『Black Cat 黒猫』の二次創作作品   作:三毛子猫

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本作はファンフィクション(二次創作)です。以下の作品に登場する設定・用語・キャラクターイメージを一部参考にしていますが、公式とは一切関係ありません。

参考作品:

・漫画『BLACK CAT』(矢吹健太朗/集英社)

・ゲーム『Detroit: Become Human』(Quantic Dream)

・ネットドラマ『CODE ファウストゲーム』


第六章(規則の外を理解できない機械)〈NOTOにゃん監修版〉

【時間】午後4時台

 

「被害者の傍らにQRコードの紙片。ただし指紋は一切検出されず。被害者の所持品ではない。第三者介入の可能性」

 

鑑識の写真をホワイトボードに貼り出し、トレインは会議でコナーの指摘を共有した。現場から直帰し、即座にBOSSへ報告。1対1かと思いきや、BOSSは同僚を二人呼んでいた。

 

「他には」

 

記録を繰る金髪のBOSSが、低く問う。

 

「以上です」

 

応えるや、BOSSは手元の資料をぱたんと閉じ、対面の同僚の机に放った。

 

「続報は適宜。案件はジェノス、リン・シャオリー、二名で引き継げ」

 

室内の空気が止まった。コナーを除いて。

 

深緑のジェノス・ハザードと黒髪の林曉利が目を見交わす。驚きはある。だが命令は命令だ。二人は黙って資料を回収した。

 

「以上。各自持ち場へ」

 

BOSSが立ち上がる。——空気扱い、か。発見者は自分たちだ。追うのも自分たちのはずだ。これが同僚を呼んだ理由か。

 

「待てよ。なんであいつらに回す? これは俺とコナーが上げた案件だ。続きも俺たちでやるべきだろ」

 

危険だから、か。あるいは、体調のせいで外されたのか。

 

BOSSは一拍置いて顔を上げ、トレインの不満を正面から受け止めた。目は冷えている。

 

「ハートネット。私はお前を信頼している。だから重要な線を預けた。結果はどうだ。線は“事件”になった。そんなお前に、同じ案件を任せられると思うか」

 

言い返せない。線が落ちたのは事実だ。視線が外れる。

 

「反省文、一万字。提出までは出動停止」

 

ため息が漏れる。ここで下手に下げる器用さはない。復帰初日で、案件剥奪、反省文。投げつける物が手元に無いのが、むしろ幸いだった。

 

——頭を冷やせ。

 

BOSSより先に、トレインは会議室を出た。押し開けた扉が、重い音を響かせる。

 

トレインの退室を見届け、コナーは状況対応を計算する。こめかみのリングが一瞬、黄に明滅。

 

「失礼します。ハートネットさんは、本日のコンディションが良好ではありません」

 

頭を下げる代理の謝意は、怒った側の温度を下げる。

 

「アイツが好調な日って、あるのかよ」

 

資料を繰りながら、ジェノスが毒を混ぜる。

 

「コナー。いつから追っていた」

 

さきほどの冷たさが嘘のように、BOSSは通常運転に戻る。

 

「十二時四十五分頃からです」

 

昼食時。通話が入って動いた、とコナーは想起した。

 

「で、ハートネットは食べたのか」

 

仕事となると熱が過ぎる。身体は弱いのに、案件が最優先。放っておけば、過労で落ちる。

 

「摂取はしましたが、途中から案件に移行。総摂取カロリーは約260kcalのまま出動しています」

 

弁当の総量は基準値を満たすが、食べたのは三分の一。外勤消費も加味すると負荷が大きい。

 

「コナー、反省文は定時までに提出させろ。……その前に食事だ」

 

期限を切らずとも、あいつは最速で出す。食事の方は、誰かが言わねば忘れる。機械ではないのに、基本が抜ける。

 

「了解しました、BOSS。ご安全に」

 

LEDが短く明滅し、コナーは礼を残して退室した。過剰な礼儀に、同僚二人は眉根を寄せ、BOSSは無反応で流した。

 

