元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第43話

「あなただって、学園を守るために嫌われ役を買って出たのでしょう?」

「それは想像を絶するくらい……痛いですよ?」

 

 私とリオの決別。思えばあの時、彼女はこちらに手を伸ばそうとしてくれていたのかもしれない。噛み合う事の無かった二人の食い違い。伸ばした手を取っていたらリオとはこうやって対立する事もなかったかもしれない。

 けれど、彼女の手を取る訳にはいかなかった。一つを諦めたら全てを失った私と、同じにはしておけなかった。

 

 だから、全てに手を伸ばす。アリスちゃんも、リオも何も無くさずにトゥルーエンドを迎える為に。

 何と引き換えにしても──必ず。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「……おい、チビ共、アカネとアスナ、カリン。あたしらがここまで繋いできた。後は、一つだろ?」

 

 「ぜってぇ連れ戻せよ」という言葉に背中を押して貰う。

 戦闘の功労者であるC&C達に見送られ、チヒロさんの先導の元、先生、ゲーム開発部の三人と一緒にコントロールタワーに足を踏みいれた。そこには不気味な静寂だけが場を支配していた。

 最低限の警戒を払いつつも、最上階へと踏み入れる。『地図によると、ここの何処かにアリスが居るはず』というチヒロさんの通信に思わず身が息締まる。

 

 「そう、アリスならここに居るわ」

 「会長……!」

 

 モモイちゃんが声を上げ、注意を向けた先。何の武装も罠も無くリオは姿を現した。あからさま過ぎるその姿に警戒が高まる。

 銃は構えず、けれどすぐに最低限の抵抗は出来る様に心構えをしつつ、口を開けた。

 

 「リオ、まだやる気?」

 「トキを失った時点で、私の手札は全て消えた」

 

 淡々と事務事項だけを告げる様に「認めましょう……私の負けよ」と静かに呟いた。そして全てを諦めたかのように瞳を閉じて両手を開き、敵意の無い事を示していた。

 

 ──リオ……。

 

 その態度に、先生を始めとして全員が何も言えなかった。潔さと呆気なさが同居していて、ラストバトルが始まると予想していた全員が肩透かしを食らったからだ。

 私もその中の一人であり、戦闘をしないことを喜びつつも上手く言葉が出てこない。困惑した私の視線と、少しの疲れを浮かべたリオの視線が交錯する。先に目が伏せられたのは彼女の方だった。

 

 「本当に貴女達はここまで来たのね。近い将来、キヴォトスの脅威になる事が確定しているあの子を救う為に──」

 

 遮るものを全て薙ぎ払って……と諦観に満ちた声がコントロールルームに響く。その静寂をかき消す様にモモイちゃんが勢い込んで食って掛かった。

 

 「当たり前だよ! 最初からそう決めてたからね!」

 「アリスが、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 「急に何? アリスの事そんな風に言わないでよ!」

 

 モモイちゃんの語勢に「私はただ……」と、またしても目を逸らす。

 その姿は悪いことをして叱られている子供のようで、とても小さく見えてしまう。セミナーの会長をやっていた時の姿とも、相対者として絶対の力を見せていた彼女の姿とも重ならず、ただただ見ていられなかった。

 怒りが収まらないモモイちゃんを手で制しつつ、先生が前に出る。そして、「何が正しいのは分からないけれど」と、前置きしてから口を開いた。

 

 ──リオは、誰にも相談せずに一人で判断して結論付けた。そして、君が正しいと信じる事を他人に強要した。

 「先生……。貴方も私の行動が独善だと言うの……?」

 

 『大人』の言葉を前に、更に彼女の声が小さくなる。「でも、私は……」と、どんどんと小さくなっていく声に、たまらず前に出てしまった。

 先生の言いたいことはわかる。確かにその言葉は正しい。一度経験して親友も副隊長も去ってしまった痛い目を見た私が保証する。カヤ防衛室長との対話後、しばらく敬語を使って壁を作ってしまった程に後悔の坩堝だ。

 現に胸が痛い。先生の言った言葉がそのまま私の胸に突き刺さって抜けない。痛くて痛くて、今すぐうずくまってしまいたい程に。それぐらい正しくて、耳に痛い言葉。それをリオに投げかけている。先生らしい『大人』のやり方だ。常に先生は()()()

