「いらっしゃい!!‥‥‥おう、シャーレの坊主!空いてるとこ座りな!」
相変わらず閑散としている店内に入ると、柴大将の元気な挨拶が聞こえる。今日は1人だが、カウンター席ではなく、テーブル席へ行く。そこには4人の少女。便利屋68だ。
依頼の件と依頼主___カイザーコーポレーションについての情報確認を行うために、今朝電話をしたところ、仕事の準備が出来たらと言うわけだ。
「こんにちは。みんな早かった‥‥‥どうしたの?」
アルの顔色があまり良くない‥‥‥随分と疲れているようだが‥‥‥‥‥
「…‥‥アル?体調悪いの?」
「いえ…‥‥そんなこと…‥‥‥はあ…‥」
「…‥‥‥とりあえず注文しようか。好きなの頼んでいいよ。」
___________
_______
____
「紫関ラーメン5つお待ち!」
「来たぁ!!いただきまーす!」
「ひ、ひとりにつき一杯‥‥‥こんなに贅沢してもいいんですか!?」
「アビドスさんとこのお友達だろう。替え玉が欲しけりゃ言いな。…‥‥悪いな坊主、客なのにラーメン運んでもらっちまって。」
「…‥‥‥!?」
「気にしないでください。セリカもいないですし…‥‥」
「こんなに美味しいのにお客さんがいないなんて。」
「場所が悪いんじゃない?廃校寸前の学校の近くだし。」
「‥‥‥そう言ってくれるなよ。否定はしないけどさ。」
「まあ、美味しいからいいんだけど。それじゃ、いただ‥‥‥‥。」
「…‥‥‥じゃない。」
「ん?」
「友達なんかじゃないわよぉーーー!!」
「わわっ!?」
「わかった!!何がひっかかってきたのかわかったわ!問題はこの店、この店よっ!」
「はいぃぃ!?」
「どゆこと!?」
「私たちは仕事しにこの辺りに来てるの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!!なのに何なのよ、この店は!お腹いっぱいたべられるし!!あったかくて親切で!話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気!ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
「店に八つ当たりすんな!?てか、ただのいい店じゃん!!」そして善性が隠しきれていないぞアウトロー。
「それに何か問題ある?」
「ダメでしょ!!滅茶苦茶でグダグダよ!私が一人前になるには、こんな店はいらないのよっ!!私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!」
「いや、それは考えすぎなんじゃ・‥‥‥」
「言ってることが無茶苦茶だよ社長‥‥‥‥‥」
訳の分からない事を叫び続けるアルに一同は困惑する。いい店だからいらないって何!?
「…‥‥それって‥‥‥こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」
「「…‥‥へ?」」
は、ハルカ?なんでそんなに嬉しそうにそんな事を‥‥‥?
「ようやく、アル様のお力になれます!」
き、起爆装置!?何故ここで!?ま、まさか!
「ハルカ、ちょ、ちょっと待っ‥‥‥」
カヨコの静止も虚しく、ハルカの親指が起爆装置のスイッチに触れ___
「‥‥‥‥ストーーーーーっプっ!!!!!!」
る直前に反射的に抜かれた銃の銀のバレルが装置をハルカの手から弾き飛ばす。銃を振りぬいたまま、宙を舞って行った装置を壁や床に当たる一発撃ちこんで破壊する。
「‥‥‥!?な、なんだ!?」
流石に店内に響き渡った銃声に驚いたのか、柴大将が厨房から飛び出してくる。しかし、その時には銃はホルスターに収められており、平然とした態度で対応する。
「すみません、銃が暴発してしまって…‥‥‥」
「け、怪我はないか!?」
「大丈夫です。騒いじゃってすみません‥‥‥」
何処か怪訝な顔だが大将は厨房に戻っていった。
「はぁぁぁぁーー‥‥‥…手、大丈夫?」
椅子にへたり込みながら、ハルカの方を見やる。いくら頑丈でも高速で振り抜いた銃は痛いだろう。
「い、いえ、大丈夫、です‥‥‥」
「ならいいんだけど‥‥‥…で、アルはどうしたんだ?なんか変だぞ?」
「ま、まさか!そんな、こと…‥‥‥」
「…‥‥‥相談、乗ろうか?」
「で、でも、私はハードボイルドな…‥‥」
「‥‥‥‥‥ハードボイルドって、結構疲れるよ?映画でも、アウトローがバーで愚痴を吐いてるシーンあるだろ?別にいいんだよ?オレも今は生徒の為の、お仕事してるわけだしさ。」
それからポツリポツリとアルは悩みや迷いを口にし始めていた。先日の依頼を失敗したことで依頼主からプレッシャーを掛けられて、つい啖呵を切ってしまった事、ブラックマーケットの闇銀行で融資を受けようとしたが出来なかったばかりか、今の便利屋を否定されるようなことを言われたこと、それでなりたい自分と今の自分にやっている事にギャップを感じている事。真のアウトローを目の当たりにして気合を入れてアビドスにリベンジしようとしている事、でも紫関ラーメンに入って戦意が揺らいでいる事。
リベンジの件については…‥‥‥やめろとは言っていないし、策を練って全力で迎え撃とう。目の前でこうなられていると流石にかわいそうだし、せめてプロとして本気で向かい合うのが筋だろう。オレとしてもその方がいいし、彼女もその方が良いだろう。
「‥‥‥‥…まあ、良くある事って言っちゃえばそれまでなんだけど、そういうのじゃないもんね?」
