「うーん、やっぱり心配…‥‥。この子をうちの部員に偽装するなんて…‥‥本当に大丈夫?」
「”大丈夫”の意味を確認‥‥‥”状態が悪くなく問題が発生していない状況”のことと推定、肯定します。」
これは…‥‥‥そういう個性として見れば、いいんじゃないか?そういう事にすれば、肯定‥‥‥肯定‥‥‥‥‥‥。
「‥‥‥‥できる?」
「いやいや、肯定できませんって!この口調じゃ絶対疑われますよ!やめておこう!?これは無理だって!」
一応ミドリに聞いてみたが、予想通りダメらしい。確かに、元々ミレニアムの生徒でもない上に、この口調は目立ってバレてしまうだろう…‥‥。
「今やめるって選択肢の方が無理だよ。何としても、私たちのゲーム開発部を守らなきゃ。そうしないと、ユズの居場所が‥‥‥寮に戻るわけにはいかないし‥‥‥‥。」
「そう、だったね‥‥‥。」
ユズ…‥‥この場にいないゲーム開発部の部長か。何か事情があるのは分かるが、下手に踏み込むわけにはいかないが、ゲーム開発部が大切な居場所と言うのは分かる。それならば、どうにか手助けしたいが…‥‥。
「服装もある程度整ったし、あとは武器と‥‥学生登録をして、学生登録をして、学生証を手に入れないとね。」
「でも、キヴォトスにおける学籍って国籍みたいなものだよね?どうするの?」
「それは私に任せておいて。ちゃんと学生証も用意するから。」
非常に嫌な予感しかしないが、ここは信じるしかないだろう。いくらシャーレに超法規的な権限があるとはいっても、ぽっと出のロボット少女を迅速に違和感なく、生徒に仕立て上げるのは難しいだろうし‥‥‥‥まあ、書類上そうなっていないだけで、先生的にはもう生徒なのかもしれないけど。
「ミドリはユズと二人で、アリスに
「は、話し方?」
「今のままだとミドリが言った通り、疑われちゃうかもしれないから。ただでさえ”友達もいないあなたたちに、新しい部員の募集なんて出来るはずないでしょ”って言われてるし…‥‥‥。」
「それは君の思い込みじゃないか‥‥‥‥?」
「でも、もし何かの拍子にユウカに本当にゲーム開発部なのかって聞かれたとして‥‥
”肯定、あなたの質問に対し、アリスの回答を提示。私はゲーム開発部の部員”
‥‥なんて言っちゃった暁には、全部台無しになりかねない。」
「いや、それはそうだけど‥‥‥‥はあ。…‥‥仕方ない、やれるだけやってみるよ。」
「よし、じゃあ任せた!じゃあ行ってくるねー。」
「ちょ、ちょっと待って!」
渋々といった様子でアリスの会話能力育成を請け負ったミドリをみて、無邪気に笑って任せて、モモイはどこかに走り去っていった。恐らくはアリスの学生登録諸々をどうにかしに行ったのだろうが、部室には苦笑いしている先生と困り果てた様子のミドリ、頭に疑問符を浮かべてポカンとしているアリス、そして
「うーーん…‥‥。」
「???」
「え、えっと…‥‥アリスちゃん?」
「肯定。本機の名称、アリスです。」
「うん、じゃあアリスちゃんって呼ぶね。それにしても話し方かあ‥‥‥よく考えると、どうやって習得するんだろ?普通は動画を見たり、周りの言葉を真似していくうちに自然に、って感じだと思うけど。‥‥‥うーん。子供用の教育プログラムって、インターネットに落ちてるかな‥‥‥。」
独り言を言いながら考え込み、スマホで情報を得ようとしているミドリを見つつ、オレはこの場でもっとも”教える”事に向いているだろう大人に尋ねてみる事にする。
「先生、子供に1から言葉を教えた事とかあります?」
「うーん…‥‥教科書レベルの敬語とか英語ならあるけど…‥‥みんなある程度育った子供たちだったから‥‥‥‥。ライは?兄弟とかいそうだし、銀行の時に英語話してたよね?」
「小さい弟妹がいた覚えはないですし、言語はフィーリングで覚える方だから適当で…‥‥‥。強いて言うなら、後輩とか同門の子にちょっとレクチャーしたり‥‥‥‥あ、最近だと、レイサの特訓に付き合いましたね。」
「前に言ってた自警団のスーパースター‥‥あれ、自警団のエース?正義の使者?」
「全部あってます…‥‥。鼓膜がイカレるくらい元気な奴で、今朝、また付き合って欲しいってモモトークが来たんですけど…‥‥先送りになるかもしれません。」
「そっか‥‥。ライが仕事以外でちゃんと人間関係を…‥‥うるってきちゃった…‥‥。」
「親か何かですか‥‥‥?そういう先生は…‥‥あー‥‥‥うん、はい。」
「や、やめてよ‥‥‥‥!別に困ったりはしてないし、たくさんの生徒と交流できてるからいいけどさぁ‥‥‥‥。」
「それ結局仕事では‥‥?オレも含めて。」
「言われてみれば‥‥‥‥。私たちってビジネスの関係‥‥‥って事?」
「まあ、そうなりますかね…‥‥。一応、この前一緒に休日過ごしましたけど。」
話は逸れて、結果的に先生との雑談となってしまった傍らで、申し訳ない事にフリーとなったアリスは部室をキョロキョロしていたが、ある物を見て行動に変化が現れる。
「?正体不明の物を発見、確認を行います。」
「ん?あっ、そ、それは…‥‥っ!?」
「へえー…‥‥そういうのって本当にあるんだね。」
「あるしやりますけど‥‥‥…ん?どうした?」
何時の間にかアリスが何か手に取って見ているのに気が付くと、気になって先生と共にアリスの肩越しに覗き込んで見る。これは‥‥ゲームカセット?
