元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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いつの間にかコノカが実装され、私が初めて触れた『Code:Box』が復刻されていました。
コノカで天井を叩き、何も引けませんが私は元気です。


第45話

 ふと、嵐の時の窓の外を思い出す。叩きつけるような雨音と窓が割れるんじゃないかと思うほどの風の音。それを真っ暗い部屋の隅っこで何もせずに聞いていた。

 暴虐的に唸りを上げる銃激戦、蟻の大群のように押し寄せる敵を薙ぎ、破壊する為に撃ち尽くす。

 

 混濁した意識がふわりと何処かに飛びそうになる度に、ボロボロの扉が目の前に来る。

 

 あぁ、これに触れれば。きっと──。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヴァルキューレでの役割をずっと考えていた。

 SRT学園は事が起きる前に対処し、問題そのものを表層化させない事だ。それに対し、警察組織とは実に緩慢であり、事が起きてからの事態収拾がメインとなる。

 事が起きてからでは遅いのに、とずっと今まで思っていた。けれど、今なら理解できる。

 今まで志していたものが間違った方向に行こうとする人達に声を掛け、手を引いていくもの。それに対してヴァルキューレは間違ってしまった人にもう一度やり直そう、と、誰もが放した手を掴み取る為にある。

 だから結果として間違ってしまったリオも、周りを傷つけてしまったアリスちゃんも、大丈夫だよ。って伝えなければならない。

 それが私の役割であり、ここにいる意味なのだろう。

 

 エントランスホールンに降り立った私は、迫りくる脅威を眺めながらヘッドセット越しにリオと話す。

 

 「トロッコ問題ってさ、さっき先生が聞いてたでしょ?」

 「何を……」

 「あれね、私も答えたことがあるんだ」

 

 私がトロッコを抑えるから、その間にリオ、頼んだよ。

 それだけ言うと、リオの回答を待たずして通信を切る。これでいい。答えはあとで聞こう。きっと、苦い顔を浮かべるに違いない。

 その表情を想像して小さく笑うと、現れた数百体の異形を相手にして、両手で三連に連なったミニガンを掲げる。

 

 ──絶対に、ここは通さない。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 どれぐらいの時間が経ったのだろう。1時間……いや、きっとまだ30分も経っていないはずだ。

 アビエシェフの予備用の腕部ごと持ちだして、押し寄せる軍勢を薙ぎ払う事から始まった戦闘は早くも次のステージへと移ろうとしていた。

 エントランス前には、焼け焦げたボウルのように半身が吹き飛んだ球体のロボットや、入り口を塞ぐようにして燃え上がる四脚戦車の残骸。

 弾切れになった重火器たちを投げ捨てると、地面が揺れ、床一面に散らばった薬莢が跳ねる。

 余っているのは残弾が心もとない愛銃二丁とグレネードのみで、それだけで残骸を乗り越えて進んでくる群れを抑えなければならない。

 

 「エレベーターに接触を確認!」

 

 すかさず起爆装置を作動し、周辺の敵ごと消し飛ばす。これで残る手段は非常用の階段のみ。

 先生のくれた石を握りしめて、少しだけ目を閉じる。

 

 「以後、傍受の恐れの為、通信封鎖。あとは……やるだけ」

 

 戦火の中へと身を投じ、全てを薙ぎ払う覚悟で武器を振るった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 一方、リオとヒマリは指揮に追われていた。

 可能領域の侵食を回復しつつも味方の追跡と指示を出す。その作業はキヴォトス有数の叡智を持ってしていても、余裕など無いほどに追い詰められていた。

 後に『ホド』と呼称される事になった機体を破壊する任務を受けた別働隊より通信が入る。

 

 『ちっ、こっちも駄目だ。迂回する』

 「アバンギャルド君を殿に、アスナさんの先導でどうにかなりませんか?」

 『もうやってる!』

 

 絶え間ない戦闘音とノイズ混じりの通信が耳を打つ。都市機能のほとんどが奪われた「エリドゥ」は都市防衛機能の起動により、道路を変動させネルたちの行く手を阻んでいた。

 ジリジリと時間は迫り、階下にいるアキの負担は増していく。普通にやっていても埒が開かない。その事にヒマリはため息を吐いた。

 

 「仕方ありませんね。リオ。エリドゥの再利用は諦めてください。影響は広範囲に及ぶでしょうが、背に腹は代えられません」

 「……まさか」

 「通信が途絶をしたことはおそらく『彼女』も察知していることでしょう。たまには間借りされている使用料を徴収しませんと」

 「衛星へのチャンネルは?」

 

