知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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次の投稿は明日中か、明後日の午前になります。


ゲヘナの風紀委員会(part2)

「撃て、撃て!立って撃て!!」

 

「当たらない、どうして!?」

 

「もっと火力を集中しろ!!」

 

「バカっ!敵は黒コートだけじゃないんだぞ!!連携を‥‥‥!」

 

 

一個中隊に相当する兵力でシャーレを加えたアビドスと戦うゲヘナ風紀委員会。数はもちろん圧倒的な差があり、舐められているとはいえ、日々”問題児”達と死闘を繰り広げている自分の実力に至らなさは感じていても自信がないわけではなく、現にその連携や実力は決っして低くはない。実質的に敵はたった5人。このまま押し切れるだろうと思っていたものが大半だったが、実際は全く異なっていた。

 

たった5人の敵はすべて健在。疲弊しているどころか、次々と倒されていく風紀委員(仲間達)に、焦りや恐怖が沸き上がる。

 

 

「ああもう‥‥‥!!歩兵前進!!もっと突っ込め!!」

 

想像もしていなかった状況にイオリは苛立っていた。聞いたこともない学校それもわずか数人しかいない相手に対して、一個中隊の兵力をもってしても一人も削ることが出来ていない。風紀委員たちの実力、アビドスの意外な実力、シャーレの先生と言う大人。いくらでも要因は上げられるが、それ以上にイオリの苛立ちに拍車をかけていたのは、あの真道ライとかいう男だ。

 

公務の執行の為にわざわざ来たのに、出しゃばって来た挙句、ヘイローもない癖に最前線で暴れまわっている。おかげで便利屋を見失ったし、仲間達が次々と倒されている。

 

本当に腹立たしい。面倒くさい。怒りが頂点に達したイオリはライフルを構えて最前線まで走り出す。まずあの男を無力化する。ヘイローが無いのだ。一発ストックで殴れば気を失うだろう。そう思い、死屍累々となった(死んでません)仲間達を跳び越えるように突撃しながら、先程とは打って変わって、こちらが少数、相手が多数の戦いに身を投じる。

 

まず一発。ツインテールの頭と腹を狙撃しのけぞらせる。それを見て援護に入ったミニガン持ちの弾幕を軽々とパルクールのように避けながら接近し射撃。ミニガンを盾のように構えられて防がれるも、それはフェイント。勢いを乗せた本命の蹴りでミニガンごと吹っ飛ばす。体制を崩している間に追撃しようとするが、先生の隣にいた眼鏡が拳銃で妨害しようと連射してくる。後方支援担当で戦闘員からなのか、イオリにとってはその程度大した音もない。相手が全弾撃ち切るのをまたずして、間合いを詰めて巻き上げるような回し蹴りで拳銃を弾き飛ばす。動揺している間にライフルの銃口をこめかみに突き付ける。

 

 

(…‥‥悪くはないけど、私の敵じゃない。このまま倒しちゃって命令通り‥‥‥‥‥)

 

そう思った時、銃を握る腕と頭に数発の被弾を受け、咄嗟にその場を飛び退く。仲間が近くにいるのにも関わらず、正確な射撃での援護。しかも、だいぶ減ったとはいえ、風紀委員による包囲は続いている。大よそ、銀髪の奴かと思っとのだが‥‥‥‥こちらに銃を向けて突っ込んできたのは、黒いコートの青年。

 

 

「シロコ、カバー!‥‥‥‥お前の相手は、こっちだ。」

 