タイトルは…‥‥”テイルズ・サガ・クロニクル”。これが例のクソゲーランキング1位に輝いたというあの…‥‥!?
「えっと、‥‥ちょっと恥ずかしいけど、実はそれ私たちが作ったゲームなの。まあ、すごい酷評されちゃったやつなんだけどね。‥‥‥‥あ、そうだ!」
モジモジしたかと思えば、何か思いついたのか急にミドリの表情が‥‥‥‥あ、先生も興味津々だ。気になるって言ってた奴が目の前にありますもんね。
「クソゲーランキングでは1位になっちゃったし、アリスちゃんがどう思うかは分からないけど…‥‥アリスちゃん、私たちのゲーム…‥やってみない?」
「会話を教えるんじゃなかったっけ…‥‥?」
「”会話”をしながら進められるから、ゲームをやってみるのも勉強になるかもしれません。」
「慣れない事するよりは、慣れた事を通して物事を考えてやってみる‥‥‥だからこその自作ゲーム‥‥‥‥その手があったか‥‥‥!」
師匠も、人は何かやり通した事をもとに、他の物事の要領を得ていくのがもっとも効率的だと言っていたし、案外最適解なんじゃないか?
「作ったゲームをやって欲しいって方が大きそうだけど‥‥‥‥‥アリス、ミドリの提案、どうかな?」
「‥‥‥ここまでの言動の意図、完璧には把握しかねます。しかし…‥‥‥」
「「「…‥‥‥‥。」」」
「‥‥‥‥肯定、アリスはゲームをします。」
「ほ、本当に!?ちょ、ちょっと待ってて、すぐにセッティングするから!」
先程までの心配や泣き言はどこへ行ったのか、一転して生き生きとゲームの用意を急ぐミドリ。散々こき下ろされたゲームをやってもらえるのが余程嬉しかったのだろう。
クソゲーランキング1位という不名誉な言われこそあれど、やると決めたのはアリス自身だ。子供の‥‥‥‥いや、”生徒”のやりたい事ならば先生も快く尊重して見守るし、本当に必要な時だけ手助けすればいいだろう。仮に上手くいかなくても、アリスは実質初めてのゲーム体験という経験を積み、ゲーム開発部の一員、友達として仲良くなる第一歩を踏み出せると思うし、先生は気になっていたゲームがどんなものか知ることが出来る。
もしかしたら、そこに隠れている誰かさんも出てきてくれるかも…‥‥‥。
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「よし、準備完了!」
部室のテレビにゲーム機が接続され、画面には”テイルズ・サガ・クロニクル”のタイトル画面が表示されている。
ミドリはアリスの横に座ると、コントローラーを手渡す。アリスはしっかりとコントローラーを受け取ってその手に握ったのを見ると、期待に満ちた顔で画面を見据える。
「アリス、ゲームを開始します。」
アリスがコントローラーのボタンを押し込み、画面が切り替わる。
これが、ゲーム開発部存続への希望の一歩。何より、アリスのはじまりの一歩…‥‥‥ん?
「タイトルから分かるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの。」
【コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた‥‥‥。】
「…‥‥‥?」
「SF物みたいなんだけど…‥‥‥。」
「えっと、王道とは言っても、色々な要素を混ぜたりするんだけどね。トレンドそのままでもダメだけど、王道に拘りすぎても古くなるからってことで。」
「な、なるほど…‥‥?」
「…‥‥ボタンを押します。」
【コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた‥‥‥。
チュートリアルを開始します。
まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。 】
アリスが操作すると、画面上に操作キャラと初期武器らしきグラフィックが表示される。
アニメーションではなく、プレイヤーに操作させることでゲームへの没入感を誘う。RPGに限らず、様々なゲームでよくみられるものだが‥‥‥‥‥。
「Bボタン…‥‥。」
アリスは画面の指示のままにBボタンを押す。これでキャラが武器を装備_______。
(ドカーーーン!!)
