元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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第8話

 現在砂漠化が進行しているアビドスでは、道のあちこちに砂が舞い込み、そして積もっていく。

 それはアビドス高等学校でも例外では無い。砂埃が酷い日には朝に登校した者から順々に箒を持って、軽い清掃をしたりする。

 猫耳を生やした生徒の黒見セリカは箒を手際よく動かしつつ、一緒に掃除している生徒達にボヤき始める。

 「ホシノ先輩おっそいわね~」

 すると、窓を慣れた様子で乾拭きしていた十六夜ノノミは手を止めて、ピンク髪を揺らした。

 「まぁ、昨日大変でしたからねー、ちょっとお寝坊さんしてるのかも?」

 紙を抱えて階段を下りてきた奥空アヤネはたちまちにため息を吐く。

 「昨日調べ物をしていて、共有したいことがありますのに」

 そんな会話を聞きつつに窓の外を眺めていた砂狼シロコは、とある一人の人物を見かけた。

 「ん、先生が来た」

 

 ──やぁ、皆。

 ──ホシノ? あぁ、交番に寄るって昨日聞いたよ?

 

 ◇◇幕間の物語◇◇

 

 すっかりと馴染んだメンバーとなった先生も一緒にアビドス高等学校の一教室にアビドスの面子は集合していた。

 

 現在専らみんなが集まる場所として使われている対策委員会室にて、四人の少女と『大人』。

 雑多なものが置かれながらも動き回るには不便しない程度の生活感と、教室には先ほど淹れたトリニティ御用達の山海経の紅茶の香りが漂っている。持ち寄ったお菓子を広げながら、思い思いに時間を過ごしている。

 メガネを湯気で曇らせながらもマグカップを両手に持ち、口を付けたアヤネが感嘆の声を上げた。

 

 「わぁ……いい紅茶。ノノミ先輩、ありがとうございます」

 「正直、良し悪しはあんまりわかんないけど、美味しいのはわかるわ。ありがと、ノノミ先輩」

 「ん、美味しい」

 「気に入ってくれたのなら良かったです~週末にたまたま手に入ったから皆にも飲んで欲しくって。」

 

 ──ノノミの淹れてくれる紅茶なら毎日飲めそうだよ。

 

 「もうっ、先生ったら~そしたら毎日淹れてもいいんですよ~?」

 

 いつも通りに姦しい会話が飛び交う。お茶請けをつまみながら時間が過ぎていく。いつもの時間。当たり前で大切なひと時がゆっくりと流れた。

 

 そんな穏やかな時間の中で、そういえばさ、とセリカは切り出した。

 「アキ先輩って、皆何処で知り合ったワケ? いつの間にか皆と仲いいわよね?」

 

 その言葉に、全員が思い思いの反応を示した。嬉しそうに反応するもの、んー、と考えだす者。少し困った様に笑う者。と反応はマチマチだった。そして、その様子をただ『大人』は笑って見守っている。

 

 

 「ん、じゃあ、私から」

 このメンバーの中では彼女に一番懐いているシロコが、嬉しそうに話しだした。

 

 「アキ先輩は、ツーリング仲間として会ったのが初めてで──」

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 砂狼シロコは悩んでいた。長い事この悩みは解決されず、かと言って周りに相談するわけにもいかないこと。

 

 そう、趣味仲間が居ないのだ。

 一緒に軽く200kmくらいツーリングしようと言っても、誰もついてこないし、せっかくおそろいのジャージまで見繕ったのに、誰も着てくれない。何と言っても、だいたいが忙しいからと断られるのだ。

 「忙しくない時を狙ってるのに……」

 私の趣味を知っている、ホシノ先輩とノノミは既に笑顔で軽くいなされてしまうし、アヤネやセリカは一度は付き合ってくれたが、2度目からは何かと理由をつけて断られている。

 みんな何かと忙しいのは分かっているし、少し疲れるのも事実だから強くは誘えない。誰か付き合ってくれる人は居ないかな……と、眼の前の現金輸送車を眺めながら考えていた。

 集金は完了しているみたいだし、たぶんこのルートを通る。じゃあ、警察に扮して発煙筒を……上手く行けばみんな分のロードバイクも……、と考えていると、トントンと肩を叩かれた。

 

「ちょっと、そこの犬耳仲間さん。現金輸送車に何か思い入れでも?」

 

 振り向くと、自転車にまたがったよく知らない茶髪の人がこちらを訝しむような表情を浮かべていた。

 

 「そんな眼の前にステーキをぶら下げられたような表情してたら怪しいですよ? 捕まりますよ? 主に私に」

 

