知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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会話のレベリング

 

「…‥‥‥電算処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生。」

 

アリスが”テイルズ・サガ・クロニクル”のプレイをはじめ、皆でそれを見守り始めてから既に2時間。チュートリアルから初見では理解不能な理不尽すぎる仕様・展開の数々で死に続け、説明不明な感情の奔流に晒されることで猛烈な負荷を得ながらも、粘り強くクソゲーに挑み続けたアリスに異変が起こる。

 

「頑張ってアリス、ここさえ乗り越えれば待望のクライマックスだよ!」

 

「うう‥‥‥‥っ!今のは”草食系”って単語が思い出せないからって、それを”植物人間”って書いたお姉ちゃんのせいでしょ!?」

 

「”ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかけることはできません”じゃなくて、”ごめんなさい、私は草食系ですので、女性に対して気軽に声をかけることができません”だったんだね…‥‥‥‥。」

 

 

「‥‥…質問。どうして母親がヒロインで、それでいて実は前世の妻で、さらにどうしてその妻のの元に、子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているのか‥‥‥いえ、そもそも”腹違いの友人”という表現はキヴォトスの辞書データには登録されていな_____エラー発生、エラー発生!」

 

「つ、ついにバグったか!?」

 

腹違いの友人でさえなければまだ‥‥‥まだ‥‥‥‥分かんねェ…‥‥‥。

 

「が、頑張ってアリスちゃん!クライマックスまでもう少しだから!」

 

「‥‥‥リブート。プロセスを回復。…‥‥ふぅ。これが、ゲーム…‥‥。再開します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「こ、ろ、し、て‥‥‥‥‥。」

 

「すごいよアリス!開発者が二人一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」

 

更に一時間後、アリスはついにテイルズ・サガ・クロニクルのトゥルーエンドを迎えることが出来た。よくぞこんなクソゲーやりきった‥‥‥‥!

 

UIの問題とかバグこそなかったが、とにかく仕様とライターの語彙力が壊滅的すぎる。開発者のアドバイスありきでもこのクソゲーを3時間もプレイする必要があるという事は、普通の人がやると…‥‥‥‥想像してたら阿鼻叫喚の地獄絵図が見えてしまった。さすが、クソゲーランキング1位になっただけはある。

 

「そ、それもそうだけど、もしかしてゲームをやればやるほど、アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる…‥‥‥!?」

 

「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう。」

 

「多彩ってか…‥‥無知系から電波系にチェンジしただけじゃないか?」

 

「ゲームからそのまま覚えたからね、ちょっとまだ不自然かもだけど‥‥‥言葉を羅列してただけの時よりは、かなり良くなったかと思う!」と、ところでその‥‥こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど‥‥‥‥」

 

「?」

 

「「わ、私たちのゲーム、どうだった?面白かった!?」」

 

「…‥‥説明不可。」

 

「え、ええっ!?なんで!?」

 

「‥‥‥類似表現を検索。ロード中‥‥‥。」

 

モモイとミドリに()()()()()()()()()()()()()ランキング1位のクソゲーの感想を求められるも、理解不能・意味不明・発狂必須の仕様・展開により脳破壊されたせいなのか、適切な回答を検索し始めるアリス。

 

「もしかして、悪口を検索してる‥‥…?」

 

「ま、まさか…‥‥。」

 

先生が苦笑いしながらそう言いはするが、この後、満面の笑みで”クソゲーです!”って言われる可能性も無きにしも非ずなので…‥‥。

 

「…‥‥面白さ、それは明確に存在‥‥‥」

 

「おおっ!」

 

「マジかよ…‥‥‥?」

 

「プレイを進めれば進めるほど…‥‥まるで別の世界を旅しているような…‥‥夢を見ているような‥‥‥‥そんな気分‥‥‥もう一度‥‥‥‥」

 

そうか!実質的に初めてのゲームだから、先入観が比較的無かった為に、ゲームの醍醐味を感じ取り、楽しめたという事か?なんか、そういう話は聞いたことがあるな…‥‥‥小さい子供に野菜を食べさせるとき、美味しくないではなく、美味しいと伝えてから食べさせると嫌いになりにくい…‥‥みたいな…‥‥‥。ちょっと違うか?

