「で、メイド部が完全な状態じゃないって、どういうことだ?」
「メイド部、正式名称”Cleaning&Clearing”はミレニアム最強の武力集団。どうしてそう呼ばれているのか‥‥‥それはもちろん、素晴らしいエージェントのメイドが揃っているからと言うのもあるけれど…‥‥何よりも大きいのは
「彼女?」
「メイド部の部長‥‥コールサイン・ダブルオー‥‥ネル先輩。」
ハレが言う前にミドリが独り言のように呟く。エージェントなのに周知されている様子なのはさておいて、それだけの強者という事なのだろう。てかダブルオーって何?両手に武器持って真っ赤になるのか?
「そう。けど今、彼女はミレニアムの外郭にいる。守るより壊す方に向いている人だけど、今のメイド部が完全でない状態で保管所を守らざるを得ないということに、変わりはない。こっちにはシャーレの二人がいるし、準備さえ出来れば…‥‥‥」
先生は生徒に頼られているから悪い気はしていなさそうだが、オレとしてはちょっとばかり不味いのではとも思う。だって相手は三大校の一つの生徒会とそこの精鋭たち。シャーレは他の自治区でも戦闘行為が可能ではあるが、その分問われる責任や背負う信頼も大きいものだ。今回は先生にヴェリタスとい一緒に後ろから指揮してもらおう。
「正面衝突を避けて、”鏡”だけを奪って逃げられる…‥‥うーん‥‥‥‥。」
やはり、仲間たちが傷つくリスクがどうしても不安なのか、モモイが渋っているようだ。
「…‥‥やってみよう、お姉ちゃん。」
しかし、ミドリは決断した。リスクをとってでも”鏡”を取りに行くことを。
「ええっ!?でもネル先輩がいないからって、相手はあのメイド部だよ!?」
「分かってる。でも…‥‥このまま部室を無くすわけにはいかない。」
まるで普段とは真逆だ。ミドリの方が勝負に出ようとしている。その目には普段の大人しさは無く、力強い覚悟が見える。
「ボロボロだし、狭いし、たまに雨漏りするような部室だけど‥‥‥もう今は、私たちがただゲームをするだけの場所じゃない。…‥‥みんなで一緒にいるための、大切な場所だから。だから、少しでも可能性があるなら…‥私はやってみたい。ううん、もしメイド部と対峙することになっても、それがどれだけ危険だとしても‥‥‥守りたいの。アリスちゃんのために、ユズちゃんのために‥‥‥私たち、全員の為に!」
「ミドリ‥‥‥。」
柄にもなく、思いの丈を堂々と吐き出す妹の姿から何か感じるものがあったのか、モモイは目を丸くした。
「私たちならできます。」
「伝説の勇者は‥‥‥世界の滅亡を止めるために、魔王を倒します。アリスは計45のRPGをやって‥‥勇者たちが魔王を倒すのに必要な、一番強力な力を知りました。」
「一番強力な力‥‥‥レベルアップ?あ、装備の強化?」
「盗聴ですか?」
「EMPショック!?」
「な、仲間だよね!?」
「さすが先生、その通りです!一緒にいる仲間と力を合わせれば、相性不利やレベル差があっても立ち向かえます!」
「そこまで言われちゃったらね…‥‥うん‥‥よし、やろう!生徒会から”鏡”を取り戻す!」
アリスの言葉でついに決心がついたモモイ。
「それじゃあ、作戦を立てないとね。ハレ、何か考えはあるの?」
「あるけど、実行するには準備とエンジニア部の力が不可欠になってくる。でも、私たちはそんなに親しくはないから…‥‥先生にお願いするね。」
「うん。任せて。」
「アリスも行きます!」
「私も‥‥!」
ゲーム開発部は先生に付いていき、部屋にはヴェリタスとオレだけが残された。
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特異現象捜査部。セミナー傘下の特務組織……と言っても、部長と私しかいないけど。薄暗く、所狭しと機材が並べられた部室はいつも通り暑くて仕方ない。でも今エアコンのリモコンは部長の手元にあるからこれ以上涼しくはできないから、せめてもの抵抗で冷蔵庫から缶ジュースを出す。ついでだから部長も何か飲むか聞いてみよう。まあ、温かいコーヒーを飲んでるからいらないと思うけど、何か飲むのなら私が持って行った方が効率がいいから、一応聞いてみることにする。
