「‥‥‥‥やっぱり、女の子だ。」
警戒しながら白いメディカルチェアのような椅子に近づくと、見間違いなどではなく、確かに女の子がいた。立てば床に付いてしまいそうな程に長い黒髪、色白で薄い体をこうして見ると、意外と身長はありそうだ。それより気になるのは…‥‥‥。
「この子、眠ってるのかな?」
「‥‥‥返事がない、ただの死体のようだ。」
「不謹慎なネタ言わないで!それに死体っていうか…‥‥ライさん!?」
更に椅子に近づき、銃をいつでも向けられるように少し上げながら、空いている左手で女の子の手首に手を伸ば______
「何してるの!!」
指先が女の子の手首に触れる直前で、コートの袖が小さな手に引っ張られる。横を見ると、モモイがコートを引っ張りながら頬を膨らませて‥‥‥‥いや、ミドリもジト目でどこか引いているし、先生の目からもいつもと違う冷たさを感じる!?
「もう!何も着てない女の子をジロジロ見るだけじゃなくて、触ろうとするなんて!!」
「…‥‥‥やっぱりライさんって、そっちの趣味が?しかも…‥‥。」
「ライ、流石にそれはちょっと‥‥‥‥。」
なるほど。オレは女の子の裸を凝視して上、触りかけた変態として見られてる事か…‥‥‥‥。
そうだけどそうじゃないから!!??
「みんな落ち着いてくれ!オレはこの子に脈があるか確認しようとしただけだ!!ついでに違和感を確認しようと‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥違和感?」
「なんていうか、この子、その‥‥‥…。」
「‥‥‥”電源が入ってない”、みたいな感じ?」
「ああ、それだ。この子、怪我も呼吸してる様子も‥‥‥‥
「そう?確かに言われてみれば、何だかマネキンっぽいね。どれどれ‥‥‥‥。」
オレの手首を話すと、モモイは手首どころか女の子の頬に触れ、指先でつんつんする。
「すごい、肌もしっとりしてるし柔らかい…‥‥‥。」
なるほど。モモイがつんつんしている頬を見ても、人工物のような感じはしなそうだが…‥‥肝心の生きているのかどうかという事に関する情報が全くない。
「モモイ、その子の肌は温かいか?冷たいか?ついでに脈を測れるのなら_____」
「あれ?ここに何か、文字が書かれてる。」
これ以上変態扱いされたくないから頼もうとしたのに、他の物に目がいったモモイに若干の不満を持ちつつモモイが見つけたという文字を確認する。
「ここ。‥‥‥‥AL-1S‥‥。アル、イズ‥‥エー、アイ、エス?どう読むのか分からないけど、この子の名前?‥‥‥‥…
モモイが”アリス”と読んだ文字が書かれた部分の汚れを袖で軽く拭うと、よりはっきり読むことが出来た。
「お姉ちゃん、これよく見ると全部ローマ字なわけじゃなくて‥‥‥"AL-1S"、じゃない?」
「え、ホント?」
"AL-1S"。何かの型式番号のような字面だが…‥‥‥。
先生にアイコンタクトとハンドサインで許可を求め、首が縦に振られると、今度こそ女の子の手首に触わる。‥‥‥‥‥やはり、脈や体温を感じない。生きている人間ではない。
作られた存在、なのか‥‥‥?