 何か言っているのは聞こえていたし、見ない顔なのも、警察組織の制服なのも気にならない。それくらいに私は、ある一点に釘付けだった。

 彼女の跨っているもの、それは紛うこと無き同志の印だった。

 

 

 「ん、それ、ロードバイク?」

 「え? あぁ、これですか? スレイプニルくん3号です。これはオフロードで、一応マウンテンバイク? みたいものですかね、走るのは砂漠ですけど」

 「普段から走ってるの?」

 「え? まぁ、はい。パトロールの時はだいたい乗ってますね。半日掛けてアビドスを半周ぐるりと」

 

 ぐるーっと、とジェスチャーで示す彼女を見ながら、私の胸のうちは高揚感でドンドン高まっていく。趣味が共有出来るかもしれない相手を見て、

 

 「……砂漠も? 結構広いと思うけど」

 「まぁ、はい。100kmくらいまでならお散歩かなって」

 「ん、見つけた」

 「えっ、何何!? 何なんです!?」

 

 初めて出会った筈なのに、彼女とは気が合う気がした。親近感の元が犬耳仲間なのか、ライディングの同志だからなのか、それともそれ以外なのかは分からなかったけれど、とにかく一緒にバイクで走り回りたかった。

 

 「へい彼女。今から、ちょっとツーリングしない?」

 「いや、仕事あるんですよ。来たばっかりですしここ」

 「そうなんだ。じゃあ、案内するからついて来て」

 「ちょっ、待ってくださいって!! 私、パトロール中!!!」

 

 なんだかんだと言いながらも、その人はついて来てくれて、自転車で一緒に色んな所を回った。他の人が疲れたと言い出す距離の倍を走ろうとも、疲労の顔色一つせずについて来ていた。

 

 「ん、ちなみに私は砂狼シロコ。あなたは?」

 「近藤アキです。それ、走りだす前に聞く事ですよねぇ!!」

 「ツーリング仲間が出来たことが嬉しくて、つい……」

 「私はパトロール中だったんですって。あぁ……さようなら書類分の時間」

 

 そんなことを言いつつも、最後まで付き合ってくれたことが嬉しかった。

 それ以降、彼女がパトロールをしている姿を見かける度に、ついて行ってツーリング(勝手に同行してるだけ)を楽しんだり、新しく買ったツールを見せつけて自慢したりしている。

 その度に、今お仕事中!! と声を張り上げられるが忙しいと言われたことは無いのでたぶん問題は無い。うん。

 

 ちなみに、おそろいのジャージをオススメしたりもしているが、ボディラインが出る服はちょっと……と断られた。ん、いつか着せる。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 「シロコちゃんに、趣味仲間が見つかって良かったです☆」

 「あー、アキ先輩、優しいもんね……うん」

 「あはは………」

 

 話し終えると、ノノミを除き、後輩ぐみは微妙に引きつった顔を浮かべていた。ツーリングのしんどさを身を持って体験しているため、つき合わされる彼女を思い身中で敬礼をする。

 アキ先輩、身代わりありがとう、と。

 

 そうして話が終わり、シロコはジャージのカタログを取り出しては皆に相談を始める。どの色がいいだろうか、と。

 そんな話も程々に、次の話し手にお鉢が回っていく。

 

 「私はですね………」

 その後、アヤネがアキ先輩のお話をする。

 パトロールの合間合間に顔を覗かせてくれては、修繕を手助けしたり、学校の修繕用の資材を運ぶのを手伝ってくれたり、と何かと気にかけてくれる彼女。

 度々顔を出してくれるお礼に差し入れを交番まで持っていくと、たまにウトウトしていて、こっそりと遠くから寝顔を撮りました。と、眼鏡を煌めかせてアヤネは見せびらかす。その様子に場が湧く。

 特に一番盛り上がったのは、先生だった……。若干周囲の視線が冷ややかになっていたのはお約束。

 それと、訓練なしで手足のように雨雲号を動かせたりして驚いた。と話をして、周りがキャッキャと騒ぐ。  

 

 「じゃ、次は私ね?」

 セリカは悪徳業者のセールにハマっていたところがファーストコンタクトであり、売りつけた張本人を一緒に追いかけてくれた。と打ち明ける。

 結局、紆余曲折あって売っていた品物が爆発した上、犯人は星になったとか、なんとか。

 「飛んでいった時の顔は傑作だったわよ? 皆に見せてあげたいぐらいだったんだから」

 

 手足を使ってまで説明をするセリカに、皆から笑いが漏れた。がらんどうの校舎に笑い声が響き渡り、にわかにアビドス高校に騒がしさが駆け抜けていった。

 そんな場が暖まってきた頃、ノノミに視線が行く。そして、皆の意見を代表して、先生が口を開いた。

 

 ──ノノミのお話も聞かせてほしいな?

