知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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ゲヘナの風紀委員会

「‥‥‥イ、ライ!ライ起きなさいよ!

 

「…‥‥ッくぅ‘‘ぅぅ…‥‥アル…‥‥?」

 

‥‥‥…何が、起きて‥‥…あれ、確かいきなり榴弾の音が聞こえて、大将を抱え込んで、それで視界が真っ白になって‥‥‥‥

 

「‥‥‥っ!大将はっ!?皆っっ!???…‥‥……カハッ…っプ‥‥」

 

朦朧としていた意識がハッキリとし、ばねでもついているかのように上半身が跳ね上がる。しかし、破片による傷はともかく、衝撃と熱によるダメージは決して小さくなかった。確実に肋骨が折れ、内臓に傷がついた。あちこち打撲してるし、口から鮮血が堪えきれずに零れ、カヨコや駆け寄って来た便利屋の面々の表情に焦りや恐怖の色が見え始める。

 

「大将は気を失ってるだけで、大した怪我じゃないけど‥‥‥あなた‥‥‥」

 

「‥‥‥大丈夫、こういうの慣れてるから。さてと‥‥‥やらかしたのは何処のバカだ?」

 

榴弾を発射したであろう方向を睨みつける。いつもよりドスの効いた低い声と、明らかにイラついている雰囲気に気おされるも、カヨコが苦虫を潰したような表情で答える。

 

「多分、ゲヘナ(うち)の風紀委員会の連中。まさかここまで追ってくるなんて‥‥‥!」

 

「‥‥‥‥ちょっと待って。ここはアビドス、要は他所の土地だぞ?なんでゲヘナが勝手にぶっ放して他所の店ぶっ壊してんだ…‥?明らかに越権だし、政治的問題になるぞ‥‥‥!」

 

キヴォトスにおいて、学園とその自治区というのは一種の国家だ。犯罪組織を潰すためとはいえ、他国の軍隊が勝手に外国に入って大砲を撃っていいのか?否、断じてならない。

 

「アビドスを舐めてるにしたって、やりすぎだ…‥‥ゲヘナは物騒とは聞いたけどよ‥‥‥これじゃあ、正義実現委員会の方が何百倍もマトモだ…‥‥!」

 

「…‥‥‥いや、いつもと比べると、やり方が非効率すぎる。ヒナ‥‥風紀委員長の指示とは思えないけど…‥‥」

 

「…‥‥‥ちょっと行ってくる。大将をどこか安全な所に頼む。そしたら、逃げていい。」

 

「…‥‥‥‥ライ君、それ本気で言ってる?」

 

「捕まってもらうと困るよ。まだ頼みたいことあるし、それに‥‥‥‥やったのはアイツらなんだから。」

 

「‥‥‥?」

 

 

 

 

 

 

『あ、あー。私たちは風紀委員会だ。観念しろ便利屋!お前たちは既に包囲されている!おとなしく出てこい!』

 

 

外からメガホンで拡声された投稿の呼びかけが聞こえてくる。ったく、砲撃と順序が逆だろうがよ‥‥‥‥

 

「‥‥‥だってさ。これ誰だか分かる?」

 

「この声は、銀鏡イオリ。風紀委員会の切り込み隊長。」

 

「強いっちゃ強いんだけど、単純で地頭良くないんだよねー。」

 

‥‥‥成程。なんか納得した。それならと、フラフラと立ち上がって店の外へ歩き出す。

 

「え、ええっ!?ちょっと、待ちなさいよ!?」

 

ごめんねアル。オレ、今久々に頭キテるんだ。

 

 

 

「すぅーーーー、昼飯どきにいきなり吹き飛ばしやがって、いったいどういうつもりだ!?ここはアビドス!お前らはゲヘナ!領分が違うんじゃねえのかぁ!!??