武器を狙って数発撃ってくるがそれを回避。相手の足は遅くないが、特別速いわけでもない。

この距離なら足か肩に当てて無力化できる。お互いに銃を向けて横並びで銃を向けあって疾走する最中、イオリが全弾発射する。しかし、その弾は避けられ、弾をぶつけられ、銃身をずらされて一発も被弾しない。このまま距離を取っていると当たらない。そう考えているに、彼は懐に潜り込んでいた。咄嗟に銃を持ち換えて数歩下がりながらスパイクの着いたストックで真横から殴りかかるが、彼は姿勢を低くして潜るようにそれを避ける。今度は顎を狙った蹴りを放つが、今度は体を捻って宙で体を反転させながら跳び越えつつ、至近距離で胴体に撃ちこんでくる。痛みと衝撃で体が崩れ落ちそうになるがどうにか堪えて数歩のステップを踏んで距離を取りつつ再装填を行う。

相手のリボルバーは既に弾切れ。回転弾倉が跳ね上がった瞬間を見逃さずに狙撃。

 

「舐めるなよ、規則違反者!!」

 

引き金が引かれ、ライフル弾が彼目掛けて発射される。頭や胸ではなく、狙いは右腕。当たっても死にはしないだろうし、銃を取り落して戦えなくなるはず。イオリはこの男相手の勝利を確信していた。しかし、弾は彼の腕ではなく、二人の間の空中でその勢いを止める。

 

「…‥‥‥え?」

 

再装填に入っていたはずの銃がこちらに向けて構えられている。ありえない。ありえない。隙をついて撃ったはずのライフル弾が着弾する前にリボルバーの再装填を終え、照準し、正確に弾を撃った‥‥‥‥?

 

 

「…‥‥‥遅いよ。」

 

瞬間、5発の弾丸が放たれる。ライフル(クラックショット)が手から弾き出され、肩や腹、脛に重い衝撃が加わる。

 

「そんな…‥‥どうして‥‥‥」

 

無意識に自分の口から零れるそんな情けない声。彼はそんなものは知らないとばかりに再び再装填を終え、こちらに銃を向けながら近づいて来る。

 

走って銃を取りに行く?このままとびかかって格闘で制圧する?援護を求める?色んな事を考えてみるも、あの圧倒的な早撃ちと体捌きを前にして、それが出来るとは思わなかった。というか、意識が持たない。これまで、罠や作戦で攪乱されたり不意を突かれたことは恥ずかしながらたくさんあったが、ここまで自分の実力不足を痛感することはなかった。

 

罠も、嘘も、巧みな言葉も使わず、純粋な力量で負けた。それは、風紀委員会の切り込み隊長として、この上ない屈辱だった。キヴォトスでも屈指の強者と言われる風紀委員長も圧倒的な実力を持っているが、それとはまた違うものを彼は持っていたのである。

 

銃の照準、発砲、装填、状況判断、立ち回り。基本的な技術が一線を画すほどに洗練されている。ヘイローの有無による単純な身体能力や防御力は自分の方が上回っていた。つまり、自分にも勝ちの目は十分にあったのである。

 

それでも負けてしまった。完敗だ。

 

 

________

 

______

 

____

 

 

「みんな、状況は?」

 

風紀委員会をあらかた制圧することに成功した対策委員会とシャーレ。周囲を警戒しながら先生を中心に集まるみんなに確認を取る。イオリってやつ意外と強かったからな。オレ以外なぎ倒されるかと心配したよ…‥‥。

 

「ん、風紀委員は大体片付けた。こっちは負傷者1名。」

 

「そっか。今回は流石に数の差が凄かったからな。イオリも強かったし。」

 

「多分、怪我したのはライさんだけですね。」

 

「だから痛いだけだって…‥‥‥」

 

「血がついてるのによく言うわね‥‥‥。」

 

「それより、先生。あっちとお話しした方が良いと思うんですよ。ほら、チナツいるし。」

 

「‥‥‥‥そうだね。この話は後にしよう。」

 

みんな心配性だな‥‥‥‥。

 

気まずそうな面持ちで近づいて来るチナツと、フラフラと歩いて来るイオリ。代表としてアヤネが近づくが、万が一に備えてに手を掛ける。

 

