元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
人が嫌いな自分を認めたくなくて、人を知ろうとした。
どんなに傷ついても良いように、深いところに心を隠して。
気がつけば、すぐ後ろにぽっかりとした空洞が空いていて、私を見つめている。いつか何処かでみた瞳が私を見下ろしている。誰も助けてくれなかったのに、と、ぶすぶすと燻り続けている焼け野原が根底にはある。
──結局、どんなに着飾ろうとも同じこと。
犬が自分の吐いたものに戻ってくるように、前の世界でなれなかったもの、なりたかったものを目指してウロウロとし続けていた。
そんな『大人』への抵抗をしていた私が『大人』の居ない世界に飛び込んで得たものは、彼ら彼女ら、大人の真似モドキをするだけの偽物の鎧だった。
◇◇◇◇◇◇
最上階のオフィスの真ん中で、『大人』が一人、動揺している人が一人、ペロロ様の着ぐるみが一人? 向かい合っていた。
乗り込んで銃を向けた先の人物は特に動揺した様子も見せずに、デスクに座ったままに両手を挙げ、降参の態度を示している。
「ククク、実に愉快なご友人が訪ねてきましたね。小鳥遊ホシノ?」
「え、あ、私の!?」
動揺した声を上げる小鳥遊ホシノさん。様子を見るにとりあえず無事なようだ。特に何かされた様子もない為、安堵の胸をなでおろす。即確保し、残っている推進剤で退散と行きたいが、目の前の『大人』がどう出てくるかが不明な為に突きつけた銃口を下ろすことが出来ない。
足踏みをするような思いで焦れていると、黒い服の人が話し出す。
「現在、私には攻撃の意思はありませんし非戦闘員です。警報等を解除するのでそちらも顔を見せませんか?」
「……先に警報解除と、事態の収束を行うのであれば」
「そうですか、では」
デスクの内線を取り、私の客人でした。と話していた。それとも生徒一人に圧倒されたことを公にするつもりですか? とも。符丁の気配もない。
実に落ち着いていて不気味だ。キヴォトスでは犬や猫が話していたり、ロボットが普通に闊歩している世界なのはもう慣れていたつもりだが、謎の仮面人形のようなものが喋るのは初めて見る。故に対処がわからない。わからなくて恐怖の感情が顔を出しそうになる。
「さて、不明の客人よ、契約は果たしました。そちらも応じて頂けるとありがたいですが」
「両手はそのままに。動けば敵対とみなします」
ペロロ保安官のくちばしから半身だけ身体を乗り出す。背中から入る方式と、口から入るハッチがある為、中々搭乗者に優しい。自動操縦でも想いのままに動かせる。便利だ。
そんな感心をよそに私の顔を見て、ホシノさんは驚きの声を上げた。
「えぇぇ!! アキちゃん!? なんでこんな所に!!」
「そうですよ、私ですよ。やめた方がいいって言いました張本人ですけど何か?」
思わず当てつけのように、笑顔を向ける。正直、乗り込んだという知らせにイラっときたのも事実だ。不審者の目の前でもなければ、モチモチしてそうな頬をつねってやりたいくらいだ。
そうして、首を竦ませる彼女と横目で睨む私を前に黒い服の『大人』が話し出した。
「古き神秘。そしてリコポリスの守り神ですか。暁のホルスと親交が? 興味深い」
「突然押しかけて悪いとは思ってますよ、黒い服の人。こっちの方に緊急の用があって」
「いえ、こちらとしても招く事が出来て光栄ですよ。夜明けのフェンリル隊の隊長殿?」
ぞくり、と悪寒が走る。
過去に使った小隊名(副隊長勘案)を言い当てられて、背筋が正される思いだ。警戒していなかったわけではないが、更に慎重に言葉を選ぶ。
「それ言われると思わなかったですね。一時期だけ使った名前を挙げるなんて随分と情報通なことで」
「まさか捨てられし信仰が蘇っていたとは想定外でした。破壊の子息でもあり、冥界の神とも関わりが? それにしても形になって動いているのを眼前にするとは」
