「ねえねえアリス、見てみて~。じゃ~ん、メイド服~!」
「ひぃっ!」
「あはは、良い反応!」
「みんな、こんにちわ。」
「やあ。みんな元気_____」
「あ、アリス、しばらくメイド服は見たくありません!」
「…‥‥って訳ではないのね。」
先生と部室に入った瞬間、アリスがモモイの携帯画面に出ているメイド服に怯えてオレの後ろに隠れてしまった。
「身体の方は全部治ったんですけど、心の方はもうちょっと時間がかかりそうですね。」
「無理もないかもね。戦ったこと自体あまりないのにあれは…‥‥」
先生の言う通りアリスの戦闘経験、というか人生経験自体少ないのにあれは怖いだろうう。正実の委員長もだいぶ怖いだろうな‥‥オレも怖いし。学園の治安維持組織のトップではあるから中身は至ってマトモのはずだが…‥‥その、下出してガンギマリの眼で奇声出してるのは流石に抵抗があるというか‥‥‥‥。
「あの、建物を壊しちゃった件について、生徒会のところに行ったんだけど…‥‥。」
「もしかして、部費の削減とか弁償とか部の取り潰しとか…‥‥‥」
「ううん。幸いなことに、部活動中の”事故”として処理してもらえたよ。」
「嘘っ!?どうやったの!?」
先生やモモイの懸念は杞憂に終わったらしい。そしてそれは恐らく、
「‥‥‥‥C&Cか?」
「はい。あっちで処理してくれたみたいで…‥あとネル先輩から伝言。」
先日の件に関してはC&C、というかネルの個人的な行動だし、結構人を気遣うタイプみたいだからそんな気はしていたが、伝言ねぇ…‥‥。
「”また会おう”…‥‥って。」
「ひぃっ!?」
「ああっ、アリスちゃん!?ロッカーに入っちゃダメ!ユズちゃんを見て変な事を覚えちゃったよ!」
「思ったより重症だね…‥‥」
「後で何か考えときますかね‥‥‥‥まあそれはそれとして、だ。」
何時もならゲームの画面が映っているTV画面には、TVの中継映像が流れている。そう、今は遊んでいる場合でも、気分でもないのだ。
「うん。ミレニアムプライス、始まったね。」
「もし受賞したらクラッカーならそっか。でも、もしそうじゃなかったら‥‥‥。」
「…‥‥すぐに、荷造りしないとね。私たちはともかく、ユズちゃんとアリスちゃんは‥‥‥」
『これより、ミレニアムプライスを始めます!司会および進行を担当するのは、私コトリです!今回はこれまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました!おそらくは、
「‥‥‥コトリちゃんたちの方も、無事だったみたいだね。」
「エンジニア部は功績だけならミレニアムでも屈指だしな。」
「でも、本当に良かった。」
「うん。ところで、史上最多の応募って…‥‥」
「それはちょっと困るなぁ‥‥。」
『昨年の優勝作品であるノアさんの”思い出の詩集”は、本来の意図とは少し違ったようですが
‥‥その刑而上的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠に対する治療法として評価されました。今回も、”歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ”、”ミサイルが内臓された護身用の傘”、”ネクタイ型モバイルバッテリー”、”光学迷彩下着セット”、”丁度缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫”‥‥‥そして!今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、”テイルズ・サガ・クロニクル2”などなど!今回出品された作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの7作品!』
光学迷彩下着って、確かウタハのだよな。結構な頻度で世話になっているので申し訳ないが、ミサイルが内蔵された護身用の傘の方が興味あるな‥‥。傘自体が頑丈そうだし、先生の自衛用に持たせておきたい‥‥‥‥いや、ミサイルってのがちょっと不味いかも。やっぱ無しだな。まあ、そんなことはどうでもよくて、だ。
『それでは7位から、受賞作品を発表します!』
この部屋の全員が不安を、緊張を、微かな希望を持って固唾を飲む。
『7位はエンジニア部、ウタハさんの”光学迷彩下着セット”です!』
