「ようやく、少し‥‥‥‥痛っ。」
アリスちゃんと、えっと‥‥そう、ライ君。あの二人に倒されてから暫くたち、ようやく歩ける程度に回復したが、まだ体のあちこちが痛む。あのビーム砲もそうだが、彼の的確な射撃と格闘が予想以上にダメージになっている。早撃ちはまだしもわざと跳弾させてアスナ先輩に攻撃したり、バレルで銃弾を防ぎながら殴ってきたり、本当に外から来た人間なのか疑いたくたくなる程の強さだ。
「…‥‥…あ。」
そういえば。
私、彼に投げられる直前に体勢を崩す、というより押し倒されて…‥‥。しかもハーネスと太股を掴まれて…‥‥思えばハーネスを掴むときに手が胸に当たって‥‥‥
「‥‥‥~~ッッ//////!!!!」
戦闘中は気にもならなかったし、何ならその事で意趣返しみたいなことを言ったが、思い出すと自分でも真っ赤になっていると分かる程に顔が熱く、声にならない声が出てしまう。
戦闘時、特に近距離戦では身体の接触があることなんて珍しくも無いし、決して下心でやったわけでは無いと思うが、男の人に触られたことなんて初めてだ。意中の人もいなければ同年代の友達もいないのに、初対面の男の人に‥‥‥
考えれば考える程、羞恥と悔しさが込み上げてくるが、まだ作戦行動中である。いつまでも私情で身じろぎしてしゃがみ込んでいる訳にもいかない。まずはアスナ先輩とユウカの状態を確認して、状況を‥‥‥
「‥‥‥ん?アカネじゃねぇか。何してんだ?」
「‥‥‥‥え?ぶ、部長‥‥!?」
___________
_______
____
「…‥‥…なるほどな。ゲーム開発部、か。知らねぇ部活だったが‥‥そいつらにしてやられたってことだな?」
「申し訳、ありません‥‥。」
いつの間にかミレニアムに戻ってきていた
「この依頼を受諾して、作戦を準備したのは私です。メイド部の名に、傷をつけてしまいました‥‥。」
「‥‥‥んなこたぁどうでもいい。」
「え?」
「あたしが予定より早く戻って来れたのは偶然なんだが‥‥‥さっきリオから連絡が来た。」
「
別に要請か何かを受けて戻ってきたわけでは無いという事なのに、このタイミングで会長から?
「ああ。‥‥‥
「!?」
「今回のゲーム開発部、及び協力者たちへの処罰、抗議もしないだとよ。」
意味が、分からない。部長ではなく私が受けた依頼だから?シャーレが関与しているから?だとしても、ゲーム開発部に関しては何らかの処罰を行うのが当然なのではないのか。
「それは、いったいなぜ‥‥‥?」
「あたしの知ったことかよ‥‥‥けど多分、リオ‥‥それとヒマリも確かめてみたかったんじゃねぇのか?」
「確かめる…‥‥私たちの力を、ですか?」
「逆だ。その、アリスとかいう奴の方だろ。ま、その辺の事情は知ったこっちゃねぇが…‥‥バカでかいビーム砲をぶっ放せる正体不明の奴ってのは確かに気になるな。それと‥‥‥シャーレのエージェント、だったか?噂程度なら知ってんだが‥‥‥。」
「はい。黒いコートを着たリボルバー使いの男性で、先生と同じく”外”から来た人らしいです。」
「外からってこたぁ、弾丸一発で致命傷だろ?そんな奴がアスナやアカネと戦り合うなんて、どう考えてもただもんじゃねぇな…‥‥。」
「今でも信じられません。まさか、あんな事が…‥‥。」
「へぇ‥‥‥面白そうじゃねぇか。後でゲーム開発部とその周辺、シャーレについて調べてくれ。」
「それは構いませんが‥‥リベンジ、ですか?」
「その表現は癪だが‥‥‥そのアリスってのと、黒コートに用が出来たってだけだ。」
「部長、あの子たちの事気になるの?すっごく面白そうだったよ!」
