん勝算があっての事だ。アタシ達はこのままじゃ勝てねぇ。だから、アイツの稼いだ時間を無駄にしない為にも策を練るぞ」

 ──そうだね……ネルの言う通りかもしれないね。

 

 先生は強く握り込んだ拳を隠しながら、ネルの言葉に頷いた。

 このままでは勝つこともままならない。全員が殿として残って時間を稼いだアキの事を案じながら、トキの操るアビ・エシュフの対策を講じることにした。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 そんな一幕が起こっている事もつゆ知らず、私はトキさんと楽しい(?)お話タイムに突入していた。

 目の前のトキさんは「私とお話しませんか?」という言葉に動揺を隠せないでいた。

 

 「何の真似……ですか?」

 「あー、えっと、そうだよね。いきなり言われても困るよね。そうだな……あなたの事を知りたいの」

 

 ずっと警戒の色を込めて見返されていた目が逸らされた。「私の事を知っても、戦況に大きな変化はないと思われますが」と、彼女は言う。

 トキさんの彷徨っていた目が庇っていた左腕で止まる。さっきから痛みが酷くて無意識で庇っていた箇所。だんだんと熱を持ってきているからヒビぐらいは入っているかもしれない。ビルの10階以上から落ちて死んでないの素直にキヴォトス人ボディのスペックに驚くばかりだ。

 怪我をしている私を見て、彼女は眉を潜める。

  

 「私は無抵抗で怪我人の貴女を襲いました。それを怒っていたり憎んでいたりしないのですか……?」

 「まぁ、痛かったといえば痛かったかな……? でもね、怒るより先に『話したい』って思ったんだ」

 

 うっすらと垣間見えてきた彼女の本音。迷っているようなそんな表情にただ手を伸ばす。自然とそうしてしまう程に、あの時の二人は、どちらも悲しそうな顔を浮かべていた。

 それは互いに撃ち合ってしまったユキノを思い返してしまうもので、私にとって絶対に見過ごす事の出来ないものであった。撃たれたのが私で良かったと心の底から思う。それならば()()()()()()()()()()()()()()

 そんな悲しそうな表情を浮かべた子を放ってはおけない。それを伝えるとトキさんの険しい顔が驚きに変わっていく。「私は表情を浮かべていなかったと思いますが」と無表情なのに表情が揺れる。少しだけ可愛い気がしてきた。

 彼女の態度にクスリ、と笑い、私の目指す事を言う。決別してしまった二人にはもう出来なくて、だからこそ、これからはやっていきたいという、()()()()()()()()()()()

 

 「それにさ、どちらかがやり返さずに許して、それがキッカケでもう片方も許せるなら……きっとそれって良いことだと思うんだ」

 「……リオ様があなたの事をよく話して下さった理由が分かりました」

  

 ですが、と、片腕が私に向けられる。「今はミッション中です。私情を挟まず任務を遂行します」と、私を軽く吹き飛ばせそうな銃口が視界一杯に広がっている。無機質なそれが根源的な恐怖を引き起こして背筋に悪寒が走ったのを無視して、彼女の瞳を見つめ返した。綺麗な蒼色の瞳がまた揺れる。

 

 「正直、あなたの行動が不可解です。私がその気になれば、貴女は大怪我を負う。……何故、そこまで自己を顧みないのですか?」

 「私が犬のおまわりさんを目指しているから、かな」

 「……? 何ですかそれは」

 

 迷子の迷子のって聞いたことない? と聞いてみて、そう言えばこちらにこの歌が伝わっているのか知らなかった。だからもっと単純に言葉にする。

 

 「困っている子や、迷っている子に手を差し伸べたいんだ。それが結果、私も一緒に泣くことになっても」

 

 痛いのは怖い。元々は日本人だった感性だから銃を向けられれば、固まってしまいたくもなる。でも、両腕じゃ抱えきれない程に大切なものがたくさんあって、私の身の一つでそれを解決できるのであれば掴もうと手を伸ばしてしまう。

