予想はしていたことだ。この状況そのものに疑念や戸惑いはない。強いて言えば、タイミング。TSC2も完成し、提出も終えた直前での襲撃。ゲーム開発部ならともかく、あっちが時間を間違えるとは思えない。ユウカの性格や
そんな事を考えながら生徒会を薙ぎ倒しドローンを破壊し、ミレニアム内を逃げ回り続けて数時間。ビルの一棟に入り込んでようやく一息ついた時には日はすっかり落ち、電灯や窓から漏れる光が目立つ程には暗くなっていた。
「罠……無し。狙撃手も砲手も多分大丈夫‥‥ちょっとだけ休もう。」
「な、何とか逃げ切れたって事?」
「こ、これからどうする‥‥?」
「もうミレニアムプライスへの出品は終わってるんだし‥‥取り敢えず結果が出るまで、このまま逃げ続けよう!」
「いっその事、一時的にシャーレに来てもらおうか?」
先生が悩まし気な顔でオレに相談してくる。シャーレ顧問としての、希望する生徒を部員として加入させることが出来る権限を利用することで、一時的にゲーム開発部をシャーレの構成員として超法規的権限で保護する算段だろう。連邦生徒会の下部組織である超法規的機関として、先生としての公平性とかはどうなんだという問題はあるが、確実な一手ではある。
「…‥‥
「それどういう‥‥‥このまま逃げ切っちゃえばいいいんじゃ…‥‥?」
返答の意図が分かり切っていない様子のミドリが、何の考えも無しにふらっと立ち上がる。その時、暗い通路の奥から戦意を隠しきれていない、存在感のある声が聞こえた。
「オイオイ…‥‥逃げ切れるとでも思ったか?」
「!?」
この場にいるはずのない声に動揺する先生達を横目に静かに、そして素早く銃を抜く。ほぼ同時に通路の向こうがマズルフラッシュで照らされ、片手で銃を向けてくる小柄な人影。他にも何人かいるようなので、ミドリの頭を掴んで伏せさせ、躱せるか怪しい弾はバレルを弾道に置くようにして弾く。
「きゃあっ!?」
ミドリの顔面ギリギリで弾き、バレルと弾丸の衝突で火花が散った為、ミドリが涙目で腰を抜かす。怪我が無い事を確認して、直ぐに銃を構える。
「みんな戦闘準備!来た‥‥!」
「…‥‥‥なるほどな。」
コツコツと隠す気の無い足音を(声を出して撃ってきている時点で隠れてすらいないが)立てながらゆっくりと歩いて来ることで、徐々にその姿が月明かりに照らされ明らかになる。メイド服の上から羽織ったスカジャン、ホシノと殆ど変わらないであろう程に小柄な体、戦意に満ち溢れた鋭く赤い瞳。直接見たのは一度だけ。しかもアリスと息を殺して隠れている時のごく短時間。だが間違えるはずもない。
「どうりで、いちいち良い判断だと思ったぜ。さっきこのチビたちを指揮したのも、ミレニアムの差押品保管所を襲撃したのも、全部あんた‥‥‥いや、あんたらだったか。」
―――この、不敵な笑みと確かなオーラを。
「あんたは先生で、そっちはライって呼べばいいのか?アカネが調査した、例の”先生”と”エージェント”‥‥‥噂は大袈裟じゃなかったみてぇだな‥‥‥。」
「美甘ネル‥‥‥!」
となると、他の数人もメイド部か。恐らく、先日戦った彼女だろう。厄介だな‥‥‥。
「どういう用件?リベンジ?」
セリフだけなら喧嘩腰なんだが、何故先生が言うとこう‥‥圧も何も無いのだろうか‥‥。というか、背丈で言うと君はゲーム開発部よりチビ‥‥‥。
「はっ!そんなくだらない理由で来るわけねぇだろうが。強いて言うならまずは…‥そこの、でこ出してるあんた。あの時は、よくもあたしを騙してくれたな‥‥‥?」
「ひっ‥‥!す、すみません!」
不味い‥‥!表情の変化もないし、銃も構えていないがユズの何らかの行動に対して何かあったのは明らかだ。ユズだけ抱えて逃げるわけにはいかないし、突っ込んでその隙に_______
「やるじゃねえか、褒めてやるぜ。」
「「‥‥‥え?」」
「怯えたふりをしてブルブル震えながら、あたしを騙すなんてな。大した演技力だ。」
