終末秒読みのオーバーライト 作:蒸しパンナちゃん
オーバーライトVRがサ終間近……。
そんな記事を見ては居ても立ってもいられず、俺は即座にVRの機会をセッティングした。
几帳面なとーちゃんはしっかりとVR機器の説明書を取っておいてくれていたので、どうにか機械音痴な俺でも準備ができた。ありがとうとーちゃん。
ヘルメットじゃなくてヘッドセットっていうんだねこれ。初めて知ったよ。
「おー、なんかキュイーンっていってる」
機械を起動すると身体の意識が段々と曖昧になり、自分がチェアに深く座っているという実感すら薄くなってきた。
「これがVRかぁ、すげー……夢の中にいるみたいな感じなんだな……」
その後、真っ暗だった視界に案内板のようなものが表示されたり、生体認証がどうのこうのって表示からアカウントの設定みたいなものが始まったりと色々あったが、よくある設定ルーチンなので淡々と済ませていく。
しかし設定項目が多い。特にキャリブレーション? とかいう項目が長過ぎる。右手を動かしたり、左手を動かしたり、顔や目を動かしたり、歩いたり走ったりと忙しない。けど続けていくに連れて、電脳空間で段々と自分の身体を動かせるようになっていくので、結構面白い。こうなるともう、現実の自分が椅子に座っていることすら信じられなくなってくる。
今の俺の身体どうなってんの……? あ、ちゃんといつでも現実に戻ってこれるんだ。へー。まあそうじゃないとトイレも行けないもんな。尿意感知抑制システムなんてあるの? ふーん。なんか怖……。
「……おお、なんかシックな書斎になったな。ここがとーちゃんの……ホーム画面? みたいなやつか……あっ、ここからネットにアクセスできんのか。よし、オーバーライトやるぞオーバーライト」
幸い、オーバーライトVRは基本無料のゲームである。
ショップから無料のアプリをポンと落として起動すれば誰でもプレイできるようだ。ありがてぇ……。まあ仮に数十万してもプレイしてたけどな! 金なら潤沢にあるんだ。昔より金持ってるしやるだけやっちゃうぜ俺は。
ていうか基本無料でもさすがにパックを大量に剥くのにはお金かかるんだろ? どうせ大金は使うことになるじゃんね。
へへへ……女の子カード全部コンプしてやるんだ……。
当時の俺のマイフェイバリットデッキも作っちゃうんだ……。
「……インストール完了! よーし、やるぞやるぞやるぞ」
というわけで、ソワソワしつつも無事導入完了! あとはやるだけだぜ!
真っ暗な空間からサイバーなワープホールじみた謎の穴を抜け、視界に光が満ちる。
徐々に視界が回復すると、俺の眼の前には一人の少女が立っていた。何かの制服だろうか。コンシェルジュのような服を着た黒髪の子がいる。かわいい。今いる部屋も、どこか中世風ファンタジーの一室のような。へーすげぇ。完全に実写だこれ……。
「ようこそ、OverWrite online Xの世界へ! 私は案内役のクラリッサです!」
「かわいい」
「ウフフ、ありがとうございます」
「えっ」
独り言をぽつんとこぼしたつもりだったが、NPCから普通に反応があって驚いた。
AI搭載してるんだ。しかもすっごい自然に喋るじゃん。すげー。
「まずはあなたがこの世界で過ごすための名前とアバターを設定してください。アバターは、後から変更することもできますよ」
まずはキャラ設定をしなきゃいけないようだ。なるほど、まぁ適当に設定してしまおうか。
……けどまぁ、名前もアバターでも適当で良いや。どうせ自分自身で見れるもんでもないし、現実のやつそのまま使えばよくない?
