知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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あけましておめでとうございます。
思った以上に立て込んでしまったので更新がかなり遅れておりますが、失踪なんてしないからな。


砂漠の翳り(1)

「はあ‥‥‥‥。」

 

アビドス自治区にある便利屋68の事務所。アルが死んだ目でため息を吐いている傍ら、他の社員たちはテキパキと荷物の整理を行い、ごみ袋や段ボール箱に次々とモノを詰め込んでいた。なぜ、こんなことをしているのか?それは今日限りで、便利屋68が退去するからである。今は全員で引っ越し準備をしている。…‥‥まあ、次の事務所はまだ見つかっていないのだが。

 

「アルちゃ~ん、さっきからため息ばっかりだよ、テキパキ荷物運ぼう?」

 

「はあぁ…‥‥‥」

 

ムツキがアルにも手伝ってほしいと何気なく言うが、アルは心ここにあらずと言った様子。

 

「え、えっと、これはどこに運べばいいでしょうか?」

 

ハルカが持っているのは、”一日一惡と”中々の達筆で書かれた書が収められた和額。

 

「ん?これ‥‥‥ああ、アルちゃんが天賦の才を発揮した書道の残骸じゃん、あっちの燃えるゴミでいいよ。」

 

「捨てないでよ!!持っていくに決まってるじゃない!」

 

幼馴染のムツキが割と前から知っているであろうその作品をかなり雑かつあんまりな言い方で処分しようとしたのを見て、アルは慌てながらも咄嗟にハルカからその和額を取り返す。

 

「でもこれ、書道の宿題でかいたやつでしょ~?ほんとに要る?それにこれ、”一日一惡”って何?どういう意味?」

 

「き、きっと10年後には10億円ぐらいの価値が‥‥‥‥‥はあ。」

 

ムツキの心底分からないと言った様子の言葉に何か言い返そうとするも、アルは再び活力を失ってため息をつく。

 

「打っても響かないし、元気ないねぇアルちゃん…‥‥‥。」

 

「社長、どうしたの?」

 

「アルちゃん、事務所を引っ越すのがイヤみたい。でも風紀委員会に場所を知られちゃったし、任務も失敗でクライアントからも狙われるだろうし、仕方ないでしょー?そういえばアビドスとの戦いも、中途半端な感じで終わっちゃったね。」

 

「し、仕方ないでしょ!一緒に背中を合わせて戦った人たちを今になって狙うなんて‥‥‥‥できるわけないじゃない!」

 

「…‥‥‥はあ。あの鞄のお金も、残り全部あのラーメン屋の修理代として置いてきたし。本当にこの社長は…‥‥」

 

「う、うるさい、うるさい、うるさい!だ、だって、ハードボイルドなアウトローは…‥‥私は…‥‥」

 

(ピーンポーン。)

 

「‥‥‥‥あれ?お客さん?それとも依頼かな?」

 

「!!!…‥依頼なら、次の事務所を借りられるお金が手に入るかも!!」

 

「‥‥‥あれ?これって…‥‥‥」

 

「…‥‥‥まさか、」

 

「ようこそ!お金を貰えるならどんな依頼でも解決する便利屋68で___」

 

「やあ、アル。」

 

「…‥‥‥へ?」

 

「話したいことがあるんだ。今から時間貰えるかな?」

 

「な、なななっ‥‥‥なんですってぇ!!??

 

 

 

__________

 

_______

 

____

 

「…‥‥って事なんだ。」

 

事務所の中に入れてもらうとゴミ袋や段ボール箱が山になっていたのでどういう事か聞くと、カヨコさんが一通り説明してくれた。

 

「…‥‥…成程、なんか邪魔しちゃったね。ごめん。」

 

「いいのいいの。アルちゃんも手が止まってたし、どうせ直ぐ終わるしね。」

 

「そっか。」

 

「それで、話って何かしら?」

 

「ああ‥‥‥‥先日は色々話す前にあんな事になっちゃたから。改めて話す機会が欲しくてきた。」

 

「確かに。結局アルちゃんのお悩み相談しかしてなかったもんね。」

 

「‥‥‥‥それで、何について話すの?やっぱり依頼?」

 

「ああ。‥‥‥‥思っていた以上に、アビドスの事情は大事みたいでさ。」

 

「…‥‥?どういう事?」

 

 

カイザーや集金についての話をした。

 

 