「ええ…‥‥‥、何かよく分からくなっちゃって、それで危うくこの店を吹き飛ばしかけて‥‥‥」
「いやそれはハルカの‥‥‥いや、社長も部下の責任を背負ってるか。」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!役立たずですよね!?私また‥‥‥‥‥」
「ハルカちゃん、落ち着きなって。ほら、伸びちゃうから食べちゃお!」
「本当にごめんね。色々面倒掛けちゃって…‥‥‥」
「いや、いいんだ。そういうの覚えがない訳じゃないし、大将も怪我してないし…‥‥‥‥でも、武器もない、戦う気もない人を傷つけるのはやめとけよ?オレ切れちゃうから。」
「‥‥‥ちょっと話が逸れたけど、とりあえず挫けずにやってみようよ。向き不向きとか、可能不可能は一旦置いといてさ。」
眼を閉じて、かつての日々を思い出す。たった5m先の的にすら一発も当たらなかった時、どうしようもない事ばかり思い出して、考えてしまって足が止まっていた時、上手く笑えなくなっていたあの時を。オレに才能なんてなかった。でもやるしかないんだと、後ろ向きの決意で向き合おうとしていたあの時、師匠に言われた言葉を、今でも覚えている。この子は、オレとは事情も思いも違うけど、こんなに一生懸命で、真っすぐなんだから。師匠みたいに厳しく、優しくは慣れないけど、”伝える”ことは出来る。
「大抵のことは経験と努力でどうにかなる。だからとりあえず夢を捨てずにやろうよ。間違えて、足が止まったらやり直せなくても、仕切り直せばいい。やろうと思ってやり続ければ、ちょっとした”魔法”でも使えるんだから。」
「‥‥‥‥‥‥!!」
「…‥‥魔法、ですか?」
「ふふっ!でも魔法は言いすぎじゃない?」
「…‥‥‥どうだろうね?」
「‥‥‥‥ありがとう。少し元気になった気がするわ。さすがは覆面水着団ね。本物のアウトローはいう事が違うわ」
「待て。違うんだ…‥‥いや、違わないけど違うんだ。話を聞いて欲しい。」
笑うんじゃねえムツキ。深い事情があるんだよ。オレだって、オレだってあんなダッッッサイの名乗りたくも呼ばれたくも…‥‥‥
(ドッカーーーーーーーン!!)
突如として店外から何かが爆ぜた轟音が響き、衝撃による揺れがくる。
「うっわ!?いきなり何なのさ!?」
「これは…‥‥‥‥!」
「榴弾‥‥…なのか…‥‥?」
この音と揺れは恐らく榴弾。迫撃砲か戦車から撃ったものだろうが、なんでこんな所で?ヘルメット団?いや、対策委員会は今頃先生と校舎にいるはず。こんな所で交戦する可能性は低い。だとしたらどこの誰が、誰を狙って…‥‥狙っ、て‥‥‥‥‥。あれ?榴弾による第一射って、観測射撃‥‥‥‥マズい。次が来る!
「な、なんだ今のは‥‥‥」
「…‥‥みんな伏せろ!!来るっ!!」
再び厨房から出てきた大将に飛びついて小さい体をコートに隠すように抱いて体を丸くして口を半開きにしてフードを被る。瞬間、
(ドッカーーーーーーーン!!)
___________
______
____
「前方、半径10km内にて爆発を検知!近いです!」
アビドス高校 対策委員会会議室。ホシノ以外の対策委員会と先生で会議や調べものをしていた最中に突如としてアヤネの声が響き、一同が真剣な顔つきになる。
「10kmってことは‥‥‥市街地?まさか襲撃!?」
「ホシノ先輩もライさんも居ない時に‥‥!」
アヤネがパソコンを操作し、素早く状況を確認する。
「衝撃波の形からすると、50mmの榴弾の複数弾着と思われます。もう少し、確認してみます。‥‥‥‥爆発地点確認。市街地です!正確な位置は‥‥‥紫関ラーメン!?紫関ラーメンが、跡形もなく消えてしまいました!!」
「どうして紫関ラーメンが!?あそこは私達がよく行く店だけども‥‥」
「‥‥‥戦略拠点でもなく、重要な拠点でもないのに。一体誰が……。」
シロコと先生が困惑したような表情になるが、直ぐに切り替えてキリっとした顔を挙げる。
「とにかく急ごう!憶測はいくらでもできる!」
「そうですね。お二人がいないのは残念ですが、私達だって…‥‥‥セリカちゃん?」
セリカが青ざめた表情で何かをブツブツと言いながら立ち尽くしている。
「セリカ?どうしたの?」
「…‥‥さっき、ライから、今日もバイト入ってるのかって、連絡来て‥‥…私がいないから、今日は大将と話してみようかなって、言ってて‥‥‥‥」
全員の顔が凍り付く。大将はヘイローのない一般人だが、それでもキヴォトスの住民だ。生徒程でないにしてもそれなりに頑丈だ。しかしライは、先生と同じ外から来た人間である。普段は防弾コートや体捌きでどうにかしているが、彼も銃弾一発で死にかねない、生徒と比べたら十分に貧弱と言える体。そんな彼が、跡形もなくなった紫関ラーメンにいたとしたら…‥‥?最悪の可能性が頭をよぎる。最悪でなかったとしても、軽いけがでは済まされない。
「‥‥‥‥‥‥っ!!急ごう!!」
先生の言葉でハッとして全員装備をもって出動する。アヤネは走りながらホシノに連絡を掛けている。
「アロナ!!ライの携帯にかけて!!」
『はい!‥‥‥‥ダメです、恐らく電波が届いていないか、端末が破損しているようです!』
「そんな‥‥!」
更に焦りを増していく先生の表情。その心中は、大将と、1人の同僚への心配でいっぱいだった。いや、彼への心配の方が大きいのだろう。なんせ同僚である。このキヴォトスで恐らく唯一、自分が先生ではなく、1人の人間として接っすることが出来て、接してくれる存在だからである。
「…‥‥‥ライっ!」