 

なんか気道がひりひりするけど、そんなことはお構いなしに大声で叫ぶ。

 

「誰だ、お前?規則違反者どもの仲間か?」

 

‥‥‥あの銀髪ツインテールがイオリか?いつもなら可愛いって素直に感じてるんだろうけど、今のオレには無関係の民間人を店ごと吹き飛ばした大バカにしか思えない。お、あの赤い手袋と眼鏡は…‥‥

 

「やあチナツ‥‥‥先日の当番、ありがとね。」

 

「ライさん‥‥!?まさか、こんな所に…‥‥!!その血、もしかして‥‥」

 

「ご想像通りだけど、大した事はないよ。そんなもんより、怒りと疑問が勝ってるんでね。」

 

「チナツ、知り合い?」

 

「連邦捜査部シャーレの特別捜査部員の真道ライさんです。まさか、便利屋と一緒にいたなんて‥‥…!」

 

「公務の執行を妨害するなら全員敵だ。」

 

‥‥‥‥公務っていうんなら、もっと考えてやれよ。組織の面子つぶれんぞ。

 

「お前なぁ‥‥‥何どこ狙って砲撃したのか分かってんのか‥‥?」

 

「?便利屋が隠れた建物だけど?ここら辺にはもう人はほとんどいないはずだし‥‥‥」

 

「想像力が欠如してるみてぇだな‥‥‥‥あそこは立派に経営中のラーメン屋だ!()()とお昼食ってる時にいきなりぶっ放して、大将怪我させといて、それでとっとと出てこい?公務の妨害?ふざけるのも大概にしろってんだ!もっともの考えて動け!大将に詫びを入れろ!!他所の土地で何してんだ!!」

 

「ここはギリギリ自治区じゃないはずだけど‥‥‥…まぁいいや。便利屋68を引き渡せ。」

 

「イオリ、まず事情の説明を‥‥‥」

 

「は?テメェらの落ち度を認めて詫び入れるのが先だろうが。」

 

「ライさんも、一旦落ち着いて‥‥‥‥」

 

その時、一発の銃声が響き渡る。便利屋の銃じゃない。風紀委員会?いや、この音は自動小銃。てことは‥‥‥‥‥

 

 

「話は聞かせてもらったよ。久しぶりだね、チナツ。」

 

先生と、対策委員会。流石にこの距離なら気づいて来るか。少し、待った方が良かったかな。

 

「先生‥‥!?まさか、こんな形で再開することになるとは…‥‥‥」

 

チナツが渋い顔を隠せずにいる。先日、当番として先生と中々楽しい時間を過ごしたと言っていたので、そうもなろう。

 

 

「…‥‥‥先生、大将が、」

 

「…‥‥‥近くのシェルターに運ばれていたわ。大丈夫よ。」

 

便利屋の誰かがやってくれたのだろうか?

 

「…‥‥セリカ。便利屋は…‥‥あ、」

 

「いなかったわよ。というか、便利屋と一緒だったのね?だから私に連絡を…‥‥」

 

「あー、それには、事情があって‥‥‥」

 

ジト目で問い詰められ眼を泳がせてタジタジになってしまう。

 

「…‥‥ライさん!?血が…‥‥」

 

「大した事ないよ。大丈夫。」

 

「でも、みんな心配したんですからね?携帯が繋がらなかったので…‥‥」

 

‥‥‥‥やべ、先生たちに連絡する前にブちぎれたので気にしてなかった。慌てて取り出すと、スマホの内部が露出している…‥‥また出費か‥‥‥

 

「…‥‥‥なんでゲヘナの風紀委員会がここにいるのよ。ここはアビドスよ!」

 

 

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「後ろの制服、アビドスだっけ?」

 

「だからイオリ、事情の説明を‥‥‥」

 

「説明、必要?うちの厄介者どもを取っ捕まえるのに労力が惜しい。もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用で叩きのめす。」

 

「‥‥‥‥。」

 

 

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「先生、連中、便利屋を捕まえるとは言ってたけど…‥‥‥」

 

「うん。戦力が多すぎる。目的が分からない‥‥‥‥」

 

「冗談じゃないっての!!勝手にアビドスで撃って、ライと大将傷つけといて‥‥‥‥許せない!!」

 

「でもゲヘナの風紀委員会は、他校の公認武力集団や、便利屋のような部活とは性質が異なります!こちらに友好的とはいえませんが、下手したら政治紛争の火種になります!」

 

「そういえば、ホシノは?」

 

『それが、サボりに行くと言って何処かに行ってしまって‥‥‥連絡がつかないんです!』

 

ホシノの実力なら誘拐されたとかはあり得ない。携帯が使えない場所にいるか、まさかとは思うが寝ているか。アビドスの危機だぞ?何してるんだ‥‥‥

 

「この状況、私たちはそうすればいいのでしょうか?」

 

「‥‥‥‥便利屋を引き渡してみる?って言っても、そんな気にはなれないし、そもそも何処かに行っちゃったし…‥‥‥。」

 