 こちらをどうぞ、とヒマリはアクセスされたパネルを開く。彼女が所有する『監視衛星』。彼女のいたずらや、オカルトを収集する際にも使用される少々行き過ぎた『オモチャ』。

 そこに勝手に相乗りする『悪い友人』がはるか上空より、エリドゥで起こる事態を把握し、そして眺めていた。

 

 『……あらあら。いつからバレていたのでしょうか』

 「あれだけ痕跡を残しておいて白々しいですよ。構ってもらいたいのならモモトークの一つでも飛ばしてみたらどうですか?」

 『うふふ……ヒマリは相変わらずですね。──ご注文は?』

 「清廉な川の流れに浮かぶ泥の一滴の作った、箱庭の破壊」

 

 そこまでヒマリが言うと、声の主は『了解』と短く答えた。

 壊すことに特化し、その事に悩み、そして歩み続けた少女。セミナーのコユキがパスをくぐり抜ける神秘であるのなら、こちらは『壊す』ことにおいて、キヴォトスの誰よりも特化していた。

 

 エリドゥに見えない手が襲う。それがすべてを覆うのに10分も掛からなかった。誰しもが知覚できず、理解できているものですら対処が不可能である彼女の全力。それが完膚なきまでに発揮されたのだ。

 2人が見ていたパネルにエラーの表記が大量に浮かび、エリドゥが再び光を失った。侵食していたものも、抗っていたものも全てが等しく停止する。

 

 「……都市防衛機能の沈黙を確認。流石ね、シキ」

 『あらあら、リオの方こそダメージコントロールが巧みになりましたね、……うふふ、壊しがいがあって素敵です』

 

 リオが嘆息し、モニターから一瞬目を離す。その視線の先には「誰かに相談をするべきだった」と言っていた先生が居る。

 

 「ネルさん、ポイントB-1より資材搬入路へと侵入可能です」

 『……シキの仕業か?』

 「えぇ、そうです。中心核へと繋がるパスも同時に解除しますので、安心して進みください」

 

 分かった、と短く言い通話は切れる。

 その態度にネルもまた思うところがあるのだろうと、試案を巡らせながらも数秒に一度変化するパスキーの割り出しを同時に行う。

 

 「シキ、宇宙の『目』から現状を追えますか?」

 『えぇ、もちろんモニターをしてます。別働隊は最短距離を選択しながらA-3より進行中。まもなく目的地へと到着するでしょう』

 

 しかし、とシキは言う。

 

 『コントロールタワーの現状はどうなってますか? 隊長の首輪(盗聴器)が壊れてしまっていて』

 「こちらにまで被害が来ていないということは、まだ健在でしょう」

 「通信に応答は無いわ……アキ」

 

 三人が階下で一人で戦っている少女の身を案じる。時折響いてくる小さい振動が未だ戦闘中である事を感じさせ、コントロールタワーの状態を知らせる画面には中間層の隔壁が手動で閉じられたところで停止している。

 

 『通信の封鎖を確認。監視カメラは復旧なし……隊長』

 

 彼女らの悪い予感は的中し、そしてある種、裏切られる事になる。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 メキメキと金属が押し潰され、ひしゃげる音が通路に響く。分厚い壁が機械の足ごと踏み潰し通路を遮断した。

 

 「はぁ……っ、はぁっ、第二隔壁閉鎖……っ」

 

 壁にもたれて息を整える。既にあちこちに血が滲んでいてぬるっとした感覚と、傷口に衣服が擦れる感じが気持ち悪い。

 ミニガンから発された7.62mmが直撃したお腹に布を当てる。そして滲んだ血ごと、ぐっ、と押し込むように力を込めた。

 

 「ぐっ……あっ、ふぅ」

 

 何度やっても痛いものは痛いし、慣れたいものでもない。キヴォトス人の頑丈さにも限界はある。

 現に身体のあちこちから悲鳴が上がり、擦り切れた服と血塗れになった全身が激戦の様相を伝えていた。残りがどれぐらい居るかなんて考えている余裕など既に消え、己を鼓舞するためにカウントしていたキルスコアも百体倒した辺りから数えていない。終わらないと感じる絶望の方が遥かに重たかった。

 残弾を確認する。なるべく節約を心がけてきていたものの、もうグレネード類もAP弾もほぼ撃ち切った。満足に戦えるのは一回か二回が限界だろう。サブアームのヴァルキューレのリボルバーも持ってはいるが、ストッピングパワーに欠けるそれが機械の軍勢にどこまで効力を発揮するかは分からない。

 隔壁の向こうでの破砕音が近くなってきた。おそらくもう少しで破られる。息を吸い込む度に肺が軋むのを感じる。それでも強引に次の戦いの為に息を整えた。そうして得た集中が這いまわる異音を捉えた。

