「ZZZ‥‥‥んん…‥‥‥ああ…‥‥?」
知らない天井…‥‥ではないな。
ここは病院か?確か、カイザーPMCと戦って、理事をぶん殴って‥‥‥それで…‥‥、
「…‥‥‥‥なんだっけ?」
恐らく、極度の疲労か何かで意識を失った所を誰かが病院まで運んでくれた。そんな所だろう。
ベッドの上でゆっくりと上半身を持ち上げて身の回りや体の感覚を確認する。
ここは窓際の様だ。カーテンの隙間から綺麗な月明かりが…‥‥
「待って今何時!?」
カイザーとの戦いから少なくとも数時間以上‥‥‥‥いや、下手したら数日寝たままっていう可能性も…‥‥。
「寝てる場合じゃねえ…‥‥!」
ベッドから跳び‥‥‥下りずにゆっくりと降りてゆっくりと立つ。ここ病院だから、静かに、そしてコッソリと。
音を立てず、ライトもつけずに床頭台から荷物や服を探す。
うわぁ、コートがボドボドダ‥‥‥時間が無いから今は応急処置して‥‥‥早急に代わりを探さないと。でもリボルバーの弾は急いで買わないと。
キヴォトスでは高級品とか特殊用途じゃなければコンビニで比較的安く買えるからいいな‥‥‥‥。
スマホは‥‥‥充電されてる。運んでくれた誰かがやってくれたのだろう。日時は…‥‥良かった、数時間しか寝てなかった。。寝ている間にアビドスが終わっているという事は無さそうだ。
取り敢えず、一通りの持ち物があることは確認できたので、それらを手早く身に着ける。
「んじゃあ、真道ライ。数時間で退院させていただきまーす。」
こんな所で寝ている訳にはいかないのだ。こっそり窓から失礼…‥‥
「おや、もう起きたのですか?」
「…‥‥‥っ!?」
この丁寧で落ち着いた声に、不気味な気配は‥‥‥‥!?
ホルスターに収められているリボルバーに弾は入っていないので、ハーネスの左肩からナイフを抜きながら180度回転して構える。
「お久しぶりです、真道ライさん。私の事を、覚えていますか?」
「…‥‥…面会の時間はとっくに終わったぞ…‥‥‥黒服。」
ホシノに契約を持ちかけ、カイザー理事と組んでいるヤツがどうしてこんな所に!?
「そう身構えないでください。私はただ、お見舞いに来ただけですよ。こんな夜中に訪れてしまった事は、謝ります。まさか起きているとは思いもしなかったもので。」
「…‥‥‥‥‥‥。」
目の前のコイツからも、窓の外からも殺気や敵意は感じられない。だが、ここで刃を収める選択肢はない。
「小鳥遊ホシノの居場所を教えろ。じゃないと___」
「構いませんよ。」
「…‥‥‥‥は?」
予想外の二つ返事につい動揺が…‥‥いや、ええ?
「実は、少し前に先生を私の使っているオフィスに招いてお話をしていたのですよ。」
「なっ!?」
何やってんだあの人!?理事も恐れてるってホシノが言っていただろ!?いくらアロナが要るとは言っても、こんな得体のしれない奴と二人で話すなんて‥‥‥。
こいつ、まさか先生に何かしたんじゃ…‥‥!?
「…‥‥何か勘違いされているようですが、私は先生とお話ししただけです。今頃はアビドスについている頃かと。まあ、その際にホシノさんの居場所についてもお話ししたので、貴方に隠す必要もないという訳です。…‥‥‥‥しかし、折角の機会です。話ついでに、夜の散歩と洒落込むのはどうでしょう?」
「‥‥‥‥‥‥いいぜ。どの道、ここを出ることには変わりない。でも、妙な真似をしたら…‥‥」
「承知しています。‥‥‥‥では、行きましょうか。」
____________
________
_____
そんなこんなで始まってしまった、不気味な男?と二人きりの夜間散歩。昼間の事もあるのだろうが、人通りは全くなく、不気味なくらいな静寂に二人の足音が響くのみだ。
「‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥…。」
病院を抜け出してきて数分。会話はない。念の為、周囲に用心深く気を向けているが、怪しい気配はない。
‥‥‥そういえば、カイザーPMCの勧誘とかでホシノに契約を持ちかけてたって言ってたよな。こいつも、カイザーコーポレーションなのか?
