元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話 作:宵越しのモルス
──誰かに頼られること。それは自身に価値を見いだせない私にとって劇薬だった。
しかし、どんな劇薬でも使い方次第では薬にもなった。寄りかかれる程に頼られても嬉しいものは嬉しいのだから。
隊長時代では立場上、頼られたり相談されたりすることもあった。その事について私は役に立てていると思えていたし、素直にそれが喜びだった。
でも、いつかその胸の暖かさを無くした時、それは依存性のある劇薬に逆戻りすることを意味していた。
誰かのひそひそ声を聞くたび、胸の中に凍え上がる程に冷たい木枯らしが吹いた。誰かの視線を感じる度に、何か言われていないかと耳を自然と傾けるようになった。
自身の行動の結果だ。誰かの人生を影で支えた。胸を張るべきだ。そんな言葉の厚着で身を固めても、隙間風がいつの間にか入ってきて凍えてしまう毎日だった。
終わらない冬のトンネルを走り続けて、息も切れて苦しくなってきた頃。ふと、気が付くと、足元に暖かいものが近くに転がっていた。
私は、その温もりが欲しくて、それを誰がくれたのかも知ろうともせずに、また走り出した。
◇◇◇◇◇◇
「あっづぃ!!」
今日も派出所内のエアコンは壊れ、本日の直射日光はサンサンと輝いている。15分ほどの仮眠から目覚めると既に汗がマズい事になっていた。
「あっ、やっちゃった」
本能で身体と顔を震わせ汗を弾き飛ばすと、あちこちに水滴が飛ぶ。普段やらないのに……寝不足が祟ったのだろうか。
しかし、そうそうに休んでもいられない。話を聞かないピンクの悪魔こと、ホシノちゃんから正式に助けてね? とお願いされたのだから!
警察組織として、そして正義を掲げて邁進してきた自分としては、こんなに嬉しいことはない。早速、何を調べようか。といったところで、昨日、ヒナちゃんからの忠告を思い出した。
『カイザーコーポレーションには気をつけて、奴ら砂漠で何かしようとしている』
ということで、砂漠に行こう。と一徹目の変なテンションのままにサクッと決定し、準備に取り掛かることにした。
SRT時代のバックパックを用意し、手際よく必要なものを詰め込んでいく。早く完了しないと腕立てがスタートする為、学園の皆はスピーディーになっていくのだ。
電波も通じないだろうし、念の為と書き置きを残していくことにする。
なにぶん、かなり広い砂漠地帯だ。後から追いかけられても困ることになるだろう。とりあえず最低限だけ書いていればいいかなぁ、と思って、内容を考える。そもそも毎日暇が過ぎてパトロールに半日使うような交番だ。こんな所に来るとしたら、ほぼ身内なのだ。
しかも、まず私に用なんてある人はいない為、少し冗談めかして書いてもいいだろう。と家出風にまとめてみる。
さーて、書き置き、書き置きっと。
サラサラっと書いて、砂漠歩きようの装備をまとめ私は早朝に出発した。たぶん誰も読むことはないだろうし、いいかな、とイタズラ心が芽生えた文章にはなったが、すぐ戻るつもりなので問題は無いだろう。
「水、食料良し、地図良し、コンパス良し。では行きますか!」
ホシノちゃんとも仲良くなれたし良かったなぁと、一睡もせずに砂漠へと繰り出した。善は急げである。
特に助けて欲しい。と彼女に頼まれてしまった以上寝てもいられない。気力は充分すぎるほどにあり余っていた。
砂丘の稜線に朝日が昇る。キラキラと煌めく砂地を一歩一歩踏みしめていく。点々と連なる足跡を尻目にどんどんと砂漠の奥地へと向かっていった。
「何か情報があればいいんですけどね」
呑気に構えている自分とは裏腹に、圏外とギリギリ通信するのを繰り返していた携帯が断続的に震えていたのは、だいぶ後になってからであった。
◇◇◇◇◇◇
しばらく平屋の屋根が埋もれているエリアを歩いていると、延々と続く砂漠にビルの廃墟が立ち並び始めた。