 

「もう一度‥‥‥」

 

‥‥‥‥見たい、な‥‥‥‥‥って、

 

「アリス!?」

 

アリスの頬に、突然透明なものが流れる。な、泣いている…‥‥!?いや、正確には涙ではないはずだが、確かに泣いている‥‥・・・。

 

技術的な部分に興味が湧きはするが、泣いている女の子を前にそんな下らない事は考えていられない。気づけばオレは、先生と共にアリスの背中を優しくさすり、ハンカチを差し出していた。

 

「ええっ!?」

 

「あ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」

 

「決まってるじゃん!それぐらい、私たちのゲームが感動的だったってことでしょ!」

 

「ギャグ寄りの雰囲気だったろ!?」

 

ギャグでこんなに静かな泣き方してるから心配になってるんだよ。

 

きっと、このクソゲーをもう一度やることで再び脳破壊される自分を想像して辛くなったんじゃないか!?アリスが頑張ってなかったら、多分オレ見てるのやめてるからな?

 

「ありがとうアリス!その辺の評論家の言葉なんかより、その涙の方が100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげたい…‥‥!」

 

「そりゃあ良かった、な…‥‥‥ん?」

 

ふと後ろを向くと、ロッカーが開いている‥‥‥?

 

 

 

「‥‥‥‥ちゃ、ちゃんと、全部見てた。」

 

 

 

「どちら様!?」

 

いつの間にか長い赤髪の女の子が!?まさか、さっきから隠れてたのって君なのか?‥‥‥‥てかこの子も幼さを感じるな。先生とオレ以外この部屋幼女しかいないんですけど。

 

「きゃあああっ!お、お、お化け!?」

 

「落ち着いて、ミドリ!プラスステーションを投げちゃダメ!そろそろ壊れる!」

 

「‥‥‥‥‥。」

 

「‥‥‥‥‥?」

 

ミドリがまたパニくっているのをモモイが抑え込んでいる‥‥…あれ投げられたら位置的にオレが受け止めるしかないんだけど。なんか頭がズキズキしてきた気が‥‥‥‥。

 

そんな中、赤髪の子とアリスが見つめあっているが、会話の切り口が分からないのだろうか?

 

「ユズ!」

 

「ユズちゃん、あれだけ探しても見つからなかったのに!いつからロッカーの中にいたの?」

 

「え、知り合い?」

 

っていうか、ゲーム開発部の部長って言ってた子だよな?

 

「…‥‥君、オレ達がアリス連れてきた時には隠れてたよな?」

 

「だいぶ前じゃん!?てか気づいてたの!?何でずっとロッカーの中に‥‥‥‥‥あ、もしかしてアリスちゃんが怖かったから?それともライ?」

 

え、オレ?オレ怖いの?

 

「モモトークか何かで伝えてくれれば良かったのに、びっくりしたよ‥‥あ、3人は初めてだよね。この人が私たちゲーム開発部の部長、ユズだよ。」

 

「初めまして。私はシャーレの先生‥‥‥…アリス?」

 

「?」

 

ユズが目を逸らしてキョロキョロしたりと挙動不審気味なのに、アリスはユズの顔をじーっと見つめ続けている。

 

「えっと、あの、その…‥‥。あ、あ、あ‥‥‥‥」

 

「あ‥‥‥?」

 

 

「…‥‥ありがとう。」

 

ようやく口に出た言葉は、感謝。

 

「ゲーム、面白いって言ってくれて‥‥‥もう一度やりたいって言ってくれて‥‥‥‥。」

 

目を合わせて喋り続けることはできていないが、体の向きはアリスに向いたまま、心からの言葉が紡ぎ出されている。

 

「泣いてくれて…‥‥‥本当に、ありがとう。」

 

「???」

 

「面白いとか、もうい一度とか‥‥‥そういう言葉が、ずっと聞きたかったの。」

 

「ユズちゃん‥‥‥‥。」

 

アリスはよく分かってはいないようだが、テイルズ・サガ・クロニクルのクソゲーランキング1位という評価や、ユズの言葉、モモイとミドリが彼女に向ける感慨深く、優しい視線で何となくわかった気がする。

 

彼女はただ、楽しんでほしかったのだ。

 

頑張って作ったゲームだろうから。きっと…‥‥‥いや、絶対に、彼女のもゲームが好きな一人の女の子なのだから。

 

よく考えれば、テイルズ・サガ・クロニクルはクソゲーそのものだったが、それは展開や仕様の問題だ。UIの問題もバグもないし、グラフィックも良かった。手抜きと言う印象は全くない。正気は疑ったが。

 

