知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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追いかけて依頼してお泊り

「んじゃあ、とりあえず名刺交換しない?‥‥‥‥‥‥社長?」

 

夕飯代と使い果たした資金の為に、微かな望みをかけてオフィスのドアを開けた陸八魔アル。しかしそこにいたのは、黒いコートを纏い、悪戯っぽく微笑みながら袋を片手に名刺を差し出している()()

 

「なっ、」

 

ついさっき、知らなかったとはいえ恩を仇で返すことになってしまった、シャーレの一員。

 

「なななな、なっ、」

 

真道ライ、その人だった。

 

「何ですってーーーーーー!!!???」

 

「‥‥‥‥とりあえず、中入れてもらってもいい?まだ食べてないんだろ?」

 

「…‥‥‥‥え?」

 

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取り敢えず中に入れてもらったが、すごくいいオフィスじゃない?飯代で困っていたとは思えない。んで、他の社員の反応は三者三様だが、何故オレがいるのか分からないって感じなのは一緒だな。まあ、そんなことよりも。

 

「そういえば、まだ名乗って無かったよね?シャーレ特別捜査部員の真道ライです。以後よろしく。これ名刺ね。」

 

「あ、はい。ありがたく頂戴します。私は便利屋68社長の陸八魔アルと申します…‥‥じゃなくって!?

 

何だこの子、見てるだけで面白いな‥‥‥‥で、なんだろ?

 

「どうしてウチのオフィスが分かったのよ!?しかも何で来たの!?」

 

「ああ、コート見れば分かる。」

 

椅子に掛けてあるアルのコートを指さすと、課長がまさかという感じでコートの首元をまさぐると、小さな金属片のようなものをつまみ出す。

 

「…‥‥発信機?ストーカーしてきたってわけ?」

 

「正解。最近銃の整備を頼んだ時についでにくれたからね。使わせてもらった。あ、それ返してね。」

 

「‥‥‥‥はい。」

 

「…‥‥!?‥‥‥‥投げないでよ小さいんだから「弾は撃ちぬけるのに?」‥‥‥‥‥はい。」

 

「はあ…‥‥で、何しに来たの?さっきの報復?それともラーメン代払わせに来た?」

 

課長が社長に代わってオレを問い詰めようと、拳銃に手を伸ばす…‥‥が、別に気にしない。戦う気は全くないからね。

 

「まだ食べてないでしょ?ご飯作りに来た。」

 

「‥‥‥‥え、ええ!?」

 

室長と社員が呆気に取られているが気にしない気にしない。ホルスターから銃を抜いて机に置いて

コートを脱いでそこら辺のソファに畳んで置かせてもらう。

 

「んじゃあ、台所借りていいかな?適当に作っちゃうから…・‥‥あ、もしかして今日はもうダメ?」

 

「‥‥‥どうするアルちゃん?なんか怪しくない?」

 

「うっ、うう‥‥‥」

 

「あっ、アル様、どうしましょうか?アル様のご命令なら私は従います…‥‥」

 

「えーと、あんまり歓迎されてない?帰った方がいいですかね?」

 

「ふざけないで!私はアウトローなのよ!」

 

アウトロー‥‥‥?よく分からないが施しは受けない的な感じ?さすれば即時帰宅・‥‥

 

「ご馳走になります!」

 

「あ、はい。」

 

「…‥‥はあ。手伝うよ。変なの入れられたら困るし。」

 

「良いよ、座ってて。ただご飯作る「発信機つけてストーカーしたでしょ?」‥‥お願いします。」

 

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「んじゃあ、どうぞ。」

 

「「「「いただきます」」」」

 

オフィスの机にギッシリと並べられた料理に各々が箸を、フォークを、スプーンを伸ばして食らいつく。

 

「おいしい!あんなに強い上に料理もできるなんてね!」

 

「わ、私なんかが食べてもいいのでしょうか・‥‥?」

 

