アビドス自治区のとある大通り。D.U.と比べれば人通りは少なく、お世辞にも活気があるという絵開けではない。
しかし、この日は違った。鳴り響く轟音。君が悪い程に統一された複数の足音、アスファルトを揺らしながら進む戦車。
_______崩れ、爆ぜる建物。
「‥‥…この自治区には
「なっ!?退去勧告だったじゃないか!?」
「事前連絡もないのに‥‥‥」
「黙れ!…‥怪我をしたくなければさっさとしろ!」
戸惑う市民に構うことなく、建物を破壊し、住民に向けて発砲し、歩みを進めるカイザーPMC。
「うわあぁぁ!?」
「に、逃げろっ!早くっ!!」
カイザーの圧倒的な力を前に逃げ惑うアビドスの住民、圧倒的な兵力の行使。
その光景を前に、理事の気分は上々だった。
「ふふふっ、ふふっふふふふっ!!‥‥…条件はクリアされた。最後の生徒会がアビドスを退学‥‥…これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!あとは我らカイザーコーポレーションが、アビドスを吸収するのみ!」
武力的にも、政治的にも懸念点だった小鳥遊ホシノは、もういない。自分の計画が完璧に達成される時が、上層部に認められより格と地位を上げる自信を思うと、理事の笑いは止まらない。
「さあ、アビドス高校を____」
「‥‥……理事!」
「…‥‥……なんだ?」
「…‥…最前衛の部隊から報告です。アビドス高校の生徒とシャーレと思われる集団から攻撃を受けているそうです。確実に戦力が削られています。それと、別方向からも正体不明の罠や狙撃などの奇襲を掛けられているそうで…‥…」
「…‥‥‥しくじった様だな。」
「…‥‥…無意味なことを。」
__________
_______
____
「な、なんだコイツ!?」
「報告にあった黒コートのガンマンだ!」
「所詮はヘイローのない生身の人間____うわぁっ!?」
「ま、またやられた!!」
「ひ、怯むな!!包囲して数で…‥‥」
「アビドスの生徒もいるんだぞ!!ここは隊列を組んで…‥‥」
「そんな生半可な戦術が通用するか!シャーレの指揮官と黒コートは要警戒対象………」
「‥‥‥‥よく分かってるね。さっすがぁ。」
「なっ!?何____」
背後に回り込んで、6人の兵士の首にほぼ同時に弾丸を撃ち込む。オレに気付いた兵士たちの攻撃を予測して、地を這うように接近しつつハチの巣になることを避ける。
宙返りで跳んでコートを翻しながらオーバーヘッドキック。自身の天地が逆になり、翻った裾で手元が隠れるのをいいことにすかさず右手のリボルバーを排莢、左手で手榴弾をノールックで転がす。
体を捻って転がりつつ着地することで頭や首へのダメージを避けつつリロード。
転がした手榴弾が兵士たちの足元で爆発し、オートマタをまとめて吹き飛ばす。
一瞬の動揺をも逃さずに、小隊長あたりの肩書であろう兵士を直感で撃つ。
「小隊長!!」
「…‥‥‥あたり___、っ!!」
反射的に左腕で顔を隠して身を屈めると、真横から小銃の弾丸がコートに被弾する。
「………くっ!!痛いんだよっ!!」
後ずさりながら真横に向けて撃つ。しかし、
「アンタらぁっ!!!」
セリカが素早いセミオート射撃で、オレを撃っていた兵士達を真横から撃ちぬく。
「‥‥…‥ライ!!大丈夫!?」
「おかげさまで。ありがとう、セリカ。」
といっても、コートを貫通していないだけだ。いくら高い防弾性を持っているとはいえ、魔法のコートと言うわけではない。少なからず衝撃はあるし、撃たれ続けると劣化して貫通するか、オレの体が耐えられずに普通に死ねる。しかし、
「‥‥‥‥そうも言ってられないよなぁ。」
なんせ数が多い。数百のオートマタに戦車。ランチャーぶっ放す奴もいるし、住民や先生、対策委員の安全が最優先。ホシノが果たしていた前衛としての役割をオレ頑張って担わなければ、先生の指揮があるとはいえ、負ける。
実包の一発一発を素早くシリンダーに押し込み、フレームをロック。コッカ―を降ろす。
次の集団に突っ込もうとした瞬間、少し離れていた先生や他の対策委員が集まってくるのを見て、足を止める。
「あ、先生。そっちの避難は?」
「大方終わりました。それに、校舎と反対方向の地区も避難が想定以上に早いです。」
「…‥‥例の助っ人さんですか?」
「多分。上手くやってるみたいで何よ_____」
「………何か来る。」
…‥‥‥新たに近づいて来るPMCのオートマタ達。その中心にいるのは、
「あれは……カイザーの理事です!」
まさか、自分も前線にいるとは…‥…もっと警戒した方がいいのでは…‥?仕方ないけど舐められてるな‥‥…ムカつく。
理事の顔が良く見える距離になると、歩みを止めて理事が前に出る。いざという時、盾になれるように先生の一歩前に出て睨みつけながら迷わず銃を向ける。
「ふむ。学校まで出向こうと思ったが、お出迎えとは感心だ。」
「そちらこそ、理事が直々にこんな所まで直接来ていただけるなんて光栄だよ。知らない現場を知りに来たというなら、なおの事ですがね。」
「これはなんの真似ですか?企業が街を攻撃するなんて……‥いくらあなたたちが土地の所有者だとしても、そんな権利はないはずです!」
「それに、学校はまだ私達アビドスのものです!進行は明確な不法行為!連邦生徒会に通報しますよ!」
「スカウトなんて、最初から嘘だったって事?…‥‥いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」
「この悪党め‥‥…ホシノ先輩を返して!」
「‥‥‥‥くくくっ、何を言っているのやら。連邦生徒会に通報だと?面白い事をいうじゃないか、今すぐにでもやってみたらどうだ?」
なんだ?この余裕は……‥?