砂に埋もれ突き刺さるようにして残るコンクリートの巨像たちは、かつて歓楽街として賑わっていたであろうと想像させるもので、余計に寂しくなるようなものであった。
忘れて去っていた街並みを一人で歩いていく。浮浪者や、不届き者すらも来なくなって一体どれ程の時間がたったのだろう。かつて栄華を誇り不夜城を照らす照明として建っていたであろう街灯も、文字がひっきりなしに行きかっていたであろう電光掲示板も、今や砂に埋もれ、飛び石のように歩きやすい足場の一つでしかない。
繁華街の墓標たちの間をしばらく歩いていると、二本の線が砂にうっすらと残っているものを発見する。
「車両痕、かな?」
かつてビル群の一角にあったであろう山海経の街並みをそっくりそのままアビドスに持ってきたような街並みの間を通り、傾いて埋まっている絢爛豪華であっただろう門をくぐり抜けている。見つけた車の轍のようなものは更にこの先に長く続いているようだ。しかも、その本数は途中から合流している。
この街並みを抜けた先はオフィス街だった場所であり、崩落も酷ければ劣化も進んでいる場所。つまり、住むには不便であり、浮浪者グループであればもっと別の場所に拠点を構えるだろう。つまり、それ以外の利用者であり、現在の生きている市街地から遠く離れて隠れて何かをしたい組織となる。
ビンゴだ。と直感的に悟った。
しばらく車両の跡を追うと、薄くなった足跡が混じり始める。
歩哨(COP)のルートの範疇なのだろう。中心地を仮想敵拠点として、その外縁をぐるりと回れば見張り台等の施設に当たってしまうだろう。既に発見されている可能性もあるが、警戒態勢以外でわざわざ廃墟に陣取るとも考えても仕方がない。
周辺の地形と歩哨のルートを鑑みて、地図にぐるりと円を描き、中心点を仮想の目的地とする。
「こういうとき、シーちゃん居ればなぁ……」
オペレーターである彼女(山南シキ)は戦術眼がずば抜けている。だいたいこういった時に敵配置と戦力を見抜いて、的確な予想を出してくれるのだが……勿論私にそんなものはない。
「セッちゃんに、マメちゃん……隊員が恋しいなぁ……」
副隊長の土方セタは狙撃の名手だった。それに冷静に現状を鑑みて私にダメ出しをしてくれた。そして、マメちゃんこと、沖田マオは提案する作戦を実現する突破力を与えてくれた。皆、優秀だったのだと、居なくなってから改めて実感する。
ちなみに私は特に何も持ってない。周りがそれぞれに問題児ながらも優秀だった為、お飾りなだけだ。
さて、と、状況が状況なだけに、どうしたものかと脳内でシュミレートタイムになる。まずは、DOGGY
小隊がそれぞれが提案しそうな内容を脳内で描いてみる。
『オレに聞くな。たまには自分で考えるのも隊長の仕事なんじゃないのか?』
うっ、と、セッちゃんごめん。と、脳内なのに言葉に詰まらされる。いつもは、そんな厳しい言葉のあとに具体的な提案をしてくれたのだが。それをしてくれる副隊長はもう居ない。
気分が暗く沈みそうだった為、考えを振り払い、想像のバトンをパスする。
『あらあら、予想されるルートと、情報網の寸断。敵の装備、内装はどうなのかを監視カメラをハッキングなどで丸裸にすると殲滅が楽になりますよ?』
うふふ、と脳内のシーちゃんが笑う。笑ってはいるが言ってることは恐ろしい。柔らかな笑顔で好む手段が殲滅なので、本当に怖い。流石、隊内で一番怒らせてはいけない人だ。
『え? ボクに聞くの? じゃあ………特大ナパームで焼き払うとか? というか、そんなことより見てよコレ。昨日新しく作成した………』
天才肌のマメちゃんは、何でも何となくで出来ていたので返しが雑!! そして、大抵が思いつきで作ったものがトラブルのもとになるので注意が必要で……。
ふふ、と懐かしさで笑みが溢れる。皆、それぞれの道になってしまったけど、元気にしていてくれるといいなぁ、と、ふと思う。勿論、他のSRTの生徒たちも、だ。
