元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第5話

 風雲急を告げるが如く、電話が狭い室内に響く。

 待っていましたとばかりに、すぐさまに電話を取った。おそらくホシノさんが助けを求める声であろうと、力んで取った電話からは予想とは違う声が聞こえてきて、思わず脱力してしまうことになる。

 予想とは違い、電話口から聞こえたのは聞き慣れた後輩の声だった。

 

 「ん、アキ先輩。何処にいる?」

 「え、なになに? シロコちゃん!?」

 「今すぐ来て欲しい。困ったことになりそう」

 

 そう言って電話が切れた。

 砂狼シロコちゃん。灰色髪の肩まであるロングヘアの犬耳がキュートな子。

 アビドス高等学校2年であり、ホシノさんの後輩にあたる子。銀行強盗を本気で実行しかねない危うさがあり、初の出会いも現金輸送車を獲物でも見るような目つきで見ていたから職質したのが始まりだったりする。

 イヌ科な耳をお互いにつけているからか、どことなく親近感が湧いてくる子であり目が離せない要因にもなっている。ちょくちょく自転車でツーリングしたりする仲だ。まぁ、こっちがパトロール中に並走してくるとも言うんだけど……

 

 そんな妹分とも言えるような、後輩ちゃんからのラブコールに答えたいのはやまやまですが……

 

 「場所、言ってよぉ!!」

 

 緊迫した雰囲気なのは伝わってきたのだが、いかんせん何処に向かえばいいのかさっぱりである。困るが過ぎるので、すぐさまに別の連絡先をタップした。

 ワンコールですぐに電話に出てくれた彼女。困ったときのストッパー? アビドス高等学校のピカピカの一年生の奥空アヤネちゃんが切迫した声で応答してくれた。エルフ耳って……ちょっと憧れるよね。

 

 「もしもし、いぬのおまわりさんですが……」

 「もしかして、シロコ先輩から電話いきました!? 場所出します、お願いします!!」

 「うわぉ、食い気味。とりあえず、何が起きてるか教えて貰ってもいい?」

 

 と、サクッと事情を説明してもらう。

 ゲヘナの風紀委員がアビドス自治区の境界を越えて、侵攻してきたらしいとのことだった。こんな一大事にホシノさんは居ないし、シロコちゃんは飛び出してってしまうし、と大変らしい。

 

 ゲヘナ……はて……この前、電話をしたような。その件、ちゃんと伝わったか確認漏れていたな?

 

 背中にイヤな冷や汗をかきながら、一旦電話を切ることにした。

 

 「うん、わかった。とりあえず、心当たりある子に連絡入れてみる」

 

 声は震えてない。うん、大丈夫! 

 サクッと、通話を終えて即座に別の連絡先を呼び出した。

 

 何度かコールが鳴る。おそらく原因なのは私であり、たぶん曲解して伝わってしまう。

 だって、コードネームで名乗るのって、ベテランの刑事みたいでカッコいいと思ったんです。あ、もしかして、いぬのおまわりさんって名乗るのって迷惑? いや、そんな……

 そんな事を言っている間にも無情にコール音が鳴りっぱなしであり、心臓もそれに合わせてドッキドキである。

 

 (出ろ出ろ、出て、お願い!!)

 

 そろそろ諦めるか……というところで、気だるそうな声と共に待望の人が出た。アビドスとは別地区にあるゲヘナの風紀委員会の長。最強かつ最恐の子。空崎ヒナである。

 

 「あー、もしもしヒナちゃん? いやぁ、悪いねぇ!! 忙しいタイミングでさぁ!」

 「構わないわ……プライベートを使うって事は、緊急?」

 「うん、面倒だって波動がビシビシ伝わってきて、ほんと申し訳ないんだけどさぁ!! お宅のお子さん達がウチのシマで暴れてるんですよ!!」

 「……何?」

 「あー……もしかして、連絡行ってない? 風紀委員さんがアビドス自治区に侵入中とのこと!!」

 「とりあえず、わかった。調べものも終わったし、アビドスに向かうわ」

 「ごめん、助かる!! 私もこう……いい感じに何とか……なるといいなぁ!!」

 

 