「お前本当に負けたのか?てか元気ならいつまでもひっついてんじゃねぇ、離れろ。」
「ええ~別にいいじゃん?久しぶりなんだからさ~」
「言う程久しぶりでもねぇだろ‥‥‥‥‥‥ん?」
「どうかしましたか?」
「‥‥‥‥いや、何でもねぇ。行くぞ。」
「‥‥‥‥‥行った、みたいだな。やり過ごしたってより、見逃されたって感じだけど。」
「‥‥‥‥‥。」
「どうしたアリス?もう声を出しても良いぞ。」
「‥‥‥‥アリスは初めて、恐怖という感情を感じました。」
「恐怖、か。確かにな。彼女は間違いなく強い。そういう雰囲気だよ。」
「‥‥‥でも、ライは強いですが怖くありません。」
「‥‥‥そっか。怖がられてなくて安心したよ。…‥‥連絡だ。先生たちは”鏡”を持って脱出できたらしい。」
「という事は、クエストをクリア「まだだ。」…?」
「帰るまでがクエストだ。オレ達が帰らないと、本当の意味でこのクエストは終わらない。」
「分かりました。では、クエスト再開ですね!」
「ああ。敵に会わないことを祈って、帰ろうか。」
_________
______
____
端的に言うと、”鏡”奪還計画
「おはよう、みんな。待たせちゃったね。」
「先生、ライさん、おはようございます。」
先生とオレが部室に入ると、ミドリがいつもより明るい声で挨拶してくれた。ミドリではない。モモイも、ユズも、アリスも、ワクワクしているのが目に見えている。
「遂に、遂にこの時が来たよ!ジャジャーン!」
モモイが見せてきたゲーム機の画面には”G.bible.exe…‥起動準備完了”の表示が。
「テレビに繋げて‥‥これで、よし。」
見やすいようにテレビの画面で見れるように、モモイが手早く準備している間に、他の面々がソファ、先生とオレ、アリスはその近くに腰を下ろす。ソファのサイズ的にもゲーム開発部の体型的にも余裕をもって座れそうだし、やたら近い気もするが本人が良いのなら特にいう事もない。
「あらためて…‥G.bible、見よっか。みんな知ってる通り、この中に何が入っているのかについては、ほとんど誰も知らない。ただ最後にG.bibleを見たと噂される、あるカリスマ開発者によると…‥「ゲーム開発における秘技。みんなが知っているようで、誰も知らなかった奇跡」…って言われてる。私はそれが知りたい。」
そのカリスマ開発者の発言はどっから湧いてきたんだと思うが、ここで言うのも野暮だ。何時になく真剣な彼女達に失礼だと思い、胸の内に留めておく。
「うん…‥最高のゲームを作る為に。」
「そう。それが出来れば、これからもみんなでこの場所にいられる。もし失敗したら…‥ユズは寮に戻って、会いたくもないやつらに会わなきゃいけなくなる。それに、アリスは‥…」
「……もしものことは考えたくないけど。その時はきっと先生とライが助けてくれるよ。」
「待て待て待て…‥!」
モモイとミドリのやり取りにサラッととんでもない情報の断片があったような気がするんだが?
「もしかして、寮にアリスの部屋って‥‥」
「‥‥…無いん、だよね。」
「はい!?初耳だが!?」
「登録とか学生証はどうにかなったけど、流石に寮の部屋はどうにもできなくて…‥‥。」
「……‥アリス、ずっとここで寝てたのか?」
「はい。あと、アリスはずっと色々なゲームをしてレベリングしていました。」
「完全に不覚だった…‥‥。」
「‥…アリスって、ゲーム開発部員として認められたけど、受講申請もしてないし住むところも無いって事だよね?それだって、ユウカが大目に見てくれたからって言うのが大きいし‥‥。」
「そうなるんですかね‥‥‥あ。…‥ああっ!?」
「うわ、何!?」
まさか先生…‥そういう事!?