「‥‥‥この子は、どうしてここに?それに、この場所は…‥‥。」
「この子に聞いた方が早いんじゃない?」
「起きて、普通に話してくれるならな。」
「…‥‥‥とりあえず、このままじゃ可哀そうだし、服でも着せてあげよっか。」
そう言うと、ミドリはどこからか自分が来ているのと同じ制服と色違いと思われるジャケットと_______。
「へえ、予備の服まで持ってきてたんだ…‥‥ってそれ私のパンツじゃん!」
「違うよ、これは私の。猫ちゃんの表情が違うで…‥‥‥あ。」
視界にソレらしき物が入った瞬間、オレは背を向け耳を塞いだ。これ以上変態扱いされてはたまらない。恥ずかしがってるとかそういう事ではない。これはあるべき紳士的なマナーなのだ。
「‥‥‥‥終わったら教えてくれ。危ない感じがしたときは、直ぐに言ってくれ。」
「‥‥‥‥‥‥‥はい。」
ため息を付きながらライターを取り出し、手の中で転がしたり蓋を開け閉めしたりして遊び、火をつけてみる。
「‥‥‥‥…‥‥はあ。」
ため息と共に火を消して蓋を閉じる。
○○○○…‥‥今日は厄日かもしれない‥‥‥‥。
____________
________
_____
「…‥‥よし。これでいいかな。…‥‥‥ライさん、もういいですよ。」
ミドリに呼ばれたので、コートの裾を払いながら立って振り向くと、女の子はミレニアムの制服と白いジャケットを着せられていた。黒い長髪と色白の肌も相まって中々似合っている。
(ピピッ、ピピピッ)
「ん?」
「な、何この音!?」
「警報音みたいだけど…‥‥もしかして近くにロボットが?」
「いや…‥‥上の時みたいな響き方じゃない。多分‥‥…」
銃をもったまま女の子の方を向く。
「…‥‥この子からだ。」
「え?ま、まさか‥‥‥。」
「状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します。」
上での身元確認の時に似た声が発せられると、女の子の瞼が開き、水色の瞳が露わになり、頭上にヘイローが浮かび上がる。気のせいか、頬の色が血が廻ったようにほんのり温かみのあるものに変わった気もする。
「め、目を覚ました…‥‥‥?」
全員が起きたことに驚くと、女の子は椅子から立ち上がり、オレ達の方を見て口を開く。
「…‥‥。状況把握、難航。」
女の子の第一声が期待したのとは異なり、無機質で機械的なものだった事を少々残念に思ってしまうが、決して表には出さない。だって失礼だし。まあ、これからよこれから。
「会話を試みます‥‥‥説明をお願いできますか?」
「え、えっ、説明?何のこと?」
「私は____」
「せ、説明が欲しいのはこっちの方!あなたは何者?ここは一体何なの!?」
先生がまず自己紹介をしようとしたところ、ミドリはあたふたしながら涙目で自身の疑問を女の子にぶつける。しかし、
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません。」
「ど、どういうこと‥‥‥?い、いきなり攻撃したりしないよね?」
「落ち着けミドリ。…‥‥‥オレ達は君に対して、敵対する意思は一切ない。君はどうなんだ?」
「
「ありがとう。…‥‥‥
「うわ、すごい。ロボットの市民ならキヴォトスによくいるけど、こんなに私たちに似ているロボットなんて初めて。」
「え、そうなの?」
キヴォトスの科学水準は結構高い気がするし、ミレニアムはVRを古い扱いするくらいにはキヴォトスでも最先端のテクノロジーを扱っているからもしかしてと思っていたのに…‥‥。
でもヘイローがある‥‥‥‥どういうことだ?
「うーん‥‥‥先生、どうしましょう?」
「‥‥‥‥
「回答不可、本機の深層心理における第一反応が発生したものと推定されます。」
「深層意識って、何のこと‥‥‥‥?」
「ザックリいえば、無意識のこと。この子の場合はそういうプロテクトがかかっているって事だと思う。」
この手の話は師匠に耳タコなんてものじゃない位には聞かされたな‥‥‥‥。
「ふーん‥‥‥‥。工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失、答えられない事‥‥‥‥ふふっ、良いこと思いついちゃった。」
何故かモモイが閃いたとばかりに目をキラキラさせて笑っている。何故…‥‥?
「いや…‥‥今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど‥‥‥。」
「…‥‥‥先生、オレもなんか嫌ない予感がしてきたんですけど。」
「気のせいじゃないかな?…‥‥‥‥多分。」
「???」
「よし、決めた。先生、ライ、
この子を部室まで連れて帰ろう!!」
「「!?」」
_______________
__________
___________
「…‥‥着いたよ!ここがゲーム開発部の部室だよ!」
「お姉ちゃん、その子フードで前見えてないよ…‥‥。」
「あ、本当だ。…‥‥‥ライ、コートありがとう!」
「‥‥‥‥‥‥‥うん、ありがとう。」
モモイがこの子連れてくとか言いだして?手を引いて走ってちゃって?それをミドリが追いかけて?先生とオレも急いで追いかけたらロボットに囲まれてて?先生とモモイとミドリとその子守りながらロボット捌いて?時折モモイがあっちこっち行って?女の子が転びかけるのを支えて?ピンチでパニクったミドリフォローして?ミレニアムに着いたら”目立つわけにいかないから”ってことでオレのコート引き剝がされてその子に被せて?前見えなくなってるのをフォローしながら周りに警戒しながら進んで?キヴォトスで防弾装備が無い事に一抹の不安を覚えた上に?周囲から女子高生の意味不明な視線を浴びて?
「…‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
メッッッッチャ疲れたんですけど!!??
