同居してる魔女が召喚ガチャで毎度世界滅亡クラスの災いを召喚する件 作:あぶりかるび
コンコン……
と家の戸が叩かれた。人里離れたこの家に来客があるのは極めて珍しいことだ。いや、ルミナが召喚する脅威の来客は沢山あるけど、そんなヤツらが律儀にノックしたことなんて一度もない。
「どちらさまですか?」
と、一応俺が戸を開けて対応すると……
「すみません、道に迷ってしまって」
そこにいた女性の容姿を見て、俺は驚愕した。
推定Gカップ、腰は引き締まりお尻は大きい。背は俺と同じくらいだが、多分歳は少し上だろう。貴族が着用するようなドレスを着た彼女は、俺の理想をする『グラマラスなお姉さん』を体現していた。
「ロウちゃん……」
「……まだなんも言ってないじゃん」
「目がヤラシイよ」
「すいませんでした……」
場には女性が2人。男は1人。勝ち目はなかった。俺には少しでも彼女に嫌われないようすぐ謝るしか選択肢が思い浮かばなかった。
「ふふ……あ、失礼可愛らしい反応でしたのでつい……」
やばい、笑い方が俺の理想的なお姉さん像過ぎる。
「名乗り遅れて申し訳ありません。わたくしはメルティアと申します。薬草を摘みにきたのですが迷ってしまって……」
「それは災難ですね。どうぞ上がっていってください。是非是非」
「ねぇ、ロウちゃん……?」
「いや、だって送るにしても色々事情を聞かないと。それにここまで歩いて来たなら休んでもらった方がいいだろ?」
「それはそうだけどさぁーなんかさぁー」
ルミナはつまらなさそうな表情でプイっとそっぽを向いた。
「ロウさまですね……お嬢さまのお名前もお伺いしてもよろしいかしら?」
「ルミナだけど……」
「ルミナさま、お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「いいけど、あんまり長居はしないでよね」
「はい。明日には必ず出て行きます」
「だったらいいけど」
「おいルミナ……すいません、メルティアさん」
「いえ、お気になさらないでください。それよりここにはお2人で住まれているのですか?」
家の中を少し見渡し、メルティアさんはそう聞いてくる。
「はい。俺とルミナだけです」
「ご両親などは?」
「まぁ、捨て子みたいなモンですよ」
「……それはお辛いですね」
「いえ全然。むしろ縛られなくて楽っていうか……あはは……」
それは紛れもなく俺の本心だ。だけどメルティアさんはそう言った俺を悲しそうに見た。
ちょっと気を遣わせちゃったかな……?
「しかしこんな場所に2人だけだと生活も大変だと思います。きっとロウさまのその筋肉が生活を支えているのですね」
「え? 分かります? そーなんすよ、ルミナは貧弱だから」
「少し触ってみても?」
「えぇ? えぇ……どうぞ」
そう言って腕を差し出すと、メルティアさんは俺の二の腕を何度か摘まむ。
「すごい硬いですね……たくましいです」
ヤバい……なんかエロい……
「ねぇ、ロウちゃん……? ていうかメルティアさんもあんまり思春期の男の子を揶揄うようなことしない方がいいと思うけど?」
「申し訳ありませんロウさま、そんなつもりはなかったのですが……」
「いえいえ、俺は全然」
「鼻の下伸ばしてたクセに……」
「けれどそんなロウさまを支えているルミナさまも立派だと思いますよ。ルミナさまがロウさまにとっての癒しなのでしょう」
「……え、そうなの?」
「……いや、まぁ……うん」
「そう……」
俺たちの会話を見ながらニコニコと微笑むメルティアさんは、思いついたと言わんばかりに手を叩く。
「そうだ、私お菓子作りが得意なのですが、お礼に少し作ってもよろしいですか?」
「え、でもあんまり材料とかないですよ?」
「少し見せて貰ってもいいですか? たぶんあり合わせで作れると思うので」
この見た目でお菓子作りが趣味とかちょっと理想のお姉さん過ぎない?
有言実行というか、メルティアさんはあり合わせの食材と道具で手際よくクッキーを焼き上げていく。すごい良い匂い……
ルミナも興味津々で料理過程を覗いている。
「よければルミナさまも一緒に作りませんか?」
「え、いいの!?」
「勿論、レシピもお教えしますわ」
「じゃ、じゃあ……」
そう言って2人でお菓子作りをし始めた。本人が気が付いてるかは分からないが、ルミナが満面の笑みを浮かべている。こうして見ていると本当の母親と子供みたいだ。
ルミナの母親とルミナが最後に会ったの何年前だろうな……?
「ありがとうメルティアさん!」
「いえいえ、お礼ですから。それにしてもルミナさまはお可愛いですね。ロウさまが選ぶ理由も分かります」
「え?」
「ぶっ!」
「え、違うのですか? お2人で住まれているというのでてっきりそういうことかと……」
「ち、違うのよ。私とロウちゃんは別に付き合ったりとかじゃ……」
「では夫婦ですか?」
「いや、違う違う。ルミナは俺にとって妹みたいな存在なんだよ」
「……なるほど。これは失礼いたしました」
お辞儀をするメルティアさんに、俺とルミナは照れくさそうに「いえいえ」と返す。
「でもやっぱりそう視えちゃうよね~えへへ~(小声)」
「なんか言ったか?」
「なんもないよ。ねぇメルティアさん、ちょっと2人でお話しましょ」
「勿論ですよ、なんのお話ですか?」
「それは勿論あれよあれ」
そう言って、2人は外デッキで話始める。俺の分のクッキーが机に残されているのを見るに、俺はついてくるなということらしい。
くそ、ルミナのヤツ……メルティアさんを独り占めしやがって……!