 いや……と、立ち止まる。ヒナちゃんがいった以上、現場は収まるのはまず間違いがない。そうなれば現状でやるべきなのは、もう一つの問題であるホシノさんの探索ではないだろうか。

 ヒナちゃんにごめん、任せた。とメッセージを送り、別の方向へと足を向けた。

 

 さて、と、少し考える。

 カイザーコーポレーションに乗り込んでしまった小鳥遊ホシノの事を考える。アビドスに残る借金のことは以前から知っていた。それを彼女が全て抱え込もうとしたことも、だ。

 それを前提にすると、持ちかけられる話はろくな事ではないだろう。

 それについて、正直に相談があると思っていた。それなりに友好関係は築いていた筈だし、曲がりなりにもヴァルキューレという警察組織の肩書だってある。しかし、彼女からの話は無かった。信頼関係は築けていなかった。ということになる。

 

 彼女は助けを必要としているのか。そもそも私が行ったところで本当に必要とされているのか。それがもう分からなくなってしまった。

 

 人生二周目になっても、私は人間未満でしかないという事実が目の前に迫ってくる。正解だと思っていた道で躓いて友人だと思っていた副隊長が友好関係から離れた。

 私は笑えるくらいに自分の周りから人が離れるのが苦手らしい。

 

 真っ暗だ。ずっとずっと、人との関係は先が見えない。求めていることが察せないから、私はルールで、法律で、隊規で縛られることを望んだ。

 分かったフリでここまで来ていた。でも、この先に道などないし、たどり着いた先に何が待つか分からない。嫌われるかもしれないし、もっと酷い状況をもたらすかもしれない。分からなくて怖い。また失敗するのかと足が竦む

 

 『もう、いい』

 

 ズクン、と恐怖が足を縫い止めた。胃から酸っぱいものがこみあげてくる。もう何年も経つのに、こびりついた汚れのようにずうっと奥底に残り続けては、ある日、突然前世のトラウマが顔を出す。何の興味すら浮かばない、あの目が私を見ている。一人になるのはイヤだ。その恐怖が身体を竦ませる。

 

 ──ピロン。とモモトークの着信音がした。

 びくり、と身を竦ませて視線をやると、ついこの前に連絡先を交換した『先生』の文字。

 

 『ホシノの事、頼んだよ』 

 

 視界が少しだけ開けた気がした。

 大嫌いな『大人』なのに、他の人がそうであるように道を強制してこない姿勢は……嫌いになれなかった。

 

 「……すぅ……ふぅー!」

 

 深呼吸。深く息を吸って、大きく吐き出す。

 小鳥遊ホシノを助けたいか、どうか。重要なのはそこだ。怯えるな、おせっかいと言われても、不要と言われても。それで今までやってきた筈だろう、私!

 

 「──ドギー小隊、鉄の掟 第1条。信じた正義を突き進め」

 

 破ったものは、3日間飯抜き。だ。

 

 

 「もしもし、シーちゃん?」

 

 助けて欲しいことがあるんだけど。と、ロッカーの中から懐かしい愛銃を取り出しながら言った。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 現在、カイザーコーポレーション前に私は立っている。

 大した策はない。策を出してくれるお姉さんも、策を実現する天才的な妹分も、そして諌めてくれる………いや、とにかく私だけが考えたところで何か出来るわけでもない。お飾りなのは自覚しているのだから。私に出来るのは身体を張って、周りを守るだけだ。

 そう気合を入れて、ぎょっとする周囲の人々を尻目に私はカイザーコーポレーションの目の前に堂々と立ちはだかった。

 当然、転がらんばかりの勢いで機械化された守衛が駆け寄ってきて、私に武器を向けた。

 

 「な、なんだその気持ち悪い着ぐるみはっ!! というか誰だお前は!!」

 「気持ち悪い……? もしかして、モモフレンズをご存知ない?」

 