「折角なんだし沢山食べなさいハルカ!‥‥悔しいけど美味しいわ・‥‥ありがとう!」

 

「それはどうも。」

 

沢山買ってきて良かった。予想はしてたけど調味料もないから尚更‥‥‥余った食材と料理は暫く持つだろうから暫くは彼女たちも大丈夫だろう。

 

「…‥なんかごめんね.ラーメンだけじゃなくて夕飯まで……」

 

「ん?課長さんも手伝ってくれたし、これから沢山頼ると思うからいいよ。」

 

「…‥…じゃあ、ありがたく頂くね。あと、カヨコでいいよ。」

 

「分かった。ところで「ライくーん、そのお皿取ってー!」‥‥はいどうぞー。」

 

「モグモグっ!?げほっ‼ゴホっ!?」

 

「アル様!?大丈夫ですか!?」

 

「はぁ‥‥‥‥がっつきすぎだよ、社長。はい、お水。」

 

「あはは!依頼は失敗しちゃったもんねー。依頼主なんて言うんだろ♪」

 

「うるさいわねぇ!はい、おかわり!」

 

「‥‥‥‥‥‥。」

 

 

 

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____

 

「ふう、ご馳走様。美味しかったわ。」

 

「お粗末様でした。まさか全部食べるとは…‥‥」

 

作り置きも兼ねて結構な量を作ったはずだが…‥‥

 

「お昼と夕飯でこんなに食べれるの久しぶりだからねー!」

 

「あ、その‥‥‥ライさんはご飯を作りに来ただけ、なんですか?」

 

ハルカが恐る恐る聞いてくるが、もちろん目的は別だ。ただ、ご飯食べてからの方がいいかと思って。

 

「君らの腕を見込んで、便利屋68に個人として依頼したい。」

 

「!!…‥‥‥ええ!何でも言って頂戴!」

 

…‥‥‥‥‥‥‥何でもね‥‥‥言ったな?

 

「アルちゃん大丈夫ー?」

 

「あ、アル様、大丈夫なのでしょうか‥‥?」

 

何を考えているかは分からんが、変なことをさせる気はない。

 

「単刀直入に言うとね、君らの依頼主が何をしようとしているのか調べてほしいんだ。」

 

「…‥‥えっと、どういう事かしら?」

 

「君らにも守秘義務とかあるだろうし、前金とかも貰ってるだろうから依頼をやめさせるとか、裏切れとかは言わない。せめて、何のために君たちに依頼したのか、それでどうなるのかを、出来る限り調べてほしい。」

 

「でもさー、依頼主との契約が終わってるわけじゃないから、また襲いに行くかもしれないけど、その時はどうするの?」

 

「傭兵を雇う金も無いのに?君ら強いとは思うけど4人は厳しいんじゃない?」

 

ムツキのもっともな問いにもっともな答えを返してやる。先生やオレがいなくとも対策委員会は十分に強いし、契約が終わるまでどちらかがアビドスに居れば問題ないだろう。

 

「‥‥‥‥まあ、何か分かったら情報をくれればいいよ。期間はアビドスの件がひと段落するまで。追加事項があればその度に可能な限り確認を取りつつ追加料金を渡す。どうかな?」

 

「…‥‥どうする社長?条件はかなりいいし、ご飯の恩もあるけど。」

 

「わ、私はアル様のご命令なら何でも従います……」

 

「…‥‥‥分かったわ。その依頼、便利屋68が引き受けるわ!」

 

「‥‥‥‥はい、これ契約書。ここに依頼内容とサインお願い。」

 

カヨコが横から机に書類を出してくれたのでペンを借りてそれなりに綺麗な字で書く。

一通り書き終えて記入漏れがない事を確認すると、ナイフを取り出して左の親指を軽く当てて少しだけ引く。赤い血が滲みだしたそれを、便利屋の面々が驚愕の表情で見ている中書類の印に押し当てる。指を離してアルが読めるように向きを変えて書類を書き出す。