「‥‥‥黒服。アンタはカイザーの人間なのか?」
「違います。私は貴方や先生と同じ、キヴォトスの外部の者‥‥‥‥ですが、貴方たちとはまた違った領域の存在です。」
キヴォトスの外部だと?…‥‥‥いや、シャーレにだって外の人間が二人いるんだ。他にいても不思議はない。
「違った領域‥‥‥?」
「はい、適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。
ゲマトリア…‥‥
「カイザーじゃない、別の組織ってことなのか?」
「
‥‥‥‥新しい情報は出てきたが、胡散臭い以外の事がまるで分らない。
「先生にもお聞きしたので、一応お聞きしますが、
「ない。」
黒服の方を向くことなく、短く、はっきりと答える。
「‥‥‥即答ですか。真理と秘儀を手に入れられると聞い____」
「NOだ。」
「…‥‥‥‥まあ、予想通りです。しかしライさん。それなら、あなたはキヴォトスで何を追求するおつもりなのですか?」
「…‥‥‥追求?」
この会話で初めて足が止まり、黒服の顔を見る。
相変わらず不気味な顔だが、今は心底疑問を感じていると言わんばかりの表情に見える。
「富、名声、力‥‥‥人は何かを追い求めるものです。
「…‥‥‥‥‥。」
「そもそも、あの子たちのことなど、貴方の与り知るところではないでしょう?貴方は強いですが、先生のような権力者でも、大人でもない。かといって、大人に決められ従うような子供でもない。貴方は、真道ライは一体、何の為にアビドスを助けようとするのですか?何の為に行動するのですか?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?」
「…‥‥‥…アンタに言っても、理解はしてくれないと思う。」
「でも、強いて言うのなら‥‥‥‥‥」
正直、ここから何を話したのかは自分でもよく分からない。
まあ、でも確かなことは…‥‥‥
オレにとっては、それは当たり前すぎたという事だ。
「‥‥‥‥‥‥‥ククっ。」
「‥‥‥‥‥‥?」
「クククッ、クククッ、クククッ…‥‥‥!!」
何だかよく分からんが笑い始めやがった。
そんなに面白い事も良い事も言ってないと思うんだが‥‥‥。
ええ‥‥‥‥。
「貴方は本当に面白いですね‥‥…貴方が同士としてゲマトリアに入ることは恐らくないでしょうが‥‥‥‥俄然、興味が湧いてきましたよ。」
「…‥‥‥オレは、もういいかな。」
「クククッ‥‥。では、改めてお教えしましょう。ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。”ミメシス”で観測した神秘の裏側、つまり恐怖を、生きている生徒に適用することが出来るのかという実験を始めるつもりです。」
「実験だと?カイザーPMCの傭兵って話は嘘だったのか!?」
「まあ、そうなりますね。キヴォトス最高の神秘をもつ彼女を手に入れる為にカイザーを利用した____ただそれだけです。まあ、失敗したら狼の神を代わりにと思っていましたが、前提が色々と違っていた様で…‥‥」
「お前…‥‥‥!」
言いたいことも、やってやりたい事もあるが‥‥‥‥先生も聞いたはずの話だ。落ち着こう。
「‥‥‥‥‥もう話は十分か?」
「ええ。本当はもっと話たいのですが‥‥‥‥そうもいかないようですので。」
「…‥‥‥‥じゃあな。金輪際合わないことを祈るよ。」
「クククッ。それはどうでしょうか?では、ご武運を。」
黒服は会釈をして、街の暗闇に消えていった。
「…‥‥‥‥とりあえずコンビニ行こう。」
_____________
_________
_______
「すぅ‥‥…んん…‥‥‥。」
コンビニで弾や食べ物を買ってからアビドス高校に向かい、先生が貸してもらっている教室に入ると、先生が机の上で突っ伏して眠っていた。
フレンチベージュの前髪がぐしゃっと圧し潰され、PCは開きっぱなしだ。
きっとホシノ救出の為の準備か何かをしていたのだろう。
「‥‥‥‥‥仕方ないか。」
スマホを見ると、日の出まで後数時間はある。
キヴォトスに来てから何だかんだで心身が疲労しているだろうし、少しでも休ませてあげなければ…‥‥。
「よっ‥‥っと‥‥。」
足音と気配を殺して先生に近づき、机に突っ伏している上半身や椅子のキャスターを上手く利用しながら、先生の頭を肩に乗せて机から離し、抱きかかえる。ついでにPCの画面を閉じておく。
何時もは状況が状況という事もあって、大抵は米俵を担ぐように抱えているのだが、今回は俗にいうお姫様抱っこという奴だ。こっちの方が下ろすときのショックが少ないから下手に起こすリスクも少ないし、先生も若い美人だ。問題ないだろう。
「‥‥‥‥‥‥。」
しかし、こうも密着すると女性特有の柔らかさを間近に感じる…‥‥‥。
ノノミやアルは結構あるけど、先生も意外と…‥‥‥。
「…‥‥‥‥やめよう。」
意識し始めたらキリが無くなる。てか先生軽いし細いな‥‥‥。今回の仕事が落ち着いたら無理にでも休暇を取らせて美味しいものをたくさん食べてもらおう。
そんなことを考えながら、ゆっくりと先生をソファまで運び、膝のクッションを使いながら丁重に寝かせる。
「…‥‥‥嫌だとは思うけど、風邪は引いて欲しくないからな‥‥‥」
オレが持ち込んだ寝袋はあるのだが、先生を入れようものなら間違いなく起きてしまうだろう。
なので、ハーネスや固いものを外せるだけ外して、念のために置いてあった消臭スプレーを何回かかけてから防弾コートを毛布代わりに掛ける。先生とオレの背丈がさほど変わらないという事もあって思いのほかピッタリなようだ。枕は、肘掛けで我慢してくれ。
「髪は‥‥‥触らない方が良いか。」
一瞬、先生のポニーテールを解くべきかどうか考えたが、女性の髪は命そのものだと良く言われているし、解いた時に毛が抜けて起きるとか怖いので手を出さないことにした。
取り敢えず、先生はこれで良い。
後は先生が起きるか、誰かが来るのを待っていよう。流石にこんな時間では出来ることは少ないし、流石にこんな短期間で”マイスター”に電話するのも忍びない。
それでも出来ることはあるし、無くなっても買ってきたものを食べていればいい。
「‥‥‥‥‥銃の整備と、ローダーの用意でもするか。」
数日もしないうちに、再び大きな戦闘になるのは目に見えている。
入念な準備を進めるべく、オレは静かに先生の部屋を後にした。