「…‥‥そうなると、私達のクライアントもカイザーの重役の可能性が高い。ここら辺で引いておくのがよさそうだね。」

 

「本当にあくどいわね‥‥‥私達には一円も貸さないどころか、会社をバカにしてきて‥‥‥‥‥」

 

「社長、あれは仕方ない。否定しようがないよ。」

 

「や、やっぱり潰すべきなのでしょうか?潰しましょうか?潰しちゃっていいんですか?」

 

「ダメよ!?相手が悪すぎるわ!!」

 

「まあ、アルの言う通りなんだ。相手が悪すぎる。いくらシャーレに権限があるとはいっても限度はあるし、借金はアビドスの問題ではあるから。君らに依頼した依頼主‥‥‥カイザーの調査もしなくていい。」

 

元々便利屋68は部外者だ。下手に関わらせると不味いし、何らかの報復がある可能性もある。無理強いは出来ない。

 

「‥‥‥‥一つ気になることがある。‥‥‥‥‥アコが言っていた事なんだけど‥‥‥」

 

「あの思い込みの激しい独断行動の事?」

 

「‥‥‥‥ここは他校の…‥‥()()()()()()()()()()()()()。あそこがアビドスじゃないみたいに言っていた。」

 

「‥‥‥‥どういう事?だって、あのラーメン屋さんって対策委員会の子たちのお気に入りなんでしょ?前も地元のお店的な感じで言ってた時がするんだけど…‥‥」

 

対策委員会は、あの一帯をアビドス自治区だと認識していた。しかし、思い返せばゲヘナは明らかにアビドスの土地として認識していなかったかのように思える。

 

「…‥‥‥今のアビドス自治区は、アビドスじゃない誰かの土地になっているって事か?」

 

もしかしたら。もしかしてら、アビドス自治区はとっくの昔に無くなっているのかもしれない。カイザーがヘルメット団や便利屋を使って校舎を奪おうとしていたのは、そこが最後のアビドス自治区だから。どんな目的があるかは分からないが、カイザーが欲しいのは金ではなく、アビドスそのもの。

 

「‥‥‥少なくとも、私はそう思う。アビドスにも自治区に関する記録が残っているのならそこからたどれるかもしれない。」

 

「‥‥‥対策委員会に伝えておく。ありがとう、カヨコ。」

 

「今のところは、私の推測だからね。」

 

「…‥‥‥それはそうとさー、ライ君が私達にした依頼、もう解決しちゃったんじゃない?」

 

最初の依頼は、アビドス襲撃の依頼主を調べてほしい。追加依頼が、集金などの記録を調べてほしい、だったか。

 

「いや、依頼主に関してはまだ確定ってわけじゃない。殆ど分かったようなものだけどね。」

 

「…‥‥‥そこら辺は、アビドスで調べることになるだろうから…‥‥達成でいいかなー。」

 

「で、でも、殆どあなたたちで解決しちゃってるじゃない!それって、私達が達成したっていえるの!?」

 

「…‥‥‥これで終わりってわけじゃない。彼女らがアビドスを守る為には、カイザーと間違いなくぶつかることになる。正直、アビドスだけじゃどうにもならないだろうから、いざって時に当てにさせてくれないかな?」

 

「…‥‥へ?わ、私達を当てにするって…‥‥また依頼してくれるの?」

 

「もちろん。腕は悪くないし、信用できるから。」

 

「ふ、ふふふっ!あははっ!!そうでしょう!私はハードボイルドなアウトローなんだから、当然でしょう!いつでも任せなさい!」

 

「社長、また調子に乗って‥‥‥」

 

「でも、いいいんじゃない?一緒にいて楽しいし!」

 

「そうだね。‥‥‥まったく、手がかかる社長だ。」

 

「わ、私もそう思います!アル様!わ、私、アル様がいなかったらきっと今こうして生きていないはずなので‥‥‥‥。」

 

「ははっ、愛されてるな、社長。」

 

‥‥‥ははっ。愛されてるな、社長さん(アル)

 

「‥‥‥‥折角だし、手伝うよ。外のトラックに積むのはどれ?」

 

「ありがと。それじゃあ、お言葉に甘えて封をしてあるダンボールをお願いしてもいい?」

 

「了解。‥‥‥よいしょ‥‥‥イテテ‥‥‥‥」

 

「そういえばあなた、怪我してたわよね?大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。大したことなかったし。」

 

「…‥‥‥無理しないでね?」

 

「分かってる、大丈夫だから。」

 

 

_________

 

______

 

___

 

「‥‥‥‥‥これで全部です。積み終わりました!」

 

トラックに積み込まれた様々な荷物。お金もないので殆どは売ってしまうらしい。何で金ないんだ?最近一億円ひろったはずでは?