「ライ、大丈夫?」
「あ、コーラあるけど飲む?」
「…‥‥‥‥‥‥頂きます。」
部室に冷蔵庫でもあるのか、モモイから冷えたコーラを貰うと、蓋を開けると同時に黒い炭酸飲料を喉に流し込む。
「んぐ、んぐ…‥‥‥はぁ~‥‥‥生き返るー…‥‥。」
「それは良かった____」
「じゃないよお姉ちゃん!?この子を部室まで連れてきてどうするの!」
「うっ、首絞めないでって!苦しっ、ゲホッ、ゲホッ!」
「ミドリストップ!」
姉の首を絞めにかかる妹を先生がどうにか引き離すと、二人は一旦深呼吸して息を整える。
「すぅー‥はぁー‥‥‥。し、仕方ないじゃん。そもそもあんな恐ろしいロボットたちがいる場所に置いていくわけにも______。」
「ああっ、私のWeeリモコンを口に入れないで!ペッして!ぺって!」
「大丈夫か君?…‥‥‥ミドリ、ティッシュいるか?」
「はい…‥‥ありがとうございます…‥‥。」
「???」
「やっぱり、放っておくわけにはいかないでしょ。」
「うん、そうみたいだね‥‥‥‥。」
この子は自我、記憶、目的を失っていると言っていた。つまり、何も知らない真っ白な頭の赤ん坊同然という事か‥‥‥‥。
「それはそうだけど…‥‥‥。今からでも、連邦生徒会かヴァルキューレ辺りに連絡した方が良くない?」
「でもこの子ロボットだから、生徒どころか市民でもない可能性がある訳だし、今の連邦生徒会に余裕はないから、諸々担当することになるのって…‥‥‥」
「
「‥‥‥それは
「やるべきこと?」
今度は何をするつもりだこのピンクキッズ‥‥‥‥。オレはもう少しコーラを飲んでダラダラしたいんだが…‥‥‥。
「さて、とりあえず名前は必要だよね。”アリス”って呼ぼうかな。」
「…‥‥‥本機の名称、”アリス”。確認をお願いします。」
「ちょ、ちょっと待って!?それお姉ちゃんが勝手に呼んだ名前でしょ!?本当ならAL-1Sちゃんなんじゃないの?」
「そんなに長いと呼びにくいじゃん。どう、アリス?気に入った?」
「…‥‥‥肯定。」
「せ、先生!ライさん!」
「素敵な名前だと思うよ。」
「なんか嬉しそうだし、いいんじゃないか?よろしくな、アリス。」
「本機、アリス。」
「あはは!ほら、みたか私のネーミングセンス!」
「うーん…‥‥本人が気に入ってるならいいけど。」
口ではそう言うが、どこか腑に落ちないのが隠しきれていないミドリ。せっかくだからよく考えて名前を付けてあげたかったのかもしれないが、オレに言わせれば呼びかた・呼ばれ方なんてコロコロ変わるから問題ない。大事なのは、何を思って呼び、名乗るかなんだとオレは思っている。
「さあ、それじゃ次のステップに行ってみよっか。」
「モモイ、一体何を…‥‥?」
「お姉ちゃん、いったい何を考えてるの‥‥‥‥?子猫を拾ってきたとか、そういうレベルじゃないんだからね!?」
「ミドリの方こそ、よく考えてみてよ。そもそも私たちがG.Bibleを探してた理由はなんだっけ?」
「それは…‥‥良いゲームを作って、部活を廃部にさせない為でしょ?」
「そう、今一番大事なのはそれ。」
「良いゲームも作りたいけど、まずは部活の維持が最優先。それで、そのためには二つの条件のうち、どっちかをクリアする必要がある。ミレニアムプライスで受賞を狙うのは、あくまでもその内の一つに過ぎない。」
「あくまでも何も、方法は実際のところ一つしか無いでしょ?お姉ちゃんがそう言ったんじゃん、だってこれ以上
そもそも何故部員が増やせないと判断した?ミレニアムの生徒はレトロ風ゲームをバカにする者ばかりだったからでは?つまり、今のミレニアムにはいない、レトロ風ゲームをバカにしない者なら…‥‥?
「まさか、ミレニアムの生徒に偽装して、ゲーム開発部に入部させる気か…‥‥?」
「アリス‥‥‥‥
私たちの仲間になって!」
(ガリガリ…‥‥)
「ああっ!私の”ゲームガールズアドバンスSP”食べちゃダメっ!8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇る、キヴォトス唯一の16bitゲーム機なんだよ!?」
「大丈夫かアリス?…‥‥‥モモイ、ティッシュいるか?」
「うん、ありがと‥‥‥‥。」
「だ、大丈夫なのかな…‥‥‥。」
「さあ……‥‥‥。」