終末秒読みのオーバーライト 作:蒸しパンナちゃん
オーバーライトは先に相手のライフを0にした方が勝つ。
初期ライフはお互いに20。しかし俺の眼の前にいるこの真っ白マネキンNPCは25もある。たった5と思うなかれ。このゲームの5は結構重い。
相手のデッキタイプによってはどうしようもない気もするが、さて……。
空中にコインが翻り、落下する。
そしてコインの向きは……裏。あれ、これどっち先行?
「あ、俺か。なるほどね、勝負を仕掛けた側から見たコインってわけか。それじゃ俺のターン、ドロー」
デッキからカードを引いて、初手確認。手札は……悪い。
いや、違うな。ライフ20だったら不満のある手札だが、ライフ25なら話は別か。悪くないぞ。
「マナを1支払って『スクラップ・スクワイヤ』を召喚」
『ガシャガシャ……』
光と共に現れたのは鉄くずを寄せ集めて作ったような、見窄らしいゴーレムだ。鉄パイプで作った竹槍みたいなものを装備しているが、そちらも決して強そうには見えない。
『スクラップモンスター。アウトメイジデッキですか』
「あ、君喋るんだ」
『当然です。AIですから』
よく見れば両目部分に宿る輝きは形を変えたり、点滅したりと意外と感情豊かだ。
身振り手振りも、AIなわりにじっとしているだけでもない。
すごいな。そんなところまで細かく再現してるのかよ……。
「タクマ、こいつは元々ゲームのイベントNPCだったやつが改変されて生まれた奴よ。元になったNPC同様、AIを持っているわ。だから単純なゲームプレイだけじゃない、盤外での情報収集もできる思考力を持っている……気をつけて。迂闊に喋ったら手の内を見抜かれるわよ」
「マジかよ、揺さぶりかけられるのは怖いなぁ」
『ご安心ください。貴方のような初心者にそのような小細工は必要ありません』
ひでえ言われようだ。俺ちょっとイラッときちゃったよ。
「カードで語れってことならお望みどおりに。『スクラップ・スクワイヤ』で直接攻撃」
『おや、1ダメージを取られてしまいました。これは痛いですね』
「なんか駆け引きしようとしてるよこいつ」
スクラップ種族の尖兵スクラップ・スクワイヤ。軽量速攻の頼れるやつだ。
初回で1ダメージ稼げたのはデカい。
「ターンエンド」
『こちらのターン。『ホワイトホール』を召喚します』
「……効果見して?」
知らんカードだ。えー効果は……ああ、普通にホール系置物の亜種か。
参照種族は“ニューワールド”。知らん種族だ。新テーマかな。
とにかくニューワールド系ユニットの召喚を補助するやつだ。始動としては、普通。並だ。
『ターンエンド』
「俺のターン、2マナで『スクラップ・グレネーダー』を召喚。そして効果発動、手札を一枚捨てて対象1体に3ダメージ。当然、プレイヤーに直接ダメージだ」
『!』
手札を雑に支払うことで発動するダメージ効果だ。
オンボロ機械の人形が燃える重油の入った瓶を放り投げ、相手プレイヤーを炎上させる。絵面が怖い。
「スクワイヤーで攻撃してターンエンドだ」
『……スクラップの特徴は再利用のしやすさ。墓地に置かれても再生しやすく、何度でも再起動する。弱点は、再利用を阻害されることです。私のターン』
マネキンが一枚のカードを鮮やかに掲げた。
『コスト2を支払い、スペル『除霊の一撃』を発動します。貴方が先程墓地に捨てた『スクラップ・スクワイヤ』を
「うわっ、墓地消してきやがったこいつ」
『墓地からの再生はスクラップデッキの起点。理想の動きはさせませんよ』
「初心者相手に大人げないよ君」
と、言いつつ。内心では舌を出していたりね。
「タクマ……ひょっとしてヤバい?」
「ちょっとヤバい」
