既に日が暮れて数時間。普段は数少ない住民も通らない砂漠と化した道を、一台のジープが走っていく。目的地は市街地‥‥‥だった廃墟。
治安維持が出来なくなり、チンピラばかり集まっている危険地帯。その危険の要素の一つが、カタカタヘルメット団。セリカの連絡が途絶える直前の端末の場所はそういう所だったと、先生の権限で判明した。
ヘルメット団の物と思われるセリカの誘拐。今まで何度も退け、先生の力もあって前哨基地も破壊された。そんな彼女たちが人質をとって脅迫しようとしている事は想像に容易い。
…‥‥いや。人質にされているだけならば、まだいいのかもしれない。
キヴォトスの生徒達は弾丸、爆発といった攻撃を受けても大した怪我はしないから死ににくい。しかし、傷はつくし呼吸もする。そこで、オレに頭によぎった考えがある。
窒息やダメージの蓄積でなら、普通に死ぬのではなのだろうか?
生き埋めにする、首を締め上げる、液体に沈める、攻撃し続ける、餓死させる、脱水させる。いずれにしても、簡単に死ねない。それは、想像するよりも恐ろしく、苦しく、痛々しい。
座り心地の悪い荷台で揺られているせいだろうか?物騒な思考になっている。
ところで、
「何で君は荷台にいるんだ?席は空いてるだろ。」
何故かまたホシノは一緒に荷台に乗っている。席も空いてるし、ギリギリまで昼寝でもなんでもできるだろうに。
「いやー、流石におじさんも寝ていられなくてねー。夜風に当たりたい気分なんだよ。」
「‥‥‥‥そうか。」
まあ、ここでアレコレ聞いても何にもならない。
‥‥‥これは、オレの想像だが、帰りも席が空いている時のことを、考えたくないのかもしれない。行きと帰りで人数が違うのは、分かっていても何度経験しても、こみ上げるものがあるからな。
「‥‥‥‥‥こういう時こそ、後輩の傍にいてやるのも先輩の務めだと思う。危ないから今行けとは言わないけどね。」
「傍にね…‥‥」
‥‥‥なんか地雷を踏んだ気がする。なんか眼が辛気臭い気がする。話題、士気を上げられるように、何か他の話題を‥‥‥そうだ!アレがあったじゃないか。
「‥‥‥‥カロリーメイト食べる?」
ベルトに付けたポーチから黄色い箱を取り出して差し出す。
「‥‥‥‥何味がある?おじさん、チョコ味が「フルーツしかねぇが?」‥‥え?」
「フルーツ味しかある訳ないじゃないか。何を言っているのか分からない。」
「いや、でも色々味あるんじゃ「フルーツしか認めるわけないでしょ?ねえ?」ライ君‥‥?」
栄養バーはフルーツ味一択。師匠の教えだ。他は断じて認めん。
「はい、カロリーメイト。これで君もこちら側だ。もっと強くなれるぞ。」
「どうしちゃったのさ!?なんか眼が怖いよ!?」
「いーっぱいあるからねぇ?たーんとお食べ?」
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「ホシノ先輩とライさん、いつの間に仲良くなってたんですね!」
「うん、知らなかったよ。友達は何人いてもいいからね。」
「ん。先生、チョコバー食べる?」
「うん、ありがとう。」
「皆さん!あれを見てください!」
「トラック?…‥‥運転席の子、ヘルメットを被ってる!‥‥‥…ライ、ホシノ!準備して!」
「うへぇ~。口の中がパサパサするよぉー。先生~、お水とってー?」
「‥‥‥…やはり、フルーツこそ至高。さすがだぜ師匠‥‥‥!あ、先生もどうです?」
「とりあえず準備しよっか!?」
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「シロコ、荷台に注意してね!」
「ん、分かってる。攻撃開始。」
”シッテムの箱”を立ち上げた先生の指示のもと、シロコがドローンでミサイルをバラまく。
しかし直撃をねらったものではなく、トラックの横や随伴している装甲車の進路上に着弾し、砂を巻き上げながら爆発する。
トラックや装甲車は横転、或いは停車し、中からヘルメット団がぞろぞろと出てくる。
「んじゃあ、行きます。アヤネ、先生、囮お願いしますよ!」
「うん。4人とも気を付けてね。」
「そちらも、セリカちゃんをお願いします!」
先生とアヤネにサムズアップで返しながら、ホシノ、シロコと共にジープを飛び降りて各自でトラックに接近する。それを確認したジープは相手の正面を横切るように加速していく。
ミサイルで奇襲・足を止めさせて、アヤネ運転のでジープとノノミの掃射で注意を引きつつ、ヘルメット団を倒しながらトラックに囚われているだろうセリカを救出するというのが今回の作戦だ。
装甲車の死角に回り込むように接近し、二人がポジションをとったのを確認すると、両膝立ちで銃を構える。