 

「‥‥‥‥そういえば、覆面水着団が置いていった一億円なんだけどさー」

 

「‥‥‥‥なんでオレの方を見る?」

 

「くふふっ!バレバレだったね?」

 

あ、ああ…‥‥‥やっぱりバレてたかぁ…‥‥‥ムツキがこう言ってるってことは、みんな知ってそうだな‥‥‥はあ。

 

「‥‥‥‥‥で、その一億円がなんだって?てか、対策委員会はあの金を使う気は無い___」

 

「アレ、全部社長が寄付しちゃったんだよ。」

 

「へ!?何処に!?」

 

「な、何の事かしら…‥‥…」

 

「ラーメン屋の大将に。私達のせいでとばっちりを食らったようなものだからってさ。」

 

「…‥‥いや、ありがたいだろうけどさ…‥‥‥金要るのは君らも一緒…‥‥」

 

「べ、別にいいじゃない!!だって‥‥‥‥‥‥本当に、美味しかったから。」

 

「‥‥‥‥分かった。大将にはそれとなく伝えておく。」

 

「じゃあ、何処に行く?」

 

「うーん、いっそゲヘナに戻る?」

 

便利屋が次の行き先、というより事務所を構えるところを考え始めた時、

 

「みんな、気を付けてね。」

 

 

「…‥‥え?」

 

「シャーレの…‥‥!」

 

「あ、先生だ!来てくれたんだ!」

 

「うん。問題児を連れ戻すついでに、ね?」

 

「…‥‥‥‥‥‥まさか。」

 

「…‥‥‥おはよう、ライ。」

 

「お、おはようございます‥‥‥‥」

 

「病院はどうしたの?大将と一緒に検査入院してたんじゃないの?」

 

「あなたやっぱり怪我してたのね‥‥‥」

 

「‥‥‥‥医者からの説明されて、大したことなさそうだったんで、退院しました‥‥‥‥」

 

「勝手に帰っただけでしょ?セリカとアヤネが心配してたよ?」

 

あ、やっべ。連絡すんの忘れてた…‥‥‥先生、笑ってんのに怖い、怖いよ。

 

「‥‥‥‥ライ、ヘイロー無いんだから気を付けてね?」

 

「…‥‥‥はい、大変申し訳ございません。」

 

「まあ、それはそれとして‥‥‥‥便利屋のみんなはどこかいっちゃうの?」

 

「ま、また別の依頼を求めてちょっと移動するだけよ!」

 

「そっか、また会おうね。アルも、みんなも。」

 

「‥‥‥‥‥ふふっ、うふふふっ!もちろんよ!先生、あなたとは事業のパートナーとして協業するのも悪くなさそうだし。ただ今は忙しくてバタバタしてるから、また今度ね、今度。」

 

「まあアビドスには二度とこないってわけでもないし、良いところだったからね。…‥‥そのうち依頼もありそうだし。」

 

「…‥‥そうだね。」

 

「はい、本当に。」

 

「も、もちろんまた来るわ、ラーメンと依頼でね!!」

 

「‥‥‥‥ああ、そうだ。ラーメンで思い出したんだけど、大将の店の前に変な鞄が置いてあったんだって。何か知ってる?」

 

「さ、さあー。な、何のことかしらねえ…‥‥?」

 

「そっか。じゃあ、あったらお礼をしなくちゃね。」

 

「え、ええ‥‥‥‥‥じゃあ、そろそろ行くわ。またね、先生、ライ。」

 

そして、便利屋68の荷物を積んだトラックは、路地の向こうへと消えてしまった。

 

「‥‥‥‥先生。至急、対策委員会と話したいことがあります。今からいいですかね?」

 

「…‥‥いいよ。私もあるしね。」

 

「んじゃあ、行きましょう。」

 

「‥‥‥その前に、セリカ達に連絡入れてね?」

 

「あ、はい。」

 

セリカに電話したら、滅茶苦茶怒られた。アヤネも同様。そんなに重症じゃなかったんだけどな…‥‥‥。

 