 本当は一つも無くしたくなんてないのだろう、誰だってそうだ。だから、私の一部分から無くして、誰かに渡せばいい。そうして世界は廻っている。

 私達は泣いて、苦しんで、それでも生きていかないといけない。転生前から変わらない真理の一つだ。それでも私は、もう一度生きてみたい、と願った気がするから。誰かに手を伸ばして一緒に泣こうって決めたんだ。

 

 彼女の眉が少しだけ動いた。無表情に見えるけど、感情面は相当豊かな子なのかもしれない。

 

 「だからね、トキさん。私はやり返さないよ」

 

 許しあうのも認め合うのも、まずは話してからじゃないと分からない。こっちも許す準備をしておかないと、これから先、誰かを許してあげるのが難しくなっちゃうかもしれないから。と、私は両手から武器を落とした。

 武器が転がった音が耳に届く。双方が理解し合うために武器を下ろす。キヴォトスだときっと難しいかもしれない行為。だけど、これをやる事によって開ける(ルート)があると私は信じたい。

 私の態度にトキさんもまた戸惑いながら、両腕を降ろした。

 

 『トキ……!?』

 「私は……懐柔された訳ではありません。脅威は無し、と感じただけです」

 「リオ、一緒に話さない? もしかしたら……あっ、逃げた」

 

 通話が切れて、画面が消えた。ケチだなぁ、と頭を掻いていると、トキさんが口を開く。

 

 「リオ様のことを少しでも理解されていて、なぜ反目し合うのですか?」

 「んー、トキさんはさ。喧嘩できる友達っているかな」

 

 彼女は首を短く振った。

 そっか、と言い、今は私もかな、と笑った。

 

 「そしたら、もう一つ部活に入ってみるといいよ。出来ればある程度自由で、同じ学年がいる部活に」

 「アキ先輩は部活に入ってますか? もし、一緒に……」 

 「私!? 私のところはさ、ほら……部活じゃなくてお仕事に近いかも」

 

 それこそC&Cのような武装組織に近いものであるし、同学年も居なくはないけど……。と言っていると、トキさんが「それでも、少しだけ興味はあります」と小さく答えたので、「今度、私の仕事場においで」と誘ってみた。すると彼女は小さく頷く。それが嬉しくて思わず笑みが零れた。

 少しだけ縮まったように感じる心の距離。それを更に埋める様に一歩、また一歩と近づいて、武器を握り込んでいる手を包むようにして両手を重ねた。

 

 「話してくれて、ありがとう。トキさん。こんな私だけど、少しでも興味を持ってくれて嬉しいな」

 

 今は味方にはなれないけれど、今の事が全部終わったら、ゲーム開発部のメンバーやC&Cのメンバー含めて色々と紹介するね。と彼女に告げる。

 それを聞いたトキさんの目が見開かれ、押し黙る。そして震えた声を絞り出すように発した。

 

 「もし、私が……無抵抗のあなたを撃った私が……今、迷っていたとしたら、アキ先輩は手を差し伸べてくれますか?」

 『トキ、何をっ!』

 「もちろん! 私は手が届くなら誰だって助けたい。……それが私の願い。だから、何でも相談してね」

 

 リオもだよ、と割り込んできた彼女に視線を向けると、すぐに彼女は目を逸らす。そんなに逃げなくたっていいのに、と口先を尖らせた。

 トキさんに改めて向き合う。彼女内面が少しだけ見えた気がして、笑顔が自然と浮かんだ。向こうもかすかではあるが、口元に微笑みをたたえている。

 

 「アキ先輩、ありがとうございます。心の奥底にあった棘のようなものが取れました」

 

 怪我を負った事も、そして、その命令を下したことも、リオ様は表に出さずに気に病んでおりました。当然、実行した私も気に病んでいたのかもしれません。それを救ってくれて、ありがとうございます。とトキさんは言う。

 だが、それでも、とトキさんは首を振った。

 

 「私はリオ様に恩があり、こうしてメイド服を身を包んでいます。それを曲げるのは⋯⋯今は、出来ません」

 「そっか……じゃあ、これより先は平行線だね」

 