「なんでだよっ!?」
『これは身に付けてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが、露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、大変高い評価を…‥‥その評価をした審査員が一体誰なのか、気になってしまいますね!とにかく7位!』
「非合法だし犯罪だよ!?」
「きっと疲れてるんだよ‥‥‥多分。」
「まっ、私たちのゲームは7位にふさわしくないよね。」
「変態御用達アイテムより下だったらショックだろ‥‥‥‥。」
『そして6位!この製品は…‥‥』
『次です、4位‥‥!』
「私たちの名前‥‥呼ばれないね。」
「うぅぅっ!そろそろお願い!」
何か、言った方が良いのかもしれない。彼女たちの不安を拭えるような最適な、魔法のような一言を言えたのなら。だが、オレにも先生にもそんな事を言える余裕はない。もしかしたら、先生はあえて言っていないのかもしれないが。
『さあ、ここからはベスト3です!3位は‥‥!』
「も、もう心臓がもたない!」
「お願い、お願い‥‥‥!」
『僅差で2位を獲得したのは‥‥!』
「‥‥‥。」
まだ、呼ばれない。まだ、来ない。
「お願いします、私たちの名前を‥‥!」
「くっ、2位でもない…‥!っていう事は‥‥‥!」
『最後に!今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です!』
「ドキドキ‥‥‥!」
『その、1位は‥‥!』
「うぅ……っ!」
頼む。頼むから、呼んでくれ。ゲーム開発部だって、TSC2だって、言って_____
『CMの後で!』
「「…‥‥!」」
「アリスっっ!!!」
「充填完了、いつでも撃てます!」
「ライ!ホルスターの留め金付け直して!手を離して!」
「…‥‥オレは冷静です。」
「どこがっ!?」
「気持ちは分かる!気持ちは分かるけど、会場もこの画面も撃っちゃダメ‥‥!」
「「アリス(オレ)は冷静です(だ)!」」
「うぅ‥‥もう焦らさないでほしい…‥‥。」
「お、落ち着いて二人とも_____」
『さあ!それでは発表します!待望の1位は‥‥‥
「‥‥‥え?」
(ダンダンダンッ!)
「きゃぁっ!本当にディスプレイを撃ってどうするの!?」
「どうせ全部持ってかれちゃうんだし、関係ない!」
いつのまにCMが終って再開された発表。新素材開発部、泣き顔でディスプレイを破壊したモモイ。
「うえぇぇん!今度こそ終わりだあぁぁぁぁ!!」
「え‥‥‥?」
「うぅ‥‥‥‥。」
「結局、こうなっちゃうなんて‥‥‥。」
「落ち着いて、お姉ちゃん。でも‥‥‥‥」
「分かってるよ!全部が否定されたわけじゃない、へこたれる必要なんてないって‥‥ネット上の上かも悪くなかったし、クソゲーランキング1位のあの時から、成長した。これからも、もっと成長していける。次こそはもっといい結果を出して、今より大きい部室だってもらえるはず!でも‥‥‥‥。」
「うん‥‥‥だって、ここを追い出されたら、ユズちゃんとアリスちゃんは‥‥‥‥」
「‥‥‥‥心配しないで、ミドリ。わたし―――
「えっ?」
悲しいはずなのに、辛いはずなのに、むしろ決意に満ちた様子での発言に、ミドリだけでなくオレ達は驚きを隠せない。
「もう私のことを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う。ううん、もし仮にいたとしても、もう大丈夫。今のわたしには‥‥‥この3人も、先生も、ライさんもいるから。」
「ユズ…‥‥‥。」
「ありがとうございました、先生、ライさん。二人がこの部室に来た時から‥‥‥わたしたちは、大きく変わることができました。」
もう、ロッカーにこもるだけだった少女の面影は何処へやら。目の前の少女は、ゲーム開発部の部長に相応しい存在に成長していた。強がりではない。きっと、大丈夫。そう信じられる”強さ”が、その瞳に宿っている。先生も生徒の成長に満足そうに微笑んでいる―――が、直ぐに悲しそうな、真剣な表情になる。
「…‥‥‥アリス。」
アリスは廃墟の見つかり、記憶も無いまま非合法の手段で仮初の身分を手に入れた。ゲーム開発部がなくなるとなれば、授業選択前に部活動に参加と言う体でミレニアムに居場所を得ていた彼女は、直にここに居れなくなるだろう。