「君たちはこの状況について、今まで何度も連邦生徒会に嘆願してきたのだろう?それで、一度でも動いてくれたことがあったか?」
「…‥‥‥…なかったはずだ。何せ連邦生徒会は今、動けないからな。連邦生徒会でなくてもいい。今までどこか他の学園が、きみたちの事を助けてくれたことはあったか?‥‥…そろそろ分かっただろう?
誰一人、君たちに手を差し伸べる者はいない。」
「…‥‥‥‥…。」
沈黙する対策委員たち。ホシノが他校からのコントロールを避けたかったこともあるが、シャーレが要請に応じるまで、アビドスを助ける人は誰もいなかった。それが事実だと、よく分かっているから。
それが大人や余所者への不信感となり、拒絶しようとしたセリカはぐっと唇をかみしめている。
「アビドスの最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。君たちはもう、何物でもない。」
分かってるよ。ここに来る前に。だから攻めて来たんだろ?
「公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらないアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能と判断…‥‥仕方ないな。この自治区の主人である我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は”カイザー職業訓練学校”にでもしようか。」
「え…‥…?な、何を言ってるの…‥…!?生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある!!私たちがまだいるのに、そんな言い分けが通じるはずないでしょ!」
「それは…‥‥」
「…‥‥アヤネちゃん?」
「対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない‥‥‥。」
「…‥‥…えっ!?」
「対策委員会が出来た時には、もうアビドスには生徒会が無かったから‥‥‥」
「え、えっ…‥‥!?」
「そうだ。所詮非公認の委員会、正式な書類の認証も下りていない。つまり、君達の存在を示すものは何もない。」
残酷なまでの、存在否定。しかし、それは現実だ。
「だが喜べ。アビドス高等学校が無くなれば、君達はあの借金地獄からは解放されるのだからな。」
「そんな、そんなことになったら、今までの私たちの努力が…‥。」
「‥‥…ほう、まさか本気だったのか?本気で何百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?これは驚きだ。てっきり、最後に諦める時”でも頑張ったから”と自分を慰める言い訳をする為に、ほどほどに頑張っているのだとばかりに思っていたが……」
「…‥‥っ!!」
「いったい君たちは、どうしてあんなに努力していたんだ?何の為に?」
「あんた、それ以上言ったら…‥…」
「撃つよ。」
心無い理事の言葉に怒りを滾らせる。しかし、アヤネだけは様子が違った。
「‥‥‥‥‥今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?」
「アヤネちゃん!?」
「今も、すごい兵力がこちらに向かって来ています…‥。たとえ、戦って勝てたとしても……その後はどうすれば…‥‥。」
力なく、苦しいそうに言葉を紡ぐアヤネ。その姿に、覇気はない。
「学校がなくなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにか取り戻せたとしても、私たちにはまだ、大きな借金がのこったまま…‥…」
「…‥‥アヤネちゃん。」
「アヤネ…‥‥。」
「取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩もいない、生徒会もない、こんな状態で…‥…。私たちみたいな非公認の委員会なんかに、これ以上、一体何が……どうして、どうして私たちだけ、こんな‥‥…ホシノ先輩、私たちは、どうすれば…‥‥」
「…‥‥‥貴様はどうなんだ、真道ライ。」
「…‥‥…。」
「あれだけの啖呵を切っておいて、この有様とは…‥私は君を過大評価していたようだ。残念だよ。」
「…‥‥…。」
「そもそもだ。お前も先生も、何故アビドスに肩入れする?仕事だからか?同情したからか?それとも、年頃の女に囲まれて一緒になるのが楽しい_____」
「…‥‥…黙れ。」
流石に線を踏み越えているデリカシーも情もない発言に、自分の血が沸き立つような感覚を覚える。
「誰も助けてくれない?何も証明できない?何もできない?‥‥‥そんな事ないさ。
まだ…‥‥‥プロローグも終わってないぞ。」
(ドカアァァァン!!!)
