「先生、先生!朝ですよー‥‥‥‥‥ダメだコレ。」
久しぶりのデスクワークをやり切って一夜を明かした仮眠室。ライは先生を揺さぶりながら声を掛けるが、聞こえてくるのは呻き声どころか安らかな寝息。ご丁寧によだれまで垂らしている。
身支度を済ませてから様子を見に来てこれなのだから、始業時間には間に合わないかもしれない。
‥‥‥‥‥そろそろ出発したい。秘書に任せるか。
「アロナ、おはよう。」
『ふあぁぁい。おはようございます…‥‥』
ベッドの近くに置かれた
『…‥‥あれ、ライさん?先生は‥‥‥まだお休みみたいですね。』
「始業時間前までに起きなかったら起こしてやってくれ。。あと、オレはトリニティに行ったと伝えてほしい。」
『分かりました!お気をつけて!』
「うん、行ってくる。」
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トリニティ総合学園。学園都市キヴォトスにおいて三大学園の一つとして数えられている一大勢力。様々な派閥があるお嬢様学校でパテル、フィリウス、サンクトゥスという3つの学園を中心として連合を形成したのがルーツらしく、それに反対した派閥は自治区から追放されたそうな。宗教的な側面もかなりあるらしく、なんとシスターの部活があるそうな。まあ、今回用があるのは正義実現委員会なのだが。
自治区は古風というか、美的と言うか、そんな感じの優雅さを感じさせる街並みだ。少しばかり落ち着かないがこれはこれで良いところだ。それにしても、
「ねえ、あの人殿方じゃない?」
「珍しいですね…‥‥」
「こんな時期に黒いコートなんて暑くないのかしら?」
「正実の方々だっていつも黒いですけど?」
クッソ目立つ。服も顔も雰囲気も優雅さとはかけ離れた野郎だけどね、流石に視線が痛いしそんなにヒソヒソザワザワされたら居心地悪いんですよ。少しばかり歩くスピードを速める。庶民が一人で歩く所じゃない、さっさと用事を済ませてミレニアムに行こう‥‥‥‥‥
「待ちなさい!!」
「声デカっ!?何事っ!?」
お嬢様学校の自治区とは思えない程の大声がいきなり聞こえてびっくりしたが、只事じゃない気がしたので声のした方へ駆けつけると、どっからどう見ても不良な生徒4人に向き合っているねるねるする知育菓子みたいな感じの生徒が見える。その後ろには推定トリニティの生徒がビクビクしながら立っている。
「それはこの人の鞄です!返してあげてください!」
「うるせぇ!!私たちはソイツからもらったんだよ、首突っ込んでくるんじゃねえ!」
…‥‥成程、後ろの子の鞄を盗られたから取り返そうとしているのか。正義感が強い優しい人なのだろう。しかし実質1対4の状況は普通に考えると不利だ。しかも、銃撃戦になってしまった場合、鞄を傷つけず、後ろの子を守りながら一人で戦う事になる。
「そんなに返してほしいんなら‥‥‥」
不良の一人が銃に手を掛けて銃口をねるねるヘアー少女に向ける。彼女も気づいた瞬間に銃を構えるが、それよりも早く銃声が響く。
「うわぁっ!?‥‥‥‥え?」
ねるねる少女がびっくりしたその時には、4人の不良は気を失って地面に倒れこんでいた。何のことだか分からず困惑しながらキョロキョロしているとこちらと視線が合う。
「あ、あなたが、やったんですか?」
「いや何のことだか…‥‥‥あ、」
違う、と言おうとしたが右手に愛銃を握っているのを今更自覚する。面倒は避けようとしたのに、遅れないようにしたかったのに、撃ってしまった。やばいやばいやばいやばい。
「‥‥‥‥えーと、こんにちはー、あはは…‥‥」
「えと、はい、こんにちは‥‥‥」
…‥‥‥気まずいんですけど。あ、鞄返してあげないと。
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「本当にありがとうございます!お二人に、今度お礼をさせてください。」
「いやぁ、オレは通りすがりに反射で「礼には及びません!私はトリニティ自警団のエース!!スーパースターの宇沢レイサですから!!」・‥‥耳がっ!?」
「えーと、レイサ…だっけ?さっきトリニティ自警団って言ってたけど、もしかしてスズミの知り合い?」