 山南シキこと、シーちゃんに頼んだのは二つ。

 ここら一帯の無線封鎖と、生活安全局のイベントで使われていた改造着ぐるみの在り処だった。幸いブラックマーケットに流れていたので、力づくで拝借もとい、公権力に基づいて提供してもらった。ちなみに私一押しは、ペロロザウルスと、最近新作にて登場したお友達、スマイリートサドックちゃんが一推しだ。凶暴さのあまり他のキャラによく噛みついている姿のグッズがよく出ていて可愛いのだ。スカルマンは餌じゃないが、餌だと思っているのもキュート。

 閑話休題。とにかく、ヴァルキューレ限定仕様のペロロ保安官の着ぐるみ(初期ロット)に身を包み、SRT時代の愛銃も引っ張り出してきた。

 つまるところ、やることは一つ。いつだって物事を一つに絞ってから動くのが分かりやすい。

 

 「どうも、こんにちはぁ!! 着ぐるみ海賊団でーす!!」

  

 ──正面突破である。

 ピンを引き抜いて、フラッシュバンを起爆させる。ペロロ保安官、中身がエンジニア部に依頼して作ってもらったようで、冷暖房完備、通気性快適、Bluetoothやらも完備し、おまけに対爆性、防弾性にも優れる超高性能なパワードスーツだった。外見はともかく中身は何なんだろうか、戦争でもするつもりなのだろうか。そんなオーバースペックパワードスーツだったが、乗った瞬間に何となくで使いこなせた。科学の力って凄い。

 

 「な、なんだこの化け物……動くぞっ!!」

 「はっ、速い……っ!!」

 

 駆動性も反応性も抜群の為、私の動きがダイレクトに変換され、瞬間移動もかくやとなる高速移動ペロロ保安官が誕生していた筈だ。カッコいい、外から見たかった……。

 それはそれとして、守衛を閃光弾で気絶させた後、けたたましく警報が鳴る。異変を察知し集まってくる機甲化された警備兵が一斉にこちらを向き、そして敵意が形となり銃へと変貌した。

 私はそれを目視し、一息に戦場へと躍り出た。

 

 「たった1人に何をやっている!! こちらは正規軍だぞ!!」

 

 怒号が響き、それをかき消すように銃弾が殺到する。自動小銃のマズルが一斉にこちらに向き、放たれる。統制され洗練された射撃は一般生徒であれば、まず対処は厳しいだろう。

 

 ──だが、私はSRT(Special Response Team)だ。

 

 「遅いっ!!!」

 

 地面に穴が開くほどに踏み込んで、グンと速度が上がる。一息に距離を詰め、両手に持ったSMGを先頭集団へ向ける。トリガーを解放すると、激しい発砲音と共に硬質な装甲に9mmパラベラムが殺到し激しく火花が散る。バラバラと散る薬莢と合わせて倒れていくカイザーの兵士たち。

 しかし、相手も戦闘のプロ。距離を詰め多少崩した程度で動揺する相手でも無い。すぐさまにCQC(近接戦闘)に切り替え銃床が飛んできた!! 

 

 「カイザーを舐めるなよ不審者がぁ!!…………何ぃっ!?」

 

 相手が驚くのも無理はない。体重を乗せられた鉄の塊はこちらの頭を殴りつけ、気絶させる算段だった筈だ。しかし、私はそれを軽々とつかみ取り、逆に相手ごと投げ飛ばしただから。

 敵の身体が宙を舞う。それに気を取られたターゲットを銃弾の爪と牙で薙ぎ払った。

 

 「一つ、二つ……三つ!!」

 

 SRT時代、つまるところDOGGY小隊時代、私を除き、スカウト(偵察兵)、工兵、オペレーターだった。つまるところ直衛の戦闘は私が大半を受け持っていた形になる。そんな無茶苦茶なチームで、どうやっていたのかというと……

 

 「5.56mmが通らないだと!!」

 「クソっ、何て馬鹿力だ!!! フル装備を軽々と投げ飛ばすなど!! この着ぐるみ、只者じゃないぞ!!」

 

 

 転生時に貰った身体のスペックがやたらと高い為、ゴリ押しである。

 やろうと思えば車両ぐらいなら軽く投げ飛ばせる筈だ。そこに学んだ戦闘技術を惜しみなく投入している。しかもこのパワードスーツが脳波コントロールも出来る。かんぺきー。

 