 

 「……っ、外からっ!?」

 

 外へと繋がる窓に目を向けた瞬間──ガシャン、と破砕音が響く。窓ガラスごとぶち抜き、砲弾のような速度で鉄の塊が吹っ飛んでくる光景が目に入った。

 虚を突かれ避ける事すらも叶わない。そのまま先程止血した部分にロボットが直撃し、激痛と衝撃が身体を駆け抜ける。直後、身体はくの字に折れ曲がり、壁へと叩きつけられた。思わず胃の中のものを全部吐き出しそうになる。

 

 「こん……のぉ!!」 

 

 引き剥がし、地面へと球体状の機体を叩つける。バシャ、とオイルだか駆動液だか分からない液体が地面にまき散らされる。

 這い上がる悪寒と嘔吐感に耐え、すかさず立ち上がるも視界は定まらず、地面が揺らぐ、敵の勢いが想像の数倍早い。壁面から登る部隊も放っておけばいずれリオ達のいる場所に到達するかもしれない。……急がなきゃ。

 既に数体のロボットが窓枠から侵入し、不気味にカメラアイを光らせている。転げまわりながらも熱線を回避して弾を叩き込む。

 

 『何故戦うのです。使命を受け入れてしまえば、貴女は生きられるのに』

 

 頭の中にケイちゃんの声が響く。戦闘中ずっと降伏を求めてきているので、そろそろ聞き飽きてきた。

 

 『もう満足に動けないでしょう。貴女が死ねば王女が悲しむ、だから──』

 「……散々諦めてきたから、もうイヤなんだ」

 

 隔壁が破られる。なだれ込んできた敵たちの攻撃が私を貫く。それでも、まだ、と残っていた炸薬で吹き飛ばす。

 諦めてきた。ここに来る前に世の中の不条理を知って、せめて二度目は賢くなろうとして失敗した。悲しくてやりきれなくて全部を欲することを諦めていた。

 

 ──けれど、そんな私を信じさせてくれる人が居た。その人の為に、今ここに立っているのだから。

 

 『まさか勝算があるとでも? 別働隊もまた妨害を受けて、作戦は停滞気味で──』

 「勝てるから諦めないんじゃないよケイちゃん。もう最初から諦めるのはイヤなだけ」

 

 少しでも自分を信じてみようと思った。

 皆を信じている先生の真似をしようと思った。

 

 「皆なら大丈夫。私よりもずっと強い人たちだから。私はそれを信じて、役割を果たすだけ」

 

 だから、私は戦う。

 

 『分かりません……あなたの行動は、何も』

 「簡単なことだよ、ケイちゃん」

 

 一緒にゲームをしてくれた後輩たちが居た、戦って仲良くなった子達が居た。説教すらもした問題児たちがいた。そして、信じてくれて、信じたいと思える『大人』が居た。

 

 「笑っていて欲しい達の為に戦う。それが原動力であり『正義』だよ」

 

 もう腕がろくに上がらない。足はまだ動く。ボロ雑巾のようにされながらも、また立ち上がる。

 機体の残骸を叩きつけ、貴重な残弾を撃ち込む。身を焦がし、命を削る様にして、また時間を稼ぐ。それだけでいい。今は皆を信じて、己の任務を果たすだけだ。

 

 足を引きずりながらも、追いすがる敵を振り切って何とか隔壁のレバーへと手を掛ける。

 息も絶え絶えの中、体重を掛けて一気に下ろす。

 

 これでまた時間を稼ぐことが出来る。……そう、思っていた。

 カラン、と銃を落とした事に遅れて気づく。それほどまでに絶望をしていた。

 

 「隔壁が……降りない……っ」

 

 シキの起こした行動による都市機能の副産物であるシステムの一時的混乱の余波がここまで来ていた。

 しかし、そんな事を知らない私は思考の空白が生まれ、立ち尽くした。息継ぎが出来ると思って、水面へと浮上したと事を引っ張られたかのように、命を削り、やっとの思いでたどり着いた場所が機能しなかったことは希望を打ち砕くのには充分過ぎた。

 身体が爆風で叩きつけられる。即席のバリケードが破壊されたのだろう、じきに、ここも落ちることになる。

 ここまでかもしれない。けれど、それで終われる程割り切れるものでもなかった。

 

 「……ごめんなさい。ドジっちゃった」

 

 誰ともなく、虚空に呟く。 

 ネルさんを始めとしたアリスちゃんを救おうとした全員が、傷つきながらも使命を果たそうとしていた。対立しあっていたリオも、トキさんも誰かを思って行動を起こした。

 もう……充分だ。誰かを思って行動して、それが実らないのは悲しい事だ。でも、世の中はそんな理不尽で出来ている。誰しもが傷ついて、それでも何も得ない事が度々起こり得る。