__________

 

_______

 

____

 

先生とアビドス高校に向かうと、正門前で箒をもっているノノミがいた。

 

「あれ、先生と…‥ライさん!?入院されていたのでは…‥‥‥?」

 

「大したことなかったから退院してきた。ノノミは掃除?」

 

「はい。私もなんだか、じっとしていられなくて…‥‥‥それで、大将は大丈夫でしたか‥‥‥?」

 

「‥‥‥‥身体の方は何とか、大丈夫みたい。」

 

「…‥‥そうでしたか。それは良かったです☆この目でご無事を確認したい気持ちもありましたが、大勢で押しかけるわけにもいきませんからね‥‥‥‥。落ち着いたら、シロコちゃんと一緒に伺うとしましょう。しかし、身体の方、という事は‥‥‥‥」

 

「他に、色々あるみたい。集まったら話し合おう。」

 

「分かりました。」

 

「ノノミ、他の皆は…‥‥」

 

「ん、私はここ。」

 

ロードバイクと共にシロコが颯爽と現れる。

 

「やあシロコ。調子どうだ?」

 

「悪くない。そっちは?」

 

「オレも悪くはないかな。ってことは、あとはホシノとセリカ達か。」

 

「ホシノ先輩は、校舎のどこかの教室でお昼寝の最中かと‥‥‥‥セリカちゃん達はもう少しで来ると先程連絡がありました。」

 

「‥‥‥そっか。先生、大将の容体は?」

 

「身体の方は無事だったよ。ただ、それとは別に色々とあるそうでして。」

 

「…‥‥うん、分かった。じゃあ、先にはいってるね。」

 

そう言ってロードバイクを押しながら校舎に向かうシロコ。しかし、なにか様子がおかしい。ああいうのは、放っておくと後々で不味い事になりやすい。

 

「‥‥‥‥少し、様子を見に行くか。」

 

問題が無さそうなら黙って去ればいいんんだし。先生とノノミを残してシロコを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

「…‥…れ?‥‥‥コちゃーん。‥‥‥‥の?」

 

「…‥‥輩。…‥‥か…‥‥るよね?」

 

 

かすかに話し声が聞こえる。シロコと…‥‥ホシノか?ここまで来ておいてなんだが、女子の秘密の相談とかだったらどうしよう?いや、しかしだ。あんな感じで相談とか‥‥‥‥‥‥するかもしれない。

 

「…‥‥‥様子見だけ。」

 

二人がいるであろう教室をチラッと覗くと‥‥‥

 

「…‥‥!?待てシロコ!?」

 

「…‥‥ライ!?」

 

「‥‥‥!!」

 

シロコが穏やかとは言えない表情でホシノに掴みかかろうとしていた。咄嗟にシロコに呼びかけつつ、瞬時に二人の近くに移動する。

 

左手でホシノが倒れない様に支えつつ、右手でシロコの手を軽く抑える。

 

「どうした、何があった?」

 

普段の様子からも分かるように、シロコはホシノを尊敬しているし、基本的に言うことは素直に聞いている。確かに慕っているのだ。だというのに、二人きりの教室で掴みかかるとは、只事とは思えない。

 

「…‥…ライ、どいて。ホシノ先輩は嘘をついている。」

 

「嘘?先輩に掴みかかるってどんだけの…‥‥」

 

「…‥‥ゲヘナの風紀委員会が来た時、先輩が何をしていたのか。」

 

「‥‥‥‥!!」

 

「絶対に昼寝何かじゃない。他にも、何か…‥‥」

 

「…‥‥一旦落ち着け、いいな?」

 

「‥‥‥‥‥。」

 

不服そうにしながらも、シロコはホシノから数歩退く。それを確認してから、今度はオレがホシノに向き合う形になる。

 

‥‥‥‥‥へらへらと笑ってはいるが、やっぱり眼が笑ってない。でも、先生やオレを見ていた時とは少し違う。

 

「…‥‥‥本当に、嘘ついてるみたいだな、ホシノ。」

 

「えー、二人して疑うの~?おじさん悲しいなぁ。」

 

「‥‥‥‥何処に、」

 

「?」

 

「どこに行くつもりなんだ?ホシノ。」

 

「…‥‥‥‥!!」

 

全部諦めて、全部抱えて、どっか行っちゃいそうな顔してるぞ?お前。

 

そんな悲痛っ面しやがって。

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