 けれど、それをどう受け取れるかは私達に様々だ。『子供』だって色々と考えて行動している。大人には見えなくとも、足掻いて藻掻いてみっともなく地面の上をジタバタしている。それを全て無視してしまって、これが正しいからそうすべきだ。というのは、私が最も嫌うやり方でもあった。

 

 「ごめんなさい、先生。ここは私に任せてくれませんか?」

 

 振り返る先生。そして小さく頷くと、「また後で話そう、リオ」と、皆を引き連れて、アリスちゃんのいるコントロール室の奥へと走っていってしまった。

 そして私とリオの二人が残される。再び静寂が戻り、視線が交わされる。彼女の目は弱弱しく潤んでいる様に見えてしまって、私の奥底にある母性とも姉妹性とも言えるナニかをくすぐってきた。

 

 「貴女も、アリスの救出に来たのでしょう? 私に構わず、早く行ったらどうかしら」

 「違うかな。リオ。私はね、二人とも救いにきたんだよ」 

 

 虚勢とも取れる彼女の言葉。それを軽く受け流し、一歩近づいた。

 私の行動に、彼女の瞳が見開かれる。何度も何度も投げかけていた言葉がようやく届いた、そんな実感があった。

 セミナーのお手伝いの時にも散々見て、時には狭い場所ですぐ近くで一緒に隠れたりもした。弱くて強くて一人で何でも出来てしまう才女。それが『調月リオ』だった。

 

 「……一人で相談できないって全部決めたこと、私もあるよ」

 「知っているわ。SRT学園の閉鎖の決め手となった事件であり、貴女が独断で決定を行った取引。それがあなたをエリートから、一人の警察官に堕とした」

 「ヴッ、まぁ、そうなんだけどさ……。やっぱり……思い出すと辛いね」

 

 苦しんで苦しんで、全員の為にと思って、悩んで出した答え。それが全員にとっての正解ではなかった。結果的に陰口を毎日の様に聞いてしまうことになったし、ダメな自分を見せるのが怖くなった。周囲の視線が肌に刺さると感じてしまう程に、心がバラバラになったと思うほどに苦しかった。

 きっとリオだって同じだ。全体の為に個を犠牲にするやり方。それは『大人』からすれば間違っているのだろう。現にアビドスでも私は失敗したし、今のアリスちゃんを犠牲にするやり方に賛同は絶対に出来ない。

 けれど、私達『子供』は知っている方法を実行するしか術がないのも確かだ。まだまだ知っている事が『大人』と比べて少ないのだから。

 

 「気持ちはわかるよ、同じことをやって私も失敗したし、それが最善手でなかったと誰かに言われたとしても、そんな事、結果論からくる後付けだって言いたくなるよね」

 「私は……それでも、これが合理的であったと……」

 「分かるよ、リオ。……頑張ったから、貴女はここに立っている。負けを認めながらも、最後までその責務を全うしようとしている」

 

 彼女の行動はミレニアム、ひいてはキヴォトスの為の行動だった。世界を滅ぼすものを自身の出来る方法で排除しようとした。結果としてそれは不器用過ぎる方法で、全員から批判される事が前提の行動だった。

 やってみないと分からないのに、やってみた結果がダメだったからといって全てを否定するのは間違っている。そう言い切りたいけれど、人々は『結果』からでしか評価出来ないのだ。世の中は足し算や引き算でなりたっていない。行動の結果がもたらすものが、往々にして誰かに取って受け入れる事が出来ないものである。そんな事は世の中の常だ。

 私がそうであったように、裏でした血の滲むような努力や涙を飲みながらも歩き続けた思いなんて、理解はしてくれない。そんな悲しい世界だ。でも、それでも生きている限り、この世界を歩き続けなければならない。

 お互いがお互いを理解することは完全には難しい。私だって見せているのは一部分で汚いと思える部分もあるし、それが受け入れられない事も先生に吐露したし、そこに恥ずかしい思いだって抱えている。誰だって心の奥底で思う事はあって、それが滲んだ表面を他人が掬い取り、自己解釈で理解したと思い込むことが「分かり合う」という事なのだから。

