息抜きで新作書こうかな…‥‥‥
(ジュウー、ジュウ―、パチパチっ)
スマホのアラームが鳴る前に、便利屋になってから、あまり聞かなくなった心地いい音と香ばしい香りで目が覚める。まだ開ききっていない目で隣の幼馴染の顔を覗き込むとどこか険しい表情で何か唸っている。昨日の依頼を失敗したから悪夢でも見ているのだろう。時間を確認すると、いつもより一時間以上も早い時間だ。まだ、気怠げな体をゆっくりと起こして寝室として使っている部屋を出る。いつもの事になってしまったが、この事務所も近いうちに離れることになるだろう。再び野宿生活になるだろうが、それはそれで楽しいから、まあいいかと割り切る。だって、かけがえのない幼馴染と仲間達と一緒なのだから。
オフィスに行くと、昨晩ここで寝ていたはずの彼の姿はない。結局、”変な事”は何もなかったが、それはそれで残念な気もするが、彼への信頼は強くなったからまあ、いいだろう。
台所をのぞき込んでみると、手際よく野菜やベーコンを切り、様々な具材のサンドイッチを作り上げる彼の姿があった。朝ごはんまで作ってくれるとは流石に思わなかったが、彼の腕前は既に証明されているので、正直楽しみだ。
「‥‥‥あれ?ごめん起こしちゃった?」
こちらに気が付いて顔を向けた瞬間に、彼から出た第一声は謝罪の言葉だった。別に気にしなくたっていいのに‥‥‥それだけ彼が優しい証拠なのだろうけど。
「いいのいいの!朝ごはんまで作ってくれてありがと!」
「いいんだけど…‥‥‥あ、そうだ。」
「おはよう、ムツキ。」
「ふふふ、おはよう、ストーカー君♪」
「…‥‥‥‥‥‥勘弁してくれよ。」
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先に起きてきたムツキとサンドイッチをラップで丁寧に包んでいく。一通りは作ったし、多めに作ったからお昼にも食べてもらおう。どうせ金ないだろうし。
「…‥…他の三人は?」
「まだ寝てるよ。昨日の事で参ってるみたい。」
「…‥‥そうか。はい、これで良し。」
全て包み終えると、数個だけ避けて後は冷蔵庫に入れておく。
「んじゃあ、オレはもう行くよ。お世話になりました。」
「こちらこそ!ご飯美味しかったよ!また遊びに来てね~…‥‥場所は変わってると思うけど。」
…‥‥‥‥大丈夫かこの子たち?学校も行ってないらしいし、指名手配されてるらしいし、アルに至っては銀行口座が凍結されているらしいし‥‥‥。てか報酬渡すとき手渡しじゃないと駄目じゃん。いちいち連絡とって渡すの面倒くさいな。
「んじゃあ、そろそろ‥‥‥」
「あ、待って。私も行っていい?」
「へ?‥‥‥先生はともかく、委員会は歓迎しないぞ?」
「先生に会いたいだけだよ。あと‥‥‥あの眼鏡ちゃんが気になってさ~?」
「眼鏡‥‥‥アヤネか?なんで?」
「んふふ~♪私、眼鏡好きなんだよねー!」
「メガネフェチだったのか…‥‥便利屋には眼鏡いないもんな…‥‥」
きっと眼鏡成分を求めているのだろう。ある意味では欲求不満?
「アルちゃんねー、昔は眼鏡だったんだけどねー。」
え、マジで?