【時間】午後4時台

 

廊下の名札を辿り、トレインの部屋を見つける。ノックして入ると、床に寝袋。両腕を胸に組み、目を閉じていた。

 

体調か——コナーは即座に走査。異常なし。

 

「ご気分は」

 

「最高だよ。反省文、監禁。最高にな」

 

吐き捨てるような声。仰臥から側臥へ、背を向ける。今は誰の顔も見たくない。アンドロイドも含めて。

 

情動は不安定だ。だがBOSSの命は「まず食事」。テイクアウトから三時間。冬ならギリギリ許容。これ以上は生菌数が増える。

 

「少しお休みを。その間に弁当を温め直します。……と言っても、熱すぎない温度にします。お好きではありませんから」

 

丁寧で、少し拙い配慮。返事はない。だが、拒絶でもない。今の彼にはこれが“許容”のサインだ。

 

コナーは弁当を取り、食堂へ向かった。昼時を外した食堂はまばらだ。セルフの加熱区で手を止める。紙容器は電子レンジ不可。有害成分の溶出が懸念される。

 

棚には貸出のガラス食器。中身を移し替え、加熱。

 

【時間】午後4時台

 

定時二十分前。トレインは分厚い紙束をBOSSの机に置いた。

 

「一万字の反省文です」

 

復命の所作は崩さない。紙は平らに置く。

 

「相変わらず早いな。……露店の無許可営業の通報が入った。住所を送った。終わらせて、直帰しろ」

 

想定通り。時間を切らずとも、彼は仕上げる。

 

「了解」

 

踵を返しながら端末を開く。見慣れた住所。険のあった顔が、わずかに緩む。

 

車を停め、通報場所へ。果物の屋台だ。

 

トレインが店主へ近づき、コナーが続く。

 

「オヤジさん、体調はどうだ」

 

柔らかく声をかける。老人はうなずいた。

 

「通報が入ってる。今日は店じまいだ」

 

言いながら、トレインは果物を発泡スチロール箱へ戻し始める。老人も静かに従う。

 

——手順に合わない。

 

顔認証から、当該屋台は通報常習。勧告段階は超過。切符対象だ。

 

「当該屋台は数十回の通報履歴。勧告要件を満たしません」

 

今日は面倒が多い。コナーの正論に、トレインは目を細めた。手続きとしては、彼が正しい。

 

「オヤジさん、悪いな。勧告超過だ。道路交通法に基づき、切る」

 

赤票を取り出し、素早く記入して渡す。老人は反抗せず、静かに受け取った。

 

“まっとう”な人ほど、運命に従う。口汚く罵る者や、暴に訴える者とは違って。

 

失望と諦念の色が、瞳に浮かぶ。トレインは財布から二千円を抜き、差し出した。老人は深く頭を下げ、何度も礼を述べる。

 

——ようやく、胸の圧が少し下りた。

 

守るべきは市民だ。だが、全員を救えるわけではない。規則の外でしか、息ができない人もいる。彼らは誰も傷つけない。ただ、今日を生きているだけだ。規則は、彼らの都合を知らない。

 

トレインは手を動かし続けた。

 

隣のコナーは、まだ疑問を抱えているらしい。

 

「なぜ、金銭を渡したのですか」

 

「払う金だよ」

 

ここで察するのが“人”だ。だが、彼はアンドロイドだ。

 

「なぜ、その必要が」

 

真顔の追及。——機械は、規則の外を理解しない。

 

手が止まる。大きく息を吐き、トレインは向き直った。

 

「必要だからだ。助けがいるときに、助ける。違法で人を傷つけてるわけじゃない。ただ、生きてるだけだ。……分からないなら、車で待ってろ」

 

言い置き、コナーの脇を抜ける。

 

利得も、命令も、ない。それでも手を貸す。なぜ彼は、とコナーは理解に至れない。最後の指示に従い、先に車へ戻った。

 

屋台を片付けながら、トレインはその背を見送った。

 

言葉は浮かばない。ただ、息を吐いた。

 

- 第六章 完 —

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