「先生がそこにいらっしゃる事を知った瞬間…‥‥いや、ライさんがいる時点で勝ち目がないと判断して後退すべきでした。…‥‥私たちの失策です。」

 

そう反省するように自分たちの落ち度に苦い表情になる。

 

「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします。」

 

ゲヘナ相手にこれ以上の面倒を避ける為か、かなり誠実に対応しようとしているアヤネ。しかし、それに答えるのはチナツではない。

 

 

『それは私から答えさせていただきます。』

 

 

唐突に表れた立体映像と知らない声がチナツに変わってアヤネの問いに割り込んで答える。こちらの通信に割り込んだのか?てか何だこのファッション?カウベルついてるしなんかはみ出てるんだが?それ正規品なの?とても治安維持組織の制服には見えないが‥‥‥どちらかと言うと捕まるがわの痴女…‥‥‥‥うわ、増援きてるのかよ。マンモス校って言ったって、便利屋に差し向けるにしては多くないか?

 

 

「アコちゃん…‥‥‥‥」

 

「アコ行政官‥‥‥‥?」

 

『こんにちは、アビドスの皆様、そしてシャーレのお二方。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。』

 

どうやらこの痴女はアコというらしい。別物ではあるのだろうが、リン行政官と肩書被ってるな‥‥…呼び方変えとこう。

 

「今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「アコちゃん‥‥‥‥その…‥‥‥」

 

『イオリ。反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存じですよね?』

 

「…‥‥‥。」

 

 

「行政官という事は‥‥‥風紀委員会のナンバー2。」

 

『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員会を補佐する秘書みたいなものでして…‥‥』

 

「本当にそうなら、そこの風紀委員たちがそんなに緊張するとは思えない。」

 

『なるほど、素晴らしい洞察力です。確か・‥‥‥砂狼シロコさん、でしたか?』

 

「…‥‥‥‥。」

 

『アビドスには生徒会の面々だけが残っていると聞きましたが、みなさんのことのようですね。5人いると聞きましたが‥‥‥あと一人はどちらに?』

 

「今はおりません。そして私たちは生徒会ではなく対策委員会です、行政官。」

 

『奥空さん‥‥‥でしたよね?それでは、生徒会の方はいらっしゃらないという事でしょうか?私は、生徒会の方と話がしたいのですが。』

 

「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上私達が生徒会の代理みたいなものだから、言いたいことがあるなら私らに言いなさい!」

 

「こんなに包囲して銃を向けられたまま”お話をしましょうか~”なんていうのは、お話の態度としてはどうかと思いますけどね?」

 

みんなキレてるよなー、そりゃあそうか。オレもとっくにキレてるけど。

 

『ふふ、それもそうですね…‥‥失礼しました。全員、武器を降ろしてください。』

 

立体映像のアコがそう言って片手を上げると、ほぼ同時に風紀委員たちの銃口が下げられる。

 

「本当に武器を下ろした…‥‥?」

 

『先程までの愚行は、私の方から謝罪させていただきます。』

 

「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」

 

『命令に、”まずは無差別に攻撃せよ”なんて言葉が含まれていましたか?』

 

「い、いや‥‥‥状況を鑑みて必要な範囲での火力支援、その後に歩兵の投入‥‥‥戦術の基本通りにって‥‥‥‥」

 

『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』

 

‥‥‥‥自治区の付近、ねえ…‥‥。まさか、ここはアビドスの土地じゃない?でも、そんな話は‥‥‥

 

『失礼しました、対策委員会のみなさん。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまでも、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし‥‥やむを得なかったという事でご理解いただけますと幸いです。風紀委員会としての活動にご協力をお願いできませんか?』

 

‥‥‥‥言い切れないのにこんだけの人員引っ張り出してきて、協力、ねえ…‥‥

 

「先ほども言いましたが、納得できません!他の学校が別の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為をするなんて!自治権の観点からして、明確な違反です!」

 

『あら?‥‥‥先生は、どういうお考えでしょうか?』

 