「‥‥‥
シャーレの部員すれば正式な身分を得ることも、守る事も出来る。もしかしたらミレニアムの再入学や他校への転入もできるかもしれない。それだけで、望みはある。
「アリスちゃん‥‥‥‥ごめんね。」
「いえ。ライも先生も、信じられますから。ですが、もう‥…‥みんなとは、一緒に、いられないんですね。」
「!!…‥ううっ、ごめんね‥‥ごめんね…‥アリスちゃん!」
アリスから、涙と一緒に出た言葉にミドリは耐えきれず、涙と謝罪の言葉が止まらなくなる。
「私、毎日会いに行くから‥‥本当に、絶対に毎日行く!どこに行っても!一緒にゲームを作ろう!」
「うううう‥‥!や、やっぱり嫌!ライ、アリスを連れて行っちゃダメ!」
「‥‥‥っ!」
目尻を真っ赤に腫らして涙も鼻水も滝の様に流しながら、モモイがコートを掴んで揺さぶる。全くと言っていい程オレの身体は動かないが、心は激しく揺さぶられた。
「先生でもダメ!わ、私の部屋に連れて行く!ベッドも一緒に使おう!ごはんも二人で分けて食べるから!」
「わ、私の分もあげるっ!あげるから、どうか‥‥!」
「それ、は…‥‥‥。」
ミドリも加わり、少しづつ揺さぶられていく。アリスも泣きながら袖を握って訴えるように見上げている。ダメだと、そう言わなければいけないのに、言えない。言いたく、ない。この状況そのものがオレの_______
「二人とも、先生とライさんを困らせないであげて…‥それに、もしそのことがバレたら、モモイも、ミドリも…‥‥‥」
「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!」
勢いよくドアが開かれたと思えば、部室の中の酷く重くて暗い雰囲気とは対照的に、
「ひいっ!もうユウカが!」
「ちょ、ちょっと待って!そんなすぐになんて‥‥!」
「悪魔め!生徒会に人の心はないわけ!?」
「あ、あのっ、直ぐに片づけるのでもう少し、もう少しだけ…‥‥!」
「私からもお願いだから、今はそっとしてあげて‥‥!」
「出てくれ…‥‥今、冷静じゃ、ないんだ…‥‥‥」
「
「…‥‥‥?」
「…‥…え?」
「え、えっ…‥?」
「?」
「おめ、でとう‥‥‥?」
「…‥どういう事だ?」
「え、何この反応?結果、見てなかったの?」
さっきの明るさから一転し、オレ達と同じくらい困惑し始めたユウカの様子に、余計に意味が分からなくなる。
「‥‥結果?」
「私たち、7位以内に入れなくて‥‥‥。」
「はぁ?何を言ってるの?今も放送中なんだからちゃんと見てみなさいよ。」
「お姉ちゃんがディスプレイを吹っ飛ばしちゃって…‥。」
「ほんとに何してるのよ‥‥ほら、見てみて。私もスマホで見てて、途中から走って来たの。」
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒達の才能と能力で作られた作品に対し、”実用性”を軸に据えて受賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。しかし今回の作品の中には、新しい角度から”実用性”を感じさせてくれたものがあります。とある”ゲーム”が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性をかんじさせてくれたのです。よって私たちはこの度、異例の選択をすることにしました。』
「異例の、選択‥‥?」
『今回は
「えぇ、嘘っ!?」
「何が起きてるの‥‥?」
『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と、最初は困惑の連続でしたが‥‥‥新しい世界を旅して、ひとつひとつ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く‥‥‥。そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかりと込められた作品だと思います。プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった頃の思い出を、鮮明に思い出しました。そういった点を評価して、この作品に‥‥今回、ミレニアムプライス”特別賞”を授与します。』
「え…‥あ‥‥。」
画面の向こうで審査員が嬉々として語っている事に、理解が追い付いかない。