 けれど一線を越えない限り、歩み寄る事は出来る。トキさんと私が分かりあった様に、出会い頭に殴り気絶させてきたアリスちゃんが私を慕ってくれたように。だから道を違え敵として振舞うリオも引き返し、歩み寄る事が出来なければならない。それを手伝うのは「犬のおまわりさん」の役割だから。

 私は必死に手を伸ばす。そちらに行ってしまえば戻れなくなってしまう迷子の手を引くように。

 

 「だからさ、リオ。全部を話してみて。私だって協力出来ることがあるかもしれない」

 「……そんな事、もう──」

 「もし……ほんとに駄目なときはさ、一緒に怒る人から隠れるよ。それしか出来ないけど一緒にいる」

 

 それくらいなら私でも出来るから。と、更に一歩前に踏み出す。

 

 「だから、もう一度探してみようよ。皆が納得できて笑えるような、リオもアリスちゃんも幸せになれる結末を(トゥルーエンド)を」

 

 リオが何かを言おうとして口を閉じた。……強情だ。

 でもそれが『ビックシスター』らしい彼女の姿なのだろう。面倒で駄々っ子のようなわがままさを持っていて、とてもとても困った大きな妹であり、全てを守ろうと、常に全体の幸福を優先できる偉大なる姉でもある。

 

 「……問題の先送りは、より酷い破滅を招くだけよ」

 「そうなったら、その破滅を止める為に頑張るよ」

 「例え、無駄になるとしても?」

 「少なくとも、リオが考える時間が一秒延びる」

 

 彼女が「……どうあっても、味方であるスタンスは崩れないのね」とポツリと呟いた言葉に笑いかける。リオは目を逸らしたままではあるけれど、半歩分でも私達は歩み寄った。

 どうしようもなく私達は不器用で不格好だ。似た者同士という自覚がある分余計にそう思える。故に全てを分かり合う事なんて永遠に出来ないかもしれない。それでも私達は誰かに近づこうと努力をする。その過程で少しだけお互いの事を知れたり、対立したりする。それが相互理解であり、レベルアップなのだと思う。

 リオが目を逸らしながら、ポツリと呟く。

 

 「どんな状態でも、どんな事をしていても、それでも……あなたはきっと私を諦めないのでしょうね」

 「手の届く範囲にいる事に諦めがつかないし、つけたくないんだ。それに──」

 

 リオは私と似ている気がするから。と言おうとした時に、先生たちの方が騒がしい事に気づく。それと同時に、コントロールルームの数多に並んだモニターが切り替わり『Divi:sion』の文字を浮かび上がらせる。インカムから聞こえていたヴェリタスの支援も消し飛んでしまうように搔き消えてしまった。

 その異変にリオも私も身を震わせた。ただならぬ事態に、二人して顔を見合わせると異変の下へと駆け出した。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 急いで駆け寄ると、ケーブルに繋がれベットに寝かされていたアリスちゃんが上体を起こし、能面の様な表情を浮かべながら無機質な声が発されていた。

 先生達が驚きどよめく中。憮然とした表情で周囲を見渡した彼女は、繋がれたケーブルを慌てて取り外そうしたモモイちゃんを制止した。

 

 「現在、王女の表層人格は内部データベースの深層部に隔離されています。強制的に接続を解除すると、取り返しのつかない損傷が起こるでしょう」

 「アリス、一体何を……?」

 「お姉ちゃん、これ、アリスじゃないよ」

 

 双子の反応に、「アリス?」と()()()()姿()()()()()()が静かに聞き返し、そしてその「名前」を否定する様に首を振った。

 

 「それは、あなた達が私達の「王女」を呼ぶ際の名称。「王女」に名前は不要です。名前は存在の目的と本質を乱します」

 

 何を言っているの!? とモモイちゃんが叫ぶ。他の子達も先生すらも彼女の行動に言葉を失い動けずにいる。

 その様子を見渡しながらも滔々と、その少女は話し続ける。

 

 「私の名前は『key』王女を助ける無名の司祭が残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ「(key)」です」

 