「考え事の最中に申し訳ないんですけどー、急いでいるので、とりあえずお話しません?」
「えぇ、何なりと、私も、あなたのような形代が何を話すのか興味は絶えません」
対面しているだけで、目の前にノイズが走る気がしてくる。『大人』に対するアレルギーがぶり返すのを感じる。ザラザラとした気持ちと、くらくらするような腐敗臭が記憶の底から蘇る。
早く済まそうと急いだのが間違いだったのかもしれない。先へ先へと話が延び、時間だけが過ぎていく。会話のペースを握れずに、じりじりと冷や汗が垂れる。『大人』と話していると、バクバクと音が鳴って心臓が痛い。頭がクラクラしてきそうだ。
シャーレの先生と話して大丈夫だったから、克服できたと思っていたのに。そうでは無かったみたいだ。言葉に繕っていく余裕が無くなっていく。纏った鎧が無くなっていく。同時に、底から湧き上がる激情がお腹を熱くする。
「とりあえず、要求は小鳥遊ホシノを狙う理由を知りたいんだよね。明確に」
「おやおや、随分と性急ですね」
「善は急げ、って言葉知らない? そもそも急いでるし」
「そうですね、火急の用。例えば身内に火の粉が掛かってきて、そこの小鳥遊ホシノの力が必要、といったところでしょうか?」
「……そうだけど」
「素直で可愛らしいですね、あなたは」
その返しに思わず眉をしかめるも、上手く返すことが出来ない。するすると会話が先回りされて、喋ることが無くなっていく。
「そうですね……申し訳ないですが、それはお教えすることは出来ません。あなたが私の取引に応じるのであれば別ですが」
「黒服、それ以上は私は許さないよ」
「おやおや、随分と仲がよろしいことで」
ホシノさんが割って入ってくる。それを冷笑するが如く、肩を竦める黒服。その態度にムッとして思わず噛みついてしまった。
「ふーん、言えない理由があると、そして、その理由が私の管轄を荒らしていい旗印になると」
「これ以上、私の口からは申し上げる気はありません。ですが、本件以外であれば私としても是非ともお話の機会を持ちたいですね」
「正義に反することはしない主義でね~」
「そうですか。小鳥遊ホシノ。彼女との案件も終了しています。それではご両人、またお会いしましょう」
「次に会うときは鉛玉を持参するね」
「次回は正面玄関より、お待ちしていますよ」
「……行こう、ホシノさん。皆がピンチなんです」
待って、待って、と、ホシノさんが制止する声が遠く聞こえるように感じる。
顔から火が出そうだ。見逃された、見逃されたことがこちらでも分かる程に完全にやり込められた。何が助けにいくだ。これではまるで意味がない。転生をして、人生の先回りをしてきたからこそ今の立場があるだけに、完全にやり込められた経験は殆どない。だからこそこの対話は苦手意識をさらに植えつけられるものであった。
ドアに手を掛けると、背中から声が掛かる。
「しかし、何故あなたが小鳥遊ホシノの為に動くのです? 接点はあれど大したものは無いはず。それだけのためにこのビルを攻め落とす気でいたのでしょう?」
「うん? あー、うん。そうですね」
極めて平静に、言葉を返そうとした。
『何の用だ。オレに』
ふと、長い黒髪の副隊長を思い出す。喧嘩別れをしてしまったが、元気にしているのだろうか。
少しだけ懐かしくて、そして悲しかった。
「部下だった子に似てる気がするんだよね〜。ほっとけなくて」
「ククク、そうですか。では、またお会いしましょう。名もなき神秘の持ち主よ」
ホシノさんを無視して引っ張りだして、重厚な木製の向こう側に座る『大人』の姿を見て、怯えと同時にとある気持ちが奥底にある事を自覚した。それは、モノに当たったり、怒鳴ってしまいたくなるような激情の名前。私がもっとも忌み嫌う感情の名前。飽きてしまうほどに向けられた過去が、ずっと後ろで私を睨んでいた。