それはそれとして突破手段がやっぱり見つからない。単独ユニットである私にどれだけの事が出来るかと言われると正直、遠くからの観察が限界といったところだろう。まずは、単独で出来ることからである。歩哨が問題ないようであれば、正面突破もやむなしだ。
適当な廃墟に乗り込み、遠目から観察を行う。その最中、ジリジリと焼いてくる太陽が暑いと言うより痛い。一切空調の無いビル廃墟の上に陣取っているのもあり、下からもコンクリートの反射熱が来る。ローストビーフにでもなった気分だ。
しかし、その甲斐あってか、難なく仮想敵の駐屯基地を発見した。
基地の全容としては、まとめるとPMCの基地であった。兵舎に兵器庫、格納庫らしきものまである。およそ戦闘ヘリか戦闘車両まで保持しているものと推測されるが、詳細は不明。真正面から戦闘を仕掛けると少し苦労しそうだ。
「距離………ポイントFに車両認む。待機」
双眼鏡にて覗き込むと、先程の轍に沿うように車両が砂丘を越え基地内に入っていく。検問所にて、一人車より女生徒が出てきて軽いボディチェックを受けていた。
その姿に見覚えがあった私は、双眼鏡から思わず目を離し、目を擦る。そしてポツリと言葉が溢れた。
「ユキノ………?」
双眼鏡越しの景色に居たのは、SRT学園の最優の小隊の『FOX小隊』隊長であった『七度ユキノ』の姿であった。
彼女は再び車へと吸い込まれていく。何故彼女がここにいるのかは分からなかったが、真っ当な正義を掲げていたユキノが、ここに居るのは似つかわしく無い。カイザー関連の基地に何の用があるのだろうか。
ふと、最後に交わした言葉を思い出す。
『アキ、私の勝ちだ』
『これからどうするんだ。アキ』
普段見せないような不安げな目をしていた彼女。思えば、そんな姿を見るのは初めてだったかもしれない。彼女はいつも迷うことなく自身の信じる正義に邁進していた。
その姿に憧れていたし、嫉妬していた部分だって正直ある。
だからこそ、現在どうしてここにいるのかが理解出来ないのだ。
しっかりしていた旧友だからこそ、私がヴァルキューレ転校すると決めた日以来、彼女が旗頭となるSRT学園の維持運動に水を差さないように連絡を断っていたのに……。
旧友の姿を見て、居ても立っても居られない私は、立て掛けたバックパックを開く。地図、コンパス、プラスチック爆弾少量。レーション。そして、愛銃が二丁。
幸い、ヴァルキューレの業務からは大きく外れているため、今日は半日非番の日として申請してきている。つまり、愛銃が二丁一緒だ。普段は所定の制服と、制式採用型の拳銃なので耳の毛並みが決まらないぐらいソワソワしてしまう為、キヴォトス人の愛銃は身だしなみと同じであるのだ。
潜入工作を行うには事前工作が不足しているが、万全の状態で取り掛かれる事など本番には無い。いつだって、訓練は本番で使える武器を増やすことなだけ。そう自分に言い聞かせる。せめて段ボールがあったなら、言うことは無いが……無いものねだりをしても仕方がない。
荷物は最低限にし、私はビルの隙間を縫って歩哨の警戒ルートへと飛び込んだ。
「誰だ!! ……なんだ、ネズミか」
「なんだツチノコか……ツチノコ!?」
「おっと、こんな所にレーションが。誰が落としたのか知らんが、腹減ってたんだよな。……うっ、腹が!!」
「おぉ!! これは……!! うひょっ、はぁ……はぁ」
そうしてビル群や、物陰を駆使し警戒網を潜り抜け、時にはレーションや、野生動物。そして、何故か落ちていた『禁断の愛~許さないからこそ美しく~』(規制前R17版)を使い注意を逸らしていた。PMCとはいえ、この警戒の無さは一体……。
そうして、検問所目前の住宅廃墟までたどり着いたわけだが、流石にこれより先はスニーキングだけではどうにもならない。ここから先は正面戦闘。と覚悟して、安全装置等の最終確認を行っていた時。