『さあ、錆びついた動きでどこまで戦えるか、見ものですね。ターンエンド』
「俺のターン。……スクラップが機能不全になっていようが、俺の腕が錆びていようが、あまり関係ないんだけどな」
『ほう?』
相手の場には役立たずのホールが一枚だけ。それならどうとでもなるんだぜ。
「俺はマナを2支払って『噴石トカゲ』を召喚」
『噴石トカゲ!?』
フィールドに赤黒い岩で出来た小柄なトカゲが現れる。
トカゲは爆炎とともに宙に飛び上がると、そのまま相手のマネキン目掛けて落下した。
「登場時効果発動、お互いのプレイヤーに3ダメージを与える!」
『ギャギャギャッ!』
『そのデッキ……スクラップではなく、ビートダウンですか!』
「テーマを組めるほど賢い買い方してないんでね。ひたすら殴り続けるだけでいい馬鹿のデッキを使わせてもらってるよ」
このデッキは初期に受け取った複数のスターターデッキから軽量級やダメージ効果を持ったカードを寄せ集めたお手軽ビートデッキだ。
とにかく序盤から出して出して出しまくって、攻めて勝つ!
金の無い奴が強いデッキを一つ組むとなったらな、これしかねえんだよ!
『遅れを取り戻さなければっ……』
「わざわざ墓地を消してくれるなんて親切だねぇ。無駄な動きのお陰でリーサルが縮まったよ」
『2マナを支払いホワイトホールに『祝祭の白馬』をオーバーライト召喚! フロアを持つこのユニットのステータスはそれぞれ2上がる! グレネーダーに攻撃!』
痩せた白馬がホワイトホールの中から出現し、颯爽と駆け出した。
そのまま俺のフィールドにいる『スクラップ・グレネーダー』に後ろ蹴りをかまし、颯爽と戻ってゆく。グレネーダーは粉微塵になって消滅してしまった。破壊のビジュアルも細かいなあ。
「オーバーポイントを切ってまで除去を優先してきたか……まあそりゃそうだよな」
『ビートダウンの弱点は徹底した盤面除去。当然のことです』
「……なかなかやるじゃねえの」
それから俺は手札から火力ユニットを出しては相手にチクチクとダメージを与え、マネキンはそれを丁寧に除去するという応酬が続いた。
序盤こそリードを貰った俺だったが、ターンを経てマナが溜まってくると一枚一枚のカードパワーに差がついていく。
相手の中型ユニットはこちらの小粒のカードでは処理し難く、逆にこちらの攻め手は簡単に攻撃されて破壊されてゆく。
『旗色は鮮明になりましたね。こちらのライフは5で、貴方のライフは4。小型速攻ユニットで組み上げられたビートダウンデッキは、カード一枚の性能が低いです。私のライフをここまで削ったことについては称賛に値しますが、及びませんでしたね』
「……お互い20同士だったら勝ってたぜ? これ。俺の勝ちってことにしようよ」
ライフは、まあ見ての通りだ。俺も頑張って削ったが、相手の方に僅かにライフが残る結果となってしまった。
向こうの場にはやたらとステータスの高い『祝祭の白馬』、『祝祭の白象』がいる。
特にあの『祝祭の白象』は厄介な効果持ちだった。
『祝祭の白象が場にある限り、全てのユニットカードは登場時に2ダメージを受けます。この2ダメージは、小型速攻のユニットカードのほとんどに対応できると言って良いでしょう。貴方の手札は次のターンで2枚となりますが、白象によって手数でダメージを与えることは困難です。ちなみに、サレンダーは画面のオプションから選択できます。参考までに覚えておくと良いでしょう』
「お、マジか。親切に教えてくれるんだなぁ君は」
『いえいえ』
「タクマ……」
あと一歩で削りきれない。ビートではあるあるの負けパターンだ。
そこに惜しいという言葉はない。負けは負けだ。
「……最後の思い出作りにさ、これ通してくれない? スペル『ブラックマーケット』を発動」