 えぇ、とトキさんも頷く。忠義も主義も互いに存在する。譲れないものがあるから私達は戦い合う。回避したくても出来ないものはある。

 取り合っていた両手を離して、地面に落ちた武器を拾った。そして互いに睨み合おうとした時、後ろから来る足音に気づいた。それは確かな自信を持ってこちら側に向かってくる。

 誰が来たかがすぐに直感され、私は今一度構えていた武器を下ろす。「トキさん……ゴメンね。部活動の諍いや悩みは基本的に部活動内で解決するのがミレニアム式なんだって」と、すっ、と身を引く。

 数多く部活が存在するミレニアムにおいて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のセミナーのお手伝いの時のルールの一つだった。

 どちらにせよ、これより先は、後ろに立つ『こわーい部長』と部活内で心ゆくまで話し合って解決するべき事だ。これからもC&Cとしてトキさんが活動するなら、尚更に重要な事だ。後は部外者が立ち入るべき事ではない。

 

 「わりぃな……アキ。そいつぁ、アタシの獲物だ」

 「何にもしてませんよ。ただ、お話してただけです」

 ──無事でよかった。アキ!

 

 現れたのは、C&Cの部長とその部員達。そして明るい表情を浮かべた先生だった。

 待たせたな。とネルさんが肩を叩く。手伝いますか? と聞くと、「要らねぇ。こいつはアタシ達だけで片付ける」と肩を竦められた。

 驚きの表情を浮かべるトキさんと、ボロボロながらもしっかりと立っているネルさん達。「ちょっと付き合え」とネルさんの声に彼女が身構える。

 

 「待たせたな後輩。もう一度、アタシ達が相手だ」

 「先程、あれ程の戦力差を見せたのに……何故?」

 「あぁ!? 関係ねぇな、勝つまでやる。それだけだ。おら、後輩ども! アタシ達のリベンジマッチだ!」

 ──頼んだよ、ネル!

 

 ネルさんがつっかけて、完璧なタイミングでアスナさんが合わせる。二丁のMPX(ツイン・ドラゴン)と、ミレニアムカラーのFAMAS(サプライズパーティー)から高速で吐き出される弾丸がトキさんが強襲する。回避プログラムによって回避は行われるものの、猛攻を防ぐのが優先され反撃は散発的だ。私が散々泣かされたコンビネーションによって作り出された隙を縫うように、重たく正確な狙撃がカリンさんの対物ライフル(ホークアイ)から発され、55インチ弾がトキさんの足元のコンクリートを打ち砕く。

 僅かばかりに体制を崩されたトキさんが、苦悶の声を上げる。

 

 「くっ、狙撃がまたっ……!!」

 「アカネ、やっちまえ!!!」

 

 その隙を逃さずにネルさんが声を上げる。とウェルロッドMkⅠ(サイレントソリューション)を打ちこんでいたアカネさんが手を止め、アタッシュケースから爆薬を取り出して投げ込んだ。「マオさんから頂いたものも、これで打ち切りですねっ!!」と、元部下の名前を出されて耳を疑うも、眼前に広がった尋常ではない炸裂と爆音を見て、本当だと確信せざるを得なかった。マメちゃん、何てものを……。

 おそらく先程の戦闘では、ゲーム開発部のメンバーもいた為に使えなかったのだろう。現に至近距離に居たネルさんが「アカネぇ!!」と怒号を上げながら、爆風の煽りを食らっている。

 当然、トキさんも無事では済まない筈だけど、と見ると、爆炎の中からアビ・エシュフの機影が飛び出してくる。

 それを追いかけるようにして、アスナさんが迫り、ネルさんもそこに加わる。先生の指示による苛烈な攻撃と防御の繰り返しで戦場が移動し続ける。気が付けば、ひと際高いビルの足元に来ていた。

 インカムから聞こえる声と通信が入り混じる。耳元にリオの声が響いた。

 

 『何度挑もうと無駄な筈なのに、或いは先生の策が……?」

 

 演算による回避を繰り返し、決して有効打を与えられないながらも喰らいつき続ける彼女達。そこにただならぬ何かを感じたようで『トキ、『主砲』の使用を許可するわ』と告げる。