「な、何っ!?」
「なっ!?き、北の方で大きな爆発を確認!」
「合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて______!!」
「何っ!?」
(ドカアァァァン!!!)
「東の方でも確認!合流予定だったマイク小隊も、大量のC4の爆発で…‥‥!!」
「何が起きている!?アビドスの連中もシャーレの小僧も、全員此処に…‥!!」
「…‥‥‥残念だったわね。」
爆煙の中から現れる4人の少女。いつも以上にキリっとした鋭い眼光は、まさしく、
「…‥‥‥…アビドスの助けに来たわ。依頼でね。‥‥‥待たせたわ。」
________アウトローにふさわしい。
「‥‥‥・早かったな______便利屋68。」
アル、カヨコ、ムツキ、ハルカ____泣く子も黙るアウトロー、便利屋68のお出ましだ。
「あ、あなた達は‥‥‥!!」
「もしかして、ライさんが呼んだ助っ人って‥‥‥‥‥!」
「ああ。快く引き受けてくれたぜ?」
紫関ラーメン食えなくなるよって言ったからかもしれないけど。
「‥‥‥‥‥全く、黙って話を聞いていれば、泣き言ばかり言って‥‥‥」
普段の愛すべきポンコツは見る影もなく、毅然とした様子でアヤネや対策委員会の方を見るアル。
「目には目を、歯に歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く‥‥‥‥それが、あなたたち覆面水着団のモットーじゃなかったの?」
‥‥‥‥‥‥何で覚えてんだよ、忘れてほしいんだけど。
「何をすればいいのか分からない、どうすればいいのか分からない。やることなす事、全部失敗に終わる‥‥‥ここを潜り抜けた所で、この先にも逆境と苦難しかない…‥
だから何なのよっっっ!!!!」
「え、えっ…‥?」
「仲間が危機に瀕してるんでしょう!?それなのに、くだらない事ばかり考えて、このまま全部奪われて、それで納得できるわけ!?あなたたちは、そんな情けない集団だったの!?」
「いやいや、アルちゃんその辺で勘弁してあげなよ。眼鏡っ子ちゃんは繊細なんだから、こういう時もあるって。まあ、でも‥‥‥‥私の可愛い眼鏡っ子ちゃんを泣かした罪は重いよ?だからもうこれは‥‥‥‥
ぶっ殺すしかないよねっ!!!」
アヤネを気遣う様に庇いつつも、カイザーの方を向いた途端に獰猛な表情とドスの利いた声になるムツキ。‥‥…これから怒らせない様にしよう。
「ふふっ、ふふふふふ‥‥‥‥準備はできてます、アル様。仕込んだ爆弾もまだまだたくさんありますので‥‥‥。」
「‥‥‥‥埋めておいた爆弾で、敵の増援を遮断。その間に敵の指揮官を無力化させて、指揮体系を崩壊させる。これで相手集団を一気に瓦解させる…‥本来なら、風紀委員会相手に使うはずのせんじゅつだったけど。ま、予行演習ってことにしておこうか。」
「‥‥‥‥‥流石だな。当てにしたかいがあるってもんだ。」
「ふふっ。まだまだこれからよ。‥‥‥‥腑抜けた状態の彼女たちに今から、真のアウトローの戦い方を魅せてあげるわ。…‥ハルカ。」
「はい。」
(ドカアァァァン!!)
(ドドドドドドドォォン!!)
(ドカアアアァァァァァァン!!)
アルの一声でハルカがスイッチを押すと、あちこちで様々な爆弾が爆発し、カイザーPMCを吹き飛ばしていく。
「‥‥‥‥‥ははっ。最高にカッコイイぞアル。惚れちゃうぞ?」
「ふふふっ!!当然でしょ!!さあ、依頼してきた以上は、あなたも手伝いなさいよ!!」
「え!ライ君一緒に戦うの!!面白くなってきたね♪」
「‥‥‥‥‥…アヤネ、いや……アビドス高校。」
「‥‥‥‥!!」
「‥‥‥……今やりたい事って、なんだ?」
「‥‥‥…それは…‥…。」
「オレは‥‥…理事とホシノをぶん殴る事かな。…‥じゃあ、先行くぞ。先生よろしく。」
先生を任せてアルたちと共に敵陣目掛けて突っ込む。きっとアビドスは立ち上がれる。だから、それまでのい出来る限り敵を削る。
「‥‥‥‥‥先生は?」
「アビドスに任せる。おかげさまで、どうにかなりそうだから。」
「そ、そうなると指揮は誰が…‥?」
「…‥‥‥こういう時、アウトローってどうするんだ、社長?」
「‥‥‥‥‥‥決まってるじゃない。
ド派手に行くわよ!!」
「‥‥‥‥‥‥‥はあ。」