「はい!スズミさんは自警団の仲間ですし、尊敬している人です!ところで、貴方は‥‥」
「ああ、ごめん。オレは真道ライ。連邦捜査部シャーレの特別捜査部員をやってる。大人ってわけでもないし、好きに呼んでもらっていいよ。」
「分かりました真道ライさん!私はトリニティ総合学園一年にしてみんなのアイドルの自警団、宇沢レイサです!!」
「耳がっ!?」
「あ‥‥‥すみません。」
「ところで、ライさんはどうしてトリニティに?シャーレのお仕事ですか?」
「うん、正義実現委員会に用があって。」
「そうだったんですか‥‥‥でしたら、学校まで案内しましょうか?」
「いいの?」
「先程のお礼も兼ねてという事で、この私にお任せください!」
「ありがとう…‥‥でも無理に声を張り上げなくてもいいよ?疲れちゃうだろうしさ。」
「大丈夫です!!」
「あ、はい。」
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なんだかんだでレイサに案内してもらう事になったが、道中で有名なスイーツ店やカフェ、有名スポットを教えてくれたのでかなり助かったし楽しかった。そんなこんなでトリニティの校門に付いた。‥‥‥でっか。こういう所苦手なんだよなー。何年たっても慣れない。
「あの、シャーレの真道ライさんでしょうか?」
「ん?そうだけど、君は?」
黒いベレー帽とセーラー服を着た生徒が校門近くに立っており、こちらの姿に気づくと確認を取って来た。
「私は正義実現委員会の者です。副委員長から話は聞いています。」
わざわざ案内役を遣わせてくれたってことか。てことは、ここらへんで一旦お別れだな。
「もう大丈夫だ、レイサ。色々とありがとう。」
「いえ!私は自警団として当たり前のことをしたまでです!!」
「流石エースだな。ああ、そうだ。これ、オレのモモトーク。」
「ええっ!?いいんですか?」
「折角だしね。それに結構楽しかったし、逆に君に何か困りごとがあれば出来る限りの事はしたいしさ。」
「あ、ありがとうございます!!では‥‥」
モモトークを交換する。また一つ、キヴォトスでも縁をつないだ。てか、何気にプライベートでの交換初では?こんないい子で良かった…‥‥
「んじゃ、またね。スズミに会ったらよろしく。」
「はい!!ではまた!!」
やっぱ声でか…‥‥オレの鼓膜大丈夫かな…‥‥
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「…‥‥‥って事があったんだ。不良が戦車を使った。しかも非正規ルートの可能性が高い…‥‥何か関係があってもおかしくないんだ。心当たりがあるなら、教えてほしい。」
正義実現委員会の本部に案内されたオレは、委員長の剣先ツルギと副委員長であり連絡を取った羽川ハスミに事情を説明して情報提供を求めたのだが…‥‥
「…‥‥‥成程。確かに、共通している点がありますね。しかしその戦車は‥‥ライさん?どうかされましたか?」
「‥‥へっ!?ああー、いやその‥‥‥」
ごまかすように出してくれた紅茶を飲む。滅茶苦茶目が泳いでいるがこれで落ち、つくわけないだろうが!?いやだってさ、その・‥‥
「……‥‥…‥きひひ。いひひひひ~」
あなたの隣の妖怪‥‥‥じゃなくて委員長さんがスッッゴイ顔とスッッゴイ声‥‥奇声?鳴き声?でオレの事見てくるんです!
怖いよぉ、マジで怖いよぉ!!ハスミと似た黒い羽と長髪なのに、なんなら君の方がすげえエッチなのにさ、委員長さんの方がインパクトあって落ち着いてられないんだよ!
…‥‥‥って、なんて失礼なことを考えているんだ真道ライよ。この場にいるという事は、間違いなく華の女子高生!そもそもアレとかコレとかみたいな奴らでもないんだから!そう!師匠にもレディには最低限度の礼儀を払えと叩き込まれた!ほら、よく見ればなんとも‥‥‥
「…‥‥‥ふふふふー、けひひひひぃ~!」
「やっぱオレなんかしました!?怒ってます!?」
「ああ、いつもの事なので気にしないでください。人見知りなんです。」
あ、そうなんだ。んじゃ、お互いに慣れれば大丈夫ってことだな…‥‥大丈夫か?