ユズのお陰で助かったとか言ってたのって、これかぁ‥‥。勇気を、振り絞ったんだな。
「まあ、それは良いとして‥‥‥そっちのバカみたいにデケぇ武器を持ってるあんた。」
「‥‥‥多分、君だよ。」
視線が集まっているにも関わらず、キョロキョロしているアリスに声を掛ける。この場で一番大きい武器なんて光の剣くらいだ。逆にオレのは最小クラスだな。リボルバーにしては大きい方だけど。
「アリスのことですか?」
「そうだ、テメェには用がある。C&Cに、一発食らわせてくれたらしいじゃねえか‥‥‥?ちっと面貸せや。」
「待て。そっちの部員ならオレも相当やったはずだ。なんで「あ、アリス、このパターンは知ってます」‥‥‥あ、アリス?」
「”私にあんなことをしたのは、あなたが初めてよ…っ”‥‥告白イベントですね。チビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です。」
「‥‥‥‥ふっ、」
「…‥‥‥なっ、」
「ふっざけんなこの野郎っ!ってか、誰がチビメイド様だ!?ぶっ殺されてぇのか!?」
「なに言ってんだお前っ!ってかチビメイドってなんだ!?ぶっ殺されてぇのか!?」
「ひっ‥‥!」
顔を真っ赤にして叫ぶネルと、おそらく顔を真っ青にして叫んでるオレに怯えて身体を震え上がらせるアリス。
「こ、怖っ!!」
「はぁ…‥‥なかなかイラつかせてくれるじゃねえか、まあ良い。」
溜息をついて赤くなった顔色が元に戻ると、意外と落ち着いた様子で話し始める。
「誤解してるかもしれねぇから一応言っとくが、別にC&Cに一発食らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ。あちこちに怪しい部分はあったが、こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。そっちはそっちで、あたしらを相手に目標を達成しただけだ。」
「じゃあ、どうして‥‥?恨まれたっておかしくはないけど…‥‥」
「いや。別にそこに恨みはねぇ。‥‥‥が、俄然、興味が湧いてきてな。」
「興味‥‥?」
「確認、って言った方が良いかもしれねぇが‥‥‥‥さあ、ちょっくら相手してもらおうか。」
再び不敵な笑みを浮かべながら今度こそ両手の短機関銃を、ストック後端同士で繋がれた鎖を鳴らしながら構える。
「あたしと戦って勝てたら、このままおとなしく引き下がってやる。お互いを理解するには、これが一番手っ取り早いからな。どうだ、難しい話じゃねえだろ?」
「…‥分かりました。」
「お、やる気満々と来たか。」
「一騎打ちのイベント戦闘、のようなものですね、理解しました。」
「「えっ。」」
あ、アリスさん?あのね、貴女が喧嘩を買おうと…‥いや売ったのはこっちか?まあとにかく、戦おうとしているのはミレニアム最強のエージェントですよ?なんでそんなゲーム感覚なの…‥‥
「イベ‥‥‥なんつった?」
「あの時は狭かったですし、”鏡”を持って帰るという使命がありましたが…‥‥今なら…‥!」
「待てよ。相手ならオレが「行きます、魔力充填100%‥‥!」やるから待てっておい____」
ダメだ、既にチャージも照準も終わった光の剣を構えて近づいてやがる!
「ちっ、これは‥‥!」
「光よ!!」
制止虚しく最大出力で放たれる
メイド部だけでなく、ゲーム開発部も含めたその場の全員がその火力に戦慄し、驚きを隠せていない。吹き飛んだ壁の破片や砂埃の漂う中で大きな大砲を構えて妙に締まった顔で立っているアリスは中々絵になっているが…‥‥
「…‥‥やったか?」
「アリスちゃん!そのセリフは無暗に言っちゃダメ!」
「あ、ネル先輩は3年生でした。言い直します。や、やっつけられましたか‥‥?」
「いや、敬語の問題じゃなくて…‥‥!」
アリスのフラグ発言にミドリが突っ込むが、アリスは何を勘違いしたのか敬語で言い直す。締まらないな‥‥というか______
「まだだよ。」
(ダダダッ!)