あ、でも服は何種類かから選べるんだ……なんか現実にあったら結構高級そうだなどれも。うーん。……よし、この旅装っぽいやつにしようかな。
名前は……本名……いや本名はネットだしまずいのか。うーん……。
「プレイヤーネーム、“タクマ”でよろしいですか?」
「オッケーです」
結局本名をカタカナにして決定した。
フルネームじゃないしカタカナだしこれで大丈夫やろ。そんなことより俺は早くプレイしたいんだ。
「オーバーライト未経験者の方のために、ゲームのチュートリアルをプレイできます。いかがですか? 後から確認することもできますよ」
「大丈夫っす。自分、これでも経験者なんでね……」
「あら、それは心強いです! 何かわからないことがあれば、いつでも確認してくださいね」
これでも大会でブイブイ言わせてた男だぜ……? オーバーライトのことならなんでも聞いてくれよ……昔のこと限定だけど。
「こちらがタクマさんのプレイヤーカードになります。プレイヤーとしての証明書になっておりますので、紛失しないでくださいね。こちらはリンクストーン、プレイヤーとメッセージのやり取りなどができる通信用の宝石になります。そして、こちらの世界における商取引で必要となる、お財布のような機能を持ったブレスレット……ジェムバンドもお渡しします。タクマさんの所持しているお金、ジェムは全てこちらに記録されていますので、売買を行う際はジェムバンドを提示してくださいね」
じ、情報量が、情報量が多い!
なんかいっぺんにいろんなものを渡してくる! すごい!
「所持品を管理するための簡易的なインベントリもお渡しします。各地のお店で外観や容量を変更することも可能ですので、興味があれば様々なお店を確認してみることをおすすめしますよ! オンラインストアでの販売もしております!」
「へー、インベントリかぁ。容量に困ったら買うくらいでいいかな?」
「……あ、申し訳ございません。訂正いたします。今現在、OverWrite online Xではオンラインストアの機能を完全に停止させていただいております」
「ん?」
オンラインストア停止?
「……リアルマネーが使えないってことですか?」
「はい。申し訳ございません……」
「それはなんかこう、詳しくないんだけどサーバーのトラブル? みたいなやつで……?」
「詳しくはインフォメーションより、“【重要】オンラインストア停止につきまして”をご確認ください。申し訳ございません……」
まじかよ……いや、トラブルがあるからこそリアルマネー扱えないのか。そうか……。
いや待てよ? ってことはさ……。
「……もしかして、今ってカードのパックとかを買うこともできないんです?」
「既にお持ちであれば、リアルマネーで購入できるプラチナジェムによるカードパックの購入は可能です。しかし現在、プラチナジェムの販売は停止中となっております。タクマ様の現在お持ちのプラチナジェムは0ですので、こちらでの購入はできませんね……」
悲報。俺、札束でビンタできない。
まじかよ、大人の力でスタートダッシュできねえじゃん。
「ゲーム内通貨のゴールドジェムはゲームをプレイすることによる入手が可能ですので、そちらでもカードパックの購入ができますよ」
「あ、そうなんだ。良かった」
「目当てのカードがあれば、クリスタルを用いて個別にカードを生成することも可能です。ゴールドジェムを集めるにしても、クリスタルを集めるにしても、ゲームをプレイすることをおすすめします!」
「なるほど……とりあえずゲームやってけば良いんだな。まぁそれならいいか」
課金パワーは使えないけど、順当にカードを集めていけばまあ……どうにかなるか?
デッキ一つ分くらいは好きなの作れるのかね。不安はあるけど、まあそれも込みで楽しむとするか。
「最後に、こちらがタクマ様にお渡しするスタンダードデッキとなっております。基本的なカードを集めた初期デッキではありますが、使いこなせば十分に強いですよ! チュートリアルでこれらのデッキの使い方の説明もされていますので、わからないことがあれば確認してくださいね」
「おー、こんなにくれるんだ。太っ腹だ……」
ストラクチャーデッキのようなものを5種類もくれた。
中身は……うん。バニラ多めだけど普通に良いんじゃないか?
知らんカードもいくつかあるけど、基本的には知ってるカードばかりだ。懐かしすぎる……。
けど使いこなせれば十分に強いとは言うけど、このままじゃさすがに微妙だな。あとでそれぞれバラしてまともな一個のデッキにしてしまおう。
「それでは、あちらの扉から外に出てみてください。OverWrite online Xの世界へ、いってらっしゃいませ!」
「うん、ありがとうクラリッサさん。またよろしくな」
「うふふ、はい。タクマさん。今後ともよろしくお願いいたします!」
クラリッサさんに見送られ、俺はゲームの世界に続く第一歩を踏み出していった。
これから始まるのは課金のできないオーバーライト世界での戦い。
カードゲームどころかゲームそのものが久しぶりだ……なんだかワクワクするぜ。