それから引き戻すように、バタンと閉まる音が響いた。
◇◇◇◇◇◇◇
「アキちゃん、顔真っ青だよ? 大丈夫? わっと……」
急場を切り抜けて、カイザーコーポレーションのビルを離れた後、緊張が解けて思わずふらついてしまう。それをホシノさんに支えて貰った。『大人』と話した直後だった為に、余計に体調がおかしくなってしまったのかもしれない。
実際、気分が悪いのは続いていたし、あまり元気とは言いたくはない状態だったために自嘲の笑いが零れる。
「ごめん、ホシノさん……私、大人が本当に苦手で……はは、情けないよねぇ」
「いや!! そうじゃなくて! そうなんだけど……ありがとね。アキちゃん」
「助けになったかはわかりませんけどね」
「ううん……凄く助けられたよ~。うん、凄く嬉しかった……うへへ」
『大人』を目の前にして、何もできなかった自分に本気で凹んでいた為に彼女への返事が生返事気味になってしまっていて、その時は気づくことが出来なかった。若干じめっとしたニュアンスが秘められた返答と、今まで距離をお互いに取っていたはずなのに、私を支えたままにいつまでも離してくれない違和感に。
少し距離がおかしいのでは、と気づくのは全部終わった後の為、ここではこれ以上はなかった。強いて言うなら、ゲヘナの風紀委員とアビドスの皆が小競り合いしているであろう場所に向かう間に、傍を離れることが無かったぐらいだ。
凹んでいたことから立ち直りつつも、現場へと急行するとまだ緊張は解けていないようで、風紀委員長ことヒナちゃんが、場を収めていた。と言いたい所だったが、そうもいかなかったようだ。
どうにもアビドスの皆とその場に居合わせた便利屋68の面々が、ゲヘナ風紀委員との間で小競り合いに発展し、軋轢が発生していたようで、ギリギリだったようだ。
今か、今かと破裂しそうな空気に、待ったを掛けるための大声を張り上げる。
「その戦闘、待ったーーっ!!!」
「小鳥遊ホシノ……それに、近藤アキ」
ゲヘナの風紀委員長こと、空崎ヒナちゃんがウェーブした白銀の髪を揺らしながら振り向いてくる。私と、ホシノさんを認めると、目を見開いて、銃を下ろした。
「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね~、アキちゃんに叩き起こされちゃったよ」
「ふぅ、間に合った……?」
なんとか、間に合ったようで緊張していた場がほどけていくのを感じる。
ちなみにペロロ保安官は、ガス欠になったため一旦別の場所へと隠しておいた。バカみたいな重量があるので持っていかれることはないだろう。それに流石に必要なとき以外に着ていくと、空気が破壊されてしまう。モモフレンズ好きとはいえ、そこは弁えている。いつか見せびらかしたいとは思っているが。
どうやら、風紀委員の侵攻目的は便利屋68は口実でシャーレの先生を狙ったものらしい。確かに目的としては理解が出来ると、アビドス高校や便利屋のメンバーらしき人達に囲まれて困った顔を浮かべている。
あの『大人』は随分と人気なようだ。唯一といっていい役職という戦略的価値に、優しそうな風貌。モテるのも分かるか……と、モモトークのお礼を言おうとして諦めた。
そして、戦後処理をしていたヒナちゃんに近寄っていく。
「ヒナちゃん、ありがとね」
「アキ、あなた本当にこんな所に居たのね。しかも、小鳥遊ホシノと……」
「良い子だよ? うん、まぁ、話は聞かないけど」
「……それは、あなたも一緒」
「うぇ!? 嘘ぉ!!?」
「たまには自分の行動を顧みてみたら?」
「……えぇ、嘘だぁ」
正直、ホシノさんと似たようなものと言われてショックだった。流石にあそこまで頑固なわけがない。私だって一応話は聞いているつもりだし、隊員の信頼も、そこそこあった筈だ。うん、きっと勘違いだろう。
