拝啓、師匠。ライです。オレは今、知らないところで知らないテロリストを追いかけてます。
さっきはよく見えなかったけど、黒い着物を着たケモミミ少女です。多分狐だと思います。
あの尻尾モフモフしてそうだけど、セクハラになりそうなので心の奥底に留めておこうと思います。
ここは不思議な所です。いや、今まで色々な所いきましたけどね?人っぽいのは女性しかいないし、他は獣人とかロボットみたいなのしか見ません。なにより、
「止まれって!!早いって!!おい待って!!!」
ここの女性は一際スペシャルみたいです。
‥‥‥‥師匠いたら、追いつけるまで攻撃してくるな。いなくてよかった。
あのテロ狐、跳んで跳ねて爆破して、無茶苦茶だよもう。なんか鉛玉が飛び交う音するし、即死しかねないからフード被りっぱなしだよ。視界狭まるけど仕方ない。
‥‥‥‥にしても、見れば見る程懐かしさを感じる街並みだ。今までもビルが建てられまくってる街はあったが、一番見知っているものに近しい。
関係のない事を考えながらも必死に追いかけ続ているが、らちが明かない。
こうなったら、武器を抜くしかない。まずは牽制…‥いや、
「もしかして、撃っても大して怪我しないんじゃ・‥‥」
独房に置いてきてしまった少女が脳裏に浮かぶ。普通の人間なら重症を負うはずだが、血の一滴も出ていないとなると可能性は高い。あくまで推測であるが、止めるために追いかけているのだ。やるしかない。確実に当てるために、曲がり角に差し掛かる瞬間を狙うべく、ホルスターに手を掛ける。そして、前を走る黒い着物が右に流れた瞬間、
「ッ痛ぅア”?!?!」
直鉛玉が空を貫いて次々と黒布にぶつかる。撃たれている。いくら貫通しづらいとはいえ、痛いものは痛いし、当たり続けると重症になりかねない。腕で顔を隠して近くの車の陰に飛び込む。被弾はしたものの痛いだけだ。呼吸しろ。自然な呼吸と脱力は痛みを和らげ消耗を押さえる。
車のサイドミラーを見るといかにも不良といった格好の少女達が銃を乱射しているのが見えた。
そこそこいるが、一人、また一人と血の一滴も出さずに撃たれて倒れていく。
推測通り、ここの少女たちは撃たれただけでは死なないようだ。みんなして銃を持ってぶっ放しているのは銃撃戦のハードルが低いからなのだろう。下手したら今までで一番の銃器社会なのかもしれない。
狐面も銃剣付きのライフルを片手で撃ちながら、巧みな身ごなしと立ち回りを見せる。
相手は、5人。しかも一人は見たところ丸腰。一人はデカいし堕天使じみた羽生えてるし、
まるで戦場を俯瞰しているようだが、支配的なものは感じられない。それぞれのポテンシャルを引き出し、嚙合わせる卓越した戦術だ。あれほどの指揮官はそういるものではない。だれかの指揮下に入ったことはほとんどないが、あれ程のものならかなり動きやすいであろうことは想像に難くない。丸腰の女性が指揮官だろうか。外見からは想像もつかないがベテランなのだろうか。
「私はここまで、後は任せます。」
はじめて聞いた狐面の声は、驚くほどに女の子だった。仮面のテロリストがあんな可愛い声なのか…‥。って、
「マッテ!!ちょっと、ねえ!!?」
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私は正直、疑っていた。だがそれは、目の前の結果が間違いだと証明している。
先生。突如現れた大人。キヴォトスの外から来たヘイローのない人間。
明らかに銃や戦闘に慣れていない、どこか浮いた雰囲気で、銃弾一発で死にかねないということもあり、私は全力で先生を守ることを最優先した。ところが、
「指揮は任せて。」
そういった先生の目は真剣で、連邦生徒会長が選んだ先生ならば、ということで戦術指揮をしてもらったがそれはあまりのも非凡だった。
まるで全てを俯瞰し、見透かしているような指示。個々の安全を確保しつつ、能力を最大限に引き出して、即席部隊であるはずの私たちに、自然な形で連携させる。簡単に思えるが、それらの一つ一つは高度であり、それを即席のメンバーで実行してしまう、生のあまりにも信じざるを得ない能力は、私に大人への敬意と先生への信頼を持たせるのに十分なものだった。
騒動の張本人であるワカモと対峙したとき、いつもの私ならば、十全な自信を持てず、動きや判断に鈍りが出てしまうが、動きやすく、戦いやすかった。
「逃げられてるじゃない?!追うわよ!」
「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちの目標はあくまでも、シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです。」
「それに、罠かもしれません。」
突如として姿を現した”七囚人”の一人、狐坂ワカモ。噂に聞く通り、即席とは言え数で勝り、個々の実力も決して低くはない私たちと渡り合うほどの実力を見せた。にも関わらずあっさりと撤退した。興が覚めたのか、チナツさんの言う通り誘い込む罠なのか。詳しいことは分からないが、私は自警団として、先生の安全を優先したい。脅威が一つ遠ざかったことは幸運だと思う。
(それにしても、サンクトゥムでしか喋ってませんね、私。)
今日、連邦生徒会に来たのは自警団として最近の治安悪化について問いただす為。しかし、自警団なんてやっておきながら未だに自信が持てていない。ハスミさんはともかく、先生とお二方にはどう思っているのだろうか‥‥
「マッテ!!ちょっと、ねえ!!?」
この場にいる誰のものでもない大声が聞こえてきた。不良の残党の可能性もあるので反射的に銃を構えたが、その姿はどう見ても不良には思えない。それ以前に、
(男性の声、どうしてこんなところで?)
フードで顔が見えないが、おそらくは男性。待って、ということは、ワカモの仲間の可能性もある。ワカモに男性の協力者がいるという情報はなかったはず。何にせよ、ワカモと違いこの場にいるからには警戒、最悪無力化しなければならない。
「そこのあなた、止まってください。止まらないのなら、無力化します。」
「撃つな撃つな敵じゃない!!ホラ!」
彼は追いかけようとした足を慌てて止め、両手を挙げた。敵意があるとは思えないが、あのワカモの仲間だとしたら、油断はできない。
「あなた何者?まさか、ワカモの仲間じゃないでしょうね!」
「ワカモって‥‥あの狐面の名前?結構有名なんだ。」
「ワカモを知らない…‥。それに、ヘイローが、ない!?」
「まさか、先生と同じ、外から来た人間ということですか?先生、何か知ってますか?」
「多分、初めて会った人だと思うよ。それに、私も知らない事多いしね。」
余計に分からなくなってきた。外から来た人間の可能性が高い、正体不明の男性。キヴォトスの女子高生を困惑させるのに十分すぎる情報しかない。
「あのー、」
私達が困惑している中、男はフードを取り、素顔を見せた。
黒い短髪、多少整ってはいるが、女性にはない厚みを感じる肌に明らかに無理矢理作ったとしか思えない笑みを張り付けて、冷や汗を流している。
ロボットでも動物顔でもない。私にとってほとんど初めての、人間の男性の顔だった。
「一旦話しません?ホントに何もわかってなくて。」