けどまぁいいか。窓から見えるルミナはメルティアさんと話せてすごく楽しそうだ。
この家に人がくるのなんて珍しいし、こんな窮屈な生活をさせてしまってる分ルミナの要望はできるだけ叶えてやりたい。
てか、このクッキーめっちゃ美味いな。メルティアさんすげぇ……!
少しすると2人は帰ってくる。
「なんの話してたんだよ?」
「ないしょ~」
「殿方には内緒のお話です」
「「ね~」」
と笑い合う2人は、どうやらかなり仲よくなったらしい。
それからメルティアさんが来た街の方向を聞いて、明日俺とルミナと一緒に送り届けることになった。
つまり、今日はメルティアさんはうちに泊まるということだ。ドキドキ……
「メルティアさんは私のお部屋で寝てもらうのよ。ロウちゃんは入室禁止だからね!」
「まぁ、ですよね……」
別に色気ムンムンのお姉さんに誘惑される妄想とかしてないから……別にいいし……
いつも通り寂しく自分の部屋で寝ていると、「コンコン」と部屋の戸が叩かれた。
「ルミナか? 何かあったか?」
「いえ、私です。メルティアです」
「え!?」
「あの、入ってもよろしいでしょうか?」
入る? メルティアさんが俺の部屋に? こんな夜遅く!?
龍と鬼の俊敏性で最低限の片付けを一瞬で終わらせた俺は、できる限りの平静を装って扉を開けた。
「ど、どうかされましたか?」
扉の前に立ったメルティアさんが上目遣いで俺を見つめる。そのままメルティアさんの手が俺の胸に触れた。
「ちょ……」
「立派な胸板ですね……本当に、私など一瞬で殺せるでしょうね……」
そう言って押してくるメルティアさんの力は、俺とっては微弱なものだったのに俺はされるがまま押される。
ベッドまで下がり、そのまま上半身がベッドに倒れる。
そしてメルティアさんが、俺に跨るようにベッドに乗ってくる。
「メルティア……さん……?」
「ロウさま、私の眼を見てください」
「え?」
その瞬間、強烈な気持ちが脳から溢れた。
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……大好き……!
「ロウさま、私のお願いを叶えていただけますか? もし叶えてくださるのなら、私の全てをあなたに上げます」
「全て……」
「えぇ、私の身も心も全て。どんなことをしても構いません。どんな風に扱っても構いません。私はあなたのものになりましょう」
「なんでもします……」
俺がそう言うとメルティアさんがニコリと微笑む。
それがこの上なく幸福なことに感じた。
「ありがとうございます。では……」
メルティアさんのお願いが待ち遠しい。
それがどんな願いでも、どんなことをしても叶えてあげたい。だって俺はこの人を愛してるから。
「ルミナさんを殺していただけますか?」
「それは無理だ」
「どうしてですか?」
「俺はあなたを愛してる。でも、それは無理だ。ルミナは殺せない。ルミナを殺そうとするなら、あんたも殺す」
「そうですか……今のは冗談です。おやすみなさい、ロウさん」
メルティアさんがそう言って俺の頭を撫でると、心地の良い眠気がやってきた。
◆
私の力は他者の『魅了』。瞳を交わすだけで、その人物の好意を引き出すことができる。
この力で滅ぼした国の数は、もはや覚えてもいない。
ロウさまの警戒は本能と呼ぶべきレベルで機能していた。
私が終焉の魔女に一縷の殺意でも抱いたのなら、彼は眠っていたとしても私を抹殺するだろう。
武力を持たない私にとって、それは敗北を意味する。
「クッキーの作り方教えてくれてありがと」
そんな可愛い寝言を口にする彼女は『終焉の魔女』などと呼ばれている。そしてそれは事実だ。私のような終焉を呼び出してしまう力を持っているのだから。
「不幸な子。私と一緒……」
寝息を立てる彼女を撫でると、彼女は優しそうに笑う。
「いや違うわね。この子にはロウさまがいるのだから……」
羨ましい。でも、憎めない。
「お母さん、おいていかないで」
私が手を止めるとそう言って不安そうにするルミナさまを、私は安心させるように撫で続ける。
不運にも強大過ぎる力を持ってしまった彼女が、今日くらいは安心して眠れるように。
少しして、私は彼らの家を出た。
私の顕現時間は明日終わる。
その瞬間を2人に見せたくなかった。
本物を知らず、愛をうそぶくだけの私ではあの2人は犯せない。それが分かった。ならば私に勝機はない。
「あの2人の感情こそが、私の求めた本物の愛なのですね……」
魅了の魔眼すら跳ね除ける愛情。それを知れたのだから、私はもう満足だ。
「さようなら、お幸せに」