 

 「……イエス、マム!」

 

 その声を聞いたトキさんが【アビ・エシュフ(Abi-Eshuh)】の背部の二門の主砲が肩にマウントするように展開し、脚部の固定用バンカーがコンクリートに撃ち込まれる。ガキン、と音を立てて鋼鉄の杭がアスファルトを貫き、蜘蛛の巣のようなヒビを入れる。突き出された砲門の先がエネルギーを纏い、輝き始める。

 

 「アビ・エシュフ(Abi-Eshuh)主砲展開、エネルギーライン全段直結、チャンバー内加圧正常、ライフリング開始。──撃ちます!」

 「──っ!?」

 

 強烈な光が二本発射され、ネルさんの上げた驚愕の声と共に消し去っていく。

 遠くに立っている私ですら目を瞑らざるを得ない程の閃光が、彼女の身体も、言葉も、全てを呑み込む様に立っていた位置を正確に撃ち抜いていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「──作戦は決まったな。うし、行くか」

 

 まだアキがトキと会話をしている頃。全員がその事を知らずに身を案じながらも作戦を練っていた。ユズがポツリと呟いた事に端を発した作戦の立案にネル以外の誰もが目を丸くしつつも、作戦内容を反芻していた。

 

 「部長、この作戦の成功率は……」

 

 普段のC&Cの頭脳役であるアカネが、そっとネルに耳打ちする。

 実際、これから展開されるのは奇策の類であり、かなり分の悪い賭けだ。その事を案じているのだが、ネルはそれを頭はガシガシと掻いて答えた。

 

 「勝率だの可能性だの、そんな細々とした事はどうでもいい」

 

 くるり、とアカネの方に振り向いて、傷だらけの身体のままに不敵に笑う。

 

 「大事なのは『チビを助けたいか、否か』それだけだろ?」

 

 それだけを口にして、ネルは外へと向かう。同意をした笑顔のC&Cのメンバーが背中を追いかけていった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 閃光が晴れる。一瞬の静寂が訪れた後、誰もが息を呑んだ。

 眩んだ目を開けた先。そこには驚きの表情を浮かべたトキさんと、不敵な笑みを浮かべたネルさんが立っていた。

 

 「『主砲』を耐えた……?」

 「──ようやく、捕まえたなぁ、後輩!!」

 

 コールサイン00(ダブルオー) その名は「約束された勝利の象徴」。

 ミレニアム最高の戦力。ボロボロのスカジャンがはためき、煤けたホワイトブリムがそれでも尚、白く輝いている。あちこち焼き切れたメイド服がまるで歴戦の鎧であるかの様に威風堂々な立ち姿をしていた。

 

 その神々しさに、その場で戦闘していたC&C達も、指示を出していたリオも先生も、そして遠くから見ていた私すらも、動くことはおろか、息をする事さえ忘れていた。

 ただ『一人』、()()()()()を除いて。

 

 ネルさんが動き、トキさんをエレベーターに押し込むように銃弾を押し付け、トドメとばかりに強烈な飛び蹴りを放つ。僅かな放心がアダとなり、トキさんはエレベーターへとよろめきながら入っていく。

 

 『まさか……アビ・エシュフの構造的弱点の再現をエレベーターでっ!? トキ、今すぐにそこから離脱を──!!』

 「もう遅ぇ!!!」

 

 飛び乗る様にして、閉じるエレベーターの扉の中にネルさんが滑り込む。

 

 「覚えとけ生意気な後輩。アタシの間合いに入って勝てる奴なんか、このキヴォトスの何処にもいないってな」

 

 その言葉を最後に扉が閉まり、戦闘は終了した──。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ネルさんはその後、見事にトキさんに勝利していた。

 何でもユズちゃんの考案した作戦で、エレベーターを急上昇させることにより強烈なGを発生させる事により、彼女のアビエシェフの動きを止め機動力を無効化したとかなんとか。