「「「???」」」
【 〈GAME OVER〉 】
「!?!?」
「何で!?」
指示に従ったらいきなり爆発音と共に、ゲームオーバーだと‥‥‥!?
「あはははっ!予想できる展開ほどつまらないものはないよね!本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」
「は、はあぁぁっっ!?」
面白おかしそうに衝撃的な
「お姉ちゃん…‥‥?学生証を作りに行くとか言ってなかった?」
「行ってきたんだけど、遅い時間だったからか誰もいなかったの。また明日行く。」
「それはさておき、あらためて見てもこの部分はちょっと酷いと思う。」
おい、開発者の一人が酷いって‥‥‥‥‥雲行きが怪しくなってきたぞ…‥‥。
「‥‥‥も、もう一度始めます…‥‥‥。」
初っ端からクソみたいな終わり方をしたのにも関わらず、再びコントローラーを握り、操作を始めるアリス。
「再開…‥‥‥テキストでは説明不可能な感情が発生しています。」
そりゃあそうだろう。感情の説明は人間でも難しいのに、今のは_______
「あっ、私それ分かるかも!きっと”興味”とか”期待”とか、そういう感情だと思う!」
「どう考えても”怒り”か”困惑”だと思うけど…‥‥‥。」
「私もそっちかな‥‥‥‥‥。」
「オレもミドリと同じだ…‥‥‥‥。」
【武器を装備しました。】
「装備完了…‥‥。」
モモイのアドバイス通り、BボタンではなくAボタンを押すことでキャラに武器を装備させることができたアリス。その後は何事もなく、キー操作に従ってキャラが進んでいく。
「お、良い感じ。そのまま進めば、RPGの花の戦闘が‥‥‥。」
【武器を装備しました。
エンカウントが発生しました!
野生のプニプニが現れた! 】
「!?」
モモイの言った通り、敵に遭遇し、BGMも戦闘用と思わしきものに切り替わる。名前やデザインからして、序盤にありがちなスライム的な敵の様だ。見ているだけのオレまでもRPG特有の高揚感に包まれる。面白くなってきたな。
「緊張、高揚、興味。」
「Aボタンを押して!今度は嘘じゃないから!」
アリスも同じ感情の様だ。すかさずモモイが操作を指示すると、アリスは迷いなくAボタンを押す。
「Aボタン‥‥‥”秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする。”」
おお‥‥‥‥序盤も序盤なのに、もう連続攻撃系の技が使えるのか。大抵のRPGじゃ、通常攻撃や低火力の単体・単発技が使えることが多いから、これは珍しい‥‥‥‥‥。
「行きます、プニプニに対して…‥‥‥秘剣!つばめ___」
【武器を装備しました。
エンカウントが発生しました!
野生のプニプニが現れた!
ッダーン!
攻撃が命中、即死しました。 】
【 〈GAME OVER〉
プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前では無力…‥ふっ。 】
「!?!?」
し、死んだ!?射程外から銃をぶっ放してきやがった!?しかも即死!?
「うーん、やっぱりプニプニが”ふっ”て言うのは不自然かな。」
「…‥‥‥‥ツッコみどころはそこじゃないと思う。」
「‥‥‥‥負けイベか、一定レベルまで通せんぼする壁役…‥‥‥だよね?」
「いや、普通の雑魚敵だよ?」
「序盤からこんな雑魚が湧いてたまるか。」
「思考停止、電算処理が追いつきません。」
アリスがコントローラーを握った手を下ろし、困った表情で‥‥‥‥‥え、マジ?どう考えても君結構ハイスペックだよね?なのに処理が追い付かないだと‥‥‥‥‥?感情って凄いんだな…‥‥じゃなくって!
「あ、アリス?大丈夫か?」
「‥‥‥‥‥リブート、再開します。」
まだやるのか!?‥‥‥‥いや、まだ序盤、序盤だから…‥‥‥‥‥ん?序盤でもう2度は死んだな‥‥‥‥?
「今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します。」
「そう、まさにそれ!諦めずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける!それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」
「‥‥‥‥‥先生、これ本当に‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥まだ分からないから…‥‥。ほら!初めてのゲームだからきっとコツがまだ、」
【 〈GAME OVER〉 】
「!?!?」
「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」」
〈連邦捜査部 情報アーカイブ:ライのホルスター〉
・ライがベルトから提げて、右大腿で固定しているホルスターは、ギャレンラウザーのホルスターにコの字型の金具を取り付けられたような形状をしており、長大で重厚なバレルをもつ大型リボルバーである”アーバレスト”を確実に保持・携帯しつつ、瞬時に抜きやすい構造となっている。表面には予備の弾丸が数発分収められている。