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「‥‥‥‥ってことがあったんですよ。」
「色々と突っ込みどころがあるんだけど!?」
「そうですよ!女の子の所に泊ってくるなんて‥‥‥ふ、不健全です!」
「…‥‥?ご飯作って泊めてもらっただけなんだけど…‥‥大したことはしてないはず……」
ムツキとアビドス高校に向かっていたら遭遇した先生とアヤネに奇跡的に遭遇してしまい、アヤネに昨日戦った人と何故一緒にいるのか詰められたので、発信機と依頼についてはぼかしつつ説明したらこのありさまである。アヤネは顔真っ赤になるしムツキはなぜか楽しそうにアヤネや先生に引っ付くし、先生はオレの事を凄い顔で見てくる。…‥‥‥オレ本当は何かやらかしたんじゃないだろうか?とりあえず先生に引っ付いてるムツキを引きはがすか。
「‥‥ムツキ、オレ達もう行かなきゃならないからさ。離れてやってくれよ。」
「えー‥‥‥まあ、いっか。ご飯ありがとね。先生とアヤネちゃんも今度便利屋に遊びに来なよ。みんな喜ぶだろうし、歓迎するよ。」
「いきなり馴れ馴れしいですよ!」
「えー。部活で請け負っている仕事だからさ、仕事の時以外は仲良くして欲しいなー。」
「いっ、今更公私を区別しようということですか!?」
「別にいいじゃん。それにシャーレの先生も部員も、あんたたちだけのモンじゃないでしょ?だよね、ライ?先生?」
「…‥‥‥そうだな。否定はしないよ。」
「とりあえず私は、ケンカしないで仲良くしてくれると嬉しいな…‥‥」
「あはは、それは無理かなー。こっちも仕事だし、アルちゃんのモチベ高いからさ。適当にやると怒られちゃうから。」
「そんじゃ、バイバーイ。アヤネちゃんもまた今度ね。…‥‥依頼、任せてね。」
「ああ、頼むよ。」
「また今度なんてありません!次会ったらその場で撃ちます!」
「はいはーい。」
ムツキは手を振りながら市街地の中へ姿を消していった。さて、オレもやれるだけやるか。
「‥‥‥‥で、二人はなんでこんな早くから登校してるの?」
「‥‥‥今日は利息の返済日なんです。準備も今後の計画の見直しもあるので‥‥‥。あと、例の件について、会議でお話ししようと思います。」
「そっか。任せちゃっててごめんね。」
「いえ、そんな‥‥‥とりあえず、準備を手伝ってください。人手が多い方が早く終わりますし。」
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「‥‥‥お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。
校門前に留められた車の前で、スーツを着たロボット人間のカイザーローンの銀行員がアタッシュケースに収められた大量の
「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします。」
銀行員がテンプレの挨拶とビジネスマイル、会釈の3点セットを行なった瞬間、無性に苛立った。オレの知っている借金取りや悪徳業者はもっとウィットに富んでいたぞ。
現金が積み込まれた銀行員の車を何とも言い難い表情で見送る対策委員会と先生。これを毎月やるために頑張っているようなものだからな・‥‥相当キツイだろう。
「はぁ、今月も何とか乗り切ったねー。」
「‥‥‥完済まであとどのぐらい?」
「309年分なので‥‥‥今までの分を入れると‥‥‥。」
「言わなくていいわよ、正確な数字で言われると更にストレスたまりそう‥‥‥。どうせ死ぬまで完済できないんだし!計算してもムダでしょ!!」
…‥‥‥これが花の女子高生の会話か?よく首も吊らずに頑張ってるよ、本当に凄いと思う。でも、シャーレがどうにか出来るものでもないし、立場的にも一つの画学校に入れ込むことも難しい。先生の面持ちもどこか暗い。
「‥‥‥‥なんでわざわざ現金なんだ?現金輸送車までわざわざ使ってまでそうする理由って…‥‥」
「…‥‥‥。」
「シロコ先輩、あの車は襲っちゃだめだよ。」
「うん、分かってる。」
「計画もしちゃだめ!!」
「うん…‥‥」
露骨に気を落とすんじゃないよ…‥‥オレも発信機つける気だったけど。バレた時にアビドス高校が被害を被りそうだし、相手は大企業らしいからやめたけど。
「ま、とりあえず先に解決すべきは、目の前の問題の方でしょ。とにかく教室に戻ろー。」
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全員教室に戻り、席に着くとアヤネが会議の進行を始める。今日はオレも話すことがあるので、アヤネの反対側に立つ。