 通常の重力の10倍程の狭い空間の中では自慢の演算能力も、回避能力も形無しであり、その中でタイマンで打ち勝ったらしい。

 よくよく考えると、ネルさん二十階相当から落下する怪我してましたよね? 私よりも更に頑丈な人がゴロゴロ存在するのがキヴォトスの恐ろしいところだ。

 そんな光景を遠巻きから突っ立って見ていたら、後ろが騒がしくなる。ゲーム開発部の皆が私たちに追いついてきていた。真っ先にモモイちゃんが飛び込んできて、その後にミドリちゃん、ユズちゃんと続いた。思わず後ろに倒れそうになる。

 

 「アキさん!! 生きてた!!」

 「怪我とかありませんか? ありますよね! 出してください。ほんとに心配しました⋯⋯」

 「ぶ、無事で、ほんとに良かったです⋯⋯い、痛いところとか、無いですか?」

 

 ごめんね、と皆の頭を撫でる。随分と心配してくれたみたいだ。

 ちなみに先生には後でお話聞かせてね? と、珍しく額に青筋を立てている笑顔が向けられた。いつもの柔和な笑顔とは全く違う表情に、ちょっとゾクッとしたのは口が裂けても言えない。

 

 「でも、ほら、C&Cの皆がやってくれたし、トキさんにもお話聞けたし……」

 「アキさん……?」

 

 ユズちゃんがぐりん、と顔を動かしてきて、ぴぃ、と変な声が漏れた。気が付くと、先生以外も似たり寄ったりの顔になっていた。何か地雷を踏んだらしいという事は分かる。分かるけど……。一件落着じゃないかなぁ!!

 

 「やっぱり、ミレニアムのシェルターとか?」

 「セミナーが反省室持っているらしいよ、お姉ちゃん」

 「か、鍵付きのロッカーとか、ど、どうかな……?」

 

 それだ。と、双子が反応していたが、なんの事を相談しているのか分からずじまいだった。そんな事を話しながらも戦闘の終わった屋上へと上がる。

 そこには満身創痍のネルさんと、それに輪を掛けてズタボロなトキさんがいた。そして、それを囲うようにして、アスナさん、アカネさん、カリンさんが息を上げながら手当てしている。

 いかにミレニアムの保有するエージェント達でも、度重なる激戦の疲労は色濃く出ているようで、全員が息も絶え絶えであった。

 

 「……。アキ、それとチビ共」

 

 ネルさんがよろめきながら立ち上がる。慌てて支えに走ると、トン、と胸に拳が当てられる。そして「後は、頼んだ」と彼女はそのまま気を失った。

 

 「任せて……ください。死んでも、やり遂げますから」

 

 その小さくて大きな身体を軽く抱きしめて、そっと横たえた。勝利の象徴の姿が脳裏に刻まれっぱなしになっていて、脳内でリフレインしている。いつかこういう姿になってみたい、と後輩でもないのに思わされてしまう程にネルさんの姿は勇ましかった。

 そして、近くで倒れ伏しているトキさんに駆け寄る。アカネさんが簡易的に手当てをしている横にいくと、彼女と目が合った。

 

 「アキ、先輩……。ネル先輩、強かったです」

 「部活の先輩ってさ、強いよね」

 「はい……。でも、倒して貰えて、後悔もありますが……。少しだけ、良かったと思えてます」

 

 数々の青あざと、擦り傷、鼻血を出しながらもトキさんは微笑んだ。

 部活内の諍いは、基本的に部活内で完結する。数々の部活が存在するミレニアムにおいて、それは当然の事で、その儀式をキチンと終わらせたトキさんは立派にC&Cのメンバーの一人となった。

 セミナーのお手伝いとして断言する。ミレニアム・サイエンススクールはそういう場所だ。

 

 「……。リオ様のこと、よろしくお願いします」

 「分かった。頑張るよ」

 

 手をぎゅっと握ると、そのまま彼女は眠る様に意識を落とした。

 

 

 立ち上がりコントロールタワーに目をやる。あそこにリオとアリスちゃんがいる。後は乗り込んで、二人を助けだす。──この身に何があろうとも。

 そう意気込んで、託してくれた二人に背を向け、走りだした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。