『なるほど。申し訳ございません、スペル『天の
俺が発動したドローソースカードは空から降り注ぐ眩い輝きに焼かれ、消滅した。
容赦ねぇ。
『新手を呼び込むドローカードは封じさせていただきます。なぜなら、貴方のもう一枚のカードは最序盤からずっと抱え込んでいるカード。そのカードが使用できないものであるならば、他の道を潰すのが最上というものでしょう』
「……AIってのは人間くさい考え方をするんだな」
『おしゃべりはもうよろしいのではないでしょうか。サレンダーのボタンの場所はご存知ですよね?』
「ドロソの後に妨害切っても良かったのに、せっかちにもその手前で止める。君なりの勝ち筋が見えていたんだろうけど、人間臭いプレミだよな」
『何を言っているんです?』
「俺はマナを6支払って、手札から『スクラップ・マッハ・グランマ』を召喚!」
『なっ……』
俺のフィールドに降りだったのはガラクタを継ぎ接ぎにして作られた一台の戦車。
ガタガタと不規則に揺れ、不吉な異音が響いているが……車体の後方に違法増設された剥き出しのエンジンのパワーは本物だ。
『マナ6!? スクラップ!? そんな、そのデッキのカード配分で、固有テーマの大型ユニットを……!?』
「セオリーには無いだろう? 正しいよ。普通ビートにこんなデカいカードは入れない。テーマごちゃ混ぜのデッキにはなおさらふさわしくない」
『スクラップ・マッハ・グランマ』は登場時、自分の墓地に存在するスクラップカードを任意の枚数虚無に送ることで火力を上げる速攻ユニットだ。
召喚したターンに超高火力で攻撃することができるが、パンプアップは一度きり。その後は無駄に大きなだけの置物と化してしまう。他にも攻撃を通すための突破効果も持っているが、まあ墓地リソースを大食いする。スクラップ特化デッキでなければまともに扱えはしないし、特化デッキでもピーキー過ぎてあまり使われないカードだ。
『なぜそんなカードを……』
「強いからさ。……俺の数少ない手持ちではな」
『……!』
小粒の速攻で固めるのがビートダウンの理想だったが、はっきり言って寄せ集めデッキにしてもそれだけではデッキが組めなかった。だから何枚かは相手の意表を突くための大型ユニットを採用している。
ビートにしてもね……中途半端なデッキなんだよ、こいつ。
けどそのおかげで、相手の水増しされたライフを削れるだけのパワーカードを入れることができた。つまり、運が良かったってことだ。
「タクマ……さっきのドローソースは、ブラフで……!?」
「どうしてもグランマを通したかったからな。一枚くらいはあるだろと思ったからタイミングを見計らって使ったら、案の定だ。……おっと、おしゃべりしすぎたか。グランマの効果発動。墓地のスクワイヤ2枚を虚無に送り、グランマの攻撃力を4上げる。これで攻撃力は……6だ」
オンボロ戦車のエンジンが黒煙を噴き、更に激しくガタガタと暴れはじめる。
「さあ、サレンダーの場所はわかってるだろ?」
『馬鹿な……このような初心者に……』
「AIにとっても背中の傷は恥なのかい? グランマ、プレイヤーに直接攻撃」
『! スペルカード、『光の壁』発動……!』
「グランマの効果発動、墓地のグレネーダーを虚無に送って攻撃中に発動する効果を無効にする……ぶちかましてやれ、お婆ちゃん」
爆走して飛び上がったオンボロ戦車が、相手AIの眼前で主砲をブチかました。
盛大な爆炎が相手フィールドを包み込み……AIのライフが0になる。
『WINNER タクマ』
俺の勝利だ。ギリギリだったけどね。
「君は俺の言葉を無駄に読み取ったせいで負けたんだ。自分のプレイを貫き通していれば良かったのにね」