そんな私の心を読んでか読まずか、ヒナちゃんは大きくため息をついた。
「……まぁ、いいわ。また連絡頂戴。仕事以外なら、待ってる」
「うん、また、何処かで」
それを言い終わるか終わらないかのタイミングで、ずい、と、顔が迫る。こちらが上とはいえ、凄く身長差があるわけではないので、端正な顔が間近に迫って少しドキッとしてしまった。
「それと、あそこにいる先生にも伝えたけど、カイザーコーポレーションには気を付けて」
砂漠で何かしようとしている。と、彼女は言う。シーちゃんからも聞いていた話でもあったが、第三者が言うのであればほぼ確定の情報であろう。少し調べる必要があるかもしれない。今度行ってみることにしよう。
それを言い終わると私から離れて、ヒナちゃんは手を振ってくれる。可愛い。
私も振り返すと、ふっ、と笑って風紀委員たちを引き上げていく。
振り向くと、先生とも色々と話し終えたみたいでこちらを見つめるアビドスの後輩ちゃんたちを見て、笑いかける。
すると、放たれた矢のようにみんなして飛び掛かって揉みくちゃにされた。電話を掛けてくれたシロコちゃん、追加で説明してくれたアヤネちゃん。それに、同じ高校に所属している、ノノミちゃんに、セリカちゃんがこぞって私を撫でくりまわそうとしている。
「ん、やっぱり連絡して良かった。ツーリング仲間は裏切らない」
「本当に助かりました! あとで先輩には勝手に出歩くなとキツく言っておきますから!」
「流石に危なかったわ、ありがと、アキ先輩!」
「またウチに遊びに来てくださいね〜? 待ってますよ?」
頭撫でられたり、手を掴まれてちぎれんばかりブンブンされたり、挙句に誰かに今尻尾触られた。やめて、そこは弱いの!!
まぁ……後輩ちゃん達が元気が良いのは良いことだ。一通り関わりがあるとはいえ、流石にやり過ぎでは無いだろうか。それだけ安心したということかもしれないけど……うん、助けて。
「み、みんな、その辺に、ほら、アキちゃんも疲れてるし………」
「ホシノ先輩は黙ってて!」
「う、うへ〜〜」
自称おじさんはダメそうだった。
もう一人は……あっ、逃げ出そうとしてる便利屋の方に話しに行った。大人が逃げるな。ニコニコした顔を向けるな。
そんな感じで揉みくちゃにされた後、危うく高校まで拉致られかけたが何とか固辞し、派出所に帰ってきた。朝から手をつけてない書類が山程私を待っていたからである。ヘトヘトのままに書類との格闘が始まった。ひーん。
結局、このゲヘナ風紀委員の侵入により、処理しなければならない書類が倍になった。……悲しい。
◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜、珍しくホシノさんからモモトークにパトロールのお誘いがあった。いつもは連絡なしに何となく集まって、集まらなければ各自でパトロールをしていた。そんな毎日だったために意外なお誘いであった。
集合時間ギリギリまで報告書と睨めっこをしていた為、慌てていくと物憂げに待っているホシノさんがいた。ゆっくりとこちらの姿を認めると、のんびりと手を振ってきた。
「深夜におじさんと夜遊びなんて、アキちゃんの将来が心配だなぁ~」
「誘ってきたのそっちですよねぇ!」
「いや~、いっつも何にも無しにパトロールしてるから、掛ける言葉がね」
「別に、他でも話してるんですから、いつも通りに」
「うん、そうだね……」
じゃ、少し歩こっか。とホシノさんが歩き出す。
私はそれに後を追って、歩調を合わせる。
昼間の残り香を追うように、ゆっくりと夜の風を切って進んでいく。
静かな砂漠の廃墟の街並みに、二人分の足音が溶け込んでいく。
アロプラの補講授業:空崎ヒナさんは原作で過去に情報部に所属していたようです。工作、情報収集を主にする斥候隊のドギーの皆さんとはそういった縁で出会ったみたいですね! 先生!