ハンター歴1987年3月中旬。『グリードアイランド』が開始されてから3か月以上がたち、プレイヤーたちもすっかりゲームに慣れていた。
プレイヤーの人数は開始1か月の150人程度が最大で、それからは入ってくるプレイヤー数よりもゲームオーバーで亡くなるプレイヤー数の方が上回り、徐々に微減している状況だ。
プレイヤー達は自然とだいたい1~4人ぐらいのグループに分かれて行動するようになっていて、ある時は協力して攻略し、ある時はライバルとして競いながらゲームを進めていた。
北部の攻略は、【アントキバ】から海岸沿いに北東方面へ進んだところにある【波の街ノースショーワ】を攻略、その後北方面に進んだところにある【農業都市ライナウキ】を解放した。
南部は【ルビキュータ】でエリアボスの宵闇の蟒蛇を倒して【スポーツ都市ブンゼン】を攻略、その後南方面に進んだところにある【ギャンブル都市ドリアス】を解放した。
ただプレイヤー達にも実力差や攻略への意欲に差があり、緩やかに「攻略組」、「マイペース組」、「落ちこぼれ組」と三パターンに分かれてきたのがこの時期だった。
「攻略組」は、もちろん『グリードアイランド』の攻略をどんどん進めていきたいタイプのプレイヤーで、全体で言えば6割ぐらいの約90人程度がここに分類されるだろう。
だが攻略する理由は、
・クリア報酬を目指す者
・純粋にゲームを楽しんでいる者
・単に負けず嫌いな者
・早く現実に戻りたい者
などさまざまだ。
この中で、早く現実に戻りたい者たちはかなり切羽詰まってきていた。というのも、彼らはこんなに長いことゲーム内から出れないことになるとは思っていなかったのだ。
***
「おい、島を出る方法の情報は手に入ったか?」
ここは南部方面最前線の街、【ギャンブル都市ドリアス】。
定例となった昼の情報交換会で、南部地域の攻略組の一人であるリーテンは焦燥した様子で他のプレイヤーに話しかけた。
「いや、この街の住人に片っ端から聞いて回ったけど、そんな情報は無かったな。『交換ショップ』の店員は他の街と同じように、〔島を出る方法は、ある街を解放しないと教えられない〕の一点張りだ」
「・・・ちくしょう」
リーテンは頭を抱えてしまった。今回情報を聞いた相手は南部攻略組で一番の情報通と名高い男、フゾスキーだ。この男が知らないとなれば他の誰に聞いても今日は成果が無さそうだ。
「そんなにこのゲームから出たいのかい?」
「当たり前だろうっ!こんなに長く出れないなんて・・・」
ゲームが始まってから3か月以上がたったが、島を脱出する方法がまったく見つからない。
リーテンは普段少しばかりゲームをする方だったので、『グリードアイランド』についても一か月くらいそれなりにちゃんと攻略をすすめていけば、ゲームクリアは無理にしても一度ぐらいゲームの外に出れるだろうと思っていたのだ。
しかし『グリードアイランド』は非情だった。
NPCの数は膨大で、一つの街の住人達に話しかけるのだけでも一苦労。街から街へ移動するのも自分たちで走らないといけないので、半日は予定を組む必要がある。
またモンスターについても、エリアボスは死人が出るぐらい強く、最近では街以外のマップで出てくるいわゆる雑魚モンスターでさえ油断できない強さになってきてしまった。
ゲームを始めて1か月ぐらいは楽しんでいられたが、2か月目ぐらいから楽しいよりも不安や不愉快といった負の感情が上回り始めてしまい、現在ではどうにかしてこの島から一刻も早く脱出したいということしか考えられなくなっていた。
「まあそう焦らずに、少しこの街で気分転換に遊んでみたらどうだ? 幸いギャンブル都市というだけあってポーカーやルーレット、スロットなんかもできるし、街中にはいい店もたくさんある。金が無いなら立ちんぼもたくさんいるからよ」
【ギャンブル都市ドリアス】は原作でゴンたちも訪れた街で、要するにラスベガスとかマカオなどのようなカジノ都市だ。
『グリードアイランド』の南西部にある砂漠地帯真ん中のオアシスにあり、アラビアンな雰囲気を漂わせた街並みの地下に広大なカジノフロアが存在している。
このあたりの砂漠交易の中心地として発展した、ということらしく昼間は青空路面マーケットが所狭しと並び、エキゾチックなアイテムが売られている。ただもちろんカードの状態で売られているのでそこだけは見た目が残念なことになっていると言えなくもない。
そして夜は一転して蠱惑的な赤いランプの街灯がつき、大人な雰囲気のお店が開店する。そしてアルコールを呑みながらセクシーな衣装で踊る美男美女を眺めることが出来るのだ。もちろん踊り子と交渉することで、店の二階でその続きをすることが可能。
『グリードアイランド』はハンター専用ゲームであり、ハンターというのはなった時点で成人とみなされるので年齢制限などはない。
店以外にも街娼がぽつんぽつんと立っていて、彼・彼女と交渉することでもそういった行為は可能だが、低確率ではあるが手持ちカードの盗難が発生するという噂だ。
「俺のおすすめはムーランレッドって店よ。踊り子に美人が多いし、あっちの方のサービスも最高だ!