「うあぁ!?」
煙の中から数発の弾丸が左側からアリスを襲う。大したダメージではないだろうが、不意打ちというのは心理的な動揺も大きいものだ。現に、アリスはなぜ自分が撃たれたのかを理解できていない。思えばそうだ…‥‥彼女はタイマンの経験が一切ないし、まだ教えてもいない。
「確かに、並大抵の火力じゃねぇが‥‥」
煙の中からスカジャンを靡かせながら冷静な表情で、されど獰猛な眼でアリスを捉えながら現れるネル。そして彼女の中で勝利への導線が繋がったのだろう。その表情を、狩る者のそれに変化させる。
「
「も、もう一度魔力を充填‥‥‥!」
もう一度最大火力を放とうとエネルギーをチャージするアリス。だがこの状況では、その間合いでは、その得物の大きさでは、その相手では________
「遅ぇよ。」
「あっ…‥!」
一瞬で間合いを詰められ、目前に二丁の短機関銃を突きつけられたネルにアリスは反応できず、声にならないまま短い音を発する。本能的に(自動的に?)後ろに下がるが‥‥‥判断ミスだ。
「きゃぁっ!」
アリスが下がった事で広がった1,2歩分の空間を使ってネルがアリスの腹に素早く蹴り込む。いくら光の剣を使える程のパワーとタフネスだとしても、重心のズレと不安定さは誤魔化せずモロに食らってのけぞる。その隙にネルがアリスにフルオートで追撃しようとするが、低出力のまま光の剣を撃とうとする素振りに気付いた瞬間、俊敏に、でもどこか余裕をもった動きで距離を取り翻弄するように駆け回る。
「てめぇの武器は確かに強い。だが引き金を引いた後、発射まで最低でもコンマ数秒はかかる。」
光の剣の出力を抑えた連射で動き回るネルの足を止めようとするも、ネルの言う通り照準とトリガー、発射のタイミングにズレがある為、アリスの攻撃は掠りすらしない。
「その上、その強すぎる火力のせいで、相手にある程度の距離まで入られたら撃てねぇ。」
アリスの上を跳び越えるようにしてポジションを変更。アリスが振り向く時にはネルが二つの銃口を向けながら接近。どうにか目で追えたアリスは光の剣の重さを利用して自らを振り回しターンする。が、ネルは飛び掛かる直前の獣のような低姿勢。これでは______
「爆圧に、
跳び上がる事でアリスの視線・射線から外れ、そのまま二丁の全力射撃。アリスは光の剣の大きさを活かして盾代わりにすることでそれを凌ぐ。
「そしてこの間合いであたしに勝てる奴なんざ、キヴォトスでもそう多くは‥‥‥いや、1人もいねぇ。」
「うぅ…‥‥。」
「アリス!」
ネルの俊敏な動きと猛攻に最早ついていけず、光の剣で受け続けるアリス。このままでは押し切られるのは確実。ネルの動きを一瞬でも鈍らせてアリスを離脱させ_____
「――させませんよ。部長の指示なので。」
2人の間に割って入ろうとした時、即座に放たれる大口径弾と手榴弾。後ろに先生達がいる為避ける訳にもいかず、踏みとどまって迎撃せざるを得ない。
「っ‥‥!」
「思った以上にがっかりだったな。この程度で、あいつらがやられたとは到底‥‥‥」
手も足も休ませてはいないが、期待外れだと落胆の色を隠さないネル。興味が薄まったのか、アリスの懐にありったけを撃ち込んで決めようと再び懐に踏み込む。あの距離では_____
「…‥‥。」
(ブォンッ!)
「ぐっ!」
「その銃身を、振り回せんのかよ‥‥‥!」
アリスが
「はっ‥‥接近戦としては悪くない判断だ‥‥けどな。相変わらず、この距離ではあたしの方が圧倒的に有利。てめぇは発射しようにも、あたしに照準を合わせられねぇ。」
振り抜いた銃身をそのままネルの方に向けてエネルギーをチャージしたアリスだが、ネルが片方の短機関銃を投げ、後端同士で繋がっている鎖を器用に操って光の剣に巻き付け引き寄せるようにして最接近。戻って来た短機関銃を掴んで足で鎖を抑える。これでは照準はもちろん、銃身で殴る事も盾にすることも難しい。出来ても最接近されて終わりだ。ああいう使い方もあるのかと関心したいところだが、今度こそ不味い。このまま無理矢理撃っても自分事…‥‥‥‥
「行きます‥‥」
「だから無理だって‥‥‥ん?」
鎖で抑えられた銃身をネルと自分の間の床に?しかもチャージはもう済んでいる‥‥!
「おい、まさかてめぇ‥‥!正気か!?そのまま撃ったらてめぇも‥‥!」
「光よ!!」
床に向けて放たれる最大火力。それは床を砕くだけに留まらず、逃げ場を求めるように爆圧が閃光と共にアリスとネルの足元を中心に広がり、爆ぜる。
(ドカアアァァンッ!)
「アリスちゃん!うっ、煙で視界が‥‥‥‥!」
「床がほぼ崩れて…‥見つけた、アリス!」
「に、肉体損傷48%‥‥後退を望みます!」
48%って、見た目以上にボロボロじゃないか。ナノマシンによる自己修復機能があるとはいえとんだ無茶しやがって‥‥‥。
「アリスは私が背負う。」
「お願いします、急ぎましょう!」
「ああ…‥!」
「光の剣は!?」
「またあとで!重すぎる!」