「ホシノ、シロコ。オレが撃ったら行け。」
真っすぐに、揺れることなく、ライフルと比べればお粗末なサイト(競技用に近いから感覚にはあっている。)と体の感覚で、向こう側に見えるヘルメットに照準を合わせる。
「スゥ…‥‥‥‥っ!!」
小刻みに銃身を動かしながら3射。傍からから見れば、震えた手によるたった一度の射撃で、3つのヘルメットが宙を舞う。
一瞬、銃を弾かれた奴らと近くの仲間がどよめいたが、流石にリボルバーの音はよく目立つため、こちらに弾丸の雨が降り注ぐ。しかし、避ける必要はない。
「いくよーシロコちゃん。」
「ん。」
ホシノが盾を構えて集団に切り込むように突っ込み、シロコが弾幕を張りながら接近する。接射や
‥‥‥‥‥ずっと思ってるんだけど、スカートで足技ってどうなんだろうか?確かに接近戦では射撃より格闘の方が有効であることは多いし、戦闘中だし相手同性だしで気にしてないのかもしれないんだけどさ。見えちゃいそうで怖いんだよなー。お、
「…‥‥シロコ、突っ込みすぎ。」
シロコが接近戦を繰り広げている隙に、所謂死んだふりをしていたヘルメットが銃を向けようとするが、構える直前で銃を弾いてやる。
「チマチマ撃ってんじゃねえよ!!」
「オラオラぁ!!」
…‥‥そんなにカッカしないでくれないかな?貫通しないだけで当たると痛いんだぜ?
残弾をすべて撃ち込んでやると、装甲車の陰に隠れながら手動で再装填する。オートマチックと比べるとリボルバーは弾数も少なく手間がかかると言われるが、オレの手にかかればこの通り。1秒も掛からずにすぐ速射。‥‥‥‥やっぱ面倒だわ。
『ん、半泣きのセリカ発見。生きてる。怪我もなさそう。』
『ちょっと!?』
『なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いていただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!』
おじさんだったりママだったり忙しいな。
『う、うわああ!?う、うるさいっ!!な、泣いてなんか!!』
『嘘!この目でしっかり見た!』
『よかった‥‥セリカちゃん‥‥私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかって…‥‥。』
『泣かないでください、セリカちゃん!私たちが、その涙を拭いて差し上げますから!』
…‥‥‥アヤネ泣いてる‥‥‥真面目に心配して…‥なんていい子なんだろうか。
「あーもう、うるさいってば!!違うったら違うのっ!!黙れーっ!!」
ヘルメットの数が減って来たので、トラックの近くに駆け寄りながら、横目で荷台をのぞき込んでみる。怪我はなさそうだ。
「…‥‥…思ったより元気そうだな、セリカ。」
「ライ!?な、何で!?」
『私もいるよ。アヤネも一緒にいる。』
「先生まで!?どうやってここまで来たの!?」
「攫われたお姫様を助けに来た勇者一行…‥‥てきな?ストーカーが案内してくれたよ。」
『ライ?』
どうした変態教師?前科があるのは間違ってないだろう?
「ば…‥‥ばっ‥‥‥!」
「ば?」
顔赤っ!?
「バッカじゃないの!?」
「何でだよ!?」
「だ、誰がお姫様よ!!冗談やめて!!ぶ、ぶん殴られたいの!?」
「冗談じゃねえけど!?本気で心配したってのに‥‥‥」
「ライ、そういう事じゃないと思う…‥‥はい、セリカの銃。」
「はい、まだ油断しちゃだめだよー。ここは敵陣のど真ん中だからね~。」
『…‥‥前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!!』
人質取り返されて車両ぶっ壊したからね…‥‥キレてるんだろうな。
「敵ながらあっぱれ‥‥‥それじゃー、せっかくだから包囲網を突破していきますかー。」
「気を付けて。奴ら改造した重戦車を持ってるわ。」
へ?また戦車!?
「知ってる、Flak41改良型。」
へ!?8.8㎝高射砲!?ティーガー戦車!?あ、マジだ。音が聞こえてきた。
タダの戦車砲ならどうにかなるが、高射砲はやったことないな‥‥‥。一丁で何処まで捌けるか。
『大丈夫だよ。戦車なら最近相手にしたからね。』
初っ端から少数精鋭の生身による対戦車戦を経験した指揮官なんてアンタくらいじゃないか?
「それじゃ…‥‥」
「いこうか?」
そこはもっと気合入れようよホシノさん。
〈連邦捜査部 情報アーカイブ:カロリーメイト フルーツ味〉
・最強のガンマンを目指すのに不可欠な栄養食品バー。フルーツ味しか認められておらず(諸説あり)、フルーツ時を好んで食べることで強い体を鍛え上げる確かな糧になるだろう。ただし、ちゃんとした食事と睡眠をとる事。