 

 それに促されるように、彼女は口を開いた。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 実は、皆には内緒だが私はここに来る前のアキ先輩を見たことがある。まだ実家で令嬢として扱われていた頃の話だ。ネフティスグループの会合の中で、関係者が呼ばれたパーティの中で、一度だけ見たことがある。

 まるで人形のように酷く冷たい目をして周りを見ていた。その頃から背丈は変わっていないのに、雰囲気はすごく変わっていたので最初は別人だと思ってしまっていた。

 その時はその親が親戚の子と紹介されていたが、大人たちが陰で何か言っていたのは聞こえていた。妾の子だとか出自不明だとか、あまり耳にいい話は聞かなかった。てっきりトリニティに行ったと思っていたのに、随分と数奇な運命を辿っているみたいだ。

 その事もあってか、世の中の全てを見透かしては大人に対して憎悪するような瞳の持ち主に対して、私は苦手だな。という印象が強かった。

 ただ、それも彼女がここに来るまでの話。アビドスに来てからの彼女の印象は弄りがいのある先輩といった感じだ。

 彼女は大人びているようで言葉遣いも丁寧だが、時折抜けているところがある。それも油断していると更にだ。本人はしっかりしているつもりでも、たまに物凄いミスをやらかすので、見ていて飽きないし、お世話をしたくなるのだ。

 それもこれも、まだ彼女と私が一対一で話し合いしたことが無い時に、コインランドリーでの一件があったからだ。

 

 皆の洗濯物を一括で洗っていたら、アキ先輩が入ってきてこちらを見て固まった。

 

 「あ、えと、十六夜……ノノミさん、こんにちは?」

 「こんにちは~」

 「キョウハ、イイテンキデスネ」

 「カタコトですね~?」

 

 向こうも、私が十六夜グループの娘である事を覚えているようで、気まずそうに少し離れた場所に立っていた。

 

 「あの……十六夜、さん」

 「ノノミでお願いします」

 「じゃあ、私もアキで。で、ノノミさん」

 「はい、なんでしょう~?」

 「……イイテンキデスネ」

 「やっぱりカタコトですね~?」

 

 ちなみに今日の午前中は砂嵐で色々と大変だった。後片付けも終わり、みんなを代表して洗濯に来ているのだ。

 そんなときに向こうが、バタン、とドラム式の扉を閉める。砂まみれの制服をまだ着ていることに気づいた。砂嵐の中でパトロールでもしてきたのだろうか、いや、流石に何も見えないだろう。と気になって思わぬ声が出る。

 

 「あれ、別の服は……?」

 「今朝方に派出所で寝てたら、砂嵐で窓が外れて服全滅しちゃって……」

 

 派出所にクローゼットが無いため、洗い替えも全滅しちゃったんですよ。と困ったように笑う顔。ふにゃり、とした笑い方にかつて私が恐怖したものは無かった。

 よく見るとお風呂もまだなようで、髪も砂まみれであった。だいぶしょんぼりとして、犬耳も垂れ下がっている。

 そんな捨て犬みたいな姿勢を見て、今まで持っていた印象がだいぶ変わってくる。もしかして離れて立っているのも嫌だからではなく、こちらを汚さないためだろうか?

 そんな印象の変化と、純粋な善意から手助けできないかとみんなの服を詰め込んできたボストンバッグを漁る。

 

 「なるほどー、じゃあ、これとかどうでしょう〜?」

 

 たまたま後輩に冗句で着せようと持っていたメイド服を取り出して目の前に広げてみた。

 それを見た彼女は、目をまんまると開く。

 

 「ノノミさん、それは………?」

 「ここに可愛いお洋服があります。洗い終わるまで着ませんかー?」

 「いやいや、流石に……」

 「アキ先輩、洗い替えまで全滅して大変そうですよねー?」

 「うっ………」

 「今だけ着るだけで、手間とか時間とか節約できちゃいますよ?」

 「いやでも、ほら、砂! 砂で汚れているので!」

 「私、このあと何度か回すので大丈夫ですよー?」

 

 うぅ、とうめき声を上げるアキ先輩を見ていると、この人弄りがいがあるタイプでは? と、だんだんと内なるイタズラ心が表に出てきてしまった。

 