「…‥‥ごめん。話を続けてくれ。」
「はい。結論から言うと、その戦車はブラックマーケットから戦車そのもの、或いはパーツを購入した可能性があります。」
「ブラックマーケット‥‥‥闇市?」
「はい。何処からか横流しされた正規品なら、わざわざ改造する必要は少ないです。コストも手間もかかります。そもそも、Flak41改もそれを搭載した重戦車も不良が購入するとのは不可能に近いです。しかし、ブラックマーケットでパーツを購入したのなら、手間はともかくコストを抑えられますし、禁止されているようなものや生産終了したものでも入手することが可能です。大量配備するわけでもないですから、品質を気にしなくてもいいですし、足も付きにくい。撃破した残骸から一つでもそれらしきものがあるのなら、断定しても良いでしょう。」
「成程‥‥‥しかし、キヴォトスにも闇市が‥‥いや、だからこそか。」
これだけの銃器社会だ。スマホ並みの日用品と化しているここでなら需要は相当なものだろう。
「‥‥‥キヴォトスの外で、ブラックマーケットのような所に行ったことがあるのですか?」
「…‥‥まあ、ちょっとね‥‥‥そうだ、そのブラックマーケットの場所って知らない?」
「連邦生徒会の管理が及んでいない上に、違法行為に手を染める団体や企業も少なくないですから下手に手出しできないのですが、大まかな位置ならわかります。…‥‥アビドス自治区に近いところでいうと、この辺と‥‥‥ここだと思います。」
ハスミはスマホの地図アプリで大まかな範囲を教えてくれた。ついでに使えそうなデータをいくつか転送までしてくれた。本当に高校生徒は思えないな…‥‥‥…デっか。
「…‥‥助かる。調べてみるよ。」
「お役に立てたのならいいのですが、先程も言った通り、連邦生徒会も下手に手出しできないような所です。気を付けてくださいね。」
「うん。んじゃあ、もう行くよ。色々とありがとう…‥‥君も、紅茶ご馳走様。案内もありがとう。」
ハスミとお茶を入れてくれた子、案内役の子に礼をいうと席を立つ。あ、
「ええと‥‥‥貴重なお時間ありがとうございました…‥‥委員長さん。」
「…‥‥‥‥‥ツルギでいい。」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
「では、校門まで送ってあげてください…‥‥では、お気をつけて。」
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行きと同じ委員にライを遅らせた後、ハスミは残りのお茶を飲み干して一息をつく。わざわざ廃校寸前の学校の為に手を尽くそうとしているとは、シャーレの二人はやはりとんだお人好しというかある意味では職業意識が高いというか…‥。
「…‥‥‥ハスミ。」
「何ですかツルギ?」
何時もの人見知りで奇声を上げ凄まじい形相となっていた彼女が真顔で呼びかけてくる。
「‥‥‥真道ライ。あいつは強い。」
「そうですか?彼は、弾が一発しか残っていないのを忘れているような…‥‥抜けている人だと思うのですが。」
「部屋に入って来た瞬間に分かった。重心の置き方も歩き方も、視線も気配も、只者じゃない。」
「‥‥!!」
ツルギは奇声を上げたりするが、基本的には冷静であまり話さない方だ。なのにここまではっきりと言うのは、珍しい。まあ、恐らくは警戒と、
「…‥‥‥‥きへへへへ~」
…‥‥‥‥血の騒ぎだろう。さて、そろそろ仕事に戻らなければ。彼らだって頑張っているのだから、正義実現委員会の副委員長として怠けてはいられない。
(どうしようどうしよう、全然話せなかった。そもそも男の人と会った事殆どないんだけど。あああ、嫌われちゃったかな変な誤解されてるよね、次会った時こそちゃんと話せるかな‥‥‥‥)
「…‥‥‥‥オレ、やっぱり何かしちゃったんだろうな…‥‥ミレニアムに急ぐか。」