「私は‥‥‥あの便利屋の子たちが悪者には思えない。それに、今の所アビドスはとばっちりを受けてしまっている。だから、庇う訳じゃないけど、ここは一旦引いて欲しい。」

 

『‥‥‥‥‥成程。でしたら、真道ライさん。貴方はどうですか?』

 

「‥‥‥‥いくつか質問してもいい?」

 

『‥‥‥‥?どうぞ。』

 

「便利屋はたった4人。先生とオレがいたとはいえ、対策委員会で撃退できるのに、いつも相手してそうな風紀委員会がこれだけ揃えないと捕まえられないっていうのが信じられない。現に、そこのイオリに、彼女たちは圧倒されていた。それに、」

 

『それに?』

 

「…‥‥‥狙いは便利屋なんだろ?なら、何でオレ達を包囲してるんだ?逃げられちゃ困る理由があるのか?」

 

『それは、直前まであなた方と戦闘していたので念の為に警戒しているのであって‥‥‥』

 

「‥‥‥‥なら、便利屋は任せるからオレ達は帰るよ?」

 

『‥‥‥‥はい?』

 

「ライさん!?」

 

「別に困らないよな?君らは()()()()の便利屋を追える。アビドスは厄介者の撃退に手間取ることがなくなる。winwinだろ?ならオレ達はアンタらの()()の邪魔だ。さっさと任せてどいておくよ。」

 

『…‥‥‥‥‥。』

 

「困るのか?何で?ああ、もしかして‥‥‥‥‥今回は便利屋以外がお目当てだから?」

 

「‥‥‥どういう事?」

 

『…‥‥面白い事を言いますね。でも見当はずれです。これは偶然なんですから。そんなに協力するのが嫌だとというのなら…‥‥仕方ありません。‥‥‥‥‥ヤるしかなさそうですね?』

 

本性出たな‥‥‥‥‥さてと、どうしようかなぁ‥‥‥‥全員守りながら戦うの、一丁だと難しいな…‥‥‥

 

『では。全員、攻撃用___』

 

アコの指示でオレ達を囲んでいた風紀委員たちが銃を構えたその時、銃声が響いた。撃ったのは風紀委員会でもアビドスでもない。だとすると、まさか…‥‥‥

 

「行政官、大変です!!」

 

『‥‥‥‥なんですか?』

 

「便利屋が包囲網を突破!!奇襲しています!!」

 

‥‥‥‥え?逃げてなかったの?

 

 

________

 

______

 

____

 

「許せない‥‥!」

 

ショットガンを撃ちまくりながら突っ込むハルカに続いて、ムツキがマシンガンでまとめて風紀委員たちを薙ぎ払う様に連射していく。

 

「許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!うああああああああああああああっ!!!!」

 

狂ったようにさけびながら散弾を放ち、蹴り上げ、ストックでぶん殴っていくハルカ。弾が当たろうが組み付いてこようがお構いなしに暴れまくるその様はまさにバーサーカー。

 

「くふふ~!えーい!!!」

 

楽しそうに鞄の中から纏めて爆弾を投げるムツキ。固まっていた委員たちをまとめて吹き飛ばし、逃げたり回避するところに銃弾が容赦なく突き刺さる。

 

何が起こっているのか分からずに固まっている対策委員会と先生の近くに二人の少女が近づく。しかし、敵ではない。味方だ。それに気づいたライがわざとらしく笑いながら話しかけてくる。

 

 

「あのまま逃げた方が良かったんじゃないか?」

 

「‥‥‥‥だってさ。社長、どうする?まだ間に合うかもよ。」

 

「‥‥‥ふふっ。こんな所で背を向けて逃げるなんて三流みたいな真似、するわけないでしょ?

 

 

 

 

 

 

‥‥‥‥‥‥借りを返しに来たわよ、ライ。」

 

「ははっ、今のはカッコ良かったよ。社長。」

 

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