「本当におめでとう!その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しに面白かったとは言えないけれど‥‥‥良いゲームを遊んだ後の、あの独特な感覚が味わえた。」
「モモ、ミド!あたしもTSC2やってみたよ、すっごい面白かった!今ネット上でも大騒ぎだよ!ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前より、TSC2の検索数の方が多くなってるってさ!」
「ほ、ほんとに‥‥?」
「確認しました。3時間前にアップしたテイルズ・サガ・クロニクル2は、先程までダウンロード7705回、合計1372個のコメントが付いていましたが‥‥‥ミレニアムプライスの発表以降、約26秒間でダウンロード回数が1万を超えました。」
「!?」
「コメントも約500個追加、言葉のニュアンスからして否定的・疑惑のコメントが242個、肯定的・期待のコメントが191個、残りは不明、もしくは評価を保留してるコメントです。」
「え、あれ‥‥?そ、そしたら私たち‥‥‥結局ダメってこと!?」
「ううん、そんなことは無い。」
「ユズちゃん…‥?」
「見て。今同率で、一番多く共感を貰ってる、二つのベストコメント‥‥‥」
<chicken:実際にプレイするかどうか、最初は散々迷いました‥‥‥でも今はこう思ってます。このゲームに出会えて、良かったです>
<Kotoha0507:これまでミレニアムに対して、偏見を持ってしまっていました。冷静さと合理性しかないというミレニアムの生徒への偏見は、今回のミレニアムプライスと、このテイルズ・サガ・クロニクル2を通じて、完全に無くなったと断言できます。>
「‥‥‥!」
「えっと‥‥‥っていうことは、廃部にはならないんだよね!?」
「ええ、そうよ。あ、でもあくまでも
「?」
「その‥‥‥。」
「ん?」
「‥‥…ご、ごめんなさい。ここにあるゲーム機のこと、ガラクタって言って‥‥あなたたちのおかげで思い出したわ。小さい頃に遊んでいた、色んなゲームのことを。久しぶりにあの頃を‥‥‥新しい世界で旅する楽しさを感じられた。」
「ユウカ‥‥。」
「…‥‥ありがとう。それじゃあ、部室の延長申請とか部費の受取処理とは必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね。じゃ、また後で!」
言いたいことを言い終えたユウカは、忙しいのか素直な感想と謝罪が恥ずかしかったのか、声を掛ける間もなく部室から走り去っていった。
「じゃ、じゃあ…‥‥!」
「‥‥‥!」
「や…‥やったああぁぁぁっ!」
「良かった…‥‥!」
「やった‥‥‥嬉しい‥‥!」
「???え、えっと‥‥?」
「アリスちゃん!私たち、特別賞を受賞したんだよ!この場所も、私たちの部室のまま!」
「えっと、つ、つまり‥‥アリスはこれからも‥‥みんなと一緒にいて、良いのですか‥‥?」
「「うんっ!」」
「これからも、よろしくね‥‥!」
「アリスちゃんっ!!」
「私たち…‥っ!!」
「これからも、ずっと一緒だよ!」
「‥‥‥はい!
これからも、よろしくお願いします‥‥‥‥!」
「ふぅぅ‥‥‥良かったね。」
「‥‥‥‥はい。」
悲しい涙は、暖かな嬉し涙になり、笑顔で抱き合おう生徒たちの姿に深く安堵の息を吐く先生と、ロクな受け答えも出来ないまま力が抜けるオレ。
今回に関しては、オレ達は殆ど見守るだけだった。切っ掛けも、チャンスも、友情も、全て彼女たちが自分達で掴み取ったのだ。…‥‥なるほど、先生が先生であろうとする理由が少しだけ分かった。誰かの成長がこんなに嬉しい何て事を、久しく忘れていた。
戻れないかつての日々に、未だ癒えぬ己の傷も思い出してしまったが、それ以上のものを取りもせたような、そんな気がする。
目前の危機は乗り越えた。だが、謎も、ピンチもまだまだあるだろう。まだまだこれからなんだ。彼女らも、先生も、オレも。
___________________
‥‥‥‥…。
データ復旧率98.00%
システム作動‥‥‥
準備完了
プログラムをセット‥‥‥‥
Divi:Sion‥‥‥
‥‥‥
AL-1S‥‥
いえ‥‥‥アリス‥‥‥
私の‥‥‥
私の、大事な‥‥‥!@#$%$^&*(!@!!
しばらく閑話挟みます。