──警報が鳴り響いた。
思わず身を竦ませる。痕跡の始末も完全ではないだろうし、何処かの警戒網に引っ掛かったか。と、遮蔽と移動ルートの確認を瞬時に済ませる。
だが、どうにもこちらに敵がくる気配がない。別の場所で誰かが引っ掛ったようだ。戦闘ヘリまで出動した為、相当な事態らしい。気にはなるが、他に優先事項があるためそうも言ってられない。
(ユキノ、どうして……)
誰だかは知らないが好機。と出動していった混乱をついて、検問所を一気に制圧し内部に侵入した。
相当数の兵士が出動したようだが、まだ予備兵力が残っているのも確かである為、一気に建物から建物の間を疾駆する。途中何度かの遭遇があったが騒がれても困る為、『静か』になって頂いた。
そうして、車が吸い込まれていった建物に侵入することに成功した。中は実験棟のようになっており、何らかのデータが張り出されている他、監視カメラのようなものが独房らしき場所を映している。
(趣味がいいとは……言えない場所ね)
幸い、司令部(HQ)とは別の場所であり、ここに配備されている人員も警戒態勢時の配置についたのだろう。そうして内部を物色していると、人の気配がこちらへと向かってくるのを察知した。物陰に隠れ、息を殺す。
やってきたのは、カイザーの重要人物である理事と、その腹心であった。その二人は片手サイズのものを手に何かを話していた。
「……スの連中め、嗅ぎつけたかのようなタイミングで……」
「たった5名ですし、こちらにはゲマトリアの支援もあります」
「これを使ってみるのも、一興、か」
物陰から様子を伺うと、理事の片手には手榴弾のようなものが握られていた。
「……が、ゲマトリアを名乗る胡散臭い連中の兵器の一つか」
「はい、試作品ではありますが、殺傷能力に問題は無いと」
殺傷と随分と物騒な言葉が聞こえ、更に聞き耳を立てる。
「ヘイローを破壊する爆弾、と言っていたな」
「小鳥遊ホシノに使用するものだと、彼は言っておりましたね」
──動くなっ!!
その名前を聞いたとき、身体が勝手に動き出した。
物陰を飛び越し、両手に構えた愛銃が正確に二人を狙いつけている。二人は驚きの表情を浮かべて私を睨みつけた。苦々しい顔で理事の方が声を上げる
「近藤アキ。アビドスに飛ばされた干からびた犬か……。随分な越権行為だぞ」
「覚えて頂き、どうも。それで、いつからヴァルキューレはカイザーの下部組織になったのでしょうね? 再度言う。動くな、その爆弾からも手を離せ」
「ちっ……」
コトリ、と爆弾が置かれ、再び両手が上がる。
「危険物の所持の疑いで同行願おうか、カイザー理事、そしてその共謀者」
「くくく、どの権利で私を逮捕するのだ? 元SRT。ヴァルキューレとして動くのであれば、令状を出してもらおうか」
「動くなっ!!」
勝手に歩き出した理事に、再度声を張り上げ警告をする。
しかし、その警告を無視し、カイザー理事は爆弾を拾い上げようとする。
「警告はした、撃つ」
「残念だが、撃たれるのは貴様だよ。近藤アキ……なぁ、現SRTの七度ユキノ?」
私は眼前の二人に注視しているあまり、後方への警戒がおろそかになっていた。
その代償は、良く知るアサルトライフルを突きつけられることで支払われる事になる。
「動くな、アキ」
聞き覚えのある声が、警告色の強い色を伴って叩きつけられる。
自身への舌打ちと、耳を疑うような愕然とした思いが混ざり合いながら、両手から力を抜く。
──慣れ親しんだモノが手から滑り落ち、音を立てて床に散らばった。
ゆっくりと振り向き、良く知る顔と対面する。
忘れもしない艷やかな黒髪と、それによく似合ったキツネ耳。端正な顔と、それを支える真面目な瞳。
ここに潜入することになった理由。今、最も会いたくて、会いたくなかった。SRT時代の旧友。
SRT学園、No1の実力を持ったFOX小隊。その小隊長。
──七度 ユキノが、沈痛な面持ちで私に銃口を向けていた。