「全員揃ったようなので始めます。まずは、3つの事案についてお話ししたいと思います。最初に昨晩の襲撃の件なのですが、これはライさんにお話ししてもらおうと思います。」
アヤネに話を振られると、ホワイトボードに簡単な図を描きながら説明を始める。
「‥‥‥昨日、ここを襲ったのは「便利屋68」。ゲヘナ学園の生徒が勝手に設立した会社で、危険で素行の悪い生徒達として知られている。風紀委員会からも睨まれてるみたいだ。」
…‥‥‥社長はポンコツだけど。
「社長の陸八魔アル、室長の浅黄ムツキ、課長の鬼方カヨコ、社員の伊草ハルカの4人がメンバーで、金さえ貰えばどんな依頼でも受けることをモットーにしている文字通りの”便利屋”‥‥‥一種のサービス業、傭兵と言ってもいいかもしれない。」
…‥‥金欠の零細企業で、真のアウトロー目指してるっていうのは伏せておこう。別に重要じゃないし、かわいそうだし。
「いやぁー、本格的だねー。」
「社長さんだったんですね☆すごいです!でも…‥‥校則違反ってことですよね。悪い子たちには見えませんでしたが…‥‥。」
ポンコツ社長に付いて行くユニークな仲間達だからね昨晩も結構楽しかったし。
「しかし危険な組織である事には間違いありません!そんな組織が私たちの学校を狙っているのですから、もっと気を引き締めないと!」
「…‥‥‥大丈夫だよ。もうお金ないみたいだし。」
「なんか詳しいねー。シャーレの特別捜査部員ってすごいんだねー。」
「直接話してきただけだよ?」
「は、はぁ!?」
「なんならご飯食べたし泊めてもらったよ。みんないい子だったし腕は確かだから、今度何か依頼してみるのも一つの手だと思うよ。あ、依頼主と目的については手は打ってるから、もう少し待ってもらって…‥‥‥あれ、みんな?」
「「「…‥‥‥‥‥‥‥。」」」
みんなの顔が引きつってるし凄いジト目!?何故‥‥‥シロコとノノミよ、なぜそんなにキラキラした眼差しでオレを見る!?
「…‥‥‥とりあえず、今度会ったら徹底的に!」
「‥‥‥‥そうだね。徹底的に・‥‥」
セリカさん?その目怖いんですけど?なんか気に障る事したっけ?
「‥‥‥‥アヤネちゃん、それで次の事案は?」
「…‥‥そうですね。続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!先日の戦闘で手に入れた兵器の残骸を分析した結果…‥‥現在は取引されていない型番であることが判明しました。」
「もう生産してないって事?」
「また、普通の生徒‥‥ましてやヘルメット団では入手不可能なパーツや禁止されている違法部品も確認されました。」
…‥‥‥ハスミが教えてくれた条件、全部そろってるのかよ…‥‥‥結構黒いな。
「それをどうやって手に入れたのかしら。」
「そういったものを手に入れる方法は…‥‥キヴォトスでは”ブラックマーケット”しかありません。」
「ブラックマーケット‥‥‥とっても危ない場所じゃないですか。」
「そうです。あそこでは中退、休学、退学…‥‥様々な理由で学校をやめた生徒達が集団を形成しており、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活もたくさん活動していると聞きました。」
「それだけじゃない。それを隠れ蓑にして暗躍している企業も少なくないし、ブラックマーケットの規模や数は拡大・増加していると知り合いから教えてもらった。ちなみに便利屋68も何度か訪れて、仕事をしたことがあるらしい。」
…‥‥‥ほとんど失敗したらしいが。
「では、そこが重要ポイントですね!」
ノノミの発言に首を縦にふり、ホワイトボードにアビドス自治区の簡単な地図を描く。
「知り合いから聞いた情報によると、ここから一番近いのは、この辺らしい。」
「この二つの出来事の関連性を探すのも、ひとつの方法かもしれません。」
「‥‥‥‥よし、じゃあ決まりだねー。」
委員長であり最上級生のホシノが実質的な方針を決定したので、このまま対策委員会と先生と一緒に調べることになった。正直、便利屋に依頼して手伝ってもらうのも一つの手だと思ったが‥‥‥‥
「ライ?勝手にやるのはダメだよ。」
…‥‥‥また怖い目で見られたくないし、あらぬ疑いも避けたいからやめとこう。先生の声色が心なしか低い気がする。
「ブラックマーケットを調べてみよう。意外な手がかりがあるかもしれないしね。」
〈連邦捜査部 情報アーカイブ:ライのナイフと名刺〉
・前話で血判を押すときに使ったナイフは、遭難した先生を探しに行く時に買った多目的銃剣。
・名刺は先生と一緒に作った白地に水色でシャーレのエンブレムが書かれたもの。