「ふふっ、ふへへへへ、全部終わった!おしまいだぁ!!!」
「あの、モモイ?デイリークエストは‥‥‥」
「私のHPはもうゼロだよ‥‥もうこれで廃部なんだうわーん!!」
「知ってたけど、現実って元々こういうのだよね‥‥‥これがトゥルーエンド‥‥‥ハッピーエンドとはまた別の到達点…‥‥。」
「ミ、ミドリ、その‥‥‥」
「ごめんね先生、今何も話したくない気分なの…‥‥。」
「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱‥…世界は今、破滅に向かって‥…」
「悪意に染まってそうなドシリアスな詠唱ストッp…‥待て。ロッカーに行くのもストップな?」
最高のゲームが作れるといわれていたG.bible。ミレニアムプライスを受賞し廃部を回避するための希望であると思われていたそれを見た後の状況は思いのほか悲惨なものだった。
モモイは感情がジェットコースターの様に乱高下してぶっ壊れ、ミドリとユズは虚ろな表情でネガティブな独り言を出力し、いずれも次第に悪化しているようだ。
「今のみんなの姿は、まるで正気がログアウトしたみたいです。」
「うぅぅっ!?」
アリスの悪意のない純粋な感想は、彼女の考えている以上の鋭さを帯びてモモイ達に突き刺さり、決して浅くない傷を負わせたようだ。
「仕方ないじゃん!最後の手段だったのに!それが、あんな誰でも知ってる文章一つだったなんて!釣りにもほどがある!知ってたよ!世界にはそんな、それ一つで全部が変わって上手くいくような、便利な方法なんてないって!でも期待くらいしたっていいじゃん!うあぁぁぁぁん!!!」
気持ちは滅茶苦茶分かるんだがなぁ‥‥‥。
無茶をして犠牲を‥‥払っては無いな。やっと手に入れたものが期待外れだったのだ。泣き叫びたいだろう。
「…‥‥G.bibleが無くたって、ゲームは作れるだろ?やらないのか?」
「‥‥‥私たちだけじゃ、どうせ作っても、また酷評されるだけ‥‥‥。」
「ごめんね、アリスちゃん‥‥私たちは…‥G.bible無しじゃ、良いゲームは作れない‥‥‥。」
苦々しく、自嘲的に出たそれは敗北宣言に等しかった。仮にオレや先生が強制しても大した意味はないだろう。そもそもそんな事をするつもりはオレもないし先生も無いだろう。そんな事なら今頃オレの同僚は増えているはずなのだから。
このままでは、部の存続どころか生徒2人の居場所がなくなってしまう。1人はどうにか出来るかもしれないが、もう一人。アリスに関しては厳しい状況だ。元々生徒ですらなかった子を、シャーレがどこまで対応できるか‥‥。
「否定します。」
何時の間にオレも諦めムードに入っていた最中、アリスははっきりと言った。ミドリの口からは驚きの余りかか細い声にもならない息が漏れる。
「アリスは、”テイルズ・サガ・クロニクル”をやるたびに思います。
「なっ…!?」
制作者すら認め、見ているだけでも中々のきつかった、アリス自身も幾度となくエラーを吐いたあれが?アリスも正気を失ってしまったかと心配になるが、アリスはいたって正常どころか、純粋な目でその思いを出力していく。
「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……このゲームをどれだけ愛しているのかを。そんなたくさんの思いが込められたあの世界で旅をすると‥…‥胸が、高鳴ります。」
「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は…‥夢を見るというのが、どういうことなのか‥‥その感覚を、アリスに教えてくれました。」
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんない苦しんだのに、思ってしまうのです‥‥‥この夢が、覚めなければいいのに‥‥‥と。」
「アリスはそう思います」。それで区切られたその思いは、ゲーム開発部がいつの間にか忘れていたものだった。オレが忘れていた気持ちだった。
「‥‥‥‥作ろう。」
「ユズ‥‥…。」
「私の夢は、わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと。でも、わたしが初めて作ったTSCのプロトタイプは、4桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって…‥‥。それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもっていた時、2人が訪ねてきてくれた。」
「半年前、一つでも面白かったってコメントがあってほしくて、低評価コメントをずっと見て、辛くなった時、2人だけは…‥モモイとミドリだけは、面白かったって、ワクワクしたって‥‥言ってくれた。ファンだって、面白いゲームが作りたいって、言ってくれた。」
「一緒に完成させた”テイルズ・サガ・クロニクル”は、今年のクソゲーランキング1位になっちゃったけど、それをアリスちゃんが面白いって、言ってくれて、私の夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間と、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう‥…ずっと一人で思い描いてるだけだった、その夢が。」
「ユズちゃん‥‥‥。」
「これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が‥‥この先も終わらないで欲しい。」
おどおどすることなく、オレ達を見据えてはっきりと思いを言い切ったユズ。既にその場にあったネガティブな雰囲気は消え失せ、仄かな温かさが満ちた。あとは、ただ‥‥
「‥……確か、ミレニアムプライスが始まるまで、あと6日と少し、だったな。」
「!!」
「‥‥‥だってさ。どうするの、みんな?」
「‥‥‥‥それだけあれば十分だよ。」
一歩を、踏み出す勇気。
「お姉ちゃん…‥‥!」
「さあ、ゲーム開発部一同!‥‥‥”テイルズ・サガ・クロニクル2”の開発、始めよう!!」
「うん!」
「ふぅ‥‥‥取り敢えずは、良かったね。」
「‥‥‥‥ええ。」
TSC2の開発を始めだすゲーム開発部を見ながら、安堵の息を吐く先生。
「私は生徒の味方でありたいし、責任を負うけどさ。強制は出来ないから。」
「でも、信じてたんですよね?」
「まあね。」
心配はしていても、この人は信じて見守っていたのか。‥‥‥敵わないな。
「‥‥‥オレは諦めてましたよ。それどころか、大事なことを忘れていて‥‥‥今、生徒から教わりました。」
「そっか‥‥‥良かったね。」
「そう、ですか?」
「生徒から大事な事を教わることがあるって学べたからね。良くできました。」
先生はニコリと、どこか悪戯っぽくも笑いながらオレの頭に手を伸ばして撫で始める。
「…‥‥!?」
「あ、ライの髪固いねー。シャンプーとか変えたりドライヤー使ったりしたら?」
「…‥‥検討します。」
その手に気づけなかった自分の察知能力の鈍りに若干の苛立ちと危機感を、行為そのものへのほんの少ーしの羞恥を覚え、先生の腕をクイっと逸らす。何故か残念そうにしているが、知ったことではない。何か手伝いたいが、ゲーム開発とかよく分からないし、飲み物とか食べる物でも買ってくるか。暫くは缶詰のつもりだろうし。
「先生、手伝ってください。‥‥んじゃあ、一旦席外すぞ。」