次の日から忠夫は【山影の里】で特訓に明け暮れた。
朝早くから”
フィールドワークとして獲物を捕まえて自分でさばき食料確保をしつつ、”
座学では念のことだけではなく刃物類の研ぎ方などの手入れ方法や遠征に行った際の一時的な隠れ家の作り方や地形から判断して逃げ道を決めて置いたり、空模様から今後の天気を予測したりする方法など、実用的な知恵を数多く吸収できた。
自習時間は、独学にはなってしまうが”神字”を研究していく。
”神字”は、この世界のスタンダード文字であるハンター文字のように一文字一音ではなく、漢字のような一文字で複数の意味や読み方を持った文字だった。
それに日本語に、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字があるように、”神字”にも複数のパターンが存在していて読むのも一苦労ではあったが、3か月ほど毎日真剣に勉強しているとなんとなく意味が分かってくるようになったのだった。
まあ『心度計』で冷静さをキープして集中力を常に保てたからできたことではある。このアイテムが無かったら、こんな難しい言語を日本にいた時には根気強く勉強できなかっただろう。
それとテレビやスマホなどが無いのも集中できた要因だ。何しろ娯楽が無いので、勉強するか『人生図鑑』で過去に読んだことのある本や漫画を読むぐらいしかないのである。
***
そんな調子で1か月間はあっという間に過ぎたのだが、その間に【山影の里】へ1組のプレイヤーが訪れた。
ある日、いつものように子供たちと紅白バブル鬼ごっこをしていた時、いきなり子供たちの顔色が悪くなり咳をし始めてしゃがみこんでしまったのだ。
突然のことの驚きあせる忠夫。すると鬼ごっこを見守っていた忍者のリーダーが慌てて子供たちを小屋に運び入れて寝かしつけ始めた。
(あれ?なんか見たことある構図だな・・・)
そんなことを忠夫が考えているうちに里人たちが集まり始め、一斉に里の外へ走り出した。人数は5人、ちょうど忠夫が初めてこの里を目指してきたときに遭遇した里人と同じだ。
(これはもしかして・・・)
ピンときた忠夫は、すぐに”絶”で気配を消して自分の小屋に隠れる。
しばらくすると里人に案内されながら2人組のプレイヤーが【山影の里】にあらわれた。
(やっぱり。プレイヤーが探索していてこの里の近くを通りかかったんだな)
忠夫は意図して発生させた『奇運アレキサンドライト』取得への最初のイベント。それが二人組プレイヤーにも進行中なのだろう。
プレイヤー達が入っていった小屋をこっそり覗いてみると、彼らはカードゲットのチャンスだと思っているのか、上機嫌で里人たちの訴えを聞いているようだった。
だが始めはニコニコ聞いていたのだが、お金を全額必要だと言われたり着ている服をねだられるとどんどん表情が曇り始める。
(そうだよなあ、お金を払うのはまあ百歩譲っていいとしても、着ている服を渡すっていうのはなあ)
例えば”発”の条件として愛用の服を着ていないと発動できない能力だった場合、この条件は飲めないものだろう。
幻影旅団のボノレノフ=ンドンゴなど全身に包帯を巻いているし、そうでなくても幻影旅団みたいな血の気が多い者たちなら激怒しそうな条件である。
結局二人組のプレイヤー達はお金は提供したものの、服は拒否したようだ。そしてその後なんのカードも貰うことが出来なかったことに腹を立て、罵詈雑言を吐きながら【アントキバ】の方面に去っていった。
(怒る気持ちはわからないでもない。それに結局条件を満たせていないから『奇運アレキサンドライト』はもらえないんだろうし・・・)
そう考えるとにゴンたちがゲットした時点で5組しか入手できていないのも、確かにうなずける話である。
(しかし彼らのおかげで他のプレイヤーが【山影の里】を訪れたとしても、事前にわかるから準備しておけることが判明したのは収穫だったな)
忠夫はますます安心して修行に打ち込むのだった。