「部長も何か………ん?」
部長の方を見ると、モニターに3人分の画像やデータが表示されている。一人はミレニアムの生徒に見えるけど見覚えはない。私が人付き合いをしない方というのもあるとは思うけど、こんな子いたかな?この女性はニューズで見たことがある。シャーレの先生。外から来た大人の女性で、噂くらいなら知っている。
しかし、もう一人の顔は直接見たことがある。ライターを拾ってあげた男の子だ。名前は、真道ライ‥‥‥‥間違いない。
「部長、何をしているの?」
「実は、
「”廃墟”から?」
”廃虚”といえば、ミレニアム郊外にある謎の多い立ち入り禁止区域のはず。ある理由から私たちの調査対象にもなっている所から連れてきたとなると、オーパーツ級の機体なのだろう。部長とあの女もとい、リオ会長が気になるのも理解できるけど‥‥‥。
「その言い方だと、シャーレの二人は調査対象じゃないよね?」
「
「どうして‥‥‥‥。」
「ゲーム開発部とヴェリタスは入念な準備をしてセミナーを襲撃するはずです。その情報をリークされたセミナーはメイド部と共に全力でそれを阻止するでしょう。そうなれば、ゲーム開発部がメイド部と交戦する可能性が高くなる、つまり、アリスに関するデータを少しでも多く得られる可能性が高くなります。シャーレは現在、ゲーム開発部と共に行動しているようなので、ついでに私の知的好奇心も満たせるという訳です。‥‥‥といっても、」
もっともな理由を一通り言い終えると、どこか納得できない、不満げな表情を浮かべながらため息を吐く部長。
「あの汚水のような女と違って、この清らかな天然水のようなこの天才美少女ハッカーはそんなことはしたくないのですけどね。一体、どうして私がこんな事をしなければ‥‥‥。」
「…‥‥‥‥。」
取り敢えず、今回は私の出番は無さそうだ。私はあくまでも特異現象捜査部のエージェント。この件に関わる必要は全くない。でも、シャーレの二人には少し興味がある。もっとも、ほんの少しだけ話した
「そういえば、綺麗な肌とか言ってたけど…‥‥。」
ふと彼の言っていた事を思い出す。任務や戦闘でシップや絆創膏、ガーゼで手当てしてあるこの身体を、綺麗な肌だとか、何かあれば頼ってくれ………みたいな事を言っていた。ほんの僅かな時間の中での彼の言葉は、殆どが私の心配だった。たまたまライターを拾ったのが私だった。ただそれだけだったはずなのに。
「優しい人、なのかな‥‥?」
こういう事を考えるのはあまり得意じゃないし、効率的ではないけど、何故だか気になってしまう。
部長に少し影響されたのかなと思いながら、温くなってしまった缶の蓋を開ける。プシュッと小さく音を鳴らしながら弾ける炭酸を位置も介さず、私は缶の中身を口の中に流し込んだ。
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「…‥‥‥アリスがエレベーターの扉を壊した後、拘束された。」
ハレからの送られてきたモモトークの内容を簡潔に作業中のウタハに伝える。ウタハはそれを聞いて、一瞬だけ視線をこちらに向けるが直ぐに手元に戻し、手を止めずに口を動かす。
「という事は、
「…‥‥‥ああ。」
「あまり、嬉しそうじゃないね。」
「…‥‥仕方ないってことは分かり切ってる。でも、気が引けるよ。」
ゲーム開発部、ヴェリタス、そしてシャーレによる”鏡”奪還作戦。目的の”鏡”はミレニアムタワー最上階にあるセミナーの専用スペース西側の差押品保管所にある。たどり着くためには、442台監視カメラ、52体三種類の警備ロボットを突破する必要がある。