もちろん他の店よりは高いんだけどな、他がランクEカードで2時間ぐらいが相場なんだけど、ムーランレッドはDランクが必要になってくるんだ。
いやわかる、言いたいことはわかる、高いよな。それはそうなんだけどよ、一回あの店行ったら他に行けなくなるぐらいの極楽を味わえるんだよ!これはマジだ!」
リーテンが聞いてもいないのに情報通のフゾスキーは風俗情報をペラペラと教えてくれている。よっぽど楽しい思いが出来たらしい。
他の街ではこういったナイトライフの充実した場所は今までなかったため、大いに羽目をはずすプレイヤーが続出しているとは聞いていたが、こんなところにドハマりしているプレイヤーがいた。
フゾスキーは攻略組としてそれなりに実力を認められているのだが、万が一この街にハマって攻略速度が落ちてしまったらアホとしか言いようがないだろう。
「・・・おまえさん、相当悩み事がありそうだから特別にもっとすごい情報を教えてやる。いいかここだけの話、あの店に3回通うとVIPルームに案内してもらえるようになるんだ。
そこには他の部屋とは比べ物にならない美男美女が揃えられててな、それはものすごいサービスが受けられるんだ。もちろんその先だって可能だ。
だけど気を付けろ、最低でもランクCカードが必要になってくる。
・・・わかってる皆まで言うな。法外だって言いたいんだろ。俺だって最初はそう思ったし、ぼったくりだって騒ぎそうになったさ。でもな、良く聞け・・・3人で一晩相手してくれるんだ。超絶な美女が3人だぞ、このゲームの外では見たことないレベルの美人なんだ。ビビったね。
それはもう王様になった気分を味わえるぞ・・・・・・・・」
フゾスキーはリーテンそっちのけで、いかに素晴らしい体験をしたのかを垂れ流す。よっぽど溜まっていたのだろうか、全然止まらない。
リーテンは聞き流しながら考える。
(くそっ、どうにかして島を出るか外への連絡手段を手に入れないとまずい)
リーテンはこんなに長いことかかると思ってなかったので、『グリードアイランド』をするために契約したセーフハウスを半年契約にしてしまったのだ。完全に読み間違えている。ハンターとして未熟な証拠である。
セーフハウス内でジョイステーションに”練”をしてゲームを始めたのだが、その後ゲーム本体がどういう状態なのか、万が一ゲームを破壊されたらどうなるのかなど不安要素がある。
それに半年たっても念のため自動更新にはしてあるが、不動産屋もリーテンに連絡が取れなかったら様子を見に来てしまうかもしれない。
その時に『グリードアイランド』なんていう58億ジェニーの超高額なお宝を見つけてしまったら。倫理観の薄い者なら速攻で売っぱらって高飛びするだろう。
(カード収集なんてどうでもいい、多少無理してでも攻略を速めて一刻も早く脱出しよう)
こうしてリーテンは無謀な攻略を進めていき、2か月後あえなくゲームオーバーしたのだった。
初期のプレイヤー達はどのくらいのプレイ時間を想定してゲームを開始したんだろう、という疑問から書いてみました。
あと健康的な若い人間がするゲームなんだからこういうお店もあるだろうなと捏造しました。こういう話が嫌いな人はすいません。