 ここはゲームの世界じゃない。ただただ立ち向かうべき現実だった。そんな理不尽に藻掻いて抗って、抗い続けなければならない。

 深く突き刺さった破片を引き抜く。焼け焦げて消し飛んだと思われた右腕にまだ感覚がある。ラッキーだ。まだ皆の為に動ける。細くとがった機械腕のおかげで止血されていたものが一気に溢れ出る。

 いつの間にかポケットから溢れた青い石が転がっていた。先生から貰った大事なものなのに、無情にもロボットを踏まれて砕けて消えていく。

 

 それでも、まだやれることはある。

 アビドスで起きたこと。私の変化。その起こし方を私は知っている。けれどアレは本来不可逆で、おそらく二度とは戻れない。

 でも、きっと大丈夫だ。本来、ミレニアムという場所にとって私は異物であり、そもそもこのキヴォトスにとっても、私という存在は異常らしい。だから問題ない。

 

 「ごめんね、先生」

 

 ──心象風景に降り立つ。

 眼前にはくるぶしまで程の深さの水と、ボロボロになった木製扉が私を待っていた。

 今まで吸い込まれているように扉を空けずに中に入れていた。頑として開けることのなかった場所。過去へとつながるものだと思っていた。けれどどうやら違うらしい。

 

 この扉の名前は『恐怖』(テラー)

 それが直接つながるバスが私の中にある。それに気づいたのは随分と最近。アビドスでのことだ。

 それに手を伸ばし、氷のようにひんやりとしたドアノブを掴んだ。

 

 地べたを這いながら、見ないようにしていたものを直視する。

 

 『何を……しているのです』

 「諦めたくないって、言ったでしょ。……どんな手を使ってもね、足搔くんだ。私は、カーテンコールの隅にそっと居るような端役でいい。ただ、みんなが笑ってもらえればそれでいい……! それが私にとってのハッピーエンド」

 『やめなさい! それが何なのかは理解をしている筈!!』

 「……ふふっ、変なの、心配してくれるんだ」

 

 不思議なことに笑みが漏れる。諦めるわけじゃない、少しだけ関わり方を変えるだけだ。

 戻れないのであれば、先に進んでやり方を探そう。変化もまた青春で、今を駆け抜ける激情こそがここに相応しい。

 

 ──勇者が帰る場所は、ハッピーエンドじゃないとね。

 

 先生には怒られるかなぁ。怒られるよね。ひょっとしたら見放されるかもしれない。それは少しだけ寂しいなぁ。

 右手の感覚が薄い、指一本動かすだけで激痛だ。それでも一歩前へと手を伸ばす。

 スポットキャラは経験値を注いだ分だけ、離脱された時にがっかりされるらしいけど、私はどれくらいだろうか。少しくらいはがっかりしてくれると嬉しいかもしれない。

 

 そんなくだらない事を考えながら、意識を手放そうとした。

 

 「バイバイ、皆。スポットキャラはここでおしまい」

 

 信じさせてくれるんだよね? と言った先生の言葉が蘇る。

 

 「大丈夫だよ、先生。あなたの事は……皆のことは絶対に守るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、一筋の光が闇を切り裂いて現れた。

 

 コインが弾かれ、宙を舞う。

 そしてまた、それが音速の砲弾となって射出された。

 超電磁砲(レールガン)と、別の世界で呼称されている技術であり、彼女の二つ名(アビリティ)。キヴォトスとは別に存在する、とある学園都市の序列第三位。

 

 「悪いけど、全部聞かせて貰ったわ」

 

 勝気そうな短髪が電気で逆立つ。浮かび上がったヘイローが陽炎のように揺らめいた。

 

 「全員が笑うために1人が犠牲になる? それがハッピーエンド? ふざけんじゃないわよ!!」

 

 そんなの絶対に認めない。と、彼女から発される圧倒的な電気が周囲の敵たちを薙ぎ払う。

 

 ──そんな『結末』(幻想)、私がぶっ壊してやる!!

 

 

 未完成でありながらも、アトラハーシスという多次元へと踏み出す箱舟への創造の力場。そしてキヴォトスで唯一『先生』だけが持ちうる青輝石という奇跡の欠片の力。

 それらは別の時間軸と空間を繋ぎ、『偶然(ご都合主義)』と言う名の奇跡(ハッピーエンド)へと道を変える。

 

 その少女は、転がっている私に手を差し伸べる。

 

 「さぁ、立ちなさいよ『主人公』!」

 

 ──全員ぶっ倒して、トゥルーエンドまで駆け抜けるわよ。

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