終末秒読みのオーバーライト   作:蒸しパンナちゃん

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始まる前から終わりかけ

 

 

 会社が倒産して、俺は職を失った。

 転職先を探すのが億劫だった俺は、実家に戻ってからというもの、暇を持て余している。

 

拓磨(たくま)、あんた昼間からぼーっとしてないで、遊ぶなら遊ぶでちゃんとしなさいよ」

 

 暇を持て余しすぎて居間でゴロゴロしながら蜜柑を食うだけの生活を一週間も続けていたら、かーちゃんから怒られてしまった。

 ここで就活しろと言ってこないあたり、どこかズレたかーちゃんである。

 

「遊びかぁ……NewTube見るのは遊びに入らない?」

「NewTubeばっかり見てると頭がどんどん悪くなってくのよ。この前NewTubeのお医者さんが言ってたわ」

 

 ソースは信頼できないが、真顔で言い放つかーちゃんを見てると逆に信頼に値する説かもしれん。

 まあ、俺もおすすめ動画の巡回に飽きてきたところだ。そろそろ人間らしい趣味でもやってみるか。

 就活は……飽きてからで良いだろう。

 けど、遊びか。何して遊ぼうか。プラモでも作ろうかな。

 

「そういえば拓磨、あんた溜まってた手紙ちゃんと読んだの?」

「あ、見てないや」

「お友達からも色々来てたんだから、目を通しておきなさいよ。返事も書いたら? もう何年も前の手紙ばかりだけど、礼儀としてね」

「はいはい」

 

 俺はこの情報化された社会というやつにいまいち馴染めない人間だ。

 今でこそスマホなんかを持ってにゅうつべなんか見て使いこなしているが、数年までは電話しかできないような携帯しか持っていなかった。なんとなく、電子機器に苦手意識があったのだ。

 そのせいもあり、かなりアナログな暮らしをしていた。友人との手紙でのやり取りもそのうちのひとつだ。

 

「今更返信しても怒られそうだよな……」

 

 自分の部屋に戻った俺は、数日前に渡されたきり存在を忘れ去っていた段ボールを開封する。

 中には確かに、いろいろな手紙が入っていた。……中にはほとんどどうでも良いような広告じみたハガキもあったが、いくつかの封筒は俺にとって大事なものである。

 かつて趣味でハマっていたカードゲーム仲間からの手紙だ。

 昔はカードを交換するついでに、よくこうやって手紙のやり取りを楽しんだものだった。

 

「しー、ごー、ろく……うわぁ、溜まってるな。今更返信したら絶対に怒られるやつだ」

 

 一人暮らししていたから仕方ないとはいえ、音信不通のまま返事ができなかったのは申し訳ない。

 けど、もう何年も前の話だ……カードをやめてから五年……いや、八年以上経ってるはず。今更返事をもらったところで、向こうも戸惑うだろう。

 

 ……手紙の中身は、大会に俺が参加していないことを心配する声だったり、現環境がクソだとか、開発がエアプだとか、一ヶ月後に禁止にするカードを商品として売るんじゃねえだとか、まぁなんとも熱量に溢れた世間話ばかりである。

 懐かしい。よくそんな話もしてたよな……。

 

 けどこうして手紙を読んでいると、俺はずっと置いてかれたまま……カードゲームを辞めちまってたんだなぁと、感慨深くなる。

 プレイの環境が変わってから勝てなくなって、なんとなく面白みが薄れて、そしてそのまま遠ざかって、就職して……。

 

「……へえ? オバラ、VRゲームにもなったんだ。知らんかった」

 

 比較的新しい手紙では、当時俺がやっていたカードゲーム、『オーバーライト』にVR版が出たからお前もやれよ、みたいなことが書かれていた。なんか記念特典コードも送られてるとかなんとか。

 消印は……2085年。四年前か。結構前じゃん。知らんかった……。

 

「……は?」

 

 そして手紙には、衝撃的なことが書かれていた。

 

 

『全ユニット3D化されてるし、サンクチュアリ・ガールのパンツも見れるぞ』

 

 

 ま、マジかよ……そんな、馬鹿な……嘘だろ……? 

 これまでどんな立体物でも頑なにパンツを見せてくれなかったサンクチュアリ・ガールが……? 

 これが時代かよ……やべぇな……環境インフレしてんじゃん……。

 

「……買うか……! VRの……機械……!」

 

 俺は毎日惰性で動画を見る生活を続けていた。

 けどそれじゃだめだ。人間、そんなことばっかりしていると脳が萎縮してしまうのだ。

 

 人は考える葦である。考えない葦など、普通の葦だ。

 俺はまた始めるぜ……オーバーライト……! 

 

「かーちゃんかーちゃん、VRの機械っていくらくらいするのかなぁ」

「ええ? VR? お父さんが使ってたヘルメットとマッサージチェアみたいなのならうちにあるわよ」

「えっ、マジで? とーちゃんそんなの持ってたんだ。意外」

「ほんとにねぇ。高いやつみたいだし、親戚の子にあげるのも勿体無いから取っておいてたのよ。それ使いなさいよ」

「そうする。サンキューとーちゃん……」

 

 俺は仏壇のとーちゃんの位牌に手を合わせ、白檀の線香を5本追加した。

 

「VRの使い方って本になってるかなぁ。本屋で買った方がいいと思う?」

「さあ、知らないわよそんなの。とりあえず使ってみたらいいじゃない」

「壊れたりしないか心配なんだよ」

「平気よ、お父さんのだもの」

 

 いやどうせ使うなら大事に使いたいんだよ俺は……。

 けど結局スマホも使いながら覚えていったからなぁ。VRもそうなのかな。

 スマホの使い方の本、3冊くらい買ったけどあまり役に立たなかったもんな……ぶっつけ本番でもいいか。

 

「それにね拓磨、今はスマホの時代よ。わからないことがあったらNew Tubeで調べればなんでも出てくるわよ」

「確かにその通りだ。やってみるよ」

 

 そういうわけで、俺はカードゲームに復帰することにしたのであった。

 

「待ってろよ……サンクチュアリ・ガール」

 

 俺はとーちゃんの書斎へ続く縁側を歩きながら、蝉の合唱がする方に顔を向けた。

 空は青く、入道雲は高い。夏真っ盛り。暑い季節だ。

 時期的には夏休み。ってことは、こういうゲームをプレイしてる人も多いのかもしれない。

 一度そのところ調べてみよう。

 

「えーと、OverWrite online X……ん、んんん?」

 

 ゲーム名を検索欄に入れて調べてみると、ちょっと予想してなかったことが書かれていた。

 

「OverWrite online X、サービス終了危機か? ……ええ……?」

 

 俺のやろうとしてるゲーム、なんかもう既に腐臭がしてるんですけど。

 

 

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