 あなた達が『アリス』と呼ぶ彼女は王女であり、私は『(key)』。それが私たちの存在であり目的。そう呟いて、繋がれたケーブルを垂らしながら機械的な動きで周りを見渡す。「今、我々を妨害していた攻撃が止まっていた事を確認しました」その言葉と共に「彼女」の視点が私に向く。そして彼女は「只今より、エラーを修正し、本来あるべき玉座に「王女」を導かせていただきます」と呟くと、突如として警告音が部屋全体に響き渡る。

 異常を知らせるけたたましいアラートの中で『彼女』だけが平然と言葉を紡ぎ続ける。

 

 「AL-1Sに接続された利用可能リソースを確保するため、全体検索を実行。リソース領域の拡大。リソース名、要塞都市「エリドゥ」の全体リソース──1万エクサバイトのデータを確認。現時刻を持って、プロトコル『ATRAHASIS』稼働。コード名「アトラハーシスの箱舟」起動プロセスを開始します」

 「一体何を……、「エリドゥ」のハッキング……?」

 

 私の問い掛けには答えないまま、手を触れないままに自らを『(key)』と自称する少女が『エリドゥ』を侵食していく。彼女が発した「アトラハーシス」という単語にリオだけが反応を示す。

 

 「これは……単純なハッキングではなく、都市全体が『何か』に変質を?」

 「プロセスサポートの為、追従者(Divi:Sion)を呼び出します」

 

 その言葉と共に、私が大怪我を負った時と同じ機械のタコの様なロボットが現れる。100分割した監視カメラの画面の何処にも蠢きながらも立ち上がる姿が映し出される様は、さながら出来の悪いゾンビ映画の様な不気味さがあった。

 その超常とも言える事態に、唖然とした表情のままリオが「エリドゥ各地で追従者(Divi:Sion)の出現が……?」と呟いた。そのままうわ言のように「このエリドゥには私が動員できるミレニアムのあらゆる技術、力、リソースをつぎ込んだと言うのに……けれど、むしろ、そのせいで……この都市が、終末の発端に?」と数歩よろめく。

 慌てて支えたリオの肩は震えていて、表情は絶望の色に染まっていた。

 

 「私が間違っていた……?」

 「リオ!! 何が起きてるの!! どうしたらいい!!」

 

 軽く頬をはたくと、リオはハッとした表情を浮かべ、短い言葉を吐いた。「このままでは世界が滅びてしまう」と。

 そうしている間にも「彼女」が次々とエリドゥを掌握し続け、祝詞の様に言葉を紡ぎ続ける。

 

 「王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された。──無名の司祭の要請により、この地に新しい「サンクトゥム」を建立する。その到来で、全ての神秘はアーカイブ化され、全てが在るべき形へと戻るだろう」

 

 みんなと一緒に逃げて頂戴。先生。アキ。彼女がそう呟くと切羽詰まった表情のままに「今から、この都市自体が変貌し、箱舟という新しい概念に湾曲される。そうしたらキヴォトスは滅びてしまう」と告げる。

 そしてリオは、「私のせいよ」と短く呟いた。だから私が止めないと。とAMASが展開される。

 

 「私、一人でシステムを止めて見せるわ。私の命一つで、世界の終焉を防ぐことが出来るというのなら、そうするわ。そうしなければならない」

 

 早く、これは極めて論理的な選択よ!! 猶予は無いと緊張感に満ちた声で叫ぶ彼女に対し、すぐさま寄り添ったのは私と先生だった。

 そして困惑する彼女を見つめて、先生は優しい表情のまま語りだす。

 

 ──トロッコ問題って知ってるかな。

 

 トロッコには二つの選択肢しか無くて、君はそこで犠牲の少ない方を選ぼうとしたわけだし。それが君の優しさなんだね。リオ。と先生は言う。

 その言葉に、私もアビドスで起きた事を思い出していた。

 

 『うーん、じゃあ、私がトロッコを抑えるよ。その間にユキノがどうにかして?』

 

 私は自身が犠牲になる事を選んだ。その結果として、今に至るまでユキノには連絡すら取れていない。最後に彼女の顔を見た記憶が互いが互いに怒り憎しみあって、銃を向け合った時の歪んだ顔だった。

