『Black Cat 黒猫』の二次創作作品   作:三毛子猫

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本作はファンフィクション(二次創作)です。以下の作品に登場する設定・用語・キャラクターイメージを一部参考にしていますが、公式とは一切関係ありません。

参考作品:

・漫画『BLACK CAT』(矢吹健太朗/集英社)

・ゲーム『Detroit: Become Human』(Quantic Dream)

・ネットドラマ『CODE ファウストゲーム』


第五章(QR code)〈NOTOにゃん監修版〉

【時間】午後1時台

 

車を降りるや、太めの男が遠くから駆け寄ってきた。

 

「で、どういう状況だ」

 

不機嫌さを隠さない声音。男は子どものようにおどおどし、言い訳をこぼす。

 

「兄貴、本当にすみません……こんなことになるなんて……俺……」

 

三十九にもなって、年相応の落ち着きがない。

 

爆ぜるのは避けたい。大事な情報屋を見失わせ、その上、途方に暮れている。——託した俺の判断ミスだ。できない責任を他人に投げた俺の。

 

コナーは助手席から降り、空気の悪さを読んで待機に回る。

 

「……で、線(せん)は今どうなってる。拉致か、逃亡か」

 

落ち着け。状況把握が先だ。トレインは怒りを抑え込む。

 

「連れ去られました。俺、ちょうど自販機で飲み物を……」

 

勤務不能の間、男は定時で様子を見に来ていたという。郊外のモーテル。都会の逢瀬向けとは違い、ただ泊まるための安宿だ。

 

今日も同じ時間に。相手は携帯を持たない。だから時間指定で訪ねた——数分の遅れで。

 

黒い車が入っていく音。ドアを開ける音。ノック。怒鳴り声。

 

『そこにいるのは分かってる。とっとと乗れ!』

 

気づいた時には遅かった。握っていた缶を落としかけた。

 

自販機の陰から覗くと、線は強引に車へ。キキィと音を立てて旋回し、砂煙の中へ消える。見送ったのは、後部座席の線と、遠ざかるナンバー。アルファベット3、数字4。A▉H-0000。覚えやすい。

 

要領を得ない前置きに、トレインは反応を省き、同僚へ発信する。

 

「トレインだ。車番A▉H-0000の現在位置を追ってくれ。掴めたらLINEに流してくれ。助かる、切る」

 

通話中、男は安堵して周囲を見回し、そこでコナーに気づいた。

 

「兄貴の同僚さんで?」

 

「コナーです」

 

礼儀正しい自己紹介。

 

「兄貴がいつもお世話に……兄貴、体が強くないから……」

 

取り繕う雑談。善意は分かるが、タイミングが最悪だ。

 

「自分の心配してろ」

 

怒気を帯びた低い一言が割って入る。

 

「あなたはハートネットさんと、どういう関係ですか」

 

コナーは走査する。血縁なし。職歴なし、現在無職。年齢は7歳上だが、呼称は“兄貴”。

 

「俺は兄貴のファンクラブの会長。うちの兄貴は女子高生に大人気でね、会員はもう100万人超え——」

 

中年にまで崇められる“イケメン刑事”。写真を貼ればバズる。男は独白に沈み、今が火事場だと忘れている。

 

コナーは、男が正業を持たず、ファンサイト運営で収益を得る構図を把握する。“偶像”化と商業の混成。

 

LINE——着信音。トレインは即座に開く。Googleマップのリンク。廃工場だ。

 

「コナー、行くぞ」

 

トレインは先に乗車する。線を見つけるまでは、他事に構っていられない。

 

「了解」

 

コナーも乗り込む。

 

取り残されかけた男が現実に戻る。

 

「ちょ、兄貴、俺は? 一緒に行っていい?」

 

エンジン始動前、運転席側へ駆け寄り、窓越しに食い下がる。

 

「乗れ」

 

怒りを押し込み、理性を引き上げ、短く吐き出す。最悪の絵が、頭の中で何度も再生されている。

 

男は後部座席へ。安全帯も待たずに、タイヤは甲高い悲鳴を上げた。

 

【時間】午後3時台

 

繁華から外れ、景色は痩せていく。目的地の一本手前の路地に車を止める。

 

トレインはベルトを外し、コナーも続く。降車の刹那、トレインは後席の男へ振り向いた。

 

「これを持て。二十分待っても音沙汰がなければ、この車を出せ。それとBOSSに電話しろ」

 

車のキーと、番号を書いた紙片を手渡す。

 

「了解。気をつけて」

 

車外へ。装備の拳銃に触れる。——できれば、使いたくない。

 

「行くぞ」

 

二人は一本先の廃工場へ向かう。外周に車影なし。外壁の陰に身を滑らせ、耳を澄ます。音はない。

 

「内部、確認できるか」

 

隣にいるのはアンドロイド。現場で使える機能がある。

 

「可能です。赤外線サーモグラフィを搭載」

 

コナーは立ち上がり、鉄格子越しに内部を望む。スキャン開始。

 

画面は青一色。床の一点だけ、かすかに黄と赤。

 

「一名、床上で倒れている。それ以外の反応はなし」

 

コナーの報告より早く、トレインはドアを蹴り、突入した。コナーも続く。

 

「……ちくしょう」

 

膝を着き、男の傍へ。——見知った中年。任せていた情報屋だ。瞳孔は開き、硬直が始まっている。

 

コナーは周囲を再走査。画面は青。熱源は遺体のみ。人体の中心温は37℃。死後一時間で約2℃低下、その後は一時間ごとに約1℃低下。検出温度から、死亡推定は一時間前。

 

「死後一時間です」

 

コナーは淡々と告げる。トレインは鑑識の出動を要請し、次に別の番号へ掛ける。

 

「線は落ちた。車で待機。俺は鑑識を待つ」

 

短く言い切り、応答を待たずに切る。

 

——悪い予感は当たる。これ以上話せば、爆ぜる。

 

「ハートネットさん、よろしいですか」

 

コナーは慎重に声を掛ける。

 

「なんだ」

 

「遺体の傍に、不自然なもの」

 

案内された先に、付箋ほどの紙片。大きなQRコードと、携帯番号。

 

「……左営。なんだ、これ」

 

QRの上に印字された駅名。どこかで聞いた。

 

「駅のコインロッカーの引換票です」

 

コナーがコードを読み取り、駅構内のロッカー位置を表示する。

 

「番号は追えるか」

 

「試します」

 

視線を番号に合わせて解析。——赤字表示。解約済。

 

「不可。回線はすでに解約されています」

 

「にしても……ただのロッカーの引換票、何が“不自然”だ」

 

死者の所持品と言われれば、それで通る。コナーの違和感の根拠は何だ。

 

「紙面に指紋が一切ありません。——不自然です」

 

鑑識が拾うタイプの情報を、コナーは即時に出す。トレインは僅かに驚き、頷く。

 

「確かに……妙だな」

 

トレインは引換票を撮影する。遺体の手は素手。彼の物ではない。

 

では、拉致側の置き土産か。なぜ、わざわざ痕跡を残す——いや、痕跡を消した“誘導”か。

 

また、忙しくなる。

 

- 第五章 完 —

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