しかし、最大の難所は”エレベーター”。生徒会役員と限られた人間しか通貨できない指紋認証システムが搭載されており、それがどうにかなっても最上階はセキュリティシステムが対応したセクションごとに分かれている為、火事や煙に反応するとシャッターが下り、出るには生徒会役員の指紋認証が必要となる。さらに未登録の指紋や強い衝撃が加わるとさら強力なシャッターが下り、今度は指紋に加えて虹彩の認証が必要となる。もちろん、生徒会役員やメイド部が立ちふさがるであろうことは想像に難くない。
そこで、作戦は何段階かに分けて立てられた。その第一段階があえてアリスが真正面から突っ込んでエレベーターの扉を無理矢理破壊。当然、扉を修復できる時間はない為新しいパーツに交換するだろうが、セミナー側は光の剣がエンジニア部製であることを容易に見抜き、エンジニア部の罠であることをを警戒して他の修理パーツに交換するだろう。
だがそれこそが狙いだ。エンジニア部の手でその修理パーツにプログラムを仕込み、扉の開錠権をゲーム開発部に変更。そして、攪乱・誘導するために防犯カメラの映像に流す動画を仕込んでおく。これらは第二段階で活きることになる。
「”トロイの木馬”が侵入に成功した。次の準備を進めよう。」
ヒビキからの連絡、つまり第一段階の準備が大方成功したことを伝えられる。
「分かった。では、この”
「‥‥‥‥‥‥。」
”雷ちゃん”というのは、さっきから彼女が弄っている二本足と二つのガトリングの頭を持つゼン環境対応の戦闘用の
メイド部には対戦車ライフルを担いだスナイパーがおり、狙撃による移動妨害、他のメイド部の援護を行う可能性が高い為、あらかじめ予想される狙撃ポイントを割り出し、対処することになった。この役割をウタハとヒビキが担うことになったのだが…‥‥‥。
「‥‥‥‥心配には及ばないさ。雷ちゃんもいるし、作戦も考えてある。私たちは君と違って戦闘向きではないかもしれないが、足は引っ張らないようにするよ。」
見透かされていたらしい。本人もこう言っていることだし、これ以上は失礼だろう。
「それはそうと、頼まれていた物についてだが‥‥‥‥。」
「気にしないでくれ。ミレニアムプライスの準備に加えてこんな事に協力してもらってるんだから文句も何もないよ。」
「‥‥‥そう言ってくれると助かるよ。この後出来るだけ急ぎで、良いものを完成させると約束するよ。」
「楽しみにしてるよ。…‥‥‥これで、ラスト。」
手持ちのスピードローダーとクリップの全てに弾を取り付け終えると、一度コートやベルト、ポーチ等を外して収納しつつ状態をチェックしていく。
アビドスの時に揃えたポーチはともかく、キヴォトスに来た前から使ってるコートやベルトはそろそろヤバイな。出来る限りのメンテナンスはしてきたつもりだが、所詮は物。形がある以上は仕方がない。今日の作戦と溜まった仕事が終わったら隙を見て慎重しよう。
「お前は…‥‥やっぱり大丈夫だもんな。」
銀色の愛銃を手に取り、シリンダーやコッカ―、トリガー、ヒンジ、ロック、サイトを確認するが問題ない。メンテナンスを怠っていないこともあるが、昔から使い続けてもいても、無数の傷跡や汚れが付こうとも、変わらずオレを守ってくれる
大切に使っている道具は持ち主に応えてくれるものだと、師匠から教わったし身をもって経験しているので、アリスも光の剣を大切に使いこなしていって欲しいものだ。
「そのアリスは今、光の剣と反省部屋か…‥‥‥。」
心細いだろうが、いい機会だと思うので自分の武器と静かに向き合って欲しいが…‥‥持たせておいたおやつを食べているだろうな、絶対。
時計を見ると、次の作戦を始めるまでは少し時間がある。
「何か手伝おうか?」
「いや、私の方も直に終わるから大丈夫だよ。それなら、ゲーム開発部の方に行ってあげたくれ。緊張しているだろうし、君がいた方が安心できるはずだ。」
「分かった。んじゃあ、健闘を祈ってるよ。」
「そっちもね。ご武運を。」