 その時出していた答えが間違っていたと思いたくはない。あの時は自身を捨ててユキノを庇う以外に選択肢は無かった筈だし、その結果としてユキノは大した怪我はなかったのだから。しかし、それでも期待した目を『大人』に向けてしまう自分がいる。先生であれば、どんな答えを出すのか、と思ってしまう。

 そして、先生は再び口を開いた。

 

 ──でも、二つの選択は、誰かが犠牲になる結果しかないのであれば……。私はその質問自体が間違っていると答えるよ。

 「それは詭弁よ。思考条件の前提条件を否定するのは、ただの屁理屈でしかないわ」

 ──レバーを引く人が見落としたものがあるんじゃないかな。本当に周囲に手を差し伸べてくれる人がいなかったのか、とか。ね。

 

 突風が吹いた。そんな気がした。

 誰かが寄り添ってくれること、それはあの時は無かった選択肢だった。水底まで沈むような気持ちままにアビドスに送られて、そして、そのまま止まる事も出来ずに歩き続けた。他に方法を知らなかったからだ。

 隊長と呼ばれることも疲れて、責務を果たす事すら中途半端だった私。それを掬い上げてくれた『大人』(先生)が、もう一度それを教えてくれる。

 

 「73% 89% リソース確保……95%」

 

 刻々と刻まれる声と、迫りくる浸食を意にすら介さずに先生はリオの目をしっかりと見据え、こう言い放った。

 

 ──私は、全員で力を合わせて「全てを救う」選択肢を選びたい。

 「そ、そんな選択肢は無いわ。アキも先生も、早く決断を──」

 

 狼狽するリオの声。私もそして彼女も自身を諦める事で最良の結果を求めた。けれど、それすらも嫌だ、と先生は言ってのけた。なんと強引で、傲慢な答えなんだろう。

 私達は出された問題に対して、その枠組み内で物事を考えてどうにかして犠牲を限りなくゼロに近づける努力を泣きながら考えていたのに、先生は問題文ごとぐしゃぐしゃに丸めて屑カゴに突っ込ような暴挙に出た。笑える程に理想論で、呆れ返ってしまう程に気持ちがいい答えだ。

 それが実現出来ると信じ、最後まで行動し続ける先生だからこそ、私がここに立っている。こうして『子供』で居られるのだ。

 

 「だってさ、リオ。もう諦めて聞いてみようよ。きっとこの『大人』は上手くやってくれるからさ」

 

 自信満々の先生の選択肢。そこに私はチップをオールインする。だって大人がそれを言うのだから、きっとどうにかなる。そう信じさせてくれる何かが先生にはあった。

 

 「……99% 変質を開始しま──っ!?」

 

 『彼女』が告げる終末の刻──。『エリドゥ』の全掌握を告げる宣言の最中にそれは起こった。

 突如としてインカムに、ノイズが走る。ミレニアムの誇るハッカー集団『ヴェリタス』においても貫通することが不可能であった、()()()()への対策が盛り込まれた防御壁(ファイアーウォール)

 それを技術では無く、個人が誇る神秘にて、それら諸問題を理屈抜きで解決するセミナー問題児『白兎(ホワイトバニー)』の手によって、雷撃のように『鍵』の狙いを阻んだ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

 

 『コユキのデタラメな能力を持ってして数分って、どれだけ厳重なロックを掛けてたんですか会長!!』

 『にはは、これで良いんですか先輩、リオ会長の秘密基地のコード全部引っこ抜ちゃって!』

 『でかしたわコユキ! ノア、今よ! 電力という電力を全部落としちゃって!!』

 『はーい、ユウカちゃん。その言葉を待ってました♪ えいっ!』 

 

 頼もしいセミナー会計の指示の下に、「エリドゥ」全体の電源が落とされ、夜空の下に輝き続けたメガロポリスは強制的に眠りにつく。当然、コントロールルーム内に響き続けた警報音も、不気味な文字を浮かべ続けたモニターも、全てが消えて静寂に返るのであった。 

 その様子を見て、私はリオに振り返る。

 

 「ね、何とかなった」

 

 私の声だけが、静かになった部屋に響いたのであった。

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