 こちらを見て、走る動揺を見逃さず一気に殲滅していく。単一の力量と場のコントロールは明確にこちらにアドバンテージがあった。

 しかし、この警備兵にずっとかまけている暇はない。流石に無視して駆け抜けられる程に押せているわけでもなく。次々と増援が来るため、その内旗色も悪くなってくる。目指すは最上階だが、今のところ内側からエレベーターは使えそうにもない。

 外側から階層の間隔を測り、おおよその歩行距離を算出する。おおよそ120メートル程。

 

 「……仕方ない、まずは、やってみよう!!!」

  

 目の前に居た兵士を掌底でかち上げた後、両手のSMGで周囲を一掃する。そして、新たな増援がこちらに駆け寄ってくるのを見て、一気にビル入り口へと加速する。驚いた兵士たちが慌てて銃口を向けてくるが、構わずにさらに一歩踏み込むっ! そして……先頭にいた奴の肩を踏み台に、ビル上階層の壁面を目がけて──跳躍した。

 そして一気にビルの壁を蹴り、駆け上がるっ!! 普段の生身なら二階か三階までで後は応戦しながらだと厳しいものがあるが、このパワードスーツなら話が別だった。

 

 「え? きゃあああああああ!!!!!」

 

 突如として電子モニターが浮かび上がり飛翔モード起動と表示された。刹那、モーターの回転音が一気に増し、各所に搭載されたジェットエンジンが起動し、一気に最上階まで駆け上がった。噓でしょ……?

 一気に目的階へと到達した私は、侵入経路(EP)をさっと探す。メンテナンス用のハッチがあれば楽ではあったのだが、生憎と見当たらない。想定通り銃弾も通さないような強化ガラスで出来ているであろう窓に、ありったけの手榴弾が当初の予定だったが、何故かペロロ保安官についていた指向性爆薬使用の自爆装置を取り外し使用する事によって事なきを得た。何でペロロ様に自爆装置がついているのだろう。助かったけど。

 

 「ぺ、ペロロ1、現着!!」

 

 内部構造と、会談している部屋についてはシーちゃんのタレコミによって把握済み。さっと、廊下を駆け切った。こうなればスピード勝負だ。一気に回収ポイントまで目指す。

 目的のオフィスにたどり着き、さっとサボタージュのチェックをして重そうな木製のドアを蹴り開ける。

 

 「ホシノさん!! 無事!!?」

 

 クリアリングを行いながら侵入する。ペロロ保安官のスーツは有能でサーモグラフの切り替えまで出来る。流石にちょっと色々出来過ぎて怖い。制作者は一体何を想定してたのだろうか。 

 

 「えっ、えっ、何? 何何? ……ナニコレ? 誰っ!?」

 「おやおや、これはこれは……」

 

 目標エリアには二人。優先回収目標の小鳥遊ホシノさんと、詳細不明の『大人』である黒いスーツの人物。頭は人間のそれではなく、頭部に頭に似た形の仮面が乗っている。と表現するのが正しいその二人がデスクを挟んで、対話をしていた様子。

 久しぶりに真っ向から対峙する『大人』だ。シャーレの先生には感じなかった『大人』への苦手意識と嫌悪感が吹き出してきて、思わず眉を顰めた。

 それを見透かしたか、向こうは平然とこう言い放つ。

 

 「打ち捨てられていた人形が動きましたか。珍しい事もあるものです……ようこそ、まずは落ち着いて話をしませんか?」

 

 

 超然的な態度、突入後の精神的アドバンテージはこちらにある筈なのに動揺が見られない姿。何もかも見透かされているような対応に私は冷や汗が一筋流れていくのを悟っていた。

 それでも意を決して、言葉を発する。

 

 「動くな。こちらは小鳥遊ホシノを救出しに来た」

 

 

 そう、それが目的なのだから。

 こちらは銃を向け、向こうは穏やかにこちらを見据える。厄介そうな『大人』との対話が始まろうとしていた。

 

 




アロプラの補講授業:近藤アキの短機関銃(SMG)は実銃のMP5Fをカスタムしたものらしいですよ! 先生! 犬の爪と牙の意匠と、ぷにぷにの肉球が可愛く飾られているみたいです!
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