「部室が無くなったら…‥‥アリスはミレニアムにいられないかもしれない。」
正体不明、住所不定、偽造学籍。先に所属していた部活が廃部。
‥‥‥‥思ったより不味いんだが!?下手したらミレニアム生徒でいることすら難しいんだが。
「ライと先生と一緒なのは、とっても嬉しいのですが‥‥‥アリスはもうここに、みんなと一緒には、いられないのですか?」
「‥‥‥っ!」
オレの袖を掴みながら不安を隠しきれない表情で声を絞り出すアリス。我ながら情けないのだが、こういうのはかなり効く。
「そんなことない。最高のゲームを作るんだろ?なぁモモイ?」
「うん!”TSC2”はアリスにとっても、みんなにとっても絶対に神ゲーになる!」
力強く答えたモモイがアリスにコントローラーを手渡す。
「始めよう、アリス!」
「はい。」
しっかりとそれを受け取ったアリスは、モモイがミドリの隣に座ったことを確認すると、画面に真っ直ぐ向き合い、操作する。
「G.bible‥…起動!」
アリスがボタンを押すと、画面が一瞬だけ暗転し、無機質な文章が次々と表示されていく。
[G.bibleへようこそ。
最高のゲームとは何か…この質問に対して、
世界中で様々な答えが模索されてきました。
作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など。
そういったものが最高のゲームの”条件”として挙げられることは多いですが、
それらは全て、あくまで”真理”の枝葉に過ぎません。
最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。
そしてこのG.bibleには、その真理が秘められています。
最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法…‥
それを今こそお教えしましょう。]
ゲームの様な導入のの後、早々に本題らしい内容になっていく文章に期待感や興奮が大きくなっていくゲーム開発部。そして‥‥‥
[……ゲーム を愛しなさい。]
「おお…‥オープニング、みたいな感じかな。それっぽい!」
「そ、そう?」
簡潔な一文のその先にあるであろう、求めている答えを期待してアリスがコントローラーを操作する。しかし‥‥‥
[ゲームを愛しなさい。]
一語一句変わらない分が更に表示された。ただ、それだけ。
「‥…ん?」
「…‥まさか、これで終わり…じゃ、ないよね?」
「な、何かバグってるんじゃない?」
「ちょっと待って!ええっと、設定変更はどこから…‥。」
モモイはアリスからコントローラーを借り、ヴェリタスからであろうメモを見ながら違うボタンを押す。
[あなたがこのボタンを押したということは、
ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、
何らかのエラーが生じたのでは‥‥と疑っている状況なのでしょう。]
「あ、やっぱり!このまま終わるはずないよね!」
[しかし、エラーではありません。]
「嘘ぉ!?」
[残念ですが、これが結論です。
ゲームを愛しなさい!]
「そ、そんなはずはない!きっと何かエラーが‥…!」
「ファイルの損傷とか修正も見当たらない‥…最後の転送情報、ファイルサイズ、それにデータ構成も問題無し。」
画面に表示され、突き付けられた現実を受けとめることが出来ずに必死に何かないかと頭を抱えるモモイの横で、ミドリがチェックするも、問題は無かったらしい。つまり、そういう事だ。
「そ、それじゃあ、本当に‥?」
「これで終わり…‥だね。」
「お、お姉ちゃん……私たち、何か悪い夢でも見て…‥‥」
「ライ、先生、これは一体‥‥‥」
「ごめんなアリス。オレにはどうしようも無い。G.bibleは、こういうものだったんだ。」
「‥‥…ええっと、みんな一旦落ちつ「お、」…‥お?」
「終わりだぁぁぁぁぁああ!!!」
部室から響き渡るモモイ魂の叫び。今は唯、アリスの耳を塞いでやる事しかオレにはできなかった。