知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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一杯のラーメンとお財布事情

「ごめんね遅れた!」

 

「同じくごめん…‥‥へ?」

 

先生とオレは数日振りにアビドスの定例会議に顔を出すはずだったのだが、ただでさえ本数のない電車がテロの影響で遅延してしまったため遅刻することになった。なんでも、朝一の駅そばを食べにきた4人組が、味が悪いなど着色料でごまかしてるだのと言った理由で店を爆破したかららしい。食べ物の恨みってやつ?キヴォトスは今日も物騒だ。しかし、ここはここで物騒だ。なんせ、

 

「でたー!アヤネちゃんのちゃぶ台返し!」

 

「皆さんがまともな案を出さないからです!」

 

「まってアヤネちゃん!?私はゲルマニウムネックレスを買っただけよ!?」

 

「セリカちゃん、今日のお昼も奢りましょうか?」

 

「バイトあるからいいよ…‥‥3つも買ったのに‥‥‥」

 

「うへぇ~。まただまされちゃったのセリカちゃん。駄目だよ学習しなきゃ~」

 

「ん、ホシノ先輩だっていつもアヤネに怒られてる。同じだよ…‥‥それはそれとして、やっぱり銀行強盗をすべき。」

 

「シロコ先輩!?何その覆面!?わざわざ用意したの!?」

 

「ん、5分で一億は稼げる…‥‥‥あ、先生、ライ。おはよう。」

 

「ええっ!?お、おはようございま‥‥‥えと、これは、その‥‥‥」

 

 

「シロコ、犯罪は流石に見過ごせないかなぁ…‥‥」

 

「‥‥‥‥‥ん。」

 

おい、ふくれっ面をするんじゃないよ…・‥‥‥残念そうな顔もするな。お前が悪い。

 

_____________________________

 

「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ライ君がラーメン奢ってくれるからさ、怒らないで、ねっ?」

 

「ねっ?、じゃない…‥‥まあ、いいけどさ。」

 

銃のオーバーホールに高威力の実包、本、そしてラーメン…‥‥出費がかさむなぁ‥‥‥オレもバイトとかしたいけどしてたら先生が過労で死ぬかもなー‥‥‥

 

「怒ってません…‥‥。」

 

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

 

「赤ちゃんじゃありませんからっ。」

 

超ふくれっ面じゃん‥‥‥‥

 

「…‥‥‥‥‥なんでもいいんだけどさ、なんでまたウチに来たの?」

 

「また食べたくなったからだけど…‥‥‥てかセリカ、オレのラーメン、チャーシュー入れ間違えてないか?前来た時より多い気がするんだが…‥‥‥」

 

「…‥‥‥‥‥気のせいじゃない?」

 

「そうか…‥‥‥気のせいか…‥‥‥‥」

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?・‥‥私チャーシューと卵追加」

 

「おい、シロコ…‥‥セリカ、お客さん来たよ?」

 

「いや、まだ誰も…‥‥」

 

 

「‥‥‥あ‥‥あのう…‥。」

 

セリカの言葉を遮るようにガラガラと戸を開けてきたのは、軍服のような制服を着た生徒と思わしき少女。どこかオドオドした様子で弱弱しい声で店員を呼ぶ。

 

「本当に来た‥‥‥いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

「‥‥‥こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

 

ん?一番高いメニューじゃなくて?

 

「一番安いメニューは‥‥580円の紫関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

少女がの顔が少しだけぱぁっと明るくなり、お礼を言って出ていったかと思うと、3人の少女と一緒に再入店した。

 

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

 

金欠なのか!?いや、1人600円以下で予算を立てている倹約家の可能性もあるはずだ‥‥

 

「ふふふ、ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ。」

 

 

あ、普通に金なさそう。なんだろうね、コートを羽織ったいかにも出来る女みたいな雰囲気醸し出してる子さ、メッチャアホの子な気がする。いや、オレも他人の事を言えないんだが・‥‥

 

「そ、そうでしたか、さすが社長。何でもご存じですね‥‥‥。」

 

いや、部下?に安いメニュー聞きに活かせる時点でご存じでもなんでもないと思うが?心酔してるっぽいけど大丈夫?なんか洗脳とかされてない?てか推定生徒で社長?起業でもしたのか?

 

「はあ‥‥‥…。」

 

「4名様ですか?お席にご案内しますね。」

 

「んーん。どうせ一杯しか頼まないし大丈夫。」

 

「一杯だけ‥‥‥?でも‥‥‥どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし。」

 

「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、我が儘のついでに、箸は4膳でよろしく、優しいバイトちゃん。」

 

「えっ?4膳ですか?まさか1杯を4人で分け合うつもり?」

 

…‥‥うん、なんとなくそんな気はしてた。驚きの余り店員らしからぬ口調になってしまったセリカに突然、社長に心酔してそうな子が顔を青ざめさせながらヘドバンのごとく頭を下げ始める。

 

「ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!お金が無くてすみません!!」

 

「あ、い、いや…‥‥‥!その、別にそう謝らなくても…‥‥‥。」

 

「いいえ!お金がないのは首が無いののも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません…‥‥‥…!」

 

ブレーキを踏んでくれ君。その言葉は自分自身に向けたものなのだろうが、それだと同じくお金のない仲間や、借金まみれの対策委員会、ついでに散財した先生とオレにも突き刺さる‥‥!

ほら、黒パーカーの人ため息ついてるし嫌がってるでしょ?

 

「そんな!お金がないのは罪じゃないよ!胸を張って!」

 

「へ?‥‥‥はい?」

 

「お金は天下の回り者、ってね。そもそもまだ学生だし!それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ?そういうのが大事なんだよ!」

 

「…‥‥‥!」

 

「もう少し待っててね。すぐ持ってくるから。」

 

…‥‥…驚いた。まさかセリカの口からその言葉が出るとは。これが、繋がるって、ことなんだな。気が変わった。今回だけだぜ?