 

「はい、これでいい?」

 

「いや、えっ、えええ!?何で血判なのよ!?」

 

「え?だって印鑑持ってなかったから。」

 

「だからって自分の指を簡単に切らないでよ!えーと救急箱は__」

 

「アル様!こちらです!」

 

「いや、そこまでしなくてって…「黙らっしゃい!」あ、はい。」

 

半ば強制的にオレの左親指は消毒と絆創膏による手当てを施された。まあ、ナイフによる切り傷を見ることはキヴォトスでもほとんどないのだろう。

 

「なんかごめんね?」

 

「なんで謝るのよ…‥自然にやりだしたからびっくりしたわ…‥‥」

 

「…‥‥で、あんたどうするの?」

 

どうするって言われても、今日の所は帰るだけですけど…‥‥あ、

慌ててスマホを開いて電車の時刻表を見ると、次のD.U.行きの電車は明日の朝。

今からホテルを取ろうにももう遅いし、近辺にはないのでそれなりの距離を歩くしかないが現実的ではない。どう考えても買い物と料理で時間を食ったせいだが自業自得だ。仕方ないが、今日は野宿するとしよう。

 

「‥‥‥‥そっちさえ良ければなんだけど、泊ってく?」

 

「いや、むしろありがたいんだけどさ…‥‥‥オレ男だよ?」

 

「あれ~?もしかして、ライ君変な事考えてるのー?くふふ~」

 

「誰がするか!?」

 

「‥‥‥‥大丈夫、変な事したら容赦なく撃つから。間違いは多分起こらない。」

 

「あ、アル様に手を出したら!許さない許さない許さない許さない…‥‥」

 

「分かった!分かったから!一晩お世話になります!」

 

 

____________

 

_______

 

____

 

「はあ~…‥‥とんでもなく疲れた…‥‥‥」

 

事務所の近くの公園のベンチで夜風に当たりながら一人うなだれる。

 

朝からテロの影響で遅刻し、ラーメンを奢り、便利屋と傭兵達と戦ったどころか、便利屋4人で仲良く入浴している声や水音、風呂上りの女性特有の色気により本能が活発になりかけ、奇跡的なタイミングの悪さによりカヨコに裸を見られかけ、女子会に紛れ込んでしまった男子学生のような体験をすることになってしまった…‥‥。

 

「‥‥‥‥見られてないよな?」

 

見られると色々困るんだがなぁ‥‥‥‥女子高生どころか先生や同性にも余り見せたくないのに。

お婿にも行けなくなってしまう‥‥‥‥行く気無いけど。

 

「‥‥‥‥こんな所でどうしたの?」

 

振り向くとイヤホンを外しながらカヨコが歩いてきて、ベンチの隣に座る。

 

「事務所から出るの見たから気になったんだけど・‥‥」

 

「ごめんね?起こしちゃった?」

 

「大丈夫、みんなグッスリ寝てるよ‥‥‥‥社長は夢見が悪そうだったけど。」

 

「‥‥‥なんかごめんね?」

 

「言ったでしょ。公私の区別はキッチリつけてるって。」

 

「…‥‥そっか。」

 

「…‥‥‥‥。」

 

会話は途切れ、二人でベンチにもたれかかりながら、夜空をぼーっと見つめる。今日であったばかりなのに、不思議と気まずさは感じない。、うしろ、ずっと一緒にいたような何とも言い難い安心感すら覚えている。

 

「…‥‥‥‥美人さんだなぁ。」

 

「!!??」

 

 

 

 

その日は事務所のソファで一夜を過ごしたが、先生と仮眠室で寝た時とは比べ物にならない充足感を感じた。

 

オレも、まだこういう事で楽しめるんだなぁ‥‥‥‥。大人になり切れていない証拠なのだろうが、久しぶりにそのことが嬉しく感じれた。

 

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