 「そ、そんな可愛い服、最近本当に着てなくてですね……!」

 「アキ先輩、可愛いから似合いますよー? しかも、まだ誰も着てない新品です!」

 「そういう問題ではなく!」

 「それに、衣服はきちんと洗ったほうが色々と楽ですよー?」

 「うっ、SRTの服装規定。任務外においてもその規則を崩さずに常に意識すること……いや、でも今、ヴァルキューレだし」

 

 だんだんとアキ先輩の目が泳ぎはじめ、合理性と羞恥の間で揺れていた。結局、確かに今3着しか無いし砂まみれだと不審者か……とブツブツ呟いて、震える手でメイド服を掴む。 

 

 「あの………お借りします………」

 (あ、ほんとに着るんですねー)

 

 ほんの冗談のつもりであったのに。

 思ったよりもこの先輩、押されることに弱い。益々この先輩可愛いのでは? という気持ちが鎌首をもたげてくる。

 ぐるぐるとした目で、お手洗いに駆け込む背中を見送る。そしてしばらくした後、彼女は他に誰か来ていないかを慎重に確認し、姿を現した。

 その姿を見て、私は息を呑む。

 

 「わぁ、そのままアイドル出来そうですー! 可愛いです!」

 「本当に勘弁して下さい……任務以外でこういうの着るの慣れなくて……」

 

 犬耳メイドの爆誕だった。白磁のような手足がフリルのついた衣装から伸びて白と黒で構成されるメイド服とのコントラストが完璧であった。若干チープな衣装であったのが真面目な彼女と対比して更に背徳感を増す。しかも、羞恥の赤ら顔つきである。同性の私からしても正直唆るものがあり、心の中でごちそうさまですー。と唱えておいたのは秘密だ。

 そんな褒めちぎる私を他所に、彼女はすぐさま砂まみれの制服を洗濯機に叩き込み、乾燥をかけられる服が回る姿をじっと凝視していた。

 

 「そんなに穴が開くほど洗濯機見なくても〜。似合ってますよー? アキ先輩。このままその服差し上げちゃいます!」

 「いや、本当にこちらも洗って返しますので、はい」

 「そんな恥ずかしい服装でも無いですけどねー? 水着でもバニーでも無いんですから」

 「そんな格好でコインランドリーに着てたら、不審者ですよ! 逮捕ですよ!!」

 

 そんな感じでソワソワするアキ先輩と楽しくお喋りしていると

、洗濯機がピーッと鳴るのに反応し耳がピーンと立つ先輩。そして速攻で鳴った扉を開けた。

 

 「あ、待ってください! それ、私たちの!!」

 「……うわぁ!!! 失礼しました!!」

 

 そんな一悶着があった後、結局可愛かったメイド服も脱いでしまい、アキ先輩はラフな格好になっていた。

 

 「アキ先輩、もしかして私服あんまり持ってないんですか?」

 「今は、あんまりオシャレとかそういうのする気には……」

 「じゃあ、今度見に行きましょう〜!」

 「はい? いやだから!」

 「こんなに美人さんなのにもったいないですよ〜? 皆も誘ってショッピングしましょう!」

 「うぅ、お仕事だってあるのに……」

 

 だんだんと小声になっていくアキ先輩をひたすら弄り倒してその日は帰った。

 結局、後日皆を連れてショッピングをしにいったけど、メイド服みたいなフリフリの可愛いお洋服を推したけど着てくれなかった。残念。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 「えっ、良いな! 私もアキ先輩のメイド見たかったんですけど!」

 「私も興味ありますね……水着とかも着てもらえますかね」

 「ん、次はライダースーツも着せる」

 

 いつの間にか皆の着せ替え談義になって、何を着せたいか、という議題で大盛り上がり。すっかり想像の上で際どい衣装を取っ替え引っ替えされる係と化したアキは、本人のあずかり知らぬところで、今度実際に着せる。と裏で取り決められた。

 時間も忘れてしまうほどに話し込んでしまったと気づいたのは、乱暴に教室のドアが開けられた後だった。

 バタン、とドアが柱にぶつかり音を立てる。

 

 「ホシノ……先輩?」

 

 そんな平穏な空気を打ち砕いたのは、遅刻者であり、深刻な顔をしたホシノであった。

 息せききって駆けてきたのか、その呼吸は乱れきっている。それを意に介さずに彼女は見渡して、言葉を発した。

 

 「皆、話を聞いて」

 

 ──一緒にアキちゃんを探してほしいんだ。

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