それをクソゲーと酷評するのではなく、純粋にゲームという体験として面白かったと言ってもらえたのだ。開発者冥利に尽きるというものだろう。

 

オレも一回ぐらいやってみようかな‥‥‥‥‥。

 

「…‥‥‥やっぱり厳しいかも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

__________

 

______

 

「とにかく、あらためまして。ゲーム開発部の部長、ユズです。この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん。これからよろしくね。あ、えっと‥‥‥先生とライさん、でしたよね?よろしくお願いします‥‥。」

 

「よろしくね、ユズ。」

 

「真道ライだ。よろしく。」

 

「よろ、しく‥‥‥‥?‥‥‥理解。

 

ユズが仲間になりました、パンパカパーン!…‥‥‥合ってますか?」

 

「あ、うん。だいたいそんな感じ、かな。」

 

RPG的にはそうなるよな。可愛いしわざとではないから、こういうものだと受け入れてもらう方針の方が良かったり…‥‥でもユウカってその辺しっかりしてる気がするし‥‥どうだろう?

 

 

「ふふっ、その様子だと、本当に私たちのゲームを楽しんでくれたんだね‥‥。仲間が増えるのは、RPGの醍醐味の一つだもんね。あ、もしRPGを面白いなって思ってくれたなら、わたしが、他にもおすすめのゲームを教えてあげる。」

 

気のせいか先程までより、ユズがハキハキしてるし勢いがあるような‥‥‥。スイッチが入ったのだろうか?まあ、アリスも嫌ではなさそうだし、会話の仕方をもっと学ぶ必要性もある。何より、友達との交流として、成長に不可欠だろう。

 

テイルズ・サガ・クロニクル以上のクソゲーをピックアップするはずはないから、オレも少しは安心…‥‥‥‥させてくれるよな?オレ、アリスの為にもストーリー重視の感動系のタイトルが____

 

 

「ちょっと待ったぁ!アリスにおススメするのは私が先!良質なゲームをやればやるほど話し方も自然になって、私たちの計画の成功率も上がるんだし!さあ、まずは”英雄神話”と”ファイナル・ファンタジア”と”アイズ・エターナル”と…‥‥。」

 

「何言ってるの、アリスちゃんはゲーム初心者だよ!?”ゼルナの伝説・夢見るアイランド”から始めるのが一番だって!」

 

「これだけは譲れない、次にやるべきは”ロマンシング物語”だよ。あ、でも第3弾だけはちょっと、個人的には、やらなくても良いかなって…‥‥。」

 

「…‥‥??」

 

 

「うんうん、みんな仲良しでいいね。」

 

「そうですね‥‥‥‥ははは…‥‥‥‥。」

 

当初の目的忘れてないよねゲームキッズ達?

 

「…‥‥期待。再び、ゲームを始めます。」

 

 

 

「‥‥‥‥まあ、なるようになるか。」

 

「そうだ!ライと先生も何かやらない?」

 

「そうだな…‥‥‥久々にやりたくなったし、何か貸してもらおうかな。」

 

部室に転がっているものから適当に借りるか。

 

えーと、”スペースキャット”、”魔王城ドラキュラ”、”電装戦機ヴイチャロン”…‥‥‥聞き覚えがある気がするな…‥‥。どっかにツインスティック無いかな…‥‥。

 

「ライ、”フルゼリー対戦”やらない?」

 

「これは……落ち物系ですか?オレ、落ち物系得意ですけど‥‥…」

 

「久々なんでしょ?ゲームだったら、私でもライといい勝負ができるかも。」

 

「‥‥‥‥‥へぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、待って待って!?早い早い早いストッ…‥‥負けたあぁぁっっ!!!」

 

「次っ、次私とやろうよ!」

 

 

 

「えっとね、ポーズ中に上・上・下・下・左・右・左・右・B・Aの入力でね‥‥‥‥。」

 

「パンパカパーン!アリスはユズからパワーアップの呪文を習得しました!」

 

「それ、初心者に教えちゃっても良いの‥‥‥‥?」

 

 

 

 

「そのコマンドって、どこでもあるんだな…‥‥。」

 

「よそ見してる!チャンス…‥‥ええっ、なんで!?」

 

「Tスピンに拘りすぎだぜ?」

 

「もう一回、もう一回!」

 

 

 

「…‥‥‥クリアです!」




・ライはテトニス(テトリス)の方が好き。小難しい事は滅多にせず、ド安定で純粋に操作が早い。
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