 

「‥‥‥店員さーん!ちょっといい?」

 

「‥‥‥何よ、じゃなくて・‥‥はい、なんでしょうか?」

 

厨房に早歩きで向かうセリカを呼び止めて、小声で耳元に話しかける。

 

「あの子の注文にサービスしてあげて。あとオレが払う。」

 

「‥‥‥‥‥!?」

 

そんな勢いで距離を取られると流石に傷つくんだが‥‥‥あ、睨みながら厨房に‥‥‥

 

 

「…‥何か妙な勘違いをされているみたいだけど?」

 

「まあ、私たちいつもそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね…‥‥」

 

「す、すき焼きとはっ‥‥‥!?それは一体!?」

 

よく聞こえないがすき焼きを知らないとは…‥‥キヴォトスの子供って結構苦労してるんだなぁ‥‥‥自分がちっぽけに見えてくるよ…‥‥

 

「…‥ライ?どうしたの?」

 

「…‥‥自分がどれだけ恵まれているのかを再認識しただけです。」

 

「‥‥‥…ライ、もう一杯頼んでもいい?」

 

「…‥‥その辺にしときなさい。」

 

シロコよ。今日の所は、お前に食わせてやる金はもうない…‥‥後でな。

 

 

「はい!お待たせいたしました!お熱いのでお気をつけて!」

 

ドンっとセリカが彼女たちのテーブルに持ってきたのは山盛りのラーメン。流石の彼女たちもびっくりしているようだ。

 

「なにこれ!超大盛じゃん!!」

 

「ざっと、10人前はあるね‥‥‥」

 

「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう‥‥‥。」

 

「いやいや、これで合ってますって。580円の紫関ラーメン並!ですよね、大将?」

 

「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ。」

 

「大将もああ言ってるし、お会計もすんでるから、遠慮しないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞ!」

 

セリカ、大将。オレを見ないでくれ。なんか恩着せがましい奴になっちゃうからやめて。

 

 

 

「う、うわぁ…‥。」

 

「よく分かんないけど、ラッキー!いっただきまーす!」

 

「…‥‥‥ふふふ、さすがにこれは想定外だったけど、厚意に応えて、ありがたく頂かないとね。」

 

「食べよっ!」

 

「…‥‥そうだね。」

 

 

 

「ん~、おいしいです!!」

 

「こんな辺鄙な所に、このクオリティなんて!」

 

 

「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?」

 

ノノミ、何時の間に・‥‥てか皆かい。

 

「あれ…‥‥隣の席の‥‥‥?」

 

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ。」

 

「ええ、わかるわ。色んな所で色んなの食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの。」

 

「えへへ‥‥‥私達、ここの常連なんです。他の学校のみなさんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです…‥‥。」

 

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね。」

 

ゲヘナってことは、チナツと同じか。キヴォトスだと一般生徒と治安維持組織の制服が違うのってありがちなのかな?トリニティもそうだったし。

 

「私、こういう光景を見たことがあります・‥‥一杯のラーメン、でしたっけ…‥‥。」

 

「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったっけ?」

 

「キヴォトスにもその話あるんだ‥‥‥」

 

 

「‥‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥どうかした?」

 

「いや‥‥‥なんでもない。」

 

オレが人間の男性だから‥‥‥だけじゃなさそうだな。あっちはあっちで談笑してるけどこっちは悩ましそうというか呆れているというか…‥‥顔綺麗だな。カッコいい系のビジュアル・‥‥

 

 

 

「…‥‥‥‥‥はあ。」

 

__________________________

 

__________________

 

____________

 

「‥‥‥‥‥‥先生、オレの弾代って経費で落ちますかね?」

 

「‥‥‥‥後でアオイに聞いてみよっか。」

 

 

 

「じゃあ、気を付けてね!」

 

「お仕事、上手くいきますように!」

 

食事と会話を存分に楽しんだアビドスとゲヘナの生徒達。お会計を済ませて店を出て解散という事になった。彼女たちはこれから大事な仕事があるらしい。

 

「あははっ!あなた達も学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!」

 

‥‥‥この社長、普通にいい人だな。抜けてはいるのだろうが、細かな所作に教養の高さが見て取れるし、カリスマとでもいうのだろうか?先生とはまた違った人を引き付ける魅力を感じる。

 

「‥‥‥ねえ。」

 

あれ?黒パーカーの苦労人っぽい人。

 

「どうしたの?」

 

「私たちのラーメン、アナタの仕業だったんだね。」

 

「さぁ…‥‥バイトちゃんと大将のご厚意じゃない?」

 

「会計の時、そっちの金額が多かったし、バイトさんも思いっきり7杯分のメニュー名言ってたけど?」

 

「…‥‥‥気のせい気のせい。あの子新人さんらしいし、間違えたんじゃない?」

 

「…‥‥‥ふふっ。そういう事にしておく。またね。」

 

…‥‥‥ドキッとした。本当に高校生か?すごく色気感じるけど?

 

「ライ?学校に戻るよ?」

 

「ジー…‥‥‥‥」

 

「えっ、どうしたの?流石にそんなにジッと見られると先生恥ずかしいんだけど‥‥‥」

 

「…‥‥‥あっちの方が大人っぽいな」

 

「ライ?今すごく失礼な事…‥‥‥」

 

 

「なぁアヤネ。あれの進捗どう?」

 

 

「ライ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥ごめんね。恩、仇で返しちゃう。」

 

「カヨコ?早く仕事に行くわよー?」

 

「…‥‥‥‥‥はぁ」

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