先輩の不在、理解できない状況、政治的危険、大将と店。今までにない状況に動きが固まる対策委員会と先生。多分。何をしたいのかは分かる。でも、それでいいのか、踏み出す勇気がないのだろう。そんな中、シロコが意を決して発言する。

 

「他に選択肢はない、風紀委員会を阻止する。」

 

「シロコちゃん…‥‥?!」

 

「オレも同意見だ。武器もない、戦う意思もない人が一方的に殺されかけた。そんでもって、あの銀髪ツインテール‥‥‥イオリはまともに話す気もない。そう奴を、オレは断じて許さない。」

 

『…‥‥‥そうですね。風紀委員会が私たちの自治区ですでに戦術的行動を行ったということは、政治的問題が生じるということ。しかし!だからといって、他の学園の組織が私たちの許可もなく、こんな暴挙を刊行していいという意味も、大将を店ごと吹き飛ばしていいという意味も理由もありません!』

 

「そうよ!便利屋狙いだかなんだか知らないけど、紫関ラーメンを壊した弁償と、ライと大将の慰謝料を払ってもらわないと!!」

 

「いや、オレはほっとけば治るから‥‥‥‥‥」

 

「ダメ。この後大将と一緒に病院に連れていく。」

 

「いや、だから‥‥‥‥」

 

「ライは援護ね?怪我してるし。」

 

「いや、前に出ます。ホシノいないし、敵が多いし‥‥‥‥何より、イオリの相手、オレしか出来なさそうですし。」

 

「‥‥‥‥分かったよ。でも、この後大将と病院連れてくからね?」

 

「…‥‥‥はぁ。」

 

「ライ、病院苦手?」

 

「‥‥‥‥うん。ちょっと、嫌な思い出があって…‥‥」

 

 

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「アビドスの生徒達とライさん、臨戦態勢に突入しました。」

 

「はあ、面倒だな、たかが5人で。こっちは一個中隊の兵力なのに。だけど、売られた喧嘩をかわないなんてことは、風紀委員会としてできない。総員、戦闘準備!」

 

「‥‥‥‥ちょ、ちょっと待ってください。イオリ。」

 

「ん?」

 

「シャーレの先生も、ライさんもいるんですよ!?この戦闘、行ってはいけません!」

 

「なんで?シャーレってそもそも何?」

 

 

「アビドス、こっちに接近中。発砲します!」

 

風紀委員の一人が報告、そのまま応戦を開始してしまう。

 

「ちっ、仕方ない。行くぞ!」

 

「あっ…‥‥イオリ!!」

 

チナツの静止虚しく、ライフルを構えて突撃してしまうイオリ。他の委員も応戦し始めているこの状況では、一年かつ医療スタッフである彼女には、もう止めることは出来ない。負傷した委員を治療しつつ、援護するしかない。

 

「先生、ライさん。もう怪我しないでくださいよ…‥‥!」

 

 

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___

 

「‥‥‥‥奴らの包囲網を突破できたみたい。」

 

ライがイオリと言い合っている隙に大将をシェルターに運び、応急手当てした後、こっそりと包囲網を抜けてきた便利屋68。物陰からはアビドスの生徒達と共に風紀委員会に戦いを挑む青年の姿が見える。

 

「どうするアルちゃん?このまま逃げちゃう?」

 

「‥‥‥‥‥。」

 

「社長?」

 

「…‥‥‥彼、あんな風に怒るのね。」

 

「あ、アル様…‥‥?」

 

「ラーメン屋が吹っ飛んだのは、そもそも私達がいたからなのに、責めもしないで、逃げていいって…‥‥‥それで、怒ってるのは他人の為なのよ‥‥‥‥。なのに私は‥‥‥情けないわ‥‥!!」

 

「‥‥‥‥‥あ、あの、アル様。」

 

「‥‥‥‥ハルカ?」

 

「私は、アル様に従います。」

 

「…‥‥私も、社長に従うだけ。」

 

「で、でも‥‥‥」

 

「彼も言ってたでしょ?やってもいい。駄目だったら仕切り直せばいい。社長がやりたいことを」やって。」

 

「…‥‥‥‥みんな、戦闘準備よ。」

 

「…‥‥‥!!」

 

「借りを返すわよ!」

